まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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15.神器というもの

 

 

「……ねえ兄さま、前から思ってたんだけど、じんぎ? って何?」

 

 周辺の安全確認を済ませ、一息ついた頃。ようやく荷車から顔を出せたリンデが心底不思議そうにそんなことを問いかけてきた。

 

「そういや説明してなかったっけ?」

「そうですね。私も言う機会がありませんでしたので」

「姉さまに聞いても要領を得ないと思うわ」

「うぐう……」

 

 酷い話だが否定しきれない。

 下手すると理解から遠くなってしまいそうだ。

 

「神器っていうのは、神が造ったんじゃないかと言われるほどに強い力を持った武具の総称だ」

「言われる?」

「神が実在するかどうかなんて誰も知らないからな」

 

 人間ではとてもじゃないが引き起こせない現象を発生させられるからこそ、人知を超えた存在がいるんだろうと推定して信仰の対象としているわけだ。

 俺はそんなの見たこと無いので「わからない」としか言えないが。

 

「剣、盾、槍、斧、鎚、弓の6種類が確認されている。50年前までは全て聖王国に揃ってたんだが、戦時に散逸して……現存してるのは盾、槍、鎚だけだ」

「失くしすぎでしょ」

「仕方がない。戦争だから」

 

 雰囲気にわずかに気だるさにじませるクリスの声には、奇妙な実感が込められていた。

 まあ仕方がないで済ますには国防的に大激痛なのだが。

 

「神器は自ら主を選ぶという特性があって、盾は今、俺の兄上が継承者として所持してる。鎚は北方のフェアバーンズ侯爵家が管理。槍は……まだ継承者が決まってないが……」

「ま、まだ決まらないんですか……」

「槍に選ばれる基準が相当厳しいらしいとは聞いた。ところで『まだ』って、何でお前継承者がいないこと知ってるんだ?」

「……話の流れからなんとなく」

 

 元々の継承者が生きてるからじゃねえかなというのが、最近俺が立てた推測だ。

 戦前も使い手が全然見つからなくて、国中探し回ってようやく当時の継承者に行き着いたとのことだ。とにかく主を選ぶ神器なわけだな。

 じっとクリスを見れば、メチャクチャ露骨に視線を逸らされた。

 

「それがあの……さっきの人たちと何か関係あるわけ?」

「それがだな……ああいう空間転移、本当は神器の槍にしかできないんだ」

「でも現にできてるじゃない?」

「そうなんだよなぁ……」

 

 空間へ干渉する魔法が存在しないわけじゃあない。ごく当たり前に使われている組み換え魔法だってそういう要素は絡んでくる。

 極めて珍しいが、空間に関わる魔法に適性を持つ人間だっている。それでも、人ひとり転移させるというのはまず不可能だと聞く。俺の知り合いの基準だと、自由に空間を操ることができる範囲はせいぜい2~3mm程度。しかも一定程度の魔力防御が備わってる人体への干渉はほぼ不可能らしい。

 

「現に出来てる以上、何か方法があったんだろうとは思う。あくまで奥の手のようだったけど」

「見たところ、魔道具が崩壊していましたので使い捨てなのでしょうね」

 

 もし仮に一方通行で位置が完全に指定され、かつ使い捨て……だとしても、今回のような状況では緊急避難目的なら十分役に立つ。

 かつて不可能と思われていたことが、技術革新によって不可能ではなくなった例というのは珍しいものではない。だが、そんな技術が生まれたのならば、大々的に広められているはずだ。仮に秘匿技術だったとしても、暗殺者らしき男たちがコレを使っていることが気になる。そもそも、彼らは俺たちと遭遇したこと自体が想定外という風だった。サラク村の復興を妨害しにきたというわけでもなく、貴族を狙ったわけでもない……となると、彼らの目的や所属はいったいなんなのか……。

 

「……ま、考えても分からないし、魔道具(アレ)については一旦置いておくか」

 

 検証のしようもないし、真相も確かめようがない。気にはかかるが、こっちの話は置いとくとして……。

 

「だが、あんなのを持ってる連中がここで何をしていたのかは気になる」

「そうですね。村に手を出したり」

「それだけは無い」

「クゥーン」

 

 郷土愛が強いのは結構なことだが、人口は三名、特産品は無し、超危険地帯というおよそ自治体としての要件すら満たしているか怪しい土地だ。あんな連中を寄越す理由が微塵もねーのよ。

 ほっとけば勝手に滅ぶとしか思えんぞこんなん。

 

「悪いけどもう少し付き合ってもらうけど、構わないか?」

「無論です。探査のために眼帯を外しても?」

「頼む」

 

 と言っても、転移を引き起こすほどの莫大な魔力のせいでこの部屋は探知がきかないようだった。

 とはいえ連中は元々あの部屋にいたわけではないので、とっとと次の部屋に向かうだけでいいのだが。

 クリスの目と鼻で違和感を探り、何かがあれば俺が詳しく観察して判断を下す。

 

「兄さま、何探すの?」

「……多分あいつらは暗殺者だ。探せば何らかの『痕跡』が見つかると思う」

「暗殺者……つまり、死体……ですね」

「かもしれない。けど、もしかしたら仕留め損なった相手を探してた可能性もある」

 

 奴らのことは身のこなしと仕込み刃という装備から、恐らくは暗殺者の類だと推測したが、俺の推測が正しければ「仕事」を終えた後のはず。

 それも、仕留めたかどうかが曖昧だったり、取り逃がしてしまって標的の生死を確認できていない状態だろう。単純に考えて、暗殺に成功したらすぐ帰還して俺たちに出くわしたりしないだろうからな。

 わざわざあんな特殊な道具を持っている以上、標的もそれなりの立場のはずだ。探し当てることさえできれば……生死を問わず、情報は得られる。

 

「レスター様、反応がありました」

 

 そこうしているうちにだいたい4階層は降りただろうか。流石にそろそろ帰り支度をしないとまずいかと思った頃になって、クリスの目が何かを捉えたようだ。

 

「ええと……あの辺り、のはずなのですが……」

「死骸の山じゃない」

「…………」

 

 でも本当にここなんだ――と、表情を変えずに、しかしなんだか雰囲気がわたわたしてくるクリス。俺も疑う気は無いのでじっとよく見てみるが、何かあるようには見えない。

 ……いや、逆か。暗殺者のような人種から逃れるためには、一見して分かるような場所に隠れるのでは意味が無い。そこへくるとこの死体の山、視覚的にも嗅覚的にも人の目を欺くには適している。

 恥も外聞も投げ捨てて、死に物狂いで逃げているなら、あるいは……。

 

「位置は見えるか?」

「はい、あの山の中ほどに」

「なら、埋まってる可能性が高いな。掘り起こそう」

「これを~……?」

「こら、嫌そうな顔するな。体力が尽きてたり、身動きが取れなくなってたりしてまだ生きてるかもしれないんだぞ」

 

 可能性を提示すると、リンデの表情がギュッと引き締められる。死体に触れるのが嫌だという気持ちは分かるが、本当に人が埋まってて出られない状態なら、まず間違いなく命の危険がある。

 口元に布を巻き、手袋で手を保護しながら腐肉をかき分けて魔力の発生源を探る。少しして、二人も続いて手伝いに来た。

 

「悪いが俺には見えないから、位置は適宜示してくれ」

「はい」

 

 腐臭のせいで口が開けられず、やり取りは最低限のまま最短距離でかき分ける。全く別の生き物というオチもありえなくはないが、今はわかりやすい指標がこれしかないのだ。

 最悪、遺体だけでも上がってくれれば弔いはできるんだが……と、かすかに祈りながら進めること20分ほど。腐肉の色味と異なる白い肌が見えた時、思わず思考が完全に止まった。

 

「たふけてー」

「うおおおおおおおおおお!?」

「喋ったぁぁぁぁぁ!!」

 

 生きてるし意識もある! ヤバい!!

 嘘だろ、と思いつつ必死に掘り起こして引き抜きにかかる。

 生きてるかもとは思ってたが! 生きてたらいいなとも思ってたが! それにしたってこんなことある!?

 全員揃って半パニックになりながら掘り起こした人物に張り付いた血と肉片を洗い落とすため、水の魔道具を使う。そうして容姿が明らかになると、俺たちは改めて驚かされた。

 女の子だ。それも、クリスやリンデとそう変わりない年頃に見える。わずかに赤みの差す金の髪に、赤銅色の瞳。肌はちょっと不健康的な方向で白いが、足や脇腹に刻まれた真新しい傷を見ると、血の気が引いているということもありえそうだ。

 ……それでも生きているのは、生命力の強い種族であるが故だろう。鱗の生えた太い尻尾と角を見るに、どうやら竜人のようだ。

 

「いやー……助かった。危うく死ぬところだったよ。ありがとう」

「あ、ああ……どういたしまして」

 

 座り込んだままとはいえ、しっかりと礼を行ってくる少女に笑い返そうとするが、どうしても笑みが引きつってしまう。

 礼を言うより先に……その……病院に行った方がいいんじゃないか……?

 

「ところでキミたちは誰?」

「洞窟の調査に来たアシュクロフト侯爵家のものだ。地上で廃村の復興を進めていたところだったんだが……」

「アシュクロフト? ああ、聖王国の盾とか南方将軍と名高いあの……」

「名高いのですか。そうですか」

「何で姉さまが誇らしげなの?」

 

 仕えている家が高名な方がいいとか、やっぱそのくらいの俗っぽさはクリスも持ち合わせていたりするのだろうか。

 

「主家が褒められると私も嬉しい」

 

 そんなことはなかったかもしれん……。

 

「と、それはともかく、君のことを聞かせてくれないか? 何でこんなところにいるのかとか、君を追っていたらしい連中は何者なのかとか……」

「うん。それはボクも教えておきたい」

 

 ……妙な前置きだな。教えたいけど、それができないというような。

 軽く首を傾げていると、少女の上半身がぐらりと揺れた。

 

「――ところなのだけど、ちょっと今死にそうだから後でもいいかい?」

「え?」

「救助なんて来ると思ってもなかったから……気が抜けるともう……」

「は? うおおおおおおっ!!?」

 

 言い切る前に倒れかけた少女の体を支える。

 顔色が蒼白を通り越して土気色だ。ええい、変に喋って無用に体力使いやがって!

 血を流しすぎたか、あんな不衛生な環境の中にいた時間が長すぎたか、あの連中が毒を盛ったか……あるいはそれら全てか。何にしろ放っておくわけにはいかない。

 

「びょ、病院に連れていくぞ!」

「一番近いのは!?」

「……列車で2時間のサバル!」

「遠いわよ!!」

 

 最悪なことに、村には医療設備が無いし薬品も十分にあるわけじゃない。

 ここから一番近いのがサバルの街……くそ、列車を待ってる間に死ぬかもしれないぞ!?

 

「どうするの兄さま!?」

「移動手段を今考えてる……!」

 

 人命がかかってる状況だ。父上に連絡して無理にでも列車を動かしてもらう……?

 いや、そもそも駅に行くまでにも時間はかかる。それこそ、奴らの使ってた転移のような手段でも無いと……。

 

「あ……そうだ、姉さま! あたしたちなら!」

「――そうか……!」

 

 なんとかして方法をひねり出そうとギリギリまで頭を回していたその時、何かに気付いたらしいクリスが手を打った。

 

「レスター様、我々が運びます。獣化すれば多少険しい道でも踏破できるはずです!」

「あ、そうか!」

 

 キメラだキメラだと意識はしていたが、そういえば全然使う機会無かったから獣化できることをすっかり忘れていた!

 移動の際の揺れや衝撃を防ぐ手段こそ必要だが、列車が来るまで待ってサバルの街まで行くのと比べると、遥かに早く動けるはずだ。

 

「すまない、頼めるか?」

「お任せください!」

「ああ、先に服は」

 

 言い切る前に、クリスの刻印が起動した。黒い魔力の帯が肉体の戒めを解き、バリバリと()()()()()()その姿が変化していく。

 全身を、鋼鉄に似た甲殻に覆われた巨狼――最初に俺が見た時のそれと同じ姿だ。

 同時に俺は地面に落ちた衣服だったものに視線を向けた。原型を留めていないボロ布である。

 

「俺は……破れないよう先に脱いでからと言おうと……」

「クゥーン……」

 

 巨大なディグワームを真っ二つにするほどの大鎌を備える凶悪なキメラが、恐縮して身を縮めた。

 ……一度、拠点に戻って服を回収してから向かわないとだな……。

 

 





ストックの関係上次話以降更新間隔開きます。ご容赦ください。
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