高町なのはくん2   作:わず

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1章
本当の始まり


 

 カプセルの中に一人の少女。

 亡骸だった体が息を吹き返す。それからゆっくりとまぶたを開けた。

 

 辺りを見回す。

 自らの置かれた状況を理解し行動に移す。

 

 手のひらに小さい魔力弾を作り、慎重に発射する。

 カプセルが割れて破片が飛び散る。同時に中の液体も外へと流れ出ていった。

 

「ふう」

 

 カプセルから脱出する。まずは深呼吸。

 それから体に付着した液体を振り払おうとした。

 

「わっ」

 

 自らの体を見て驚く。アリシアは裸だった。

 

(何か着るもの)

 

 何かないかと探しに行く。

 体を隠せるものであれば何でもよかった。

 寝室を発見し、シャツを拝借する。

 

(懐かしい匂い)

 

 それはプレシアのシャツだった。

 大人用なのでブカブカである。ともあれこれで体を隠すことはできた。

 

「……ふぅ」

 

 もう一度深呼吸をする。

 アリシアは緊張していた。

 

 これから母との再会である。

 

 なんて言おう、なんて説明しよう。

 そんなことを思い浮かべてしまう。

 色々と考えるが、そもそも必要ないのかもしれなかった。

 

 今はただ、一人の子どもとして素直な気持ちで会いに行けばいい。

 

 そうして覚悟を決めると同時に、近くから爆発音が聞こえてくる。

 

「な、なに」

 

 音が聞こえた方へ小走りする。

 到着した先は広間だった。

 

「私がいます!」

「だからなんだと言うの!」

 

 そこではフェイトとプレシアが争っていた。

 

 プレシアは激高していた。フェイトに向かって遠慮なく魔法を撃つ。

 それをフェイトが叩き斬る。

 

「いつまでも後ろを見るなって言っているんです!!」

「生意気なことを!!」

 

 魔法が飛び交う。その現場を見てアリシアが大声を上げる。

 

「な、なにしてるの!?」

「……え!!?」

 

 プレシアが驚愕していた。フェイトも驚いている様子だがプレシアほどではない。

 

「ア、アリ……シ、ア」

 

 プレシアが震えていた。

 持っていた杖を落とし、駆け寄ろうとする。

 

「アリシア!!」

 

 走り出す。

 飛びつくように、それでいてケガをさせないように優しく抱きつく。

 

「……ママ」

 

 肩に涙が落ちてくる。

 母の温もりを感じる。

 

 時を戻すということはもう一度会えるということである。それはわかっていたことだ。

 

 アリシアも泣きそうになる。

 けど今はそれをぐっと堪えた。

 

 想定していた事態と異なる点があった。この時代のフェイトがプレシアに意見するというのは想定外のことである。時間を戻したことによって何かが変わってしまったのかもしれなかった。

 

 何にしても今は色々と確認する必要がある。

 二人に何をしていたのか事情を聞く。どうやらフェイトがプレシアに犯罪行為をやめるように説得していたらしい。

 それにプレシアが怒っていたとのことである。アリシアが一通り事情を聞き終える。

 

「謝って」

「え?」

 

 プレシアは呆気に取られていた。

 

「謝って!」

 

 語気を強める。

 アリシアはプレシアに謝れと言っていた。

 

「な、何を……」

 

 困惑していた。

 プレシアは何を謝ればいいのかわからなかった。どうしたらいいのかとアタフタする。

 そもそもプレシアは勘違いしていた。何をアリシアに謝罪すればいいのかと思考を巡らせていた。

 そのことにアリシアが気付く。

 

「ん!」

 

 アリシアがフェイトを指さす。

 謝る先はフェイトである。自分に対してではないと伝える。

 

「私の妹に酷いことしたよね?」

 

 先程のことも含め、今までしてきた酷いことの謝罪を要求する。

 

「それは……」

「したよね!」

「……はい」

 

 シュン、という効果音が似合う姿だった。

 

「謝って」

 

 再度フェイトを指し示す。

 プレシアがフェイトを見る。だがすぐに口を開くことはなかった。

 今まで憎しみを向け続けた存在である。すぐに感情を切り替えることは難しかった。

 しかしアリシアに容赦はない。

 ツカツカと歩き出す。

 

「フェイト、行こ」

 

 アリシアがフェイトを引っ張っていく。

 

「あ」

 

 プレシアが悲しそうな声と共に手を伸ばす。

 その声を聞いて一瞬立ち止まりそうになる。

 けど足は止めない。今は距離を置いたほうがいい。一人で考える時間は必要である。

 

 ドアを開く。すぐ近くにはアルフが待機していた。

 

「アルフも行くよ」

「え、え?」

 

 口をパクパクと開いたり閉じたりする。

 アルフの疑問はひとまず置いておく。そうしてアリシアは二人を連れて、時の庭園から一時去ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリシアとフェイト、それからアルフが地球に降り立つ。

 

「ア、アンタ、誰なんだい?」

 

 到着するなりアルフが質問する。

 

「お姉ちゃん」

「誰の……」

「フェイトの」

 

 アルフが二人を見比べる。

 否定の言葉を口にしようとする。

 しかし、その言葉は飲み込まざるを得なかった。再度二人の顔を交互に見る。

 瓜二つだった。姉妹ではないと言うほうが嘘と思えるほどだった。

 

 アルフは沈黙してしまう。

 しばらく思考停止状態が続くことだろう。

 

 アリシアがフェイトと向き合う。

 

 二人とも何を言うべきか迷っていた。

 何となく、お互いにこの状況を理解していた。

 ただ、どちらが先に口を開くかだった。

 

 海風が吹き抜けていく。

 

「お姉ちゃん」

 

 先に口を開いたのはフェイトだった。

 アリシアはその言葉を聞いて確信する。

 

「フェイト」

 

 フェイトは記憶を持っていた。

 

「身長、同じくらいになったね」

「うん」

「姉妹っぽくなったかも」

 

 二人は笑っていた。

 

「フェイトにもヒドゥンの影響が届いたってことかな?」

 

 ヒドゥンによって行われた時間の巻き戻し。

 一応ではあるが、記憶の保持の対象はなのはとアリシアに絞ったつもりではある。

 正確には記憶を時間逆行の対象から外したというべきでもある。

 ただ何もかもを思い通りに出来た自信はなかった。

 

 そもそもアリシアは巻き戻しによる影響を全て理解しているわけではなかった。

 全世界に影響を及ぼすほどの魔法である。それを理解しているほうがあり得ない話だった。

 

「届いたわけじゃないかな。影響を受けなかったわけでもないけど」

 

 少し要領を得なかった。

 アリシアが話の続きを促す。

 

「私は自分の力でこの世界に来たから」

 

 ヒドゥンの力とは別だと言う。

 

「どういうこと?」

「なのはとの戦闘中に使えるようになった魔法――それにもう一度希望を託したんだ」

 

 フェイトが会得した神域魔法。

 それを発動させていた。

 

「どこまでも行ける気がした。世界を越えることもできると思った」

 

 フェイトは次元を超えた存在となっていた。

 そして強い想いに魔法は応えていた。

 

「だから跳んだ。新しく作られていく世界に」

 

 言っていることはわかる。嘘を言っていないこともわかる。

 しかしすぐに納得することは難しかった。

 とはいえアリシア自身も超越した力を使用している。理解を超えるような話でも、そういうものだと認識しなくてはならなかった。

 実際に起こってしまったことなのだから。

 

「影響を受けなかったわけじゃないっていうのは?」

 

 フェイトが自分の体を見る。

 

「あ、そっか」

 

 フェイトの体は小さくなっていた。本来なら中高生くらいの背丈だったはずである。

 ひとまず確認しておきたいことが片付く。

 話を聞いていたアルフは完全に意識が飛んでいた。後でちゃんと説明してあげる必要がある。

 

「でも」

 

 アリシアがフェイトの手を握る。

 

「また会えてよかった」

「……うん」

 

 フェイトが握り返す。

 二人で歩めなかった未来。

 その未来をこれからは歩むことができる。

 

「とりあえず」

 

 アリシアが涙を拭う。フェイトも同じように拭っていた。

 

「会いに行こっか」

 

 フェイトの手を引き、アリシアは少年の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 なのはがアリシアと再会を果たす。

 その二人は感動に包まれていた。

 

 フェイトはなのはを見かけた瞬間、その場で固まってしまっていた。

 一度は諦めてしまっていた。もう会えないと思っていた。

 

「なのは」

 

 感動で止まっていた体がはじけるように動き出す。

 

「なのは!!」

 

 飛び出す。

 

「え!」

 

 フェイトがなのはに飛びつく。

 勢いが止められず、二人とも倒れこんでしまう。

 

「え! フェイト!?」

 

 なのはにとって驚きの連続だった。

 

「なのは」

 

 フェイトから涙がこぼれる。

 それがなのはの頬に落ちる。

 

 なのはが察する。

 目の前にいるフェイトは自分の知っているフェイトであると。

 

 フェイトが胸に顔をうずめる。

 少女は小さな子どものように泣いていた。

 

「フェイト」

 

 背中を撫でる。

 なのはも感動で涙を流したいところだが、なんだかそんな気分でもなくなる。

 泣きわめくフェイトを見て、今は保護者の気分となっていた。

 

 しばらくして泣き止む。

 胸から顔を離す。フェイトの顔には赤みが差していた。

 そのままなのはの顔へと近づいていく。

 

「ちょ……!」

 

 何をしようとしてるのか気付く。

 制止しようとするが、即座に両腕を押さえつけられてしまう。

 なのはは身動きが取れなかった。上から押さえつけられているため、流石に力負けしてしまう。

 

「こらっ」

 

 アリシアがフェイトを引きはがす。

 

「な、何するの」

「こっちのセリフだってば」

 

 フェイトをアルフに引き渡す。

 

「大丈夫?」

 

 手を伸ばす。

 

「お、おう」

 

 手を取り、立ち上がる。

 

「ありがとな」

 

 頭を撫でる。

 なんてことはない。いつもの癖である。

 

 ただそれを見たフェイトは不機嫌そうだった。

 

「フェイトも感極まるのはわかるけど、なのはくんビックリしちゃうでしょ」

 

 フェイトに謝るように促す。

 

「ご、ごめんね」

「いや、大丈夫」

 

 目をそらす。

 少しばかり気恥ずかしかった。

 

 ひとまず、一度落ち着いてから話し合いをすることにした。

 

 

 

 

 

 話を聞いて状況を理解する。

 姉妹と従魔はただいま絶賛家出中だった。

 

「とりあえず、もう一度会いに行ったほうがいいんじゃないか?」

「そうだね。フェイトは?」

「もちろん、もう一度会って話し合おう」

 

 反対意見はない。

 

「何度でも……話せるなら、何度でも話し合おう」

 

 言葉には前向きさがあった。

 

「母さんは――生きてるんだから」

 

 優しく、健やかな目をしていた。

 なのはもアリシアも、今のフェイトなら何も心配いらないと感じていた。

 

「いつ戻る?」

「それなんだけどさ」

 

 なのはが手を挙げる。

 

「もう一つ相談したいことがあって、それを話してから決めるんでもいい?」

「うん、大丈夫だよ」

 

 二人が快く承諾する。

 

「今日の夕方頃だったかな。ジュエルシードが暴走してユーノが襲われるんだ。結構危なかったはず」

 

 当時のことを思い出しながら話す。

 

「助けてあげてほしい」

「もちろん。と言ってもフェイトに頼ることになりそうだけど」

「大丈夫だよ。任せて」

 

 二つ返事で了解を得る。

 

「となると戻るのは明日かな。ジュエルシードの対処のほうが優先順位高いもんね。なのはくんの友達に万が一があったら大変だし」

 

 アリシアが話をまとめてくれる。

 

「フェイトもそれでいい?」

「うん、母さんも混乱してるだろうし、少し時間を置いたほうがいいと思う」

 

 フェイトに対する気持ちを整理する時間は必要だ。

 

「わかった。じゃあ一応連絡だけは入れておくね。明日帰るからそのとき話そうって」

「うん。それでいいと思う」

「それじゃあ、夕方に向けて準備しよっか」

 

 スムーズに話し合いが進んでいた。

 そして、ようやくアルフの意識が現実に戻ってきたときには、話し合いが終わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かこの辺に」

 

 時間になり、ユーノを探す。

 

「いた」

 

 道に倒れているユーノを見つける。

 

「大丈夫か?」

「君は?」

「高町なのは」

「僕はユーノ、ユーノ・スクライア」

 

 どうにか意識を保っているような様子だった。

 

「助けて、ほしい」

 

 当然、助けるつもりでいる。

 

「一つ聞いていいか」

 

 けど確認しておきたいこともあった。

 

「なんでそこまで必死になるんだ?」

 

 理由を尋ねる。

 

「僕のせいなんだ」

 

 黙って話を聞く。

 

「僕がジュエルシードを見つけたから……だから回収しないと」

 

 ユーノは変わっていなかった。

 まだ友人としての関係は築けていない。けれどユーノは以前と同じままだった。

 それがわかっただけでも協力するには十分な理由だった。

 

「わかった、協力するよ」

「ありがとう……本当に……ありが、と」

 

 ユーノは寝てしまった。

 体力も気力も限界だったのだろう。

 

「さて、と」

 

 立ち上がる。

 そのときポケットで何かが動いたことに気づいた。

 

「ん?」

 

 ポケットに入っていた物を取り出す。

 それは小さい石だった。

 

「なんだこれ?」

 

 黒い石。

 ただそれには見覚えがあった。形はジュエルシードにそっくりである。

 似ていないとすれば色である。

 通常、ジュエルシードは青色をしている。

 だがなのはの手にある石は黒かった。しかしどう見てもジュエルシードである。

 

(どういうことだ?)

 

 まじまじと見つめる。

 すると、突如ジュエルシードが光りだした。

 

「なんだ!?」

 

 黒く、強い光が激しく発光する。

 

 そしてジュエルシードはなのはの体に取り込まれていった。

 あっという間の出来事だった。

 

「なのは!」

 

 嫌な魔力反応を感知し、フェイトが駆けつける。

 

「う、ああっ!」

 

 頭を抱えてうずくまる。

 その様子を見て心配になり近づこうとする。

 

 だが巨大な魔力波が起こり、後ろへと吹き飛ばされる。

 

「くっ! バルディッシュ!」

『Yes,sir』

 

 バルディッシュを起動する。

 魔力波が止み、なのはの様子を確認する。

 

「なのは!」

 

 なのはは宙に浮かんでいた。

 頭を抱え、苦しそうにしている。

 

 何が起こっているのかわからなかった。

 フェイトがどうするべきか困惑する。

 

「取り込み中申し訳ない」

 

 そこに男が現れる。

 

「少しお邪魔させてもらうよ」

 

 声の主を見る。

 

「ジェイル・スカリエッティ!」

 

 フェイトが驚く。

 そこにはジェイルがいた。

 

「なぜあなたが」

 

 こんなところにいるはずのない人物がいた。

 当然の疑問である。

 

「子を助けるのに理由がいるかい?」

 

 子とはなのはのことを指している。

 

「まさか、あなたも」

 

 フェイトがすぐさま察する。

 

「パパ!」

「元気だったかい?」

 

 アリシアが駆け寄る。

 抱きついた娘の頭をひとなでする。

 

「管理局から逃亡する前に一目会いに来たつもりだったのだが」

 

 ジェイルがなのはを見上げる。

 

「これは逃げ隠れしている場合ではなさそうだね」

 

 大事なものを扱うように、アリシアを自分の後ろに移動させる。

 

「フェイト・テスタロッサ、協力してくれるかね?」

「あなたを信用しろと?」

「信用する必要はないさ」

 

 二人の視線が合う。

 

「ハッキリ言っておこう。彼が助かるのであれば私は君がどうなろうと構わない。そして私自身がどうなろうともね」

 

 その言葉は信用することができた。

 目的は同じである。

 その点において協力関係を築くことは可能であるとフェイトは判断した。

 

「わかりました」

 

 フェイトの協力を取り付ける。

 話が終わったかのように思えたが、一人反対するものがいた。

 

「ダメに決まってるでしょ」

 

 アリシアがジェイルの手をつねる。

 

「みんな無事じゃないとダメ」

 

 協力することに異論はない。

 だが犠牲をいとわない姿勢は断固拒否だった。

 

「承知した」

 

 しかと受け止める。

 

「ということだ。君も私も無事に生還するとしようじゃないか」

 

 宙に浮かぶなのはを見つめる。

 その視線には必ず助けるという意志があった。

 

 

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