フィラムが襲撃されていた。
国民が逃げまどい、泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
次元犯罪組織スカーレット。
ジェイルと同じく、広域指名手配中の組織である。
狙いは言わずもがな魔鉱石である。
裏にはギブリがいた。
本局は関わっておらず独断によるものであった。
ギブリの手引きにより、スカーレットが襲撃を行っていく。
今は最も厄介な四英雄が動けずにいる。兵も消耗しきっている。またとないチャンスだった。
一人、また一人と攻撃を受けていく。
女性が爆風に巻き込まれ地面に倒れる。そこに武器を持った男が近づいていく。
「あのラトリアがこのザマとはな」
ラトリアは武力において一線を画していた。
武力制圧など考えるだけ無駄だった。そのはずだったが今は見る影もない。ボロボロになったラトリアでは迎え撃つことができなかった。
「ま、反撃がないに越したことはないな」
また一歩近づく。
「た、助けて!」
女性が叫ぶ。
構わず、銃口を向ける。
「運がなかったと思うんだな」
トリガーを引こうとする。
「それはおまえのことか?」
発砲は叶わず、銃が真っ二つとなる。
それと一緒に男の両腕を落ちていった。
「ぎゃああ!」
男が尻もちを着く。
「大丈夫か?」
アクトロスが手を伸ばす。
「は、はい」
女性が手を取る。
引っ張り、立ち上がらせる。
「お、おまえ、剣王か!?」
「そうだ」
「う、動けないはずじゃ……!」
アクトロスは戦闘不能の状態となっていた。
普通であれば安静にしていなくてはならないほどである。それが今では駆け回れるようになっていた。
「寝たら治った」
頭痛でも取れたかのように言う。
男が逃げようとする。逃がすつもりはないため、一振りにて首を飛ばす。
フィラム兵が近くまで駆けつけてくる。きびきびと動き、昨日の疲労やケガを感じさせない動作だった。
「後は任せた」
「はっ!」
フィラム兵が女性を保護する。
「あ、あの」
女性はアクトロスがフィラムに弓を引いたことは知っている。
知らぬものはいないほどだ。しかし命を助けられた。その事実は変わらない。
「ありがとうございます」
礼を言う。
「気にするな」
片手を上げる。
そうしてアクトロスは次の敵へと向かっていった。
『大丈夫か、兄弟』
「……ああ」
リッジラインから大量の汗が流れていく。
魔法が解けないように気をしっかりと持ち続ける。
遠くで戦闘中のフィラム兵が傷つく。
瞬時に傷が塞がり、血が止まっていた。
また違う兵が致命傷を負う。スカーレットの一員の攻撃により足が切り飛ばされてしまう。
しかし、次の瞬間には足が治り元通りとなっていた。
それらはティル・ナ・ノーグの力によるものだった。
隣人の傷を癒し、疲労が存在しない世界を作り出す。
楽園を形成する魔法。
神域魔法、ティル・ナ・ノーグ。
無敵の兵士がスカーレットを撃退していく。
蹂躙されるばかりだった状況が一変し、フィラム軍によって敵を押し返し始めていた。
「病気も治せれば言うことはないんだがな」
『そりゃ俺には無理だな。できるとすればディバインのヤツくらいだ』
「ディバイン? 誰だ?」
『いや、なんでもねぇ。気にするな兄弟。それよか姉御が準備に入ったぜ』
アクトロスが王域魔法の準備に入っていた。
「ああ、アクトロスなら問題ないだろう。俺は俺のやるべきことをやるだけだ」
魔力を流し続ける。
戦いが終わるまで途切れさせるわけにはいかなかった。
リンカーコアが壊れようと構わない。
その覚悟を抱き、魔法をひたすら継続させた。
「なんですかこれは!?」
ギブリが怒りで震える。
モニターにはラトリアの英雄が戦闘に参加していた。
しかもあろうことかフィラム兵までもが動き回っていた。
「どういうことです!」
スカーレットの船内で怒号が飛ぶ。
管理局の船は現在、補給地に戻っておりラトリア周辺にはいなかった。
ギブリは自分だけ残りスカーレットの船に乗り移っていた。部下にはラトリアでの現地調査をするとだけ伝えており、本計画については何も知らせていない。
『やあ、ご機嫌いかがかな?』
「誰だ!」
モニターの一部分にジェイルが映し出される。
「……ジェイル・スカリエッティか!?」
『おや、私のことを知ってくれているとは感激だね』
管理局員であれば知っていて当然である。
「なぜこの回線を……いや、今は置いておきましょう。私に一体何の用ですか?」
『用は先ほど伝えている』
ギブリが会話を思い返す。
しかしわからなかった。
『機嫌を窺いに来たのだよ。どのような顔をしているのか気になってね』
「……何を言っている」
意味がわからなかった。
確かにモニターに映ったとき、ギブリは機嫌を聞かれている。
普通に考えればただの挨拶である。それを質問だと思うわけがない。
『自分の思い通りに事が運ばず、気を落としているのではと心配になったのだ。ラトリアの英雄は元気に駆け回り、スカーレットが撃退されていく。いやはや、どうしてこうなってしまったのか』
ギブリが気づき始める。
ジェイルは状況を知っている。その上で楽しんでいることを。
「馬鹿にしているのですか?」
『とんでもない。野心溢れるあなたに私は敬意を持っているくらいだ』
礼節を示すため軽く会釈をする。
『さて、繰り返しになって申し訳ないがもう一度質問をしよう。ご機嫌いかがかな? まあ聞くまでもないかもしれないがね』
「ふざけるな!!」
ギブリは激高していた。
今にも血管が切れてしまいそうなほどである。
「ふっ」
怒りは収まっていない。これだけコケにされれば当然である。だがギブリは笑っていた。
「しかし私にもまだツキはあるようだ」
回線の情報を確認する。
そこからジェイルの居る場所が判明していた。
場所はラトリアであり、回線はアクトロスが使用していたものである。
「あなたを捕まえれば私の評価も上がることだろう。いや、居場所の情報を報告するだけでもおつりが来るくらいだ」
ジェイルが楽しそうにする。
「何がおかしい」
『いやいや、これほど欲望に忠実だとは思わなかったのでね。野望を抱くあなたとは仲良くなれそうだと感じていたのさ。しかし残念。それは叶わない』
残念と言いつつ楽しそうにする。言葉と表情が一致していなかった。
相変わらずの天邪鬼である。
『私が何も対策をしていないと思うかね?』
「何?」
『すでに通信は遮断されている。告げ口は阻止させてもらうよ』
ギブリが本局への通信をオンにしようとする。
「繋がらない!?」
オンに切り替わらない。
『さて、そろそろお別れだ。ほんの数分だったが話せて楽しかったよ』
今、ギブリは航行艦船に乗っている。
つまりは大気圏外である。
地上より安全な場所であり、同じ航行艦船でなければ攻撃が届くことはない。
ギブリが星を見る。
もしかしたら魔導師が向かってきているかもしれない。そう思い確認するがそれらしきものは見当たらない。
その代わり、ほんの一瞬ラトリアから何かが光ったのを確認した。船に強い衝撃が伝わる。
次の瞬間、船は真っ二つに裂かれていた。
何が起こったのか全く理解できなかった。まるで剣で斬られたかのような切断面が目に映る。
空気が宇宙空間に逃げていく。
デバイスを起動し、宇宙空間における救助モードへと切り替える。
無重力の空間に放り出される。
そしてこれで終わりではなかった。
ラトリアでは砲撃魔法の準備がされていた。
ジェイルが通信をしていたのはこの準備を悟らせないためであり、かつ時間稼ぎのためだった。
「逃がさないんだから!」
中心にはキャット。
その周りを十人近くが囲んでいた。
魔力量の高い魔導師が集まり、力を結集して魔法の構築を行っていく。
周りには巨大な魔法陣がいくつも展開されていた。
「座標確認、照準クリア、魔力充填完了、術式正常──いつでも行けます!」
横にいた魔導師が準備完了を告げる。
「行くわよ! カウント開始!」
「了解! カウント開始します! スリー、ツー」
復唱し、カウントダウンを始める。
そしてゼロが告げられた。
「発射!」
号令と同時に砲撃魔法が発射される。
超が何個も付くような巨大砲撃魔法。
ラトリア名物、キャット主砲による超長距離砲撃魔法である。
「なにっ!」
ギブリに向かって光の壁が迫ってきていた。
光による眩しさで目を閉じてしまう。
着弾する。
丸のみにし、ギブリをこの世からきれいさっぱり消し去ってしまった。
今、ラトリアを長い間蝕んでいた悪が消えた瞬間だった。
その後、英雄の活躍によりスカーレットの撃退に成功する。
これにてようやくラトリアに平和が訪れようとしていた。
襲撃から翌日。
早くも町は復興作業に取り掛かっていた。
アクトロスたちの活躍により被害は抑えられたため、それほど時間は掛からずに済みそうである。
被害のない店などはすでに営業を再開していた。
「剣王の処刑は取り消しだってよ」
「管理局に脅されてたって話だしな」
「前王の悪事も原因らしいぞ」
町では情報が飛び回っていた。全てジェイルが流した情報である。
アクトロスの処刑は取り消しとなった。
とはいえ流石に無罪とは行かなかった。無罪放免にしてしまうと、あらぬ疑念を生じさせてしまうからである。
なのでジェイルとフィラムで落としどころを協議した。
管理局関係者による教唆があったこと、そしてスカーレットを撃退したこと、これらを考慮し処刑は免除とした。
そもそも処刑が可能なのか怪しいところでもあった。
今のアクトロスは前よりもさらに強くなっている。もはやフィラム兵だけで抑えることには無理があった。
アクトロスが自ら処刑を受け入れない限り実行は不可能と言ってもいい。
そういった問題もあり、いずれにせよ処罰は処刑以外となった。
処刑は白紙となった。そのため当分は檻の中──というわけにもいかなかった。今回の件も相まってアクトロスはラトリアにとって完全な抑止力となった。
たった一人で大気圏外の船を破壊する力。
敵に回すなんて考えは毛ほども浮かばなくなっていた。さらに言えば機嫌を損なうことすらしたくなかった。
それに檻の中では恰好がつかないし、抑止力としての効果が薄くなってしまう。
なので、かなり甘い対応にならざるを得なかった。
当分は監視付き及び行動制限付きの処分となった。活動範囲も決められており、そこから出ることも許されていない。
許されてはいないが、おそらく破ったとしても文句を言える者はいなかった。
またこれほどまでに緩い処罰だったが、幸いなことに国民からの反発の声はほとんどなかった。
英雄として実際に民衆を救った姿を見せられたことが大きく影響しているのだろう。
アクトロスが部屋のドアを開ける。
部屋にはなのは一行がいた。
「取り込み中だったか」
「いや、大丈夫」
なのはたちは手続きをしていた。
ラトリアの住民と認められるための書類作業をしていたところだ。
職員の指示通りに書き終え、一区切りついたところである。
「そうか」
職員が書類を手に部屋を出ていく。
入れ替わるようにアクトロスたちが入ってくる。
「何か用かな?」
ジェイルが尋ねる。
アクトロスの後ろからリッジラインとキャットも姿を現す。
「礼を言いに来た」
リッジラインが片膝を着く。
「レイニアの病を直してもらったこと、本当に感謝する」
深く頭を下げる。
「それは取引によるものだ。礼は不要さ」
取引の内容としては明らかにジェイルの負担が大きかった。
リッジラインの得るものは大きくジェイルは少ないくらいだ。
だとしても取引の合意があった以上、互いに対等であると考えていた。
「加えて減刑を取り計らってもらったこと重ねて感謝する。本来なら俺も処刑で死んでいたはずだ」
「構わないとも、君たちにはそれほどの価値があるからね」
ジェイルが優しかった。
それは利用価値のあるものに対しては等しく敬意を持っているからだった。
「それと礼ならなのは君に言ってくれたまえ」
「え?」
なのはがなんでという顔をする。
「彼は我々のリーダーだからね」
「……は??」
初耳である。それを聞いて目が飛び出しそうだった。
「そうか──高町、感謝する」
リッジラインが頭を下げる。
「私からも礼を言わせてくれ。理由はラインと似たようなものだ」
アクトロスもリッジラインに続く。
誇り高い戦士が片膝を着いていた。
「いや、その」
すっかり違うと言いづらい雰囲気になっていた。
そんな中、アクトロスの後ろに隠れていたキャットが顔を出した。
恥ずかしそうにしつつ、一言だけお礼を伝える。
「あ、ありがとう」
キャットが照れながら言う。
もう後には引けなかった。
「う、うん」
だらだらと汗が流れていく。
(なんでこんなことに)
横にいたジェイルを見る。
ジェイルはとてもいい笑顔をしていた。晴れやかな、清々しくも綺麗な笑顔である。
その笑顔にほんのちょっぴり殺意が生まれていた。
「ところで」
リッジラインが立ち上がる。
「グリフォを知らないか? 一昨日から姿を見ていなくてな」
なのはたちが顔を見合わせる。
知っている人はいなそうである。
「グリフォって白髪の人?」
アリシアが質問をする。
「ああ」
「それならここにいるよ」
腕に抱えていた白猫を前に出す。
「ここ、とは?」
「この子だよ」
「……ニャー」
目を丸くする。
とりあえず本人なのか確認をする。
「グリフォ」
「ニャ」
返事が来る。
「おまえ、変身魔法使えたのか」
「ニャー」
また返事が来る。
リッジラインが言葉を話さないグリフォに疑問を持つ。変身魔法であれば言葉は話せるはずである。
「おい、おふざけもその辺に」
「グリは喋れないの」
「グリ?」
「グリフォだからグリ」
つい聞き返してしまったが、聞きたいのはそこではない。
「喋れないとは?」
「魔法をかけたの。心から反省するまで元の姿に戻れない魔法。けどグリは結構悪い子だったみたい。言葉にも制限が掛かっちゃった」
「一体何を言って」
「そういう魔法なのさ」
ジェイルが割って入る。
その一言により、アリシアの言葉が現実のものへと変化する。
現実の話ではあるが、子どもの言うことであるためどこか理解を拒否しようとしていた。
キャットもグリフォの前に行く。
「ってことはグリフォがいい子になるまでこのままってこと?」
「そうだよ」
グリフォの姿をもう一度良く見る。
「ふーん」
キャットがグリフォのアゴをカキカキした。
「うりゃうりゃ」
「ンニャー」
気持ちよさそうにする。
「ふっ」
鼻で笑う。
「ま、いいんじゃないの?」
「ニャ!?」
キャットはどうでもよかった。
「そうだな」
「ニャッ!!?」
リッジラインもあっけからんと言い放つ。
グリフォが体をくねる。
アリシアの腕から脱出し、アクトロスの足元へ行く。
「ニャー!」
最後の希望にすがる。
アクトロスがグリフォを持ち上げた。
「ふむ」
ポケットから何かを取り出し、グリフォに巻きつける。
首には蝶結びにされたリボンが付けられていた。
「どうだ?」
グリフォを鏡の前に連れていく。
「めっちゃ似合ってるわよ!」
キャットが爆笑する。
グリフォの目からは生気が消えていた。
やり取りもほどなく、各々が席に着く。
それぞれ近くの人と会話をしていた。
「キャットは何で反乱軍に付いたんだ?」
なのはが目の前にいるキャットへ質問をする。
キャットに関してはいまいち理由が見えなかった。言い方は悪いが、他の者と比べて信念があるようには思えなかった。
「甘いお菓子いっぱい食べたいし、かわいい服もいっぱい欲しいから」
ラトリアは甘味が出回っておらず輸入品が主となる。
また調理法も発展していないため、お菓子の種類も少なかった。キャットは外交が盛んになれば、多様な菓子類や服飾が手に入ると考えていた。
「そうなんだ」
馬鹿にはしない。だが共感はできなかった。
なのはからしたら戦う理由としては上がらないからだ。
ただ胡椒が原因で戦争が起きたことを知っている。甘味を理由に戦う人がいても何ら不思議なことではない。
「それは残念だったな」
リッジラインが会話に入る。
外交の道は絶たれたも等しい。
「やーだぁー、甘いもの食ーべーたーいー、かわいい服欲ーしーいー、くつもバッグもメイク道具もほ~し~い~」
キャットは泣いていた。
なのはが少しばかりかわいそうに感じる。
「まあ、その、あれだ、服とかは難しいけどお菓子なら作れないこともないぞ」
「え? ほんと!?」
キャットが乗り出し、なのはの眼前に迫る。
「作って作って!」
「あ、あとでな」
「今!」
勢いに押される。
泣かせる流れを作った手前、断るのも気が引けた。
「わかったよ」
立ち上がる。
「台所借りるけど」
「構わないわよ」
プレシアに許可をもらう。
(せっかくだから人数分作ってくるか)
部屋の人数を数える。
自分を含めて、十数人いた。
(やっぱやめようかな)
かなりの人数だった。
とりあえず材料を確認してから決めようと考える。
なのはは時の庭園に移動し、作業を開始した。
なのはが戻ってくる。
部屋に甘い匂いが漂っていく。
作ってきたお菓子をテーブルに広げる。
キャットはウキウキだった。
一つ手に取り、見たことない菓子を眺める。
「なに、これ?」
「シュークリーム」
名称だけ答える。
説明が面倒なので、とりあえず食べてみてと促す。
「イイ匂いする~」
早速、一口いただく。
「え? うそ、やばっ! めっちゃうまいんだけど!」
次々と口に頬張っていく。
どうやら気に入ったようだった。
「人数分作ってきたから、よかったら食べてくれ」
皆、一つずつ手に取っていた。
「うまい」
リッジラインが感想をこぼす。
ラトリアの住人の口にも合うようだった。アクトロスもすぐに食べ終えていた。
なのはも食べようとテーブルに手を伸ばす。
しかし、自分の分がなかった。なんとキャットが二個目にパクついていた。
「あ、このやろう!」
言っている間に食べつくされる。
手元には一口も残っていなかった。
「超おいしかった!」
とてもいい笑顔を見せられる。
「あ、そう……」
怒りが消える。
毒気を抜かれた気分だった。
「ねえねえ、他にも作れたりするの?」
「そんなに多くはないけど何種類かは作れるよ」
それを聞いてキャットが何かを決意する。
「ねえ」
キャットがアクトロスの前に立つ。
「なのは君、私にちょうだい!」
いつもの冗談かと考える。
アクトロスがキャットを見る。その目からは真剣さがあった。
「おまえの願いでもそれは聞けんな」
「いいじゃん別に!」
「俺は誰のものでもないんだが」
「そうだな。まだ私のものでもない。故に高町なのは」
今度はアクトロスがなのはの前に立った。
「おまえに決闘を申し込む」
「は?」
見上げる。
「なんでだよ」
「とぼけるとは感心せんな。これはおまえと私の約束だろう」
なのはがアクトロスとの会話を思い出す。
話自体を忘れたわけではない。戦って、なのはが負けたら婿入りという話だ。
ただこの話はもう終わっていたと思っていた。
「俺の勝ちじゃなかったっけ?」
「あのときはな。しかしそこでの勝敗は関係ない」
「え?」
「おまえが生き残ったとき、改めて決闘を申し込むと言ったはずだ。そしておまえは今ここにいる。条件は満たされている」
ちゃんと思い出す。
「……あ」
確かにその通りだった。
「おまえが負けたら私のものとなる。おまえが勝ったら何でも好きなことを言え」
どうしようと慌てる。
思考が真っ白になりそうなところに声が掛かった。
「なのは?」
フェイトが反応する。
「説明してくれる?」
「いや、これはだな」
どう説明しようか考えているところ、反対側から袖を引っ張られた。
「なのは君」
はやてが詰め寄ってくる。
「どういうことや一体」
二人に詰められる。
だがこれで終わりではなかった。
「なのは」
頭を鷲掴みにされる。
無理やり後ろを振り向かせられる。
「何? あたしが必死に助けようと頑張ってた最中、アンタは逢い引きしてたってわけ? いいご身分ね?」
アリサが怒っていた。
「待て待て、まず話を聞いてくれ」
時計の針が正午を指す。
これよりなのはの長い一日が始まろうとしていた。
「力がいる」
男が一人、戦争の終わったフィラム王国を見下ろす。
結局、力の強いほうの言い分が通る結果となっていた。
当然の結果であり、いつの世も弱肉強食である。
理想を叶えるにはいつだって力が必要だった。
「魔道の力だけに頼っていては発展はない」
結局、ラトリアは閉ざされたままとなった。
今後外交が行われることはないと言ってもよかった。
「こんな閉じ切った世界では何も勝ち得ない」
ハーディスの手にはジュエルシードが握られていた。
青い石が、変色していく。
やがて輝きを放ち始め、光が強くなっていった。
願いがジュエルシードに呼応する。
ここに、新たな王の資質が目覚めようとしていた。
一章完。