まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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105.公的機関の役割

 

 

 さて、当然のことだが仕事というのは後処理を済ませるまでが仕事だ。

 セラフィマさんとオズワルドさんの親子関係についてはオズワルドさんが頭を丸めてシンプルな丸刈りになった(不本意)ことで一応の決着を見たものの、それ以外の件に関しては話し合いの場を持てていないのが現状だ。

 というわけで、この日はまず会議室でメレディス及びセラフィマさんとその話し合いからということになったのだが。

 

「『星の子』は解散してもいいのではないでしょうか!」

『セラフィ!?』

 

 タブレット経由で通信(リモート)会議に参加しているオズワルドさんもあんぐり口を開いてしまうほどの提案が、代表者から提示された。

 ……いや、まあ、以前はまあ俺たちもさ? 解体しちまうかこの怪しげな団体! とか思ってたよ。

 けどさ、色々話して相互理解が得られたところでいきなりそれは……ちょっと思い切りが良すぎはしないか……?

 

「話が飛びすぎやねんけどいきなりどういう理屈やそれ?」

「お父さんは『使徒』を名乗る人の誘いで教団を立ち上げました。ですよねお父さん?」

『え、ああ……うむ……それで相違無い』

「なので悪い縁は断つべきです。繋がりを断つために『星の子』は解散します!」

『待て待て待ちなさい』

 

 思わずといった様子でオズワルドさんが制止をかける。

 ……今日は目を覚まして彼の見舞いに行ってその翌日である。常識外れのスピード感でとんでもなく重大なことを決めてしまう即決っぷりに俺たちは揃って軽く戦慄した。

 

「迅速果断やね」

「すぎるだろ」

 

 隙を見つけて即俺のところに相談しに来た時もそうだが、セラフィマさんの行動力はちょっと抜群すぎる。

 いや、まあ、言わんとすることもやろうとしてることも分からんでもないんだが……組織の形を残してたら、もう一度黒幕からの接触があるかもしれないというのは自然な考え方だし。

 しかし、だ。

 

『セラフィ……我々も長く活動してきたせいで、「星の子」だからこそと言って身を寄せてくれている方もいらっしゃる。そういった方々を放り出すことになるのはいいのかね?』

「そ、それは……考えていませんでした……」

 

 どうやら思いが先行しすぎているところがあるようだ。

 気持ちは分かるけどな。実の父親をあんな風にされたんだ。普通は怒る。

 ただ、そこで報復じゃなくて縁を切るだけで済まそうとするあたりがセラフィマさんの性格かもしれない。怒り慣れてないというか……信徒のことまで考えきれていないようだし、本当にこういうの慣れてなさそうだ。

 経験不足もあるだろうな。そこはオズワルドさんがフォローできたからまあいいとするか。

 

「それに、その繋がりは利用できるはずです」

「せやなぁ。裏にいたヤカラを引きずり出すくらいはできるかもしれん」

「なるほど!」

「いずれにせよ、今すぐどうこうという話にはなりません。人を受け入れる器は残したまま、宗教団体ではなく単なる慈善団体という形に穏便に移行していきましょう」

『寛大な措置痛み入ります、村長殿』

「それと、次に……」

『私の処分についてですな』

「お、お父さん!?」

「ええ、そうなります」

 

 あまりにも朗らかに言うものだからつい気を削がれてしまうが、そこのところは明確にしておかないといけないのは事実だ。

 何せオズワルドさんの企てていたことは実質的な反逆である。普通に考えれば罪はまず免れられない――のだが。

 

「ただ、問題が一点あって……現状オズワルドさんは()()()()()()()んですよ」

『何も……?』

「あー……言われてみればせやな」

「あなたのやったことはと言うと……他の方々と村に移住してきて」

『ええ』

「しばらくして麻薬を服用してぶっ倒れて今に至ります」

『……む?』

「厳密に言えば違法薬物に関しては罪に問われますが……反逆に関しては、そもそもそんな事実が無いんですよ。起きる前に終わりましたから」

 

 更に厳密に言うなら、セラフィマさんに俺を籠絡させようとしたのはその範疇と言っていいかもしれないが……あれを籠絡と言うのはかなり抵抗がある。

 色仕掛けもクソもあったもんじゃなかったし……しいて言えば、ただ本人の人柄と行動で望む結果を引き寄せただけだ。

 それを反逆だと称するのは倫理的にも道義的にも何か違うだろう。俺たちが被った害というのも、ちょっと警戒を強めて精神的にすり減ったくらいで人的損害はほぼゼロだ。

 

「あえて罪に問うとするなら、違法薬物の単純所持と使用。そこに関しても、他の方は特に関与していないのでオズワルドさん個人に課せられることになるかと」

『神器……のレプリカの件についてはいかがですかな?』

「我々は最初からレプリカと分かってましたから……」

「そうなんですか!?」

「せやでー。(ボン)も伊達に神器継承者の実弟やないってこっちゃ」

「で、詐称……して、何か不当に利益を得たりはしていましたか?」

『あえて言えば、それで信徒の心を掴みました』

「食べ物を供給するために使いました」

「そうですか……」

 

 ……まあ、使ってないわけはないとして。

 実際のところ、あのお花建築といい村へやってくる時の防備といい、それなりに「斧」を有効に使うことで人心を掴んでいたことは事実だ。

 ただ、以前*1「ここだけの話」としていた通り、神器継承者を騙る相手はオズワルドさんが選別しごく限られた人間だけだった。

 建築の件といい、同行者を守るための空気の壁といい、基本的な魔法を突き詰めた形なのもまあまあ大きい。神器のレプリカを使ったんだと説明さえしなければ、ただ純粋に優れた魔法使いなんだと思うだけの土壌は十分にある。

 

「では、今後の混乱を防ぐためにも、あの『斧』は封印したいと思うのですがいかがでしょうか」

『私は異論ありませんが……』

「あー、ちょい待ちや。そういや『星の子』てレプリカ(アレ)使(つこ)て人心集めとったわけやろ。急に使わんことなったら怪しまれるんやないか?」

「あ、言われてみれば……」

 

 俺とオズワルドさんは揃って渋面を作った。

 神器のレプリカに関する真実を知っていると……なぁ。なんというか人に使わせるのに滅茶苦茶抵抗があるっていうか……。

 帰ってきてからクリスたちにも情報共有はしたので、メレディスも諸々の話は知っている。提案している本人も、決してレプリカを使わせることに前向きなわけではないだろう。

 あくまで、合理的に考えるとどうか……という話だ。今までできていたことが急にできなくなる、やらなくなるというのはそれなりに求心力に影響するだろう。

 だろう、けども……。

 

「ウチは正直、徐々に使用頻度を減らしてく形がいいと思うんやけど、どやろか?」

「俺はすぐにでも使用を中止した方がいいと思う」

「何でや?」

「これを渡してきた連中……『星の子』の後援団体との繋がりを切るにはそのくらい思い切ったことが必要だ」

 

 あと、神器のレプリカの情報を上に流したら、ほぼ確実に件の団体は聖王国内で危険組織の扱いを受けることになる。

 関係ないと主張することは難しいかもしれないが、今はもう既に関係を断っていますというアピールをするためには、やはりそもそも「斧」は使わない方がいいんだ。

 できることなら封印のために大聖堂にでも提出してしまうのがいいだろうが……そこまで大っぴらに動くのはちょっと難しいか。

 

「それに、これまでやってきたことを考えると恐らく公的機関(おれたち)でカバーできると思う。というか……しなきゃいけない」

「しなきゃいけないってなどういうこっちゃ」

「オズワルドさんが『斧』に手を出したのは、国や公共機関に信用を置いていないせいだ。全ての市民が神器を得て、その力によって自分を助けなければならないと考えていた」

『それは……いえ、そうなりますがな……』

 

 画面越しにオズワルドさんはばつの悪い顔をした。

 かつて彼は、天災に遭って奥方を亡くした無力感で誤った手段に手を染めた。

 とはいえ天災への対策は必要だし、食料や住居、住民を守る力も無くてはならない。過程を致命的に誤っているだけで、それが必要という事実は何も変わらない。

 だから、俺のすべきことは選択肢を示すことだ。それも、神器のレプリカなんてものに頼らなくてもいい手段を。

 

「だったら俺たちは、こんなものは無くとも大丈夫だと示すのが仕事じゃないか。社会構造(システム)技術(テクノロジー)の拡充がそれを代替できるというところを見せるんだ」

『村長殿……』

 

 10年以上前となると、俺はオズワルドさんを襲った悲劇に対して何かできるような立場は何も無かった。

 ひどい天災という話は聞いていたが、そのくらいで……末弟とはいえ俺も侯爵家の一員だ。あんな話を聞かされては少なからず心に刺さってくるものがある。

 だからこそ、ここでできることを、思いついたことをちゃんとやり遂げる。今ここで村長という立場にいる俺は、過去の教訓を活かすのが大きな仕事になるはずだ。

 

『……感謝の念に堪えませぬ』

 

 オズワルドさんは、頭を小さく下げて俯いた。

 わずかに光るものが目元から落ちたような気がするのは……気が付かなかったことにするのが華というものだろう。

 頭が光ったのかな。そういうことにしとこう。

 

「住居は俺が作るし――」

「村長さんがですか!?」

「それはやめとき。また倒れるで」

「『また』!?」

「分かった。これは業者に委託するが……」

 

 ……ちょっとカッコつけたこと言った手前カッコつけさせろよな。

 いや、まあ、実際倒れるだろうし無理はできないんだが……。

 

「村から移動したいならハンターたちの手を借りる、食料を増産したいなら、今ある畑を最大限活用する。今までに見せていただいた使用方法なら、別の手段でいくらでも代替できます」

「そう――ですよね。確かに、無理に狭い場所で大量の作物を作ろうとしなくっても、広い土地でちゃんと人数分作れるならそれで問題ありません……!」

「ハンターへの護衛料の支払いは任せとき。それこそ、お金足らんって人のサポートは行政の仕事やで」

「今いる人数からおおよそ必要な耕作面積を算出しましょう。セラフィマさん、資料をまとめていただいていたらお持ちいただけますか」

「もちろんです!」

 

 奇跡に頼らずとも運営はできる。まずはそれを示すんだ。

 ……こう考えると、今までの妙な策謀のやり取りとは違って随分と健全だ。個人的にもその方が好ましい。

 ある意味では、ここからが本当の意味で彼らも村の一員になったと考えることもできるか。喜ばしいことに。

 

『やはりセラフィは村長殿にもらっていただくのが一番幸せではあるまいか……!?』

「お父さん!?」

「色々とお待ちくださいオズワルドさん」

 

 あとなんか変な爆弾発言が飛び出したが、脳手術の影響ということで押し通して無かったことにした。

 ちょっといい話で終わりかけてるんだからどうか俺の胃壁を削らないでほしい。頼むから。マジで。

 

 

*1
92.初期対応はよく考えよう

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