高町なのはくん2   作:わず

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2章
帰還


 

 地球へと戻ってくる。

 

「送ってかなくて大丈夫か?」

「みんなおるし、平気や」

 

 はやてがシャマルの手を握る。

 当然、守護騎士も一緒だった。

 

 追われている組はラトリアに残してきていた。

 フェイトはついていくと言い張っていたが、どうにか宥めてラトリア滞在に留めていた。

 それにフェイトにはやってもらいたいことがあるみたいだった。

 なのはが偶然聞いた内容によると資材調達をお願いされている様子だった。加えて、執務官時代に知った裏ルートの物流の情報などをジェイルが聞き出していた。

 

「ではな、高町」

「ああ」

 

 シグナムが車いすを押す。

 その背中を見送り、なのはも帰路につこうとする。

 

「なのは」

「うん?」

「少し歩かない」

 

 アリサに散歩へ誘われる。

 

「別にいいけど」

 

 断る理由もない。

 了承し、遠回りして帰ることにした。

 

 海沿いを歩く。

 慣れ親しんだ風景を見て、心に平穏が戻ってくる。

 

 無言が続く。息苦しくはない。

 無言が苦痛と思える仲でもなかった。

 

「なのは」

「うん?」

「なのはは、なのはなのよね」

 

 突然、哲学めいた話をしてくる。

 

「なんだよ急に、なぜ私は私なのかってやつか?」

「そういうところよ」

 

 アリサがなのはより一歩先に進む。

 

「あたしの知っているなのはならそんな返しはしないはずよ」

「そうか?」

「ええ、それに突然強くなっちゃうし……まあそれはあたしもなんだけど。でもやけに戦い慣れてたり、知らない人たちと知り合いになってたり」

 

 一度立ち止まり、海の方を向く。

 

「なのは、なんだよね?」

 

 同じく足を止める。

 本当のことを言うべきか迷う。言っても問題ないとは思えるが、どんな影響があるかわからない。色々と考えてから決めた方がいいと判断し、今はまだ言わないことにした。

 

「俺は俺だよ。アリサの友達であることには変わらない」

「そ、ならいいけど」

 

 再び歩き出す。

 

「無理には聞かないわ。話したくなったら話しなさい。いつでも聞いてあげるから」

 

 後を付いていく。

 

「帰りましょ」

「おう」

 

 小走りして隣に並ぶ。

 それからは他愛の話をした。

 

「そういや、アリサもジュエルシードが体に入ってきたんだろ? どんな感じだった?」

「体の自由がきかなくなったわね。後は全て燃やせ~とか脳内に流れてきてたかしら」

「大丈夫だった?」

「ねじ伏せたわ」

「……すごいな」

 

 やがて岐路に差し掛かり、各々の帰り道についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 帰宅する。

 

「なのは!」

 

 母親が駆け寄ってくる。倒れこむように勢いよく抱きしめられた。

 

 いつかの再現である。

 

 また、家族を泣かせてしまった。

 今回は泣くことはないと思っていたが、そうでもなかった。

 

 静かに涙が流れていく。

 

 前回は自分自身の気持ちでいっぱいいっぱいだった。

 我慢していたものが涙と一緒に溢れかえっていた。

 

 だが今回は違った。

 泣く母を見て、自らも涙を流していた。

 どれだけ心配だったか、どれほど眠れない夜を過ごしたか。

 それを思うと自然と涙が出た。

 

 なのはは精神的に成長している。

 それに伴い、人の気持ちに共感できるようになった分、涙もろくもなっていた。

 

 人生はいつだってままならないことばかりである。

 

「一体どこ行ってたの!?」

「ごめんなさい」

 

 母を優しく抱きしめる。

 おそらく、これからも苦労をかけてしまう。

 

 その分親孝行をしようと誓う。

 

 しばらくの間、母と子は抱き合ったままだった。

 

 

 

 

 

 家族にはあらかた説明をした。

 魔法のこと、違う世界にいたこと。

 

 真剣に、真面目に話をした。

 

 そのおかげかどうにか話は信じてもらえていた。

 

 そして帰宅をした翌日。

 今日から小学校に登校である。

 

(今日ぐらいは休んでも良かったんじゃ)

 

 昨日帰ってきたばかりである。

 なのだが休むことは許されなかった。高町家では変なところで真面目な部分があった。

 

 ため息をつきながら登校をする。

 その途中、路地裏に目が行く。何か動いた気がした。

 死闘によって鋭敏になった感覚がまだ戻っておらず、些細なことにも反応してしまっていた。

 

 路地裏にゴミ箱を漁る人影を見る。

 余計なことに首を突っ込む必要はない。

 

 けど、記憶のどこかに引っかかるシルエットだった。

 気になり近づいていく。

 

「あれ?」

 

 その正体が判明する。

 

「月村……すずか?」

 

 月村すずかを見つける。

 髪はボサボサ、服はボロボロである。

 酷い有様だった。

 

「誰?」

「えっと」

「わたしのこと、知ってるの?」

 

 見たところ疲弊していた。

 

「うん。知ってる」

 

 それを聞いた途端、泣き出してしまった。

 泣き止むまで近くで待つことにした。泣いている女の子を見下ろすのも居心地が悪かったので、腰を落として近くに寄る。

 

「ごめんね」

 

 謝られるようなことは何もされていない。

 なので気にしていないことを伝える。それからすずかは口を開いた。

 

「誰も、わたしのことを覚えてなくて」

 

 話始めてからは止まらなかった。

 すずかはこの世界に飛ばされていた。そのことを知らず、家族に会いに行っていた。

 

『誰?』

『どこの子かな?』

 

 まるで他人だった。

 

「最初は冗談なのかと思ったけど、なんだかそれも違うみたいで」

 

 話しながら思い出したのか、また目には涙が溜まっていた。

 

「そっか」

 

 背中をさする。

 人の優しさに触れたせいか、溢れかけていた涙が次々とこぼれていた。

 

「うっ……」

 

 なのはは何も発しない。

 ただ傍に居続けた。

 

 すずかは一人だった。

 そのつらさは良く知っている。だから寄り添った。少しでも寂しくないように。

 

「ご、ごめん」

「大丈夫だよ」

 

 少しずつ落ち着いていく。

 やがて泣き止み、ほんの少しばかり目に活力が戻っていた。

 

「ありがとう」

 

 元々月村すずかは強い子である。

 涙を引っ込め、現状を把握することに努めた。

 

「君は誰なの? それになんでわたしのことを知ってるの?」

 

 以前、リインフォースに夢を見せてもらったとき月村すずかについて知る機会があった。

 元の世界にいた高町なのはの友達。

 それが月村すずかである。

 そして、それをどう説明したものかと考える。

 

(うーん、難しいな)

 

 自分自身のことについても何から話始めたものかと迷う。

 そもそも信じてもらえるか謎だ。

 

 説明するために脳をフル回転させる。

 

(いや、それよりも)

 

 優先すべきことがあった。

 月村すずかは疲弊しきっている。今あれこれ話をするのは良くないだろう。

 まずは休息が必要だ。話はそれからでも遅くはない。

 

「とりあえず移動しない?」

 

 なのはが立ち上がる。

 

「家に行こう」

 

 手を差し伸べる。

 

「いいの?」

「もちろん」

 

 すずかがなのはの手を取る。

 そうして歩き出したときだった。

 

「あっ」

「どうしたの?」

 

 あることに気が付く。

 今から行こうとしているのは高町なのはの家である。

 

(家に行ったら何でって思うよな)

 

 着いてからだと混迷極まること間違いなしである。

 

「ごめん、やっぱ少しだけ説明させて」

 

 振り返る。

 

「さっきの質問の一つ目に答えることになるんだけど」

 

 一つ目の質問は誰なのかということだ。

 

「俺、高町なのはっていうんだ」

「えっ」

 

 すずかが驚く。

 少し考え、返事をする。

 

「あ、そう、なんだね」

 

 おそらく、ただの同姓同名だと思われている。

 

「すず……月村の友達に同じ名前の子がいると思うんだ」

「うん」

「その子と俺、同一人物、なんだよね」

 

 すずかが混乱する。

 疲労が溜まっているせいか頭は上手く回っていないように見えた。

 

「ただ性別が違うかな」

 

 さらに混乱させてしまう。

 

「えっと、誓ってふざけてるつもりはない」

 

 フェイトかユーノ、アリサがいればと思ってしまう。

 今更だが、自分以外頭のいいやつばかりだと気づく。

 

(俺が特別悪いわけじゃないよな)

 

 自信を失いかける。

 というより今はそんなこと考えている場合ではない。

 

(説明の順序間違ったかな。今いる場所が月村すずかの世界とは違う世界ってとこから話したほうがよかったかも)

 

「ごめんな。混乱させて」

 

 優しく話す。

 

「月村を困らせたくはないし、助けたいと思ってる」

「……うん」

「ここは月村にとって異世界、なんだと思う。この場合は並行世界、もしくはパラレルワールド? みたいな感じかな」

 

 すずかもなんとか飲み込もうと頑張っていた。

 

「本当は落ち着いてから色々と話したかったんだけど、今から向かうところが俺の家だからさ」

 

 なのはの家。

 それはすずかが良く知っている場所である。

 

「月村の友達の家に着いたら何でって困惑させちゃうと思ったんだ」

 

 すずかが納得した表情を浮かべる。

 本当に頭が良いのだと感心させられる。

 

「じゃあ、行こっか」

 

 手を差し伸べる。

 すずかがその手を取り、二人は歩き出した。

 

 

 

 

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