高町なのはくん2   作:わず

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交渉

 

 戦争が終わる。

 フィラム軍の勝利となり、反乱軍は捕縛されることとなった。

 

 正規軍による戦後処理が行われていく傍ら、別件にて会議室に人が集まっていた。

 片側にジェイルとなのは、もう片側にはフィラムのお偉いさんが並んでいた。官僚に将官、それに佐官である。その中にレイニアとロデオもいた。

 

「それで、私たちに話があると伺っていますが」

「ええ、本日は交渉に来ました。ですがその前に自己紹介を」

 

 わざとらしく紳士的な振る舞いをする。

 

「私、ジェイル・スカリエッティと申します。以後お見知りおきを」

「何!」

「ジェイル・スカリエッティだと!?」

 

 何人かが反応する。

 情報が届きにくい星でもその名は知られていた。

 

「大犯罪者ではないか!?」

「なぜこのような人物が!」

 

 開始早々、波乱万丈となる。

 

「皆様、落ち着いてください」

 

 ジェイルが笑顔を向ける。

 

「何をふざけたことを! すぐに兵を呼べ!」

「ほう? 私たちと戦うと?」

 

 ジェイルがなのはの後ろに移動し、挑発するようなことを言う。

 

(おいおい)

 

 なのはは自分がなぜここに連れて来られたのかを理解した。

 全員が一斉になのはを見る。皆一様に動きを止め、声を発することを止める。

 

 今、この星で一番強いのは名実ともに高町なのはである。

 

 なのはであれば、ここにいる全員を殺すのに十秒とかからないだろう。

 そのことを官僚たちが肌で感じ取る。一気に緊張が走り、誰かが固唾を飲み込んだ。

 

 バレないようになのはも固唾を飲み込む。

 

(ど、どうすんだよこの状況)

 

 ジェイルのために、いつでもヤレるんだぞという雰囲気を出しておく。

 だが内心は慌てふためいていた。

 

(この状況、ドクター楽しんでるんだろうな……後でみぞおちか側頭部におみまいしておこう)

 

 ジェイルが椅子に座る。

 

「どうか席にお戻りください。物騒なことは無しにして、話し合いをしましょう」

 

 嫌な笑顔だった。

 

「そうは思わないかい? なのは君」

「…………そうだな」

 

 絶妙に嫌なタイミングで同意を求められる。

 最初から武力を前提に卓へつかせるつもりだったのだろう。

 

 なのはもジェイルを強く責めるつもりはない。

 話し合いをするのであれば、銃を向け合う必要がある。それでようやくお互いが話し合いのテーブルにつくことができる。

 力なきものに話し合いの権利はない。全ての世界がこの考え方ではないが、ラトリアにおいてはこの考えが当てはまる場所だった。

 

「さて、よろしいかな?」

 

 全員が席に着いたことを確認する。

 

「最初に述べたが、我々は交渉に来た」

 

 いつのまにかジェイルの話し方が変わっていた。

 立場が変わったからだろう。今、この場の主導権はジェイルにある。

 

「この星、ラトリアでは大きな問題を抱えている。主に二つ、一つは魔鉱石を採ろうとする密航者が後を絶たないということ。二つ目はある病に多くの人が悩まされているということ」

 

 肯定も否定もしない。

 何が言いたいのかわかるまで下手な発言はしないつもりである。

 

「我々であればこの二つを解決することが可能だ」

 

 話を聞いていた者たちの目の色が変わる。

 

「病についてはすでに治療法を確立している」

 

 ジェイルが向かい側にいるレイニアを見る。

 

「そちらの被検体……失礼、そちらの女性が病を患っていることはご存じのことかと思う。だがもう治っている。先日私の手で治療済みだ」

 

 今度は全員がレイニアを見る。

 

「本当かね!?」

「はい、確かに症状はありません。魔力を全力使用しても体に異変はありませんでした」

 

 信じられない。しかし信じるに足りえる情報がある。

 

 ジェイルは次元世界において最高峰と言える知能を持っている。

 それを証明するようにいくつもの技術を発展させてきた。

 

 しかしそれらを考慮しても納得はできなかった。ジェイルがラトリアに来てまだ一日である。

 レイニアと出会い、そこから症状を調べ、治療を行う。

 どう考えても一日で終わるような話ではない。

 もはや意味がわからなかった。

 

 元々、治療法を確立していたとしか思えないレベルである。

 

「二つ目については技術提供を考えている」

 

 皆の疑問を置き去りにし、次の話題へ移る。

 

「あなた方も承知の話だとは思うが、この星の防衛システムは脆弱すぎる」

 

 密航者が後を絶たない理由として、防衛システムの脆弱性も原因の一つだった。

 

「管理世界の水準からすればどうぞ入ってくださいと言っているようなものだ」

 

 嫌な部分を突かれ、苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 

「出入りを制限するためのシステムを構築する。それによって密航者は激減するだろう」

「どのくらいの効果を見込める?」

「99%密航不可能となる」

「100%ではないのだな」

 

 官僚が試すような物言いをする。

 

「その通り、100%ではない。だが断言しよう。私であれば密航は99%不可能となる」

 

 押し黙る。

 そもそも99%自体あり得ない数値である。

 そしてそれが虚言ではないことは過去の実績が証明している。

 

「いかがだろうか。この二つをクリアできれば、この星の大きな問題はなくなるのでは?」

 

 病を治せるのであれば反乱軍の争う理由はない。

 密航者から星を守れるのであればフィラム軍が争う理由はない。

 

 ジェイルの協力があれば、少なくともこの二つの理由で争いが起きることはなくなる。

 

 ここにいる人たちはフィラムの政治について決定権を持っていた。

 喉から手が出るほどの提案に思考を巡らせる。

 

「悲願ではないのかね? 国民が病に苦しんでいる。毎年誰かが亡くなっている。それは悲しいことだ。とても悲しいことだ。一体次は誰なのだろうか? 家族か? 友人か? 恋人か? もしかしたら自分自身かもしれない」

 

 思考を誘導する。

 

「この現状を打破したい。しかし外交による技術輸入を行うにも金がない。資金を作るにしてもこの星の心臓とも言える魔鉱石を売るしかない。だができない。湯水のようにあるわけではない。何より民衆を納得させることができない」

 

 内部事情を含め、なぜここまでのことを知っているのかと皆一様に疑問を持つ。

 

「しかし運がいい。今、あなた方の目の前には病を治す手段がある。この星を守るための手段がある。手を伸ばせば届くところにあるのだ」

 

 悪魔の手が伸びてくる。

 

「家族が救える。友人が救える。愛する人を救える。寿命が尽きるまで一緒にいることができる。おお! なんと素晴らしいことだ! それこそ正しく生きる人々が歩むべき人生ではないか! そう、まさにこのラトリアの人々にこそ与えられる人生だ! そうは思わないかね?」

 

 隣で話を聞いていたなのはは放心していた。口があんぐりと開いてしまっている。

 まるで悪い人が甘言で騙そうとしているみたいだった。

 

「随分とこの星の事情にお詳しいようで」

 

 そう話すのは今回進行役に任命された男である。

 

「ええ、昨日そちらのお仲間とお茶会をしてね。お喋りを楽しむついでに色々と聞かせてもらったよ」

 

 お仲間とは四英雄のことである。

 ジェイルの指示のもと、一度時の庭園に招待していた。

 

「その件についてですが、彼らを我々に引き渡してもらえませんか?」

「もちろんだとも。こちらとしては保護をしていただけでね。どこに引き渡せばいいのか思い悩んでいたところだ」

 

 実にわざとらしかった。

 

「そうですか、ではそちらの件は後ほどお願いします」

「承知した」

 

 茶番が終わり、話が戻る。

 

「我々に対して提供していただけるものについては理解しました。ですがまだそちらの要望を聞いていません。お聞かせ願えますか?」

 

 進行役らしく、その任を果たす。

 

「この星に住むことを認めてほしい」

 

 予想もしていなかった要求である。

 驚いてはいるが、なぜという疑問の方が強い。

 

「当分の衣食住の保障、それから仕事の斡旋等をお願いしたい。それらは後で詳細を詰めさせてもらうが、現段階で了承してもらいたいことがある。私ともう一人、プレシアというのだが、その人物をフィラム王国の意思決定に関わらせていただきたい」

 

 それは今後、政治に口を出していくということだ。

 受け入れられることではない。

 外部の者を、ましてや今日初めて話した人物を国の中枢に入れるなど容認できようはずもなかった。

 

「表舞台に立たせろというわけではない。公に認める必要もないし、オブザーバーという見方でも構わないさ」

「何が目的ですか?」

 

 もはや遠回しには聞かなかった。

 

「私は元々管理局にいてね。知らなくてもいいことまで知ってしまっている。そういった理由もあり、今後管理局側に不穏な動きがあれば助言ができると思ってね」

 

 管理局に不信感を抱いているものは官僚にも多い。

 今後も裏で工作を行われる可能性がある。それの対抗策としてジェイルはもってこいの人物だった。

 

「部分的でもよろしいでしょうか?」

 

 言葉を選びながら慎重に発する。

 

「管理局に関する議題であるときのみ議会に参加していただくというのはどうでしょう?」

「不十分だ」

 

 ノータイムで切り返す。

 

「と言いますと?」

「星に防衛システムを構築する。これを行うとなるとすり合わせは必須だ。こちらとしても色々と承知していたほうがすれ違いも起きないだろう」

「であれば」

「議事録を確認してくれなどと寂しいことは言わないでくれたまえよ? その場での意見交換にこそ意味がある。そちらの事情を汲まずに好き勝手やってもよいというのであれば話は別だがね」

「……わかりました。そちらについても検討させてください」

 

 真っ当な意見を言われてしまえば無下にはできなかった。

 

「それとすでに知っているとは思うが、私は追われている身でね」

 

 困ったような表情をするが、声色は喜々としている。

 

「定住が難しいのだよ。だがこの星であれば別だ。高濃度の魔力素に満たされた星であり、天然の要塞にもなっている」

 

 人が生きられない場所は多い。逆に言えば防衛箇所が少なくて済む。

 

「利害も一致している。そちらとしても管理局と関わるのは遠慮したいところだろう?」

「匿えということか?」

「ふむ。それでも構わないのだが……私としては少々寂しい気分だね」

 

 要領を得ない言い回しに困惑する。

 

「一緒に戦う仲間として受け入れてほしい。お手手を繋いで仲良くしたいのさ」

「戦う? 管理局とか? それこそ不可能な話だろう」

 

 ジェイルを受け入れるとなると話が違ってくる。

 管理局が逮捕をするためにやって来る可能性がある。技術提供は魅力的だが、この問題は無視できない。

 

「こちらから戦いを仕掛けるわけではない。来たものだけを迎え撃てばいいだけさ。ラトリアの戦力であれば余裕だろう?」

 

 ラトリアの戦力は他世界と比べて一線を画している。

 一対一の武力衝突なら負けない自信がある。だが管理局と全面的に戦うとなると流石に分が悪い。

 

「先ほども話したが私は元々管理局にいた。だから内部事情には詳しい。今でもデータベースにアクセスすることも可能だ。管理局の情報は常に筒抜けさ」

 

 どよめきが起きる。

 もはや情報戦において圧勝しているに等しかった。

 

「このことも合わせて考えれば、管理局を追い返すことは容易いだろう」

 

 ジェイルの価値がみるみると上がっていく。

 それは過去の犯罪歴を捨て置けるほどだった。

 

「それに勝てないとは言わないがね」

 

 それは隣にいるなのはにだけ聞こえていた。

 今の段階では難しいが、武装と兵器を揃えれば管理局に対しての勝算は十分にあった。

 

 官僚が悩む。

 わざわざ危険を抱える必要があるのかとも思う。とはいえそれに見合う以上のメリットがあるのも事実だった。

 実に悩ましい話である。

 

「そもそも私がここにいることは管理局は知らない。今後も、ここにいる誰かが漏らさなければ知られることはない」

 

 裏切者がいなければ、安寧は続いていく。

 

「仲良くやっていこうではないか」

「わかりました。検討の上、後ほど返答します。二つ目をお聞かせください」

 

 次の話題に移る前に、ジェイルが向かい側の全員を一瞥する。

 顔色を見る限り、喜色と難色が半々といったところだった。

 

(上々)

 

 ほぼ想定通りである。

 それからジェイルは次の要望を口にした。

 

「首謀者の処刑は取り止めてもらう」

 

 すでに四英雄の処刑は決まっていることだった。

 それを取り止めろという。

 

「馬鹿な」

「出来ん相談だ」

 

 口々に否定の言葉が出る。

 

「民衆が納得せん。確実に暴動が起こるぞ。この町だけでも百万近い民がいる。暴動が起これば民衆同士の衝突も発生する。鎮圧するために犠牲者を出すことにもなる。下手すれば町が崩壊するぞ!」

 

 話しながらヒートアップする。

 最後の方は怒号に近かった。

 

「知ったことではない。百万の民より、百万を葬れる一個人が優先だ」

 

 イカれている。

 そう思うと同時に、即座に否定することができなかった。

 フィラムの軍人であれば誰もが思うことである。星を守るのであれば、四英雄の力は必須である。

 

 通常、このような案は思うだけに留めるのが普通であり、常人であれば公の場で口にするようなことはしない。

 

「現実を見たまえ。今後来るであろう魔の手を払うにはアレらの力は必要不可欠だ」

 

 冷たく言い放つ。

 

「しかし、あなた方の心配も最もだ。民衆の暴動は避けられないだろう」

「だったら……!」

「では解消しようではないか。その不平不満を」

 

 なのはから嫌な汗が流れる。

 経験上、ジェイル絡みで嫌な予感が外れることは非常に少ない。

 

「どのように?」

「簡単さ。英雄が民衆を救えば、暴動が起こるという事態は避けられる」

「暴徒でも装い、工作でも図るつもりか?」

「それもいいが、ひとまず次の敵が来るまで待つつもりだ」

 

 ラトリアには密航者が多い。

 それのことを指しているのだろう。

 

「密航者の退治を四英雄に任せると?」

 

 笑顔で答える。

 

「仮にそれが上手くいったとしてだ」

 

 詳細を聞き出さなければならないことばかりだが、この場は話を進めることにした。

 

「町を襲った事実は消えんぞ。どう説明する」

「管理局のせいにしてしまえばいい。事実、反乱軍をそそのかしたのは管理局側だ。病に伏した家族を治したければフィラムを制圧しろ、とでも言われたことにすればいい」

 

 その内容にロデオ中佐が眉をひそめる。

 

「単純過ぎでは?」

「話は単純な方がいい。伝聞しやすく、より信じやすい」

 

 再びロデオが思考する。

 あまり広報やプロパガンダには精通していないため判断が難しかった。

 

「いかがかな? ここまで話した感触として」

 

 再び、会話のボールが進行役に渡る。

 

「懸念点はありますが、歩み寄れる範囲内だと判断します」

 

 他に話すことはないか、一度周りを見渡す。

 特に発言はないと判断し、話を終了させる。

 

「返事はいつごろまでに?」

「いつでも構わないよ。ただ」

「ただ?」

「今すぐをオススメしておくよ」

 

 突如、外から爆発音が聞こえる。

 

「なんだ!?」

 

 何人かが驚いて腰を浮かす。

 

「敵が来たみたいだね」

 

 視線がジェイルに集まる。

 

「言っただろう。次の敵が来るまで待つと。その時が来たのさ」

 

 嗤う。

 愉悦がジェイルから漏れる。

 

「このままだと町が崩壊してしまうな」

「貴様! 謀ったな!」

 

 机が強く叩かれる。

 

「まさか、そんなことはしないとも」

 

 全くもって信じるに値しなかった。

 ただ本当に謀ったわけではなかった。言っても信じてもらえるとは思っていないため、ジェイルは弁明しようともしない。

 

「この機を狙っていた者がいる。それを知っていただけさ」

 

 席から立ち上がる。

 

「さあ! 出撃を命じたまえ! 民衆は英雄を求めている! 今こそ英雄が悪を迎え撃つときだ!」

 

 演劇よろしく、大仰に両手を広げる。

 

「何を言っている……! 例の四人は今そちらの手の内ではないか!!」

「おや、これは失敬。だが心配はいらない。こんなこともあろうかと準備はできている。あなた方の命令でいつでも出撃可能だ」

 

 紳士のような振る舞いをする。ジェイル主演の演劇は続くらしい。

 

「だがその前に、私の要望を受け入れてもらおうか」

 

 再び悪魔から誘いの手が伸びる。

 

「こんなやり方が通ると思うんですか!」

 

 ここまで感情を見せていなかった進行役が怒鳴っていた。

 

「さあ? 通すか通さないかを決めるのはあなた方だ」

 

 あくまで決定権はそちらにあると述べる。

 決して強制はしていないと言外に主張していた。

 

「せめて、敵を排除してからにしていただけませんか。民衆の安全を第一に……」

「お断りだ。今ここで決めたまえ。私の手を取り要望を飲むか。手を振り払い自分たちだけで迎え撃つか」

 

 振り払えば破滅である。

 兵は疲弊しきった状態であり、迎え撃つ体力は残っていない。襲撃としては最悪のタイミングだった。

 

「この外道が!」

 

 官僚の一人が叫ぶ。

 

「フハハ! そうかね? では聞こう。あなた方の行いは外道とやらに当てはまらないのだろうか?」

「何?」

 

 何人かの動きが止まる。

 それは心当たりがある者たちだった。

 

「前王の行いを見て見ぬフリをしていたのはどちら様かな?」

 

 官僚、もとい将官たちに動揺が走る。

 

「何を言っている」

 

 証拠はない。ないはずである。

 そのはずだが、事実を言われ汗が出てきてしまう。人間というものは嘘をつくことができるが、思った以上に正直な生き物でもあった。

 

「あまつさえおこぼれも手にしていた。甘いチョコレートはおいしかったかな? 美酒もたくさん飲まれたのだろう? 是非、私もご相伴に預かりたいところだ。酒池肉林とは羨ましい限りだね」

 

 ラトリアは甘味の流通が少ない。市場では高値で取引されていて中々手が出ない代物だ。

 

「だからなんだ。それが本当だとしても……!」

「薬を使用しての行為はさぞ快感に満ち溢れていただろう」

 

 見て取れる動揺だった。

 先ほどまでの内容であればまだ戻れていた。だが彼らは一線を越えてしまっていた。これが知れ渡れば民衆の信頼は失い、果てには剣王が首を飛ばしにくることだろう。

 

「いやいや責めているわけではない。むしろ逆さ、私としては非常に好感が持てる」

 

 普通であれば皮肉を混ぜた煽りに聞こえる。

 だがジェイルは言葉の通りの感情を抱いていた。

 

「自らの欲望を満たすために民を裏切り、部下を裏切る。罪と背徳による欲望の解放は実に甘美だったことだろう。理性を持ち得るからこそ堕落の中に喜びがある。誇るがいい。君たちこそが人間と言ってもいいくらいだ」

 

 心からの賞賛が送られる。

 ジェイルは人間讃歌を愛していた。

 

「さあ、一緒に踊ろうではないか。君たちの滑稽な踊りを見せてくれたまえ。何、心配はいらない。私が道化師としての踊り方を教えてあげよう」

 

 ジェイルが手を差し出す。

 ここに悪魔との取引が成立しようとしていた。

 

 そして、なのははすでに考えることをやめていた。

 

 

 

 

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