まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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103.病院に連れて行こう

 

 

 行動の方針は定まった。オズワルドさんを治療し、神器のレプリカについてその詳細を吐かせることだ。

 そのためには彼の身柄をなんとかして確保する必要があるため、俺は一度「斧」を置いて応接室に戻ることにした。

 

「レスター様、何か分かりましたか?」

「色々とな」

 

 駆け寄ってきたクリスに、嘘にならない範疇で無難に一つ伝えておく。

 これで隠し事があるのを察してくれたのか、すぐに口をつぐんで定位置に戻ってくれた。

 ……いつもと比べるとどことなく雰囲気が堅い。黙って見守っているのではなく、どちらかと言うと押し黙っているような雰囲気を感じ取れる。

 

「セラフィマさん」

「あ、はい……」

 

 呼びかけたセラフィマさんも、少し雰囲気が固くなった。後ろでメレディスが俺に向かって「眉間にシワ寄って怖いで」とでも言いたげなジェスチャーをしている。

 なるほど。先ほどの件で俺の雰囲気も少し変わってしまっているということだろう。クリスが押し黙っているのはそのせいか。

 俺は眉間を軽く揉んで、表情と雰囲気をなんとかリセットしようと試みた。

 気を取り直して……と。

 

「早急にオズワルドさんの治療に入りましょう。こちらとしてもなるべく早く話を聞かなければなりません」

「は、はいっ。よろしくお願いします!」

「ちょい待ちや(ボン)、急に方針定められてもこっちはよー分からんで。早急に言うけどいつやる気なん?」

「今夜だ。今夜やる」

「今夜ァ!?」

「い……いくらなんでも性急ではありませんか?」

 

 クリスたちが不安を口にするが、俺はむしろ今だからこそだと思っている。

 というのも、セラフィマさんから聞いた話が理由なのだが……。

 

「確かに急ぎ足だけど、今じゃないと警戒を強められて更に強引な手を使う必要が出てくるかもしれない。元々あの人の体は相当弱ってるんだ。できればそれは避けたい」

「それは確かに」

 

 セラフィマさんもオズワルドさんが眠っている隙を突いて屋敷にやってきたわけで、この件がバレたら警戒も強まることだろう。

 それを防ぐには今すぐに行動を起こすのが一番確実だ。何せ寝てるのが確定してるからな。

 動かないのではなく動けない状況だというのも大きい。余計な横槍も入りづらいことだろう。

 

「病院には連絡を入れておいたから、すぐにサバルに向かおう」

「いつの間に連絡を……」

「上がってくるまでに」

「用意が良いですね?」

「余裕ができた時にできることを済ませられないと村長は務まりませんので」

 

 そもそも余裕ができないとも言う。

 そして余裕ができた端からやらないと仕事がまるで終わらねえとも言う。

 村長にはできた仕事を片っ端から終わらせ続ける能力が必要になるのだ。

 多分ここまで忙しいのはサラク村の村長職に限られるが。

 

「ではまずオズワルドさんに睡眠薬を服用していただきましょう」

「待ちや」

「お待ちくださいレスター様」

「す、すす、睡眠薬ですか……!?」

「ええ、途中で目を覚ましてもらっては困りますので」

「……なあ坊、ちょいキレとる?」

「キレてないよ」

 

 何度も言わすなよキレるぞ。

 嘘だよ。

 ともあれ、これも必要だからこその措置だ。今のオズワルドさんはちゃんと眠っているが、ただ単に眠っているだけの状態だ。サバルに運ぼうと思ったらそれなりに振動が生じる。当然ながら、ただ普通に眠っている状態で運んでしまっては目を覚ましてしまうだろう。

 そこで睡眠薬を用いる。麻偵で用いているため安全性は保証されているものだ。クリスたちは言葉の響きで難色を示しているが、これはむしろ安全を考えると必須と言える。

 

「気絶させてもいいけど、そのために首をキュッとやるわけにもいかないだろう」

「キュッとな……まあ、あのオッサンの骨しか無さそうな首にンなことしたら折れるわな……」

「も、もうちょっと穏当な方法は無いのでしょうか……」

「恐らくコレが一番穏当な手段だと思いますよ」

 

 俺も仕事の都合上、潜入先でキュッとやることがあったからちょっと基準が上がってる感は否めないが、まだオズワルドさん自身はやや敵対的と言える相手だ。説得にも応じないだろうし、騙して連れて行くにしても強めに警戒されてしまうだろう。

 こういう方向の薬物ならまだマシなんだがなぁ……。

 

「早速だが行動に移ろう。クリス、いつも通り護衛を頼む」

「承知しました」

「恐らく1日空けることになるからメレディスは事務の代行を頼む」

「はいな。でもどうやって行くんや?」

「権力の使い所だ。臨時で列車を運行してもらう」

「けんりょく……」

 

 俺に許された最大のパワーだ。

 なお当然の話としてこれは父上のパワーなので、俺の後ろから外れたらこの力もドボンだ。乱用は許されない。

 ……が、事情が事情だ。人が死ぬよりはまだちょっと権力に溺れた方がマシだろう。いや溺れる気は無いが……。

 

「セラフィマさんはこちらについてきてください。力を貸していただきたいことがあります」

「はい、なんなりと!」

 

 セラフィマさんは病院に一緒に来てもらう。これは神聖魔法の高い適性を見込んでのことだ。

 これまでオズワルドさんの体調を管理していたのが彼女だ。度々魔法を使って治療をしていた実績も見込んで治療に参加してもらいたいわけだ。

 俺の考えている手法を考慮すると、こういう人材はどれだけいても足りないからな。

 

「覚えときクリス。坊はあんな風に半ギレして行動力全開になった時が一番怖いんやで」

「覚えておく」

 

 俺のどこが怖いというのか。

 確かにちょっと躊躇は無くなっているが、それは必要だからだ。元々、必要なことは何でもやる人間だぞ俺。

 

 


 

 

「お父さんが簀巻きにされています!」

「他に運び方が見つからず……申し訳ありません」

 

 2時間ほど後、列車に運び込んだオズワルドさんは寝具でぐるぐる巻きの状態だった。

 理由は主にオズワルドさんを確保してきた後輩たちである。睡眠薬を仕込んできて、あまり振動を伝えないためのクッションを挟み込む……間違いなくこれはこれで有用なんだが、見た目は……まあ……あまりよろしくない簀巻き状態だ。セラフィマさんがびっくりしているのも頷ける。

 でも本人に負担もあまりかからないから、ビジュアルを除けば効率は良いんだよ……。

 

「しかし、レスター様。彼は言ってしまえば、長期間に渡って毒を服用していたような状態です……その……」

「長期間の入院でゆっくり回復させるのが普通という話だな。それは分かってる。ただ、既に彼は臓器の機能不全が起きつつある」

 

 これをセラフィマさんの魔法でなんとか繋ぎ止めているのが今の状態だ。

 すぐに亡くなるということはないにしても、遠からず酷い苦痛が全身を襲うだろう。あるいは既にそうなっているかもしれない。

 

「一度検査する必要はあるが、内科的な処置だけでは追いつかない可能性は高い。魔法を併用しても同じだろう」

「そんな……では、どうすればいいんでしょうか?」

「そこで、外科的なアプローチを取ろうと思っています」

「えっと……お腹を切ったり……ですか?」

「悪くなって既に壊死している……機能を失っている部分を取り除くんです」

 

 外科分野の切除術というのは、文献に残されている限りでも数百年の歴史がある医術だ。

 安全性はおおよそ保証されているが……それでも常に一定の危険が伴うことには変わりない。

 現代においては魔法との併用で安全性を限りなく高めているが、やはり手術となると不安に思うのも致し方ないだろう。

 

「しかし、それでは汚染の度合いが高ければ、相当の負担がかかります。丸ごと胃を摘出するようなことになると……」

「だからこそセラフィマさんに同行してもらっている」

「私ですか?」

「ええ。臓器を切除した後、代わりになる臓器を魔法で作って接合するのに神聖魔法の適性が必要になりますので」

「ええっ!?」

「そ、それは……大丈夫なのですか? 確かに合理的ですが……」

 

 確かに一見乱暴なやり方だが、病気を患っている組織をそのまま回復させるよりは遥かに治療の可能性が高いし実績もある手技だ。

 魔法を介さないなら針と糸で縫う必要が出てくるため負担もそれなりに大きいが、魔法での接合ならそれも軽減できる。術後の経過も良好とされている。

 

「他でもない俺自身が安全性を証明してる」

 

 俺は軽く服をめくり、脇腹を露出した。

 過去ほど酷くはないが、そこには未だ深く残る火傷痕と、その他にも回避や防御に失敗して受けてしまったいくつかの傷跡が残る。トラヴァーズ港でユーニスを守るために負った傷だ。

 胃に穴が空いたというのは比喩でもなんでもなく事実である。その他臓器もいくつかが傷ついた。それをギリギリのところで治してくれたのが俺の言う術式だ。

 セラフィマさんは思わず口に手を当て、クリスは目を少し見開いた。我ながら見てて痛々しいとは思うが、証拠としてはこれ以上ない。

 

「脳機能もかなり落ちているはずです。薬物は脳細胞も破壊します。再生のためにはやはり、セラフィマさんと……『斧』の力がある方が望ましい」

 

 服を元に戻した俺は、列車に持ち込んだ「斧」に視線を向けた。

 ……できれば封印しておきたかったが、今はこの呪物の力が必要になるのも確かだ。

 本人には人間を材料にしていることは伝えていない。いずれ伝える必要はあるだろうが、今は黙っている必要がある。

 人の命がかかっている時だ。まずは救える命を救ってから考えるべきだろう。

 

「力を貸していただけますか」

「……大丈夫です。やります。お父さんのためですから」

「ありがとうございます」

「お礼を言うのは私の方です。村長さんに言っていただけなかったら、そもそもこんな手段があるなんて思いもしませんでしたから」

 

 こっちはこっちで、少なからず打算があるんだがな。

 特にオズワルドさんの命を助けることに関しては、彼の持つ情報が頼りというのも大きい。だからこうも素直にお礼を言われてしまうと、少なからず後ろめたい気持ちになってくる。

 ……ま、いずれにせよ結果を出さないことには始まらないか。まずは助かって、それから説得に移って……できれば早いとこ折れてほしいもんだが、さてどうなるか……。

 

 

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