高町なのはくん2   作:わず

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学校

 

「朝だよー」

 

 ゆっさゆっさと揺らされる。

 

「先にリビング行ってるね」

 

 すずかが部屋から出ていく。

 なのはも支度を済ませてリビングへ行く。

 

 いつものように朝食を食べる。

 

「行ってきます」

 

 二人で玄関を出る。

 今日からすずかも学校に通うことになっていた。無理して通うことはないのだが、元の世界に戻った時に勉強が遅れないようにとの配慮である。それに保護者としても学校に行ってもらっていた方が何かと気を遣わなくて済んでいた。

 すずかにとっても、高町家としても利点があった。これもバニングス家の計らいあってこそである。

 

「なんだか不思議な感じ」

 

 いつも通っていた学校に初登校する。

 しかも転校生としてである。なんとも形容し難い感情を抱いていた。

 

 ホームルームが始まり、すずかの紹介が始まる。

 なのはとクラスは同じであり、これもバニングス家の影響によるものだった。同じクラスであれば面倒は少なくなるとの考えだ。

 

 朝礼が終わり、すずかの周りに女子が集まる。

 当然の流れである。こちらは理解できるが、一方で起こっている現象は理解できなかった。

 

 数名の男子がなのはの周りに集まる。まるで取り囲むかのようだった。

 

「おい高町」

「なんだよ」

 

 心当たりがなく、純粋な疑問のみが飛び出す。全くもって何を聞かれるのかわからなかった。

 

「おまえ、あの子と一緒に登校してなかったか?」

「ああ、そうだけど」

 

 それがどうしたと言おうとして気付く。女の子と登校してたら噂にもなる。そのうえ美少女ときている。おそらく、昼休みを待たずしてクラス中に広まることだろう。

 

「知り合いなんだよな?」

「お、おう」

 

 どう答えるべきか迷う。だがそうこうしているうちに女子組から黄色い声が上がっていた。

 

「えー!」

「同じところに住んでるの!」

 

 すずかを囲んでいた女子がなのはを横目で見る。

 

「ごめん、ちょっとトイレ」

 

 事前に口裏を合わせておくべきだった。ちょっとした反省と共に教室を出る。

 

『廊下に来てくれる?』

『うん』

 

 廊下で落ち合う。なのはとは違い、すずかはなんだか楽しそうだった。

 

「なんて話したんだ?」

「親が知り合い同士で、しばらくの間なのは君の家にお邪魔することになったって話したよ」

「そっか」

 

 忘れないように頭の中で数回反復する。次に聞かれたら同じことを言えるようにするためである。

 

「また仲間外れ?」

 

 間に入るようにアリサがいた。

 

「なのは、あたしのこと蔑ろにしてない?」

「そんなわけないだろ」

 

 ありえない話である。

 なのできっぱりと否定しておく。

 

「アリサちゃん。ありがとう」

 

 アリサのおかげで学校に通るようになっていた。そのお礼であるが、アリサに感情の起伏はない。

 

「別に、親に頼った結果よ。あたしは何もしてないわ」

 

 自分の力によるものではない。それを誰よりもわかっており、自慢することではないと理解していた。

 アリサは他力によってもたらされた結果を自分の手柄とは一切考えない。

 

「でもアリサちゃんが動いてくれなかったら何も変わらなかった」

「……まあ、気持ちは受け取っておくわ」

 

 結果に対するお礼は受け取れないが、行動に対するお礼であれば別だった。

 また、色々とお固いことを考えてはいるが、アリサの気持ちは人並み以上に正直だった。

 

 なのはの目に赤くなった耳が映る。

 

(相変わらず素直じゃないな)

 

 お礼を言われて嬉しくないはずがない。ただ指摘するのも野暮である。アリサのプライドを考慮し、口には出さないでおいた。

 

「何よ、どうせ素直じゃないなとか思ってるんでしょ」

 

 口に出さなくてもバレていた。

 

「授業始めますよー」

 

 アリサから追撃が来ると思われたところに救援が入る。チャンスを逃すまいと颯爽と立ち去り教室に入る。

 一時限目の時間となり、アリサの追及から逃れることに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が過ぎていく。気づけば数か月が経とうとしていた。

 暑い季節が終わり、枯れ葉が道を舞う。制服も半袖から長袖へと変わっていた。

 

 誰もいない屋上。

 扉は施錠されており、誰も立ち入れないようになっている。その屋上でなのはが一人昼食をとっていた。

 

『何か変わったことはあったかい?』

「いや特には……ジュエルシードも無さそうだし、ドクターたちが回収した分で全部かも」

 

 今日の昼休みの話し相手はジェイルだった。

 雑談というには重い内容だが、気負うことなく話すさまは世間話をするようだった。

 

 結論としてジュエルシードは全部回収し切れていなかった。

 心当たりのある場所は探しつくした。しかし見つからなかった。

 考えられるとしたら誰かが拾ったか、動物が持ち去ったか。はたまた、アクトロスが手にしたように誰かの元へ跳んだかである。

 

「そっちの様子は?」

『ようやく目処が立ったところだ。終わり次第、そちらに出向くとしよう』

 

 防衛システムの構築が完了しようとしていた。紆余曲折あったが、曲がりなりにもラトリアのために働いた。その功績は決して小さくはなく、偉業と言っても過言ではないだろう。

 これでラトリアと本当の意味での信頼関係が築かれることになる。有休を取って多少おでかけをしても許されることだろう。

 

「あと、そろそろはやての方も危ない」

『承知した。闇の書も並行して対応しよう』

 

 対処するのを当たり前であるかのように返事する。

 ロストロギアの対処は容易ではない。それを安請け合いするように承諾する。普通であればこんな面倒ごとは御免こうむるところである。

 だがジェイルは拒否しない。それはなのはが特別な存在であるが故である。

 

「ドクター」

 

 なのははジェイルの気持ちはわかっていた。それはジェイル同様、自分自身もそうであるためだった。

 

「ありがとう」

 

 だから伝えるのは感謝である。もう変に疑ったり、ジェイルにとってどのような利益があるかなんて考える必要はない。

 

『感無量だね。いつでも頼ってくれたまえ』

 

 その感謝を素直に受け取る。ここに至って捻くれた返事はしなかった。

 

 通信を切る。

 やはり今のところ何をするにしてもジェイル待ちであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 

「やあ」

 

 玄関先にジェイルが立っていた。

 

「……心臓飛び出るかと思った」

「そうなっても私なら助けてみせるよ」

「そうですか……」

 

 後ろからすずかが出てくる。

 

「こんにちは、いつぞやは失礼したね。ジェイル・スカリエッティだ」

 

 右手を差し出す。

 

「月村すずかです」

 

 その握手に応える。

 

「なのは」

「なのはくん」

 

 姉妹がひょこっと現れる。

 

「お! 久しぶり!」

 

 フェイトとアリシア、それにプレシアも一緒だった。

 だいぶ血色が良く、以前のように死人みたいな様相は見る影もなかった。

 

「ん?」

 

 さらに後ろにもう一人いた。一瞬誰かと思ったがキャットだった。判断に迷ったのはその出で立ちのせいである。

 ガスマスクのようなものを顔に装着し、さらにボンベを背負っていた。どう見ても不審者だった。

 

「ど、どうしたんだその格好?」

 

 キャットがマスクを外す。

 

「久しぶりね! 元気だった?」

「お、おう」

 

 元気なキャットと戸惑うなのは。

 

「あ、これ? 魔力素が薄いところでも活動できるようによ。そこの変人が用意してくれたわ」

 

 変人と指差されたジェイルは自慢げな顔をしていた。多分ではあるがどんな悪口を言っても一切ダメージは通らないことだろう。

 地球の魔力素濃度は通常の範囲内ではある。しかしキャットからしたら薄いほうであった。常に山頂付近にいるようなものである。

 

「あ、苦しい」

 

 外したマスクを装着する。

 

「慣れるまでは仕方ないだろうね。地球であればそのうちマスクなしでも活動できるようになるさ」

 

 装置を用意した本人が楽しそうに話す。

 

(多分、実験込みだろうな)

 

 なのはが状況を察する。ジェイルが動くときは必ずと言っていいほど裏があった。

 

「でもなんで地球に?」

『甘いもの食べたいからよ!』

 

 口が使えないので念話を使用する。

 

『服も買いに来たわ!!』

 

 先ほどより音量が大きくなる。脳内にキンキンと声が響く。

 

『後で案内してちょうだい!』

「え……」

 

 露骨に嫌な顔をする。

 

『何その反応? 何か不満?』

「不満っていうか、一緒に歩きたくないっていうか」

 

 見た目が個性的過ぎた。ファッションに興味のないなのはでも気になってしまう恰好である。

 ピンクのツインテールにガスマスクとボンベ。よくここまで職務質問されなかったものである。

 

(迷彩服でも着ればコスプレと言えなくもないかな)

 

 どうにか改善できないかと思案する。一緒に歩くなら目立ちたくはない。

 

「彼女には協力してもらおうと思ってね。その対価として同行を許可した」

「そうなんだ」

 

 無償というわけではないらしい。ただキャットからしてもわかりやすい要求がある方が安心できることだろう。

 

「ところでこれから学校かい?」

「まあ」

 

 なのはとすずかは学校に向かうところである。

 だがそんな気分ではなくなっていた。

 

「では終わるまで観光でもしてこよう」

「大丈夫か?」

 

 主にキャットがである。

 

「問題ない。認識阻害を発生させる装置がある。兵器用に……大切な人を守るために開発した装置だよ」

 

 危ない単語が聞こえた気がしたが無視する。これ以上朝から精神をすり減らしたくはない。

 

「あ、そうだ。ならついでに月村が最初に現れた場所に案内するよ」

「時間はあるのかい?」

「登校途中にあるから大丈夫」

「なるほど。承知した」

 

 そろそろ向かわないと遅刻するため歩き出す。自然と横にフェイトが付く。

 

「そういえばユーノは?」

「ラトリアに残ってるよ」

 

 隣のフェイトが答える。

 

「何してるの?」

「ジュエルシードについて調べてる。あらゆる文献や伝承なんかを手当たり次第って感じ」

 

 ユーノはジェイルに頼まれ研究を行っていた。

 なのはたちに起こったことを解き明かすための一助として尽力し続けていた。

 

 こうなったのは、ユーノの責任感と学者の魂を刺激した結果だった。

 

『君には責任がある』

 

 ジェイルは言った。

 遺失物を見つけた者には責務があると。

 

『果たすべき役目がある。そして君なら必ずやり遂げることができる』

 

 そして考古学者としての役目を与えた。学者の魂に灯を点けていた。

 

 ジェイルは巧みに人心を操っていた。

 ユーノの人となりを調べ、最も有効であろう言葉を使用していた。その効果はてき面で、ユーノは起きて寝るまで研究を繰り返していた。

 

「会うのはまた今度か」

 

 残念そうにする。

 

「ところでなのは」

「うん?」

「一緒に住んでるんだってね」

 

 空気が変わる。

 それはなのはも肌で感じ取っていた。

 

「そう、だな」

「ふーん」

 

 圧が掛かる。

 重たい空気に息が苦しくなる。

 

「楽しい?」

「ま、まあ、一緒にゲームするときもあるし、それなりかな……」

「ふーん」

「な、何か?」

「別に? 楽しいならいいんじゃない?」

 

 ぷいっと横を向いてしまう。

 仲間外れにしてるわけじゃない、フェイトも今度一緒にやろう、など機嫌を取ろうとするが中々上手くいかなかった。

 フェイトによる圧は目的地に着くまで続くこととなった。

 

 

 

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