高町なのはくん2   作:わず

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友達

 

 目を覚ます。

 

「気が付いたか」

 

 隣にはシグナムとシャマルがいた。

 看病係と非常時の対応役である。シグナムに至っては騎士甲冑を纏ったままだった。

 

 見たところすずかの意識は正常である。

 そのことに二人が一安心していた。

 

「はやてー、アイス食べていい?」

「夕飯食べてからなー」

 

 はやてが鍋の様子を見る。

 その横ではなのはが食材を切っていた。

 

「おいなのは、後でアイス賭けてゲームしようぜ」

「いいぜ、けど手加減はしねーからな」

「上等だ!」

 

 賑やかなキッチンを横目に質問する。

 

「あの、ここは?」

「我が主、八神はやての居宅だ」

「八神、はやて?」

 

 シグナムが車いすに乗る少女を見る。

 その目線を追い、家の主人を確認する。

 

「月村すずか、で合ってたか?」

「は、はい」

「シグナムだ」

「シャマルです。よろしくね、すずかちゃん」

「よろしくお願いします……」

 

 再度二人の顔を確認する。

 おぼろげではあるが、二人のことは見覚えがあった。

 顔を見たことにより、少しずつ戦闘時の記憶が蘇ってくる。

 

 とんでもないことをしてしまった。

 

 その結論に至るまで時間は長く掛からなかった。

 誰かが死んでいてもおかしくはなかった。その事実に酷い自己嫌悪に襲われる。

 

「聞きたいことがある。そちらも質問したいことがあるだろう」

 

 シグナムがすずかの表情から気持ちを察する。

 気の知れた仲でもないため気を遣う必要はない。だが恩人の友人であると聞き及んでいる。

 そのため、最低限の配慮は行うことにした。あまり強い言葉を使わず、詰問するようなことはしない。

 

「だが一度置いておこう。まずは……」

「出来たでー」

 

 はやてとなのはが配膳をしていく。

 

「食事をしてからだ。それから話し合おう」

 

 シグナムが騎士甲冑を解除する。

 それから各々がテーブルへと着いた。すずかがどこに座ったものかと迷う。

 

「月村」

 

 なのはが手招きをする。すぐ横に空いた席があった。

 隣に行き、すずかが腰を落ち着ける。

 

「ほな、いただきます」

 

 家の主が手を合わせる。皆、右に倣って合掌していた。

 

 片付けを済ませ、話し合いが行われる。

 

「なぜあのようなことを?」

「ごめんなさい……私にもわからないんです」

 

 すずかは酷く落ち込んだ様子だった。

 

「あんなこと、わたし、するつもりは……」

「自分の意思ではないと?」

「はい」

 

 守護騎士一同、怪訝な顔をしていた。

 

「少しいいか?」

 

 なのはが手を上げる。

 

「月村は嘘を付いてないと思う。俺もジュエルシードが原因で同じようになったことがある」

「ジュエルシード?」

「ああ、ええと」

 

 なのはがジュエルシードについて説明をする。

 続けてすずかの弁明に移る。

 

「上手くは言えないし、ハッキリと原因はわかってない。ただ意識が飲まれるような、支配されているような……とにかく自分の意思とは関係なく体が動いちゃうんだ」

 

 ジュエルシードによって発生する思念は異なっていた。

 なのはは否定、アリサは侵犯、すずかは独占である。己の意思の強弱により、思念への抵抗具合が変わっていた。

 

「おまえが言うのなら嘘ではないのだろう」

「つっても全く意識がないわけじゃない。ぼんやりとだけど、薄っすら現実を認識している。そんな感じだよな?」

「うん」

 

 すずかがそのときのことを思い出す。

 それと同時にある人物のことも思い出していた。

 

「そういえばアリサちゃんは?」

 

 ここにはアリサがいなかった。

 

「アリサは一旦家に帰ってる。門限守らないと家の人に誘拐と勘違いされるらしいからさ。後から車で来るって言ってたけど」

 

 チャイムが鳴る。

 噂をすればだった。

 

「お邪魔します」

「こんばんは、アリサちゃん」

「こんばんは、はやて。元気になった?」

「おかげさまで」

 

 家主が出迎える。そのまま雑談でもしたいところだが、あまり皆を待たせるのも良くない。

 早々に会話を切り上げてリビングへと移動した。

 

「アリサ、ちゃん」

 

 消えてしまいそうな声だったが、アリサにはちゃんと聞こえていた。

 二人の目が合う。

 そのまますずかの近くへと行く。

 

「月村さんよね」

 

 それを聞いてすずかがショックを受ける。

 わかってたこととはいえダメージは大きい。

 

 なのはが心配そうに見る。

 アリサには事前に説明をしてある。アリサとすずかは友達同士だった。それを踏まえた上で会話をして欲しいと、そのように伝えていた。

 

 アリサは言葉が強いときがある。

 すずかにとってそれは傷つく要因になるかもしれない。そうはならないと信じているが、やはり心配にはなってしまう。

 

『わかってるわよ』

『……おう』

 

 アリサはなのはの視線に気付いていた。

 

「あなたのことについては話を聞いてるわ。あたしたち、友達だったのよね」

「うん」

「似てる、かしら?」

「え?」

「あたしと、あなたの知ってるあたしは」

「……うん。とても似てる」

「そ、なら大丈夫ね」

 

 何が、と野暮なことは言わない。

 第三者が口をはさめる雰囲気でもなかった。

 

「きっとあたしたちも仲良くできるわ」

 

 手を差し出す。

 

「よろしくね。すずか」

「……うん! よろしく!」

 

 二人が握手を交わす。

 なのはは心の中で親指を立てていた。

 

「それでなんだけど」

 

 感動もひとしおに、なのはが話を切り出した。

 

「俺たちだけじゃ、これ以上話の進展はないと思う」

 

 できるのは事実確認だけ。それについての原因究明は不可能である。

 

「だからドクターに話を聞こうと思うんだけど……」

「あの男か」

 

 はやてを除き、ドクターを知っている面々が嫌そうな顔をしていた。

 

「悪人面の博士やろ? 面白いおっちゃんやけどな」

 

 面白いは同意するところである。それ以上にマイナス面が多いのも事実である。

 はやてに対し、将来大物になるなと、皆思っていた。

 

 提案に異議を唱える者はいない。

 沈黙を肯定と捉え、なのはが通信を行った。

 空中に画面が出現し、そこにジェイルが映し出される。

 

『おや、これは随分と賑やかだね』

 

 ジェイル側のモニターには八人映っていた。

 

「スカリエッティさんや、こんばんは~」

『こんばんは、夜天の主よ』

「なんやそれ?」

『君には夜空が似合うと思ってね。君の瞳は星空の輝きにも負けない輝きを放っているよ』

「口が上手やな~。でもちょっとくどいかな。マイナス三十点」

『これは手厳しいね』

 

 ジェイルは今日も元気である。毎日が楽しく、青空にも負けない爽やかな心持ちだった。

 

 ただ絶好調であればあるほど、皮肉に拍車が掛かっていく。

 すずかの精神状態を勘案してジェイルとの直接の会話は避けていたのだが、そんなことを言っていられる状況ではない。

 

「いいかな?」

 

 なのはが会話に割り込み、ここまでの出来事を説明していく。

 すずかがジュエルシードを所持していたこと、そしてなのはやアリサと同じ状態になっていることを。

 

「どう思う?」

 

 だいぶアバウトな聞き方をしてしまう。

 それでもジェイルは会話の流れから意図を汲み取ってくれていた。

 

『月村すずかに関しては、ジュエルシードが原因で間違いないだろうね』

 

 状況証拠からほぼ断定可能だった。

 

「その原因って……」

『今の段階では不明だね。なのは君についても目下調査中だ。ただ今はラトリアの防衛システムの構築を優先しててね。申し訳ないがしばらく時間をもらいたい』

 

 ジェイルは解明を進めていた。

 なのはとアリサ、アクトロスに起きたことについて。

 

 着手はしているが進捗状況は芳しくない。理由はラトリアのことを優先していたためである。

 仕方ないことではある。

 ラトリアの防衛力を高めること、及び信用を築くことは自分たちの身を守ることに繋がっていた。

 非常に重要で必要なことである。

 

「月村を帰す手段はあるかな?」

『こちらに来れたのだから戻ることも可能だろう。単純に考えれば、来た時と同じ現象を起こせば戻れるだろうね』

 

 それは次元震を起こすということである。

 容易なことではないし、普通に犯罪である。

 

「困ったな」

『困ったね』

 

 言葉は同じだが、両者の感情には正反対の意味が込められていた。

 

『いずれそちらに出向こう。私も現場を見て判断したい』

「現場?」

『月村すずかが最初に現れた場所さ。痕跡が残っているかもしれないからね』

 

 次元震ともなれば空間に大きな傷が残る。

 そこから解明の糸口を掴めるかもしれなかった。

 

 会話に一区切りつくその空気を感じ取りシグナムが質問をした。

 

「聞いてもいいか?」

『もちろん』

「今後、月村が再び暴走状態になることはあるか?」

 

 聞きづらいことを口にする。

 だが誰かが聞かねばならないことではあった。

 なあなあにすべきではないし、締めるべきところは締める。その役目は自分であると、シグナムは自覚していた。

 

「厳しい言い方になるが、その可能性があるならばそれなりの対処が必要になってくる。正直、月村を抑えるには我らだけでは限界がある。今回は運が良かったと言ってもいいだろう」

 

 弱音とも言える発言にはやては内心驚いていた。

 これは騎士の在り様にまだ理解が不足しているためだった。

 

 守護騎士はどんなときでも主を守り、その誓いを破ることはない。

 必ず守る、必ず勝利する。それは覚悟であり、決意でもある。

 

 不可能なことをできるとは言わない。はやての騎士は無謀と勇気を履き違えることはしなかった。

 

 そのことを今の時点で理解をすることはできない。

 だがいずれ答えに辿り着き、大切な人のことを理解することになる。

 そのときにまた、家族としての絆が強くなっていくのだった。

 

「ジェイル・スカリエッティ。現状をどう見ている?」

『断言はできないが、二度目はないだろう』

「その根拠は?」

『前例がそこに二つある。なのは君もアリサ・バニングスも意識を失ったのは一度だけだ』

 

 アクトロスは違ったみたいだがねと付け加える。

 

『それになのは君が一度戦闘を経験しているのだろう? なら二度と負けはないさ』

 

 シグナムもそれは同意するところだった。

 なのはが一度剣を交えた以上、二度目の敗北はない。

 

「……そうだな。わかった」

 

 全てに納得したわけではないが、この場はよしとした。

 それなりの対処についても言及はしない。ほとんどの者がその内容に気づいてはいるが口にはしなかった。

 

 今、最も安全を確保する方法は月村すずかの排除である。

 他にも対処方法はあるかもしれない。突飛な言い方をすれば、問題が解決するまで無人の星で過ごしてもらうなども考えられる。

 

(結論を出すのは早急か。しかし)

 

 シグナムは一人、己の胸の内で覚悟を決めていた。

 そのときが来た時に迷わないように、一時の気の迷いで後悔をしないように。

 

 はやてに危険が及んでしまうと判断したときは、月村すずかの首を飛ばす。

 

 おそらく、その後シグナムは死ぬことになる。

 高町なのはの手によって一瞬のうちに殺されてしまうことになるだろう。

 それでも構わない。自らの心に従って行動した結果であり悔いは残らない。

 

 各々が思考を巡らせる。

 自分のできること、すべきことを考える。

 

 ただ今のところ再発の可能性は低く、危険性も薄いという確認はできた。

 後はジェイルが来るまで待機するのみである。

 

 話が終わり通信を切ろうとした時だった。

 

『あ! なのは!』

 

 モニターにフェイトが映る。

 しかし時すでに遅く、通信がオフになる。

 諸行無常、万物流転である。

 

「帰るか」

 

 なのはが立ち上がる。

 それが号令となり、この日はお開きとなった。

 

 

 

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