まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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11.村のありかた

 

 

「嘘の臭いがします」

 

 二人と合流した俺が聞いたのは、心の落ち着きとは対極にありそうなクリスのそんな一言だった。

 思わず口の端がヒクつく。「嘘」というものを嫌っているとは思っていたが、ここまで敏感だとは。

 悲しそうな雰囲気で心なしか眉が落ちているのを見ると、こちらも心が痛む。差し障りのない範囲で正直に喋っておこう……。

 

「……そ、そうだな。確かに必要に駆られてちょっと嘘ついた。何で分かったんだ?」

「なんとなく……?」

 

 異能者か?

 たまにいるんだよ、こういう理屈すっ飛ばして答えに到達するの。実際は、それこそ臭いだとか筋肉の動きを察知して判断しているんだろうけども……。

 

「嘘って何の嘘ついたのよ兄さま?」

「さっきの炊き出ししてる団体、金の流れが怪しいと思って、立場と身分を偽装して探りを入れてきたんだ」

「あ、そうだったのですね……なるほど」

 

 納得してくれたのか、クリスの雰囲気が少しだけ上向いた。

 適切な理由を正直に言う分には許容範囲らしい。全ての嘘を許さないとか言うタイプでなくて良かった……。

 

「しかし、怪しいというのはどういうことなのですか?」

「感覚的なものだから説明は難しいけど……急に金回りが良くなったり、不自然な金の使い方をしていたら、もしかすると違法な品をやり取りしてるかもしれない、何か妙な組織がバックにいるかもしれないって疑うクセがついててさ」

「あたしたちだって急にお金払い良くなったわよ?」

「そうだな。でも俺たちは『魔獣の素材を売った』っていう理由がある。疑惑を解消するには理由(そこ)を明確にしておかないといけないから、調査の手を入れたいってわけだ」

 

 この説明にクリスはフムフムと頷いているが、リンデは「つまりうちも不審な会計があったら疑われるんじゃないか」と目で訴えかけてきた。

 そうだよ。だからしっかり帳簿つけて疑いの余地を無くすのメチャクチャ大事だよ。最悪の場合俺の首が飛ぶからね。フフフ。

 

 ともあれそんな感じでいくつかの収穫と小さな疑惑を抱えて、俺たちのはじめての外出は終わりを迎えた。

 

 


 

 

 衣食住のうち衣と食にかかる不安をおおよそ解消した今、次に気にしないといけないのは「住」。つまり家にかかる問題だ。

 俺たちが今住まうのは、ただその辺の地面に穴を開け、構造を組み替えることで固めて板を張っただけの……はっきり言って倉庫もかくやという穴蔵だ。崩れるような心配は無いとはいえ、見るからにみすぼらしく年頃の人間が住むには適さない内装をしている。

 のだが。

 

「私は今のままでも気にしません」

「あたしもー」

「ぬう……」

 

 二人とも、全然欲がない。どころか今のただ土を固めて板張っただけみたいな住居で完全に満足してしまっている。

 まあ……うーん……これに関しては正直分からないでもないんだよ。俺もこだわりが強い方ではないし、張り込みのためにこんな感じの土蔵を作って軽く一月は過ごしたこともあるし、それで大して堪えるようなことも無かった。多分二人も遠慮しているとかではなくて本気で今のままで全く問題ないと思ってるやつなんだ。

 確かに、必要さえあれば俺がいつでも魔法で拡張してやれるし、部屋も増やせるしで一見問題は無いんだが……。

 

「この状態で客を招けるのか?」

 

 二人はスッと姿勢を正した。

 ……だよな。自分たちだけで使うのはまだいいんだけど、他の人が関わってくるなら考え直すよな。

 自分の部屋を散らかし放題にしてても全く気にしないのに、友人が部屋に来るとなったら急に掃除し始めるようなアレだ。まあ学院時代の俺の話なんだが。

 

「ですがレスター様、我々に建築の知識はありません」

「美的センスはともかく、知識なら俺が出せるから大丈夫だ」

「あたし兄さまの経歴が気になるんだけど」

「密偵」

「またそういう冗談言う」

 

 んもー、とぺしぺしとリンデが床を叩く。一方、嘘の臭いとやらがしないせいか、クリスは目を丸くしていた。

 大っぴらにすることでも、安易にしていいことでもないが、変に誤魔化し通して不信感を持たれるのは困る。立場上、クリスは俺の部下でもあるわけなのだし……父上から下ろされてくる麻偵の仕事の手伝いも頼みたい。現役当時、クリスほどの武力の持ち主がいれば命を落とさずに済んだ人がどれだけいたことか……。

 まあそちらは置いておこう。今すぐ必要な話というわけではないのだし。

 

「家の作り方にも色々あるけど、今ここでできそうなのはだいたい三種類。土か木か石か……より正確には、これを組み合わせる形になるんだけど、主体は決めておいた方がいい」

「石造りにしましょう。防衛能力は高ければ高いほどいいはずです」

「いや姉さま……そんな防御力って……」

「あー……必要と言われると必要……だな……」

「えっ!?」

 

 これは服のように否定することはできない。なにせ魔獣という明確な脅威が身近にいるのだから。防衛面をおろそかにすると、冗談抜きに死が見える。

 じゃあメインはほぼ石材で確定だろう。これと土……もっと言うと粘土や灰をかけ合わせ、セメントにして固定する。あとは各部屋に必要に応じて板を張って断熱なり壁面や底面の保護なりをすればいい。

 問題は図面、それから最終的にどうしたいかという完成形だな。今はまだ三人だけなので多少小さな住居でも問題はないが、今後村の拡張を考慮するなら単なる住居以上に別の役割を持たせることも考慮すべきかもしれない。

 あるいは、今後住居を作っていくために雛形をここで定めてしまうか。ある程度のテンプレートができてしまえば、次に住人が増えた時に流用がきくだろう。住居のデザインに不満が出た場合を考慮するとある程度バリエーションを持たせるべきだが、そこまでこだわるのは専門家を招致してからの方がよさそうだ。

 

「魔獣の一匹や二匹はその場で私が始末できるが、群れを作って襲ってくるものもいる。そういう場合に備えておかなければならない」

「あたしだってどうにでもできるわ」

「……家壊さずに済む?」

「無理だわ」

 

 だろうな。生身でリンデが戦えるのならできると先に言っている。

 獣化すればその限りではないだろうが、そうなれば10メートル近い巨体が暴れまわることになる。それも炎熱と腐敗を撒き散らしながらだ。最終手段としてはともかく平時から使っていいものではない。

 俺も魔獣との戦闘は専門外だから、時間稼ぎになるものならいくらあってもいいくらいだ。

 

「次は立地だな」

「ここと同じでいいんじゃないの?」

「そうしたいのはそうなんだけど、これから村を作るなら建物の配置には気をつけないといけない」

 

 目指す先が何であれ、村はただ拡大すればいいというものではない。交通の便や各区画の役割や利便性なども考慮して、ある程度の計画性を持って配置しなければならない。

 地形の問題もある。傾斜があったり思わぬ段差があったり……輸送が不便だとか、村内で持ち上がりそうな問題はあらかじめ潰しておきたいのが正直なところ。

 ……いや、どうせ運用時に絶対問題起きるけどさ。それはそれとして、予見できる範囲では問題は排除しておくべきというか。

 

「二人はどういう村を作っていきたい?」

「私たち……ですか?」

「兄さまの意見は?」

「ここに住むと決めたのはクリスだろう? 主体は俺じゃない」

 

 父上から指名を受けた以上、力を尽くすことに異論はない。しかし突き放すようで悪いが、村のあり方を決めるのは外様の村長役である俺じゃなく純粋な村人のクリスたちであるべきだ。

 ……なのだが。

 

「わ、わかりません……私は、とにかく村に帰りたいとしか考えたことが無かったので……今、初めてそんなことを考えました……」

「そっか……」

 

 本当に今、初めてそれを意識したのだろう。クリスの態度にはいつになく動揺が表れていた。

 急に言われると困るのは分かる。俺も父上からの無茶振りはよく受けるし内心キレ散らかす。それが村や自治体の運営に直接絡むと言われるとプレッシャーはより強いだろう。

 けど、そうしてばかりだと、今後流入してくる人間に主導権を握られ、望まない方向での村の運営をさせられる危険がある。三人しかいない今のうちにある程度でも自己主張ができるようにしてもらわないと。

 難しいならまずは意見を引き出してみるのもアリか?

 

「昔ながらの村がいいのか?」

「必ずしもそういうわけではなく……」

「都市開発をもっと進めたい?」

「そうなること自体は止めませんが……」

「こういう施設を入れたい、入れたくないっていう要望は?」

「生活が便利になるなら、拒む理由はありません」

 

 思わず天を仰いだ。

 難物だ。色んな意味で。

 流れるまま流れても何ら問題は無いという考え方だろうか。そりゃ確かに今が底でここから上がるだけだと思いはするが、話の転び方によっては本当に村の消滅まで行っちゃうんだぞ。

 難しい顔をしている俺を見かねたのか、クリスは手元をわたわたさせながら口を開いた。

 

「い、いや、違うんです。今のままでいいという思いも無いとは言い切れないのですが、いえ、今のままというのは今のまま何も無い状態ということでなく」

「要領を得ないわ」

「もう少し見守ってやろう」

 

 要約するとだ。

 死んだのに生き返って故郷の土を踏めただけでも十分なのに、親交の深かったアシュクロフト家に仕えることもできた。これ以上望むものはない――とかなんとか。

 となると逆か。上がるだけどころか今のクリスにとっては今がある意味絶頂期。「これ以上」を想像することができないようだ。

 一方でリンデを見ると、ジェスチャーで「抱け」と要求していた。こいつマジ……。

 

「兄さま主導で行くべきじゃない?」

「リンデは?」

「領都みたいなおっきくてキレイなの」

「そういうのでいいんだそういうので」

「いいんだ」

 

 いいんだよ。

 目指す先があると無いでは村、街の作り方が全く違う。とりあえずでまず一つ行政機関(ハコ)を置いて必要に応じて違法建築じみた増改築……もとい区画整理を行うのも一つの街のあり方だけど、俺はそこまで振り切れなさそうだ。多少融通がきかなくとも教科書通りの方が恐らく結果的に有益だろう。俺はそこまで即興で回す能力が高いわけじゃない。

 領都は俺にとっても故郷なので、構造もよく知っている。参考にするにはちょうどいいだろう。

 

「私はよく分かりませんでしたが、どういった特徴があるのでしょうか?」

「元々交通の要衝で、特に道の整備に力を入れているな。巨大な十字路を中心に発展した商業都市だよ。行政機能は駅から見て反対側の区画に集約されてる」

「……道?」

 

 リンデは窓代わりの穴から外を見た。

 畑と水路と洞窟しか無かった。

 

「道?」

「そんな顔で見るな」

 

 分かっとるわそのまま流用できないことなんて。

 参考にするのはあくまで考え方だ。道などを通したり、村や都市の中心となる事物に沿うように形成する。

 

「前提条件の違いは発想で埋める。道が無ければ作ればいい」

「どこに向かってでしょう?」

災禍の洞窟(アレ)

 

 指さして伝えると、リンデが心底嫌そうな顔をした。脱出の際の苦労を思い出しているのだろう。一方、クリスは納得で一つ手を打って還す。流石に闘争の機微については聡いな。

 

「魔獣の個体数の調整ですね」

「うん。いずれは狩人も雇って定期的に洞窟内の魔獣を狩っておきたい。そのためには駅から村、特に災禍の洞窟までの道の整備は必須だ」

「ふつーの人だと死んじゃうでしょ?」

「そうならないように采配するのも仕事の一環かなぁ」

 

 まあそっちは狩人の組合に任せるのが筋だろう。俺は対魔獣戦力の割り振りまではできん。

 

「じゃ、当面の大目標はメインストリートを作ることだな。馬車でもゴーレム車(クルマ)でも自由に行き来できれば、作業も運搬もやりやすくなる。目安があれば家も作りやすい」

「はい。ではそのように」

 

 主に俺が超頑張る必要がある。

 フフ。魔力もつかな。

 あと本心言うと俺、災禍の洞窟周辺よりも駅周辺の方をメインに開発進めたいんだよね。

 交通の便が良い方が当然、人と物の行き来がしやすいから……サラク村復興のお題目がある以上無理なんだけどな……うん……。

 

 

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