高町なのはくん2   作:わず

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家族会議

 

 家の前に到着する。

 道中、二人は手を繋いだままだった。

 

 途中で離そうと考えたがそれはしなかった。

 

 すずかはずっと不安そうにしていた。

 今でもそれは変わらない。そんな子の手を振りほどくことはできなかった。

 

(嫌だったら月村から離すだろ)

 

 そう思っていたが、なんだかんだここまで来てしまっていた。

 

 手を離す。

 

「あ」

 

 不安な声が漏れる。

 

「ちょっと待ってて」

 

 頭を撫でる。

 それから家の中に入っていった。

 

(同い年の子にやることじゃないな)

 

 つい、子ども相手の対応をしてしまう。

 今は自分自身も子どもであるため、もう少し振る舞い方には気を付けようと考える。

 

「ただいまー」

「あれ、どうしたの? 学校は?」

 

 母の桃子が顔を出す。

 兄や姉はすでに出かけていて家にいない。

 

「いや、ちょっと問題が」

 

 桃子が不安そうにする。

 

「もしかして、魔法に関わること?」

「うん」

 

 昨日の今日で本当に申し訳ないと感じる。

 

「困ってる子がいて、力になってあげたいんだけど……とりあえず家に上げてもいいかな?」

「お友達?」

「ううん。さっき知り合った子」

 

 さらに心配させてしまう。

 

「大丈夫なの?」

「うん。大丈夫」

 

 なのはが言い切る。

 そこまで言うのであればと、桃子は息子の言葉を信じた。

 

「わかったわ」

 

 無茶を言って申し訳ない気持ちと、了承を得たことに安心感を得る。

 外に行き、迎えに行く。

 

「ごめん、待たせた」

 

 すずかを玄関に連れていく。

 

「あらあら」

 

 ボロボロの姿に驚く。

 

「お名前は?」

 

 すずかが一瞬悲しそうな顔をする。

 本当なら桃子もすずかを知っているはずである。

 

「月村、すずかです」

「月村……?」

 

 桃子が考える。

 思い出すのは恭也が付き合っている月村忍のことである。

 たまたまだろうと思い、考えるのを止める。

 

「ごめんなさい、何でもないわ。どうぞ上がって」

 

 歓迎する。

 先ほどまでは不安による心配があった。

 しかし、すずかの姿を見て小さな子どもに対する心配に変わっていた。

 

「その」

 

 上がろうとしない。

 すずかが汚れた服と靴を見る。

 

「気にしないでいいのよ。でも、そうね、良かったらシャワー使う?」

「いいんですか?」

「もちろんよ。さ、上がって」

 

 制服も洗っちゃいましょうと続ける。

 

 二人が浴室へと入っていく。

 なのはは何もできないため、リビングで待機することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほい」

「ありがとう」

 

 テーブルにペスカトーレを置く。出来立てなのでアツアツである。

 すずかがシャワーを浴びている最中、なのはは食事の準備をしていた。

 

「いただきます」

 

 二人で食事をする。

 なのはは先ほど朝食を食べている。ただ食べようと思えばまだ入るので一緒にいただくことにした。それにすずか一人で食事させるのも気を遣わせることになるとも考えていた。

 

 カチャカチャと食器の音が鳴る。

 桃子は近くにいない。すでに喫茶店へと向かっていた。今は家には二人きりである。

 

 食事が終わる。

 お腹いっぱいになったおかげか、すずかは舟を漕いでいた。

 

(話は休んでからだな)

 

 寝床に案内しようとする。

 

「月村」

 

 しかし、声が届くことはなかった。

 

「おっと」

 

 椅子から落ちそうになるのを防ぐ。

 もはや意識はなかった。静かに寝息を立てている。

 

「おーい」

 

 返事はない。

 完全に夢の中である。

 

「しょうがないな」

 

 すずかを抱える。

 自分の部屋に行き、ベッドの上へと寝かせた。

 おそらく、数時間は起きないだろう。

 

「さて」

 

 ゲーム機を取り出す。

 セッティングし、起動をさせる。

 

『マスター』

 

 レイジングハートがピコピコと光る。

 

「どうした?」

『よろしいのですか?』

 

 今、ゲームより他にやった方がいいことがあった。

 それはジェイルに連絡を取ることである。今後のことについて相談をすべきであった。それはなのはもわかっている。

 けどしない。したくない。

 

「レイジングハート」

『はい』

「俺はもう何日もゲームをしていない」

『はい』

「わかるよな?」

『わかりません』

「もう限界なんだ」

『そうですか』

「わかってくれるか?」

『わかりません』

 

 遊ぶソフトを選び、ハードに挿入する。

 

「それにな、レイジングハート」

『なんでしょう』

「学校を休んだ時にやるゲームは最高に楽しいんだ」

『そうですか』

「てことで、一緒にやろうぜ」

 

 もう一つのコントローラーを床に置く。

 

『仕方ありませんね』

 

 コントローラーの前にレイジングハートが移動する。

 

「あ、先に言っとくけどちゃんとコントローラーで操作しろよ。絶対にハッキングとかすんなよ」

『フリでしょうか?』

「ちげーよ」

 

 ゲームが開始される。

 レイジングハートと遊ぶため、格闘ゲームなどは避けておいた。

 

 社長となり、電車を走らせていく。

 すずかが起きるまで、二人はゲームをして楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん」

 

 起き上がる。

 すぐ隣ではなのはがゲームをしていた。

 

「あの」

「あ、起きた?」

 

 振り向く。

 

「体調は?」

「うん、ちょっと良くなった」

 

 先ほどより頭はスッキリしている。

 

「そっか」

 

 一安心する。

 

「あ、やべ」

 

 時計を見る。

 もうそろそろ皆が帰宅してくる時間である。

 

「ごめん、夕飯の準備しないと」

 

 今日は母親に準備をするように頼まれていた。

 学校を休むならそれぐらいの時間はあるでしょ、と言われ押し付けられていた。

 

 コントローラーを置き、部屋を出ていく。

 

「少し待ってて。準備出来たら呼ぶから」

「うん」

「ゲーム、やりたかったら遊んでていいよ」

 

 タタタッと行ってしまう。

 

『おはようございます』

「あ、えっと」

『マスターのインテリジェントデバイスです。レイジングハートとお呼びください』

「月村すずかです」

『良く眠れましたか?』

「はい、おかげさまで」

 

 顔には活力が戻っていた。

 それでも不安が完全に消えているとは言えない表情である。

 

『不安ですか?』

「……はい」

 

 隠すことに意味はない。

 隠せるほど大人でもない。

 

『あなたのご友人のことは存じ上げません』

 

 友人とは、すずかの知っている高町なのはのことである。

 

『しかしマスターは人を見捨てたりしません。普段おちゃらけてはいますが、必ずあなたの助けになるでしょう』

 

 言葉には力強さがあった。それは自信を持って言えることだからである。

 

『どうかご安心して私たちに任せてください』

「……ありがとうございます」

 

 ほんの少し、不安が取り除かれる。

 

「レイジングハートさん」

『どうされました?』

「なのは君のこと好きなんですね」

『……何のことでしょうか』

 

 照れ隠しをしていた。

 それはすずかにもわかるほどだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕飯の時間となる。

 食卓には人が集まっていた。

 

「ちょっといいかな」

 

 全員集まったところで声を掛ける。

 

「食事の前に話があるんだけど」

 

 今日はカレーである。それを盛り付ける前に話をしようと考えていた。

 

「どうした?」

 

 恭也が何事かと問いかけてくる。

 

「ちょっと待ってて」

 

 なのはがリビングから出ていく。

 それからすずかを連れてリビングに戻ってきた。

 

「え?」

 

 美由希が身を乗り出す。

 

「彼女?」

 

 ウキウキだった。

 

「違うよ」

 

 淡々と返す。

 

「月村すずかと言います。突然お邪魔してしまい申し訳ありません」

 

 月村と聞いて恭也が反応する。

 確認するようにまじまじとすずかの顔を見る。

 

「似ている」

 

 さらにじっと見つめる。

 

「……親族か?」

 

 若干、警戒する様子を見せる。

 なぜ警戒しているかわからなかったが、無視して話を続けた。

 

「今日の朝に出会ったんだけど、かなり酷い状態だったから助けたんだ」

 

 そのときの状況を簡単に説明する。

 

「それでなんだけど、月村は異世界から来たみたい……なんだよね」

 

 一旦、話を止める。

 まずはここで信じてもらえるかどうかである。

 なのはがどんな質問にも頑張って答えようと気合を入れる。

 

「……そうか」

 

 恭也が腕を組み、虚空を見つめる。

 信じていない、というわけでもなさそうである。

 

「今度は異世界か……」

 

 ボソッと呟く。

 魔法の説明をしたときもだが、頭から否定するようなことはしなかった。

 どうにもこういった状況に慣れているようにも思えた。

 

「それで?」

「え?」

「話の続きは?」

「う、うん」

 

 逆になのはが驚くことになっていた。

 あまりにも予想外の反応だったためである。

 

「月村の助けになってあげたい。元の世界に帰れるように手助けをしたい」

 

 結論を伝える。

 恭也が考える。

 なのはは話し出すのを待っていた。

 

「なのは」

 

 恭也が口を開く。

 

「警察に頼るという方法ではダメなのか?」

 

 それは聞かれるであろうと予測していた疑問である。

 

「月村は帰る場所がないし、家族もいない。かなりややこしいことになると思う。そうなると元の世界に帰すために相当動きづらくなる。だからなるべく今は警察に頼りたくない」

 

 警察の手を借りた場合、身動きが取れなくなってしまう。

 それは避けたいところだ。

 

 一応、身元引受人として名乗り出れば高町家で預かることもできそうである。ただそうなると色々と手続きが必要になってくる。

 もしかしたら、戸籍を作ったりなどの法的手続が発生するかもしれない。

 しかも下手をすれば短期的にではなく長期的に面倒を見ることになる。正直、そこまで面倒を見る義理は高町家にはない。

 冷たい言い方だが、すずかはなのはにとって友達ですらない。

 

 諸々の事情を汲み取りつつも、高町家が負うであろうリスクも考える。

 

 どうにもならない場合は公的機関に頼ることになるだろうが、なのはが手助けをする期間を設けるくらいは譲歩してもいいと考えていた。

 

「わかった。それとだ」

 

 事情は理解した。しかしどうにもわからないことがあった。

 

「なぜ助けようとするんだ」

 

 理由が見えなかった。

 友達でも恋人でもない。

 今日会ったばかりの子にどうして手を差し伸べるのか。なぜ差し伸べることができるのか。

 それがわからなかった。

 

「一人はつらいから」

 

 なのはは今より小さい頃、一人で過ごす時間が多かった。

 だから一人でいることのつらさを知っていた。

 そして一人にさせてしまったのは恭也でもあり、桃子や美由希でもあった。家庭の事情があったとは言え、幼子に寂しい思いをさせた過去は変わらない。

 

 意図したわけではない。しかしなのはの言葉は恭也に突き刺さっていた。

 どんな剣技よりも効いていた。

 

「ん?」

 

 手に温もりを感じる。

 見るとすずかが手を握ってきていた。

 

「どした?」

「ううん、何でもない」

 

 何でもないと言いつつ握る力を強める。

 

(不安なのかな?)

 

 そう結論付け、手は握ったままにしておく。

 

「月村すずかと言ったか。異世界と言うが、どんなところなんだ?」

 

 恭也が話題を変えようとする。

 

「この世界に似ています。違うのは誰もわたしのことを知らないということです」

「家族もか?」

「はい」

「そうか……すまないが家族の名前を教えてくれないか?」

「えっと、お姉ちゃんは忍って言います。後はメイドのノエルと……」

 

 それらの名前を聞いて、何か考える素振りをする。

 無表情でわかりにくいが、眉間にしわがやや寄っていた。

 

 恭也がすずかを見る。

 自らの恋人と重ねてみる。確かに月村忍に似ていた。

 

 そう考えると、全くの見知らぬ他人とは思えなかった。

 

「……わかった」

 

 恭也が折れる。

 桃子と美由希は反対しない。この場の話し合いは恭也に託されていた。

 

「ただ、条件がある」

 

 なのはが身構える。

 お小遣い三か月分くらいなら覚悟は済ましてある。

 

「なのはが相談をしているという相手、その人物と一度話をさせてもらえないか」

 

 その人物とはジェイルのことである。

 

「保護者としてもある程度事情は聞いておくべきだし、なのはばかりに責任を押し付けるのもな」

 

 なのはの頭上にハテナが浮かぶ。

 特に責任を押し付けられた覚えはなかった。

 

「自分で選んで、自分で行動して、自分で結果を背負い込む。立派な話だ。でもな、どれか一つぐらい俺たちに背負わせてもいいんじゃないか?」

 

 そのように考えたことはなかった。

 自らの行いは自らの責である。当然の話である。なのはは今でもそう思っている。

 

「どうするのか判断に迷ったとき、俺たちに相談してもいい。そのときの道を俺たちが選択する。その責任はなのはにはない。選択の先にある行動も結果も、なのは一人の責任じゃない」

 

 なぜそんなことが言えるのか。

 その理由に気づかないほど、愛情を知らないわけではない。

 

「家族だからな。いつだって助けになるさ」

 

 頭を撫でられる。

 桃子と美由希も恭也に同意していた。二人がなのはを見る。その眼差しは優しさに溢れていた。隣にいたすずかも優しくなのはを見る。

 

「ちょ、恥ずかしいから」

 

 それに気づき、ゆっくりと手を払う。

 

「食事にしよう。その後に話の続きを聞かせてくれるか?」

 

 恭也がずずかに問う。

 

「はい」

 

 難所を超える。

 完全に納得させたわけではないがひとまず安心する。

 

「なのは君」

「うん?」

「ありがとう」

「……おう」

 

 それは、出会ってから初めて見た笑顔だった。

 

 

 

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