「アリサ」
状況を説明する。
箇条書きのような情報を投げていくが、アリサにはそれで事足りていた。
「なら助けないとね」
再び氷結スキルが付与された砲撃が飛んでくる。
「話してるヒマはないわね」
フレイムアイズの力により相殺する。
「あんま無茶すんなよ」
「アンタに言われたくないわよ」
なのはが突撃していく。
その後をアリサが続く。
しかし追いつけない。なのはとアリサでは練度が違いすぎた。
「乗れ」
ザフィーラが横に付く。すかさずアリサが背中に飛び乗った。
空を駆けていく。
ピッタリとは付かず、少し後方に陣取った。
なのはとすずかの距離が縮まる。
目にも止まらぬ速さでスノーホワイトが突き出された。
完全に受けることはせず剣で流す。
氷の爪が狙いを定める。
なのはに攻撃しようとするが腕が動かなかった。
なのはが足を突き出し、肩を抑え込んでいた。
肩の可動域に制限が加わったため、上手く力が入らずにいた。
両翼がなのはに襲い掛かる。
それを紙一重で避ける。
完全に見切っていた。
人を超えた存在であろうと、生物であることに変わりはない。
相手が生きている存在である限り、なのはが適応できないということはなかった。
「ふふっ」
すずかの頬には赤みが差していた。
「ずっと、永遠に」
その表情から暗い感情を覗かせる。
「なのは! 離れて!!」
後ろへ逃げようとする。
しかし翼に行く手を阻まれてしまう。
この距離で広域魔法を使用するとは露ほども思っていなかった。
これではすずか自身も巻き込んでしまう。
だが問題はなかった。すずかは氷結魔法に対して完全耐性を有している。
スノーホワイトの力が解放される。
発動の瞬間、なのはが翼の牢獄から抜け出す。
シャマルの転移魔法によって脱出に成功していた。
すずかを中心に世界が凍り付いていく。
生きとし生けるもの、全ての活動が停止を余儀なくされる。
「そんな氷じゃ私を凍らせることはできないわよ!」
アリサもフレイムアイズを解放する。
世界を焼き尽くす炎が広がっていく。
全てを奪いつくそうと炎が浸食していく。
炎が氷を溶かし、氷が炎を凍て付かせる。
力が拮抗し合う。
「くぅ!」
踏ん張る。
押し込まれないように力を出し続ける。
全力の解放だった。
本来ならためらうところだが、今は一片たりとも躊躇してはならなかった。
攻撃が止む。
十秒にも満たない攻防。
そのはずなのだが体感としては何倍にも感じていた。
世界が割れていた。
アリサから後ろは炎熱の世界となり、すずかから後ろは氷結の世界となっていた。
「あちち!」
ヴィータが走り回る。
なんとお尻のあたりが燃えていた。
「シ、シグナム! 消してくれ!」
「こっちに来い」
ヴィータがシグナムのところに駆け寄る。
「は、早く!」
「はっ!」
思いっきり尻を叩く。
パン! と良い音が鳴る。
渾身の一撃だった。
「きゃん!」
風圧により火が消える。
ヴィータのお尻は真っ赤になっていた。
二人はアリサの炎によって自由になっていた。
しかしながら戦闘を継続できる状態ではない。そのため戦線を離脱せざるを得なかった。
「二人ともこっちに」
二人がシャマルのところに飛んでいく。
「大丈夫?」
「ああ」
回復魔法をかけてもらう。
凍傷に熱傷、随分と酷い有様だった。
「状況は?」
「やや劣勢と言ったところよ」
空中では戦闘が再開されていた。
やられないように立ち回ることはできている。
ただ一歩間違えると死に繋がる状況は変わらない。その極限の状態の中で活路を見出さなくてはならなかった。
余裕のあるすずかと余裕のないなのは。
決して優勢とは言い難かった。
なのはが近接戦闘を行い、アリサが氷結魔法の対応を行う。
互いのことを理解し合っているため、スイッチのタイミングは完璧だった。
近接攻撃は捌ける。
逃げ道を防がれるような失態も二度としない。
後は攻撃を加えるのみである。
そして、その攻撃の準備も完了しようとしていた。
(そろそろ行けそうだな)
ディバインソードの強度を確認する。
散った魔力を集束し、強度を上げ続けていたため強力な剣に仕上がっていた。
魔法ランクにしてSSランクである。
これであれば、一撃ですずかを鎮圧させることができる。
だが相手は真祖であり、ジュエルシードの覚醒により身体が強化されている。
それをなのはたちが知り得ているわけではない。
ただ後悔しないためにも全力で行くべきと判断していた。
もう一段階、ディバインソードを強化する。
魔法ランク、SSS。
最強の魔法剣が完成する。
『シグナム』
念話を受け、空を見上げる。
『一瞬でいい。隙を作ってくれ』
命令とも取れる内容だった。
だがなのはは人を顎で使うような人間ではない。実際に話したことのあるシグナムならそれは承知していることだ。
また、できるか否かではなく、シグナムであればできると踏んでの発言だった。
怪物とも言える存在に隙を作れと言う。
ボロボロにも関わらず、無理を押してでも立ち向かえと言う。
常識があれば普通は頼んだりしないことである。
しかし、言ってきたのはあのなのはである。
一人で四英雄を相手にし、人外の領域にいるアクトロスを倒した末、シグナムの主を助け出した最強の剣士。
そのなのはに頼りにされる。
それは誰もが認める強者に認められたことに他ならなかった。
『いいだろう』
これは主を守る戦いでもある。
尊敬する主のために命を掛けることになるのであれば、それは騎士にとって誉でもあった。
なのはが連撃を繰り出す。
それを身体能力だけで対応する。
すずかが暴力的な一撃を繰り出す。
それを卓越した剣技により受け流す。
一進一退の攻防が続いていく。
そうしてまた、氷帝の力が解放されようとしていた。
「なのは!」
アリサが忠告する。
いつもなら離脱するところだが今回はそうしない。
(ここだ!)
ブラック・オルロフの魔法を発動させる。
王域魔法、ディバイン・ライト・オブ・キングス。
氷帝の力をかき消す。
氷は水にも気体にも戻らず、無へと帰っていった。
『シグナム!』
「翔けよ、隼!」
矢が放たれた。
火の鳥となり、すずかへと真っすぐ飛んでいく。
当たる直前まで迫り、その幼い顔に食らいつこうとした。
上体を後ろへ反らす。
直撃とはならず、火の鳥は彼方へと飛んで行ってしまう。
すずかの体勢が大きく崩れる。
なのははこの瞬間を待っていた。
レイジングハートを引く。
突きを放つ構えである。
赤い羽が間に入り込み盾となる。
加えて、氷の盾も展開されていた。
攻撃を通す隙間がなかった。
(もう、何度も見た)
物にはどうしても脆弱な部分というものが存在してしまう。
氷の盾にもそれが存在し、なのははその部分を瞬時に見極めることができるようになっていた。
構築の癖、そして魔力の通し方により発生する強弱の箇所。
その部分に狙いを定め、レイジングハートを突き出した。
氷の盾を突き破る。
さらに両翼の壁のわずかな隙を突き通す。
相手の防御と刹那の隙を見切る技。
御神流、
胸にディバインソードが突き刺さる。
そのまま胸から下半身にかけて引き裂いた。
目の色が戻り、両翼も消えていく。
すずかの意識はブラックアウトしていた。
落下するすずかを受け止める。
すぐに生きているか確かめる。
最も強い状態のディバインソードで斬ったため心配だった。
「……生きてる」
息があり、心臓も動いていた。
死闘が終わる。
死者ゼロ人。
誰が死んでいてもおかしくはなく、奇跡的な終結であった。