まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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113.暗闘のあとしまつ

 

 

『大将が前線に出ては終わりだと教えたつもりだったのだがな』

「仰る通りで……」

 

 翌朝、ことの顛末を父上に報告すると、褒め言葉よりも先にため息交じりの説教を食らうことになった。

 理由は単純、昨夜俺が暗殺者相手に暴れたのが貴族的にたいへんよろしくなかったせいだ。

 ……うん、今の俺はサラク村の全権を握っている人間なわけで、ケガなんてしようものなら滞ることになる仕事が山のようにある。

 前に出るなと言われると反論のしようもないのであった。

 

『確かにお前がおったおかげで助かった者もいるが、無謀には変わりない。必要なら外に助けを求めるべきだったのだ』

「しかし……あまりマリーのことを外に漏らすのは……」

『お前は経歴が経歴だからか少々人を疑いすぎる悪癖があるな』

「うっ……」

『全幅の信頼を置くとまでは言わんが、せめて仕事を任せても問題のない相手がおらねばこの先やっていけんぞ』

「承知しています」

 

 学院の在学中や修行時代にあちこちで築いたコネはあるんだが、部下として仕えてくれる人となると急に乏しくなってくるのが俺の弱点だ。

 今まで村の経営になんて関わると思ってなかったから、そっち方面を軽視してきたツケが来たようだ。

 

『ただし今回の件、結果的に怪我人を一人も出さずに済んだこと、そして襲撃者を全員捕縛したことに関しては見事だった』

「光栄ですが、クリスたちがいてくれたおかげです。俺は……先程父上が仰った通りなので……」

 

 それに多少なりとも私怨混じりだったというのは否定できない。

 オズワルドさんにしたことの件、マリーに対してしでかしたことの件、散々振り回されてイライラしてたことも含めて、もうとっとと俺自身の手で終わらせられるなら終わらせてしまいたかった気持ちは確実にあった。

 それも含めて、ちゃんとよく考えろという話なわけなので……うん、反省するしかない。

 

『近くマルガレーテ殿下生存の件も正式に発表できるようになるだろう』

「はい」

 

 そうなればマリーもようやくこの軟禁状態から抜け出して自由に動けるようになるわけだ。

 それでも護衛は必要だろうが、今までと比べると圧倒的にマシだろう。これでようやくだ。

 

『これでお前の婚約についても話が進むな』

「おっとぉ……」

 

 そうだな……その話もあったな……。

 いや別に嫌とかいうわけじゃなくって心の準備が……って俺は誰に言い訳をしているんだ。

 それにこれは両国の友好、あとはマリー自身の安全のために重要な一手だ。後ろに侯爵家と神器継承者の兄上がいるんだと対外的にアピールすることで、敵対者に二の足を踏ませられる。

 絶対に暗殺者が送り込まれないとまでは言えないが、帝国にも聖王国にも喧嘩を売るような真似はマトモな神経をしていたら避けるだろう。

 

『なんだ、今になって政略結婚は嫌とでも言うか?』

「気恥ずかしいだけですよ、父上。問題は……あるけど」

『……あるな。ユーニスの件か』

「どうするんです?」

『実際な、ユーニスの結婚相手としてお前をあてがうのは元々考えておったのだ。トラヴァーズ港を再建させられれば相応の経済効果が期待できるし、侯爵家直系は血筋として申し分無い』

「しかし、マリーとの婚約の件もあります」

『それを帝国と話しておったのだがな、なら重婚させてしまえばよいのではないかと』

「ぶっ」

 

 そんな重鎮の話し合いでそんな軽く決めることある!?

 もっと国家間の兼ね合いとか……思惑とか……謀略とか……もっとこう、あるだろう!!

 

「そんな軽めに決めてしまっていいことじゃないでしょう父上……!!」

『いやしかしな、これがなればサラク村とトラヴァーズ港に直接の繋がりが生まれよう。つまり帝国には存在しない「海」が経済圏に組み込まれることになる』

「あ」

 

 ユーニスと婚姻となると、旧子爵家の担当だったトラヴァーズ港がそのまま俺たちの受け持ちになる。

 サラク村からトラヴァーズ港までの距離もそれほどではなく、山にトンネルでも掘って直通の鉄道でも開通させられれば行き来も容易だ。

 港が復興したなら海運も再開する。国内だけでなく他国との大規模交易も見据えられるようになるだろう。ここに参入できれば、帝国としても旨味は大きい。

 

『帝国としてはむしろ前向きなのだ。無論、第一夫人という序列は譲る気は無さそうだが……』

「でしょうね」

 

 魂胆は見えた。そりゃ帝国も後押しするわ。

 地下だけあって帝国(シムゾニア)は水産資源にはあまり恵まれていない。欲しいだろうな、そっち方面の利権……。

 

『色々と調整は必要になるが、そのつもりでいてくれ』

「承知しました。覚悟は必要ですが……」

『なに、春まで待っておるからな。では頼むぞ』

 

 言って、軽い調子で父上は通信を切った。

 マリーの件がほぼ解決し、父上自身は春頃には実権を長兄(あにうえ)に譲って隠居準備始めるわけだから、悩みのタネも少なくなってそりゃあ腰も軽くなるだろうな。俺は悩みのタネが増えてんだけどな!

 いや、ポジティブな方向の悩みだからよしとしよう。ともあれ俺も一息ついてタブレットを置いた。

 ……それにしてもなんだ。マジで決まってしまったのか。なんかこう……適当なところで切り上げると思ったんだが、そうでもないのか?

 第二皇女の上にあの天才性……いくらでも政略結婚のツテはあるだろう。仮に俺にあてがうにしても王族傍系にすればいいんじゃないかと思ったが……それだけ俺を買っているにしても、皇帝陛下とは面識も無い。人格も能力も人脈も分かっていない相手に娘を譲るか普通?

 いや、間接的に能力は分かっているのか。今までの実績で。エーベルハルト殿下から俺のことも聞いているかもしれないし……あれ、案外俺のこと知られてる?

 

「……マジか」

 

 マジなのか。父上も言ってたし、これで覆ることは流石にもう無さそうだ。となると俺、マリーと婚約してることになるわけ? 何も手続きとかしてないけど。そういうこと……になるよな?

 まあいい。具体的なことはまた後で考えるとしよう。まだマリーの生存が公式発表されたわけでもないし、変に先走った行動に出るのもよろしくない。

 何をするにもまずは足元を固めるところから。ちゃんと村を発展させているからこそ、互いの利益になって婚約となっているわけだからな。まずそこをしっかりやっていかないとお話にもならない。

 ……あ、でもちょっとアレだけはやっておこう。そう思って俺は再度タブレットを手に取った。

 

『こちらパトリシアです。いかがいたしましたか? 村長様』

「すまない、パトリシアさん。少しマリーのことで聞きたいことがあって」

『本人に聞けばよろしいのでは?』

「いや、少し内密にしてもらいたいことが」

『……なるほど。ふふ、承知しました』

 

 


 

 

 さて、父上への報告を終えてこの日の作業に入ろうとした俺だが、まず最初に俺の目に入ったのは憮然とした雰囲気のクリスだった。

 いつもならさあ仕事に行こうという時にこんな様子になることは無いのだが、先に父上からの説教を聞いていた俺にはその理由の見当がついていた。

 

「私の言いたいことはおわかりかと思いますが」

「……うん、そうだな。あれは俺が悪かった」

「え、何で急に姉さまに謝ったの?」

 

 クリスに迎撃に行ってもらって、帰還を待たずに俺が暗殺者を倒してしまった件である。

 リンデは結末しか知らないのでどういう状況か読めていないのだろう。寝ている間にことが済んでしまったし、結局誰も犠牲になったりはしていないからな。

 ただ、それでも俺がやった、という事実そのものが良くないというのはある。

 

「兄さまも頑張ったんでしょ?」

「……頑張られたのが良くないんだ。レスター様は言わば村の大黒柱。万が一にもお怪我をされるようなことがあってはならない」

「でもいなかったらセラフィちゃん怪我してたかも」

「それはその通りだから困った話なのだが……」

 

 父上も言ってたが、結果オーライとするわけにはいかないんだなこれが。許容してしまうと、成功体験としてまた同じことをしてしまうことがある。次は運悪く怪我をしてしまうかもしれないし、場合によっては死ぬことだってありうるわけで……。

 

「護衛の仕事は、主君への危険を排除することだ。怪我をする可能性そのものから遠ざけるために私がいる。レスター様がお強いことは存じているが、だからといって見過ごすわけにはいかないんだ」

「なるほどねー。あたしも参考にしなきゃ」

 

 リンデは学院には従者の身分で入学ということになるが、様々な面から見て立場としては護衛の方が適切だろうと俺たちは見ている。

 そのため、パトリシアさんから勉強を教えてもらうのと同時にこうして護衛の考え方も学んでいたりしていた。

 

「次があるならもっと護衛を雇うことにするよ」

「……それはそれで複雑ではあるのですが」

「今回みたいな陽動されたら対応できないんだが?」

「はい。承知しておりますので妥協はいたします」

「そもそも兄さま護衛の当てってあるの?」

「無い」

 

 それが困ったところなんだよなぁ……師匠と昔旅してた時も護衛を雇ったりはしてなかったし、ハンター以外に大したツテが無い。

 もっとも、今回のように情報を制限したりする必要が無ければ、ハンターに護衛を依頼するだけで問題はないと思うが……自由に動かせる戦力がないと困るのは事実だ。

 元星の子の皆に関しても、軍に入ったりするような気は無いようだし……自警団とか組織したら誰か入ってくれないかな。難しいか。

 

「まあ当面はこんなことにはならないだろうし大丈夫だろう。多分な」

「多分なのね」

「どこまで本気かによるんだよ。今回襲ってきたのが10人……それを退けた直後の安心した隙を突くなら、もっと大勢動員する可能性はある」

「相手もそこまでのリスクを負うことは無いのではないでしょうか。あの模造品を持ち出した上に手傷すら負わせられずに敗北したわけですから」

「ま、ちょっと頭が回るならこれを機に地下に潜るくらいはするか……」

「帝国に?」

「比喩表現だ」

 

 これで確実に父上に暗殺者たちの件が伝わったわけだから、公権力が動く理由として使えるようになる。

 マリーのことも伝わっている以上帝国も彼らのことを探さないわけにいかなくなるはずだ。となれば、確実に活動は制限されるはずだが……国外に逃げることもありうるか?

 よそで迷惑をかけられてもそれはそれで嫌だな……こっちに活動の地盤を置いていて、どこかでボロを出してくれたりするといいんだが。

 

「……喫緊の問題は人材不足と……それから、貿易路の構築か」

「ひとことで人材不足って片付けてるけどとんでもない大きさの問題じゃないかしら」

「知ってる」

 

 人材育成についてはトビーに一日の長がある。あいつはどうにも眼力が鋭いし……今度教えてもらうか、見極め方……。

 

 

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