まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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102.人で形作った器

 

「……続けてくれ。根拠を聞きたい」

 

 努めて冷静に見えるように返す。内心はというとかなりの荒れ模様なのだが、今はそれを表に出してもしょうがない。話を進めることを優先しなくては。

 パトリシアさんは一礼すると、部屋の出入り口に戻って人の出入りが無いかの監視に移った。絶対に外に出せない話だ。今はそうしてくれた方がありがたい。

 

「前にリンちゃんたちと魔道具作った時*1さ、魔道具は人体の構造を模してるって話したでしょ」

「ああ」

「あの神器モドキにはボクでも不可能なほど大量に、緻密に……幾重にも折り重ねて式が刻んであった。その全てが変換器(コンバーター)も噛まさずに十全に機能してる。これはまっとうな作り方の魔道具じゃ絶対にありえないことだよ」

「よくこの短時間でそこまで分かったな?」

「ボク天才だから。色々と理論修めてるし違和感くらいすぐ分かるよ」

 

 否定する気が起きなかった。

 大方そのとおりだと認識していた。

 

「……逆に、ボクくらいじゃないとただ『新技術かな?』って思うかもしれないね」

「マリーと同格なんてそんなにいるか?」

「いるよー。ボクの所属してた教室のアダムス教授、通信網の高速化に貢献したグレーザー氏、タブレットの副次機能を大量開発したカラサワ氏」

「最後の人はイントネーションが異邦人(ストレンジャー)っぽいな」

「それっぽいね。ま、他にもいるけど……」

 

 挙げられた者の名前を頭に留めておく。これは後で次兄(あにうえ)に確認を取っておこう。

 そうそう行動に出るようなことは無いと思いたいが、今挙げられた人が半数でも亡くなっていれば俺の推測はほぼ確定だ。

 

「どんな技術を修めてたらその結論に辿り着けるんだ?」

「キメラ技術」

「あー……」

「元々は魔獣を兵器化する技術なんだよね。素材を加工するんじゃなく、体組織を丸ごと全部使って魔道具に作り変えるのが目的だったんだよ。それがいつの間にか……ね」

「方針転換しすぎだろう」

「それは全くその通り」

 

 全く理解できないわけではない。魔獣素材を使った魔道具は既に一定以上のノウハウが構築されており、あまり高いコストを払って新機軸の魔道具を新たに作り出す必要性に乏しいのだ。リターンもそれほど大きいものではない。

 それと比べると、魔獣の力を使える人間という方針にシフトしていくのは多少なりとも理解できる。あくまで「比較的」だが。

 

「何人が犠牲になっている?」

「回路の数から考えるに100や200じゃきかないね。多分1000人近く」

「……ダメ元で聞くんだが、元に戻せたりはしないか?」

「残念だけど……ミックスジュースにした果実を元通りの形にできると思う?」

「そんな状態か……」

 

 ……残念だが、マリーがそう言う以上は元通りの人間に戻すことは不可能らしい。命そのものは失われており、そこにあるのはただの物質ということだ。

 ミックスジュースにした果実を、というのもまた分かりやすい。果汁を抽出するにあたって粉砕機で微粉砕してるから、元通りになんてのはおよそ考慮に値しない。

 あまりにも人命を道具扱いしすぎるその有様に、俺は少しだけ吐き気を覚えた。

 

「でも変だよね。こんなものが作れるならあれだけコソコソしてる必要あるかな?」

「……コソコソしてないと本物の神器継承者に潰されるだろう」

「それでもだよ。基本的に公権力って動くのはコトが起きた後でしょ。乱暴な言い方するけど、大きな街で虐殺でも起こして、この神器のレプリカ量産しちゃえば、本物の神器にも対抗できるんじゃないのかな?」

「それは、そうかもしれないが……」

 

 少し考える。神器のレプリカに加工するために様々な手順を経る必要があるので、すぐには完成しない……とかかもしれない。

 だとしても、事件を起こしては逃げて起こしては逃げてを繰り返すだけでも「材料」はすぐに集まる。そうしない理由があるとすれば……?

 

「憶測だが、作り出すのに何か制約があるのかも知れない」

「制約って例えば?」

「何らかの手順を踏まなければこういう形にできないとか……神器と同じように、使える人間が限られるようになってしまうとか」

 

 と言ってもそれこそ憶測でしかないし、多少数を揃えても本物の神器継承者を相手にしたら押し潰されてしまうから容易には動けないということもあるかもしれない。

 いずれにしても、この「斧」を作った何らかの組織は今は隠れて行動する必要があるらしいのは、不幸中の幸いだ。大っぴらに製法を公開してあちこちで神器のレプリカを作るために人殺しを繰り返す……なんて事態にはまだ至らないだろう。

 

「神器には意思がある。例えば分かりやすいところで言うと……生贄にされた人の意思を集めたりしたらどうだろう?」

「自分を殺した人に使われるなんてまっぴらゴメンだろうね」

「だろ。だから多分大っぴらに行動には移せない……って、あくまで憶測だけどな」

 

 では、その意思を失わせるのはどうすればいいか?

 その方法までは、流石に考えが及ばない。いや、例えば薬物で酩酊状態に陥った人間を生贄にしたら……なんて思いつきはするが、それ以上掘り下げる気にならない。下手をすると目測が誤ったままてんで見当違いの方向に進み続けてつまづきかねない。

 ……あと、単純にこういうこと考えてると気分が悪くなる。

 

「この件、どうする? レスターのことだから閣下には伝えそうだけど」

「……父上経由で国にも通達していただく。流石に俺たちだけの手には負えない」

「だよね……それで、なんだけど」

「歯切れが悪いな。どうした?」

「レスターが気付いてないわけないと思ったんだけどさぁ……」

「…………」

 

 マリーに暗に示唆され、俺は腹を押さえた。

 ……そうなんだよ。そもそもこの神器のレプリカは、規模こそ大幅に小さくはあれど、神器と似たようなことはできるんだ。

 それはつまり、本物の神器も人間を素材にしたものという可能性が否定できないってことでもある。

 

「本物の神器の素材も……ってことだろう。その可能性が示唆されたら、神器の絶対の権威が崩れ去りかねない」

「だったら迂闊に報告するわけにいかないんじゃ?」

「逆だよ。最低でも父上を含む国のトップ層の耳には入れておかないと、情報が漏れた場合の対策が打てない」

「ああ、そっか……」

 

 情報操作とまでは行かないが、情報を統制する必要はある。未確定の情報を既に確定したかのように語るような人間に牽制する必要性もあるからだ。

 神器は自らが振るう主を選ぶ関係上、意思を持つ武器のようなものと扱われる。人間を素材にしているなら、そうやって意思を持つとしてもおかしくは…………おかしく……。

 

「なあマリー」

「どうしたの?」

「――少しあの神器モドキ、使ってみてもいいかな?」

「どうしたの急に正気失った!?」

「いや、正気だ。確かに昔どうしても神器の継承者になりたかった時期はあるが……」

「欲に駆られてない!?」

「俺そんな信用無い?」

「今自分が言ったこと思い返してみなよ」

 

 俺は自分の過去を正直に語っただけですぅー。

 ……なんていうのはちょっとした冗談として。

 

「神器と同じ由来なら使い手を選ぶはずだ。それが無ければ関連性を多少は否定できる」

「ああ、なるほど。でも勝手に使っていいの? それにレスターがなんだかんだ適合したりしたらさ……」

「試してみないことにはどうしようもない。それに、俺の考えた通りならこれは()()()使()()()はずだ」

 

 この神器のレプリカの出処は、恐らくあの暗殺者たちが持っていた「槍」のレプリカと同じだろう。およそ神器に選ばれるとは思い難い彼らが空間転移を使うことができた以上、これも誰もが使えるよう調整が施されているはず。

 その推測のもと「斧」を手に取って念を込めると、見る間に作業机が水晶に覆われた。

 ――やっぱりそうか。

 

「本当に使えちゃったよ……」

「……さっき言った問題もクリアしているからこそ、オズワルドさんに持たせて表に出したんだと思う。俺だけじゃなくて多分マリーも使えるはずだ」

「はぁ」

 

 不承不承という雰囲気で俺から「斧」を受け取ったマリーは、俺と同じように使って水晶で覆われた机を元に戻す。

 複数人がこんな風に使える時点で、やっぱり神器とは何か根本が違うものだと確信が持てる。

 

「レスターさぁ、急にこういうことするタイプじゃないよね……もしかしてちょっとキレてる?」

「多少はな」

「本当に多少?」

「多少だよ」

 

 ともあれこれで証明はされたようなものだ。真にこれが神器なら、自らが認めた人間以外に使われることはない。少なくとも「盾」は一度だって俺になびかなかった。

 で、キレてるかと言われれば……多少キレてる。多少だ。多少。多少だってば。

 セラフィマさんにこんな得体のしれない血なまぐさい魔道具を与えたこと、何も知らない彼女を利用したこと、サラク村に目をつけた理由が恐らくこれと同じ魔道具を作るために生贄を求めたこと……少なからず俺の神経を逆撫でしてくる。

 そして何より腹立たしいのは――。

 

「……まさかこんなものを神の恵みだなんて言ってたのか? あの人は」

 

 ぽつりと、言葉が漏れた。

 確かに、誰もが神器に迫るほどの力を持つ魔道具を使うことができれば、救われる人は増えるかもしれない。

 しかしそのためにどれだけの人間が生贄にならねばならないというのか。さっきもマリーが言ってたように、あの「斧」を作るのだって1000人はくだらない犠牲を強いている。10人のためには1万人を犠牲にする必要がある。

 神の恵みなんてものじゃない。悪魔に魂を売り渡しているようなものだ。

 

「お怒りでございますね」

「キレてるよね」

「キレてない」

 

 パトリシアさんまで割って入ってきた。

 確かにちょっとイラッとしてるかもしれないが。何度も言うが俺はキレてない。キレてないったらキレてないのだ。

 

「で、そんなキレてないレスターはこれからどうするの?」

「やるべきことをやる。まずは――頼まれた通り、オズワルドさんの治療をする」

「え、助けるの?」

「助けるさ。その代価として色々と情報を出してもらう」

「情報を出されなければどうされますか?」

「――手段は色々ある」

 

 むしろ、そのために万全の治療を施さなければならないまであるほどだ。

 俺も元々は密偵だ。密偵には密偵なりのやり方というものがある。

 それこそ、後輩やローリエさんたちがいる今だからこそできる手段もあるわけだ。皆に余計なことを言うつもりは無いが、こうなった以上強硬手段も必要だ。

 ……いや、もちろん説得できるなら説得するけどな。うん。

 

 

*1
30.魔道具作り

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