高町なのはくん2   作:わず

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お別れ

 

「それでは皆さん、蒐集を始めますね」

 

 はーいと返事が上がる。

 今日は献血ならぬ魔力蒐集日である。

 

 蒐集と計画実行日は分けることにした。

 当日に何かあったとき魔力がなくては対処ができない。そのため魔力を回復させて万全の状態にて計画へ臨むことにしていた。

 

 まず最初に言い出しっぺのジェイルから蒐集が行われる。

 空白だったページが埋められていく。元々あったページと合わせると三百ページほどになっていた。

 

 実はすでに何ページか埋まっていた。

 ラトリアにいたとき、接敵した相手から蒐集を行っていた。元々のページ数はそのときの分である。

 

 プレシア、フェイト、なのはと次々に蒐集が行われていく。

 そしてキャットの番となる。

 

 もうマスクはしていなかった。まだまだ苦しくはあるが、日常生活を送る分には問題なかった。ジェイルのサポートがあってこそではあるが、キャットだからこそできる芸当でもあった。水泳選手や吹奏楽者の肺活量のように、キャットのリンカーコアも魔力の肺活量が優れていたためである。

 

 その優れたリンカーコアから魔力が蒐集されていく。

 かなり長い時間吸っており、まだまだ終わりが見えなかった。

 

「あ、待って、そこらへんでストップ」

 

 キャットが根を上げる。どうやら苦しくなってきたらしい。

 その言葉に従いシャマルがストップする。

 

「…………え?」

 

 埋まったページを見て驚愕する。信じられずページをめくり直してもう一度確認する。

 シャマルは度肝を抜かれていた。三回確認しても数え間違いではなかった。キャットから蒐集した魔力、そのページ数にして百十二ページである。

 

 しかもまだまだ蒐集はできそうである。カラカラになるまで吸ったら一体何ページになるのか、末恐ろしさを感じさせるほどだった。

 

 そうしてアリシア以外による蒐集が完了する。

 

 アリシアから蒐集しないのは神域魔法があるためだ。

 ジェイルとしては魔法データとして読み取ることができるのか非常に興味深いところではあった。

 だがそれ以上にリスクが高かった。万が一データ化できた場合、流出してしまう可能性も否めない。

 

 秘匿すべき秘術。

 独占してこそ意味があり、そう簡単に渡せるものではない。

 

 それにアリシアは魔力量が少なく、蒐集をしてもしなくてもそれほど影響はなかった。以上のことは説明済みであり、はやてと守護騎士からも了承の意は得ていた。

 

 予定を消化し解散する。

 また魔力が回復した後日に集まることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒くなってきたな」

 

 窓を閉める。

 昼間は暖かいが、夜になると急に寒くなっていた。

 

 時刻は十二時になる手前。

 もう寝る時間である。

 明日は闇の書の修復とすずかの帰還日である。いつもならまだゲームをしているところだが、今日は早めに寝ることにした。

 そうして布団に入ろうとしたときだった。

 

 コンコンとノックが鳴る。

 

「どうぞ」

 

 許可を出す。ドアが開き、そこにはすずかがいた。

 

「どうした?」

 

 ドアの前で立ち尽くす。そしてなぜだか両手で枕を抱えていた。

 

「今日だけ」

 

 モジモジとする。

 

「一緒に、いていいかな」

 

 明日、すずかは元の世界へ帰る。

 なのはとしても寂しい気持ちだった。気付けば何か月も一緒にいた。もう大切な友達である。

 

「うん。いいよ」

 

 流石に一緒に寝るのは恥ずかしかったが今日は断らなかった。今日だけというのもある。それに明日になれば二度と会うことはできなくなる。寂しい気持ちは一緒だ。なのはとしても今日は一緒にいた方が寝れる気がしていた。

 

「温かいね」

「そうだな」

 

 すずかがすぐ横にいた。子ども二人とはいえ少し狭い。

 

(何か話しかけた方がいいかな)

 

 気の利いた言葉でも言えればいいのだが、あまりこういう場は得意ではない。修学旅行のときのように好きな人でもいるかと聞こうとする。

 

「なのは君は」

 

 それよりも先にすずかが話しかけてきた。

 

「人より長く生きたいと思う?」

 

 深夜だからだろうか。突飛な話題だろうと特に疑問に思うことはなかった。

 

「どうだろうな。考えたことないからわからないや。ちなみに長くってどれくらい?」

「二百年くらいかな」

「二百年か、まあでも、誰か一緒ならいいかもな。一人だと寂しくて辛いかもだけど」

「わたしは?」

「うん?」

「わたしが百年、二百年付き添うって言ったら?」

「それなら長生きするのも悪くないかもな」

 

 なのはにとってはお遊びの空想だったかもしれない。

 ただすずかにとっては、重大な決断を下すための、一生を左右するほどの会話だった。

 

 満月の明かりが部屋に差し込む。

 ちょうどベッドを照らし、すずかの横顔が良く見えるようになっていた。

 

 紅潮した頬。

 そして、紅くなった目がなのはを見つめていた。

 妖艶なる瞳。

 齢九歳とは思えない艶めかしさがあった。

 

 なのはは眠っており、すでに意識はない。

 

 目が捉えて放さない。なのはから一瞬たりとも目を離すことはなかった。

 やがて満月が雲に隠れ、部屋に明かりが届かなくなっていた。

 

 暗くなった部屋、そこでは赤い目だけが光り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寒空の下、十人以上にもなる団体が一か所に集まっていた。

 

 この地ではあまり見ることがない多種多様な人種。

 年齢もバラバラであり、一見しただけでは何の集まりなのか判断が難しかった。

 どうしても目を引いてしまう集団である。しかし誰一人として気に留める様子はなかった。目立たずに済んでいるのはジェイルの開発した認識阻害の賜物であった。

 

「さて」

 

 ジェイルが魔法を発動させる。

 緻密に組まれたプログラムが処理速度を落とすことなく実行されていく。

 

 クールにてスマート。

 プログラマーが見たら、その美術品の如き美しさに目を奪われることだろう。

 

 効果は補助的なものである。

 まずは闇の書に蓄えられた魔力をなのはが使用できるようにパイプを繋ぐ。

 

「どうかな?」

「うん。大丈夫そう」

 

 魔力が通ったことを確認する。

 準備が整い、最初の計画を実行した。

 

 最初に魔力を全て抜き取る。

 なのはの集束スキル利用し、魔力を手のひらに集めていく。

 

 闇の書から直接使えないこともないが、その場合蒐集前に巻き戻り魔力が消えてしまう。そのため一度外部に移す必要があった。

 

 どんどん膨らんでいき、なのはよりも大きくなっていく。このままでは皆を圧迫してしまうため手のひらを空へと向けた。

 やがて大きな塊が出来上がり、辺り一面を燦然と照らしていた。ただあまりにも大きく、なのはからは空が見えないほどだった。

 

「元気玉だ」

 

 なのはとはやてがハモる。

 全ての魔力の抽出が終わり、次の段階に移行する。

 

「アリシア」

「うん」

 

 今度はなのはとアリシアにパイプを繋ぐ。

 さらにアリシアの魔法効果を影響させる対象を指定した。ジェイルの魔法はエラーを起こすことなく正常に動作していく。

 

「行くよ」

 

 早速巻き戻しを使う。

 魔法が魔導書を包み込んでいく。穢れを洗い流すように、魔導書が本来の姿に近づいていった。

 

 はやての症状が緩和していく。

 麻痺していた足に血が通っていく感覚があった。

 

「はやて」

「はやてちゃん」

 

 ヴィータとシャマルが気遣わしげに近寄る。

 

「戻ってる」

 

 はやてが自分の足を触る。

 

「足が、ちゃんとある」

 

 もはやないものと認識していた。そこまで麻痺は進行しており、かなり重篤な状態だった。だが今や足があると認識ができていた。触れるとわかる。足に触れられていると認識することができた。

 

 涙が一粒、流れていく。

 

「皆、ありがとな」

 

 目標が一つ達成された瞬間だった。

 はやてを救う。それが為されていた。なのはにとっても、フェイトにとっても喜ばしいことである。

 

「では、もう一つの方も完了させようか。なのは君も辛くなってきたことだろう」

「うん。実は結構しんどい」

 

 膨大な魔力を一点に留めておくというのはかなりの神経を使っていた。

 

 ジェイルが魔法を使う。

 何もないと思われた場所が光っていた。その光によって亀裂が浮き上がっていく。

 アリシアが狙いを定めやすくするためのマーキングである。

 

 こちらにも巻き戻しを発動させる。

 すずかが来た時と同じ時間まで巻き戻す。そうすることで帰還するための穴を再現することができる。

 

 アリシアが続けて魔法を発動する。狙い通り、空間には穴が空いていた。

 そこでタイムストップへと切り替える。

 これで空間が固定され、いつでも飛び込める状態となった。

 

 この中に入ればすずかがいた世界へと渡れる。ようやく帰還することができる。

 

「なのは君」

 

 すずかが握手を求めてくる。

 

 疑問に思うことはなく手を伸ばす。

 二人が握手を交わす。

 

「なのは君のおかげで無事に帰れる」

 

 ぎゅっと力が込められる。

 

「本当にありがとう」

 

 嬉しいのは間違いないはずである。

 そのはずだが、すずかは少しだけ暗い顔をしていた。

 

「色々としてもらってばかりでごめんね。何もお返しできなかった」

 

 浮かない表情の理由を理解する。

 

「別にいいよ。そんな気にすることないからさ」

 

 すずかは微笑む。

 

「優しいね」

 

 握手していた手にもう片方の手が重ねられる。

 

「元々、諦める気持ちなんてなかったけど」

 

 握っている手の力が強くなる。簡単には振りほどけないほどの握力だった。

 

「もっともっと欲しくなっちゃった」

 

 その笑顔を、なのはは生涯忘れることはなかった。

 今までに経験のない感覚だった。

 昏くて黒い、どこまでも飲み込まれてしまいそうな感覚。

 笑っている顔を見て、恐怖を感じたのなんて初めてだった。

 

「わたし、我慢できないみたい」

 

 引っ張られ、強く抱きしめられる。

 

「誰にも渡したくないの。だから、もらっていくね」

 

 フェイトがバルディッシュを構える。

 それと同時にフェイトの両手が氷漬けにされる。

 

「ごめんね、フェイトちゃん」

 

 すかさず、アリサが剣を取り出す。

 しかし同じように氷で動きを封じられてしまう。

 

「じゃあね」

 

 二人が穴へと入る。

 入る瞬間、すずかは冷気を放っていた。

 それがアリシアの手を撫で、指先を凍らせる。

 

「冷たっ!」

 

 意識を逸らされタイムストップを解除してしまう。次の瞬間には穴が閉じてしまっていた。

 

 あっという間の出来事だった。

 気付けばこの場から二人が消えてしまっていた。

 一同、呆然と立ち尽くすこととなっていた。

 

 

 




二章完。
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