高町なのはくん2   作:わず

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ラトリア

 

「うっ」

 

 頭痛により目を覚ます。

 少しばかり気を失っていたらしい。

 

「ここは?」

 

 あたりを見渡す。

 人はおらず、木々や雑草のみが目に映る。

 

「森の中か」

 

 エルトリアに飛ばされた時を思い出す。

 あのときに比べればだいぶマシである。あたり一面が荒野で、ひたすらに絶望が広がっていたのだから。

 

(さて)

 

 ひとまず現状を確認する。

 次元震によって飛ばされた。原因はおそらくジュエルシード。

 なぜなのかはわからない。いくら考えても答えは出ないことだろう。

 

(みんな無事かな)

 

 あの場にはアリシアにフェイトとアルフ、それからジェイルとユーノがいた。

 全員無事であることを祈る。無事を確認するためにも、皆の元に戻る必要があった。

 

 目的は帰還。

 

 そのためにもまずはここがどこなのか把握しなければならない。

 ここが地球なのか、どこか違う世界なのか。

 ただ、なんとなくだが地球ではない気はしていた。根拠はないが、いつだって嫌な予感は当たるものである。

 

(人を探すか)

 

 とにかく今は情報がいる。人を探すため、適当に決めた方向へ歩き出した。

 

 森の中を数分歩く。

 すると近くから声が聞こえてきた。

 

「いや!」

 

 女性の声である。

 声から察するにただならぬ状況と思われる。

 

(面倒ごとは避けたいな)

 

 だけど情報は欲しい。

 このチャンスを逃せば、この先誰にも会えないかもしれない。

 

(状況を確認して、面倒そうだったら離れよう)

 

 音を立てずに近づく。

 木の影に隠れて現場を覗き込んだ。

 すると、そこには見知った人物がいた。

 

 八神はやてである。

 

 しかも襲われていた。

 数にして四人。

 全員、同じような軍服を着用している。

 

 その中の一人がはやての髪を掴み、逃げられないようにしていた。

 そしてもう片方の手にはナイフが握られている。

 

「おい」

 

 なのはが姿を現す。

 

「その子から手を離せ」

 

 全員がなのはを見る。

 

(少し軽率だったかな)

 

 もう少し待って奇襲をかけるべきだったかもしれない。

 だが手にはナイフがある。次の瞬間には刺されていたかもしれない。注意をこちらに引けたので、とりあえずはこれでよしとする。

 

「なんだ坊主、ヒーロー気取りか?」

「ケガしたくないだろう? さっさと失せな」

 

 男が近づいてくる。

 

「いや待て」

 

 近くに来て、なのはの顔をじっと見つめる。

 

「おまえ、本当に男か?」

 

 失礼なことを言われる。

 

「見た通りだよ」

 

 なのはがイラつきを隠さずに答える。

 今までに何度か女の子に間違われたことがある。そのため目の前にいる男の言わんとしていることは理解していた。

 だがなのはは認めない。認めたくはなかった。

 なぜならなのはは男の子なのだから。

 

「だとしたら中々のものだな。いや、かなりの上玉か」

 

 男が舌なめずりをする。

 

「こいつは俺がもらうぜ」

 

 また一歩近づく。

 

「出しゃばった自分を恨みな」

 

 ゆっくりと距離を詰めてくる。

 

 もう一度四人を順番に見ていく。

 恰好から持ち物を推測する。

 立ち姿と動きから、ある程度の実力も把握していく。

 

 男が手を伸ばしてくる。

 

 そうして掴もうとした時である。

 そこからはわずか数秒の出来事だった。

 

 なのはが拳を放つ。

 その拳は中指だけを出っ張らせていた。

 突くことに特化させた形である。

 

 拳が喉に突き刺さる。

 首の骨が折れる音と共に男が絶命する。

 

 予想とは違う結果に驚く。

 パワーが桁違いになっていた。

 

(考えるのは後だ)

 

 すぐに次の行動に移す。男が倒れきる前に拳銃とナイフを抜き取る。

 

 抜き取ったナイフを即座に投げる。

 はやてを掴んでいる男の眉間に突き刺さり、力なく倒れていく。

 残りの二人が状況を理解する。

 一人が急いで拳銃を抜く。

 時すでに遅く、目の前では銃口が向けられていた。

 

 なのはの無機質な冷たい目線が男を貫く。

 

 発砲。

 残り一人となる。

 

 最後の一人がなのはに剣を振り下ろす。

 それを男の眉間から回収したナイフで受け止めた。

 

(銃剣術か)

 

 受け止めた剣には銃が付いていた。

 珍しいものを見たという反応をする。しかしすぐに気を引き締める。

 先ほど四人を見定めたとき、この男が一番強いと感じていた。そして剣を交えて確信に変わった。

 

 銃剣を受け止めつつ、拳銃で腹部に向けて発砲する。

 男が回避をする。

 追撃をするため間合いを詰める。ナイフを振るがはじかれる。

 

 腰を落として姿勢を低くする。地を這うように接近し、攻撃を繰り返していく。

 身長の低さと、ナイフの取り回しの良さを活かした戦法である。

 

「くっ!」

 

 男は戦いづらそうにしていた。

 動きが速く、予測しづらい。

 しかもそこら辺の兵士よりも戦い慣れていた。

 

(なぜ少年がこれほどの動きを……)

 

 疑問を打ち切る。そこに思考を回している場合ではない。

 距離を取り、銃剣で発砲する。

 しかし当たらない。蛇のように動くなのはに当てるのは至難の技だった。

 

(落ち着け。速くて目で追うのもやっとだが、動きは地面と平行だ)

 

 ならばその動きに合わせるまでである。

 近づいてきたところに銃剣を水平に振るう。

 

 手ごたえがなかった。

 後方から気配を感じ取る。なのはは銃剣の上に乗っていた。

 

 銃口が男の眉間を捉える。

 

「待て」

 

 構わず、引き金を引こうとする。

 

「取引をしないか」

 

 その言葉に動きが止まる。

 

 静寂が訪れる。

 その状況とは裏腹に、男は死ぬかもしれないという感情の荒波に揉まれていた。

 

 なのはは見定めていた。

 

 男の言葉を信じたわけではない。

 もしかしたら騙し討ちをするためかもしれない。

 

 ただ、男からは確かに戦意が消えていた。

 

 なのはが地面に降りる。

 銃口は向けたままである。

 

 それから持っている武器を全て捨てるように指示をした。

 男は言われた通りに行動し、両手をあげる。

 

「君たちはこの世界の住人ではないのだろう?」

 

 なのはは無言である。

 質問には答えないという返答である。

 

 なのはは取引や交渉は得意なほうではない。

 そのため、男にだけ喋らせることにした。

 

 こちらに利得がないと思った瞬間、撃ち殺すつもりである。

 殺意を男に放ち続ける。

 

 男が怯む。

 なのはの圧力は言葉以上に伝わるものがあった。

 

 高町なのはにはある特性のようなものがあった。

 スキルというと語弊が生まれるかもしれない。ただそれに近いようなものだった。

 

 なのはの特性、それは相手に恐怖を刻むことである。

 

 生物としての根源的な恐怖。

 死の恐怖を強制的に抱かせる。

 

 過去、高町なのはの相対してきた多くの者たちが経験したことでもある。

 なのはに敵意を向けられた者は捕食者ににらまれたように萎縮し怯えてしまう。

 

 その証拠に男は思考が上手く回らなくなっていた。

 下手なことを言えば殺される。それは確実に行われることだろう。

 

 もはや嘘を付いたり、隙を見て少女を人質に取ろうという気はなくなっていた。

 

 正直に、胸襟(きょうきん)を開いて話すべきだと判断する。

 

「見慣れない服装だからね。そう思ったんだ」

 

 男が固唾を飲む。

 なのはは微動だにしない。

 生きているということは、続きを喋ってもいいということだろう。

 

「君たちはこの世界のことを良く知らない。来たくてここにいるわけではない。先ほどの次元震は君たちが関係しているのでは、とも思ってね」

 

 肯定も否定もしない。

 

「この世界について知りたい情報があれば教えられる。それ以外についても要望があれば何でも答えよう」

 

 男は洞察力に優れていた。運もよかった。

 情報については今最も欲しているものである。返答の代わりになのはが敵意を緩めた。

 

 瞬間、男が膝を着く。

 張りつめていたものがなくなり、大量の汗が流れ始める。

 

「そっちの要求は?」

「私を……生きて返して欲しい」

 

 心の底から出た言葉。

 声は震え、懇願するかのようだった。

 

「あんた、名前は?」

 

 男は息を整えてから名乗った。

 

「ハーディス・ヴァンデイン。単なる軍人さ」

 

 ハーディスは峠を超えることができた。

 それにより、少しずつ平静を取り戻していく。

 

「あ、あの」

 

 はやてが声をかけてくる。

 タイミングを伺っていたのだろう。

 

「あ、ごめん」

 

 守る対象として意識は外していなかったが、気を回すことを忘れていた。

 

「もう大丈夫」

 

 なのはがはやてを抱きかかえる。

 それから座るのにちょうど良さそうな岩にはやてを降ろした。

 

「色々聞きたいことはあると思うけど、ここは俺に任せてくれないか」

 

 今の時点ではやてに説明を行うことは避けたかった。下手なことを言ってハーディスに情報を渡したくはない。

 

「ひとまず、あの男から話を聞く。そのあと君に話をするよ」

 

 はやてが頷く。

 実質的にはやてに選択肢はない。

 先ほど触れたとき、はやては震えていた。恐怖は抜けておらず、正しい判断を下すこともままならない。

 いずれにしても流れに身を任せるしかないだろう。

 

 なのはがハーディスと向き合う。

 

「ここはなんて星なんだ?」

「管理外世界ラトリア。現在紛争中の世界だよ」

 

 なのはが顔をしかめる。

 

「規模は?」

「国内で起こっている。だがラトリアには国が一つしかない。実質、この星の未来を左右する戦いだね」

「原因は?」

「少し長くなるけどいいかい?」

 

 ハーディスが話を始める。

 

「今、この世界ではクーデターが起きている」

 

 よくある話である。

 世界の数だけ戦争があると言ってもいい。そのため特に驚きはしない。

 

「反乱軍は管理局の管理下に入ることを望んでいる。対して国は管理外世界のままとし、今まで通りの自治を継続すると主張している」

 

 管理下に入るということは管理世界になるということである。

 

「管理世界になりたい理由は?」

「病の治療が主目的と聞いてる。ラトリアでは治せない病気でも、管理局の技術があれば治せるかもしれないからね」

 

 管理局には知識や技術が集約している。

 選択肢としては妥当な線だ。

 

「病ってのは?」

「魔力を体外に排出できなくなる病さ。それによって身体機能が弱っていき、遅かれ早かれ死に至ってしまう病気だ」

 

 魔力循環障害と呼ばれ、ラトリア特有の病でもあった。

 

「この星の人々はある進化を遂げている。リンカーコアが発達し、魔力素の取り込み量や貯蔵できる量が遥かに向上している。それに伴って排出量も上がっているはずなんだが、中にはその機能が弱い者もいる。それが原因とはいわれてはいるが……すまない、私もそこまで詳しくはないんだ。これ以上教えられることはない」

 

 一度話を切る。

 なのはもそれ以上追求しない。

 戦争に深入りするつもりはないため、これぐらいの情報があれば十分である。

 また、流れで関連する質問はしたが、それより優先して聞きたいことが他にある。

 

「次元漂流者の保護をしてもらえるところを教えてくれ」

「それならば近くに町がある。中立地帯となっているからそこを目指すといい」

 

 場所を詳しく教えてもらう。

 なのはたちの次の目的地が決定した。

 これにて一通り知りたいことが聞き終わる。

 

 空気が弛緩していく。

 話が終わったことを伝えようと、なのはが一度はやてのところに戻ろうとしたときだった。

 

 瞬間、発砲音が鳴り響く。

 

「ぐっ!」

 

 ハーディスが片耳を押さえる。そこから血が流れていく。

 そしてもう片方の手には拳銃が握られていた。

 ハーディスは隙を伺っていた。しかし見事に返り討ちに遭ってしまう。

 

「約束は守る。あんたを生きて返すこと、それが取引で決めたことだからな」

 

 なのはが近づき眉間に銃口を押し付ける。

 

「けど次はない」

 

 目線が重なる。

 目の前の少年からは容赦が感じられない。

 そもそも命を奪うことにためらいがなかった。

 

(一体今までどんな人生を……)

 

 少年の背中の先に暗い過去が浮かんでくる。

 戦いと共にあったことは間違いないが、その戦いがどのようなものか測りかねていた。

 まず快楽殺人者のものとは違う。戦いから愉悦などを感じるタイプではない。

 

(容赦の無さは軍人のそれに近い)

 

 機能的に、かつ効率的に戦闘を行う。

 まるでキリングマシンと対峙しているかのようだった。

 かと思えば暗殺者のような性質も感じられた。

 合理的な動きだけでなく、不意を突くような戦い方を仕掛けてくる。

 

 多種多様な戦い方。

 そして、隙のない立ち回り。

 

 格が違った。

 

 ハーディスが両手を挙げる。

 もう一切の反抗する意思はなかった。ただ聞かずにはいられないことがあった。

 

「なぜ、わかったんだい」

 

 なぜ奇襲がバレたのか。

 タイミングとしてはこれ以上ないくらい完璧だったはずである。

 

「呼吸の仕方かな。もう少し隠せるようになったほうがいいんじゃないか?」

「……ハハ」

 

 笑うしかなかった。

 そんなこと考えたこともなかった。

 そもそも呼吸で次の動作を予測するなど人間の範疇を超えている。

 改めて、手を出してはいけない対象と認識する。

 

「その拳銃も置いていけ。地面に置いたらそのまま立ち去れ」

 

 ハーディスが言う通りにする。

 後ろを向いてこの場から立ち去っていく。なのはは見えなくなるまで拳銃を向け続けていた。

 

(行ったか)

 

 拳銃を下ろし、ようやく一息つく。

 慣れないことをしたため、嫌な疲れを感じていた。

 体を伸ばしてリラックスする。それから手を閉じたり開いたりした。

 

 先ほどの戦闘において疑問点があった。

 一人目の首を拳で突いたとき、折ってしまうことになるとは思っていなかった。

 想定していたのは、首を突き、動きを止め、ナイフを抜き取ってから首を掻っ切るつもりだった。

 しかし、予想とは異なり一撃で仕留める結果となっていた。

 驚くほどの力である。

 

(身体は子どものときに戻っているはず……だよな)

 

 今ぐらいのときは、学校のクラスで一番になれる程度の身体能力であった。

 あくまで小学生の域を出ない範囲だったはずである。

 

(まあ、力があって困るわけじゃないか)

 

 今は他に考えることと、やるべきことがある。

 

「ごめん、待たせた」

 

 はやての元に行く。

 

 近くに中立地帯があるらしい。

 そこは戦時中に攻撃目標としてはいけない場所である。

 とりあえずそこを目指すことにした。

 

「とりあえず移動しよう」

 

 はやての前に行きしゃがむ。

 

「話は歩きながらするよ」

 

 背中を向けて、乗るように促す。

 

「え、あ、あの……」

「うん?」

 

 申し訳なさそうにしている。

 それもそうだ。初対面の相手に背負ってもらうのは気が引ける。

 

「大丈夫。体力はあるほうなんだ」

 

 気を遣わせないようになるべく明るく声をかける。

 はやても断ろうにも他にいい案があるわけでもない。

 なのはを待たせ続けるのも悪いと思い、背中へお邪魔することにした。

 

 はやてを背負い、立ち上がる。

 

 とても軽い。

 感覚的に携帯を持つのと変わらなかった。

 これならどこまでも歩いて行ける。

 

「じゃ、行こっか」

 

 明るく、笑顔で言う。

 不安を抱かせないように、希望を捨てることのないように。

 少女を背負い、町に向けて歩き出した。

 

 

 

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