まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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16.サバル総合病院へようこそ

 

 クリスに荷車を引いてもらうことで洞窟を駆け上がり、外に出られたら今度は空を飛べるリンデが荷車ごと俺たちを抱えてサバルに運ぶ。

 そんな感じで組み直したルートはどうやら正解だったらしく、俺たちはおよそ1時間半程度でサバルの病院に到着できた。

 夜だったこともあり、ドラゴン姿のリンデが騒ぎになるようなことは無かったが、街の近くに凶悪な外見のドラゴンが降りてきた……なんて噂が立たないかは少し心配だ。

 が、まあ俺たちのことはともかく――心配なのは、少女の方だ。

 

「この子、よく生きてましたねぇ」

「そんなに酷い状態なんですか?」

 

 一通りの処置をとりあえず終えた後、診断を聞きに来た俺に対して医師は少しだけ言葉を濁した。

 

「……神経をやられているようなんですね」

「神経……というと、毒の類ですか?」

「何か心当たりが?」

「まあ……多少」

 

 正直に答えると、暗殺者たちが自分の存在を隠そうと医師の口封じを行うということもありうるかもしれない。俺からも、少しだけ言葉を濁すハメになった。

 しかし、こうやって連れてきた時点で関わりを持つことを避けることはできない。護衛でも派遣してもらうことにしよう。

 

「後遺症などはあるんでしょうか?」

「詳しくは、起きていただいてから検査をしてみないとわかりませんが、下肢……両足に麻痺が残る可能性が高いかと。ご家族にも通達しておいた方がよろしいでしょうが……」

「それが……すみません、俺は行きがかり上助けただけで、彼女の家族については何も存じ上げなくて」

「そうですか……」

 

 そもそも名前も事情も知らないからな俺。

 仮に知っていても語っていいものなのか分からないというのもある。

 

 礼を言って診察室を出ると、少し疲れた様子のクリスと、背負われたまま眠ってしまっているリンデの姿が目についた。

 色々あったせいで時刻ももう深夜過ぎ。いつもなら寝ている時間というのもあるだろう。

 

「いかがでしたか?」

「危ない状態は脱したが、後遺症が残るかもしれないそうだ。そっちは何か変わったことはあったか?」

「……大通りの方で、謎の巨大生物の影とやらを探している者がいます」

「そっちは見なかったことにしていい」

 

 原因は今お前の背中で寝てるから。

 当然だが、痕跡なんて残らないようにはしているし、数日もすれば夢か何かだと思って忘れてくれることだろう。きっと。そうであってほしい。

 ……ちょっとくらいは情報工作しておいてもいいんじゃないだろうか? しておいた方がいいかもしれないんじゃないか? しておくか。

 

「あの者についてはいかがなさるおつもりですか?」

「急に真面目な話にシフトしたな」

「今までも十分真面目な話のつもりなのですが……」

 

 場の空気を和ませるために話題を提示したわけじゃないのかよ。

 もしかして騒がれてる原因についても何も気付いてなかったりするのか……!?

 

「……俺は当面、あの子の目が覚めるまではここに留まるつもりだが、クリスはどうするんだ?」

「レスター様の仰せのとおりに」

「主体性を持て」

「ううっ」

 

 俺を信じてるとか忠誠心と言うと聞こえはいいのだが、事実上の丸投げはいただけない。

 なんとかして意見を引き出したいんだけどな、俺もな……もしかしてもう、ちょっとした初等教育から始めるのが妥当だったりするのか……?

 

「分かった。それじゃあ、一度戻って畑と家の様子を確認してきてくれ」

「え……あの、ご、護衛は……?」

「今はいい」

「そんな」

 

 今仕事はしなくていいよ、と言われただけでこんな絶望的な雰囲気醸し出すことある?

 確かに、あんなことが起きた直後だから、近くに誰かいた方がいいといえばいいんだが……。

 

「あのな……別に何もするなと言ってるわけじゃないし、必要無いわけでもないんだ」

 

 あの連中が俺たちに追いついてくるのは相当難しいだろう。

 まず、俺たちの動向を知らないだろうし、地上に戻るにもクリスのおかげで桁違いの速さで済ませられた。十中八九、ここまで来ることは無いはずだ。

 ただ、村の方は分からない。洞窟の出口にあたるわけだから、サバルの街までは来なくとも村の調査くらいはしそうだし、その過程で荒らされることだってありうる。こちらの素性を明かしてしまっているし、行きがけに出口や通路は塞いできたものの、地上に向かおうとする可能性は高い。

 どちらかと言うと、頼みたいのはこの辺りの対策……村の防衛だな。

 そう説明すると、クリスは渋々引き下がった。

 

「ごえい……」

「何なんだお前のその護衛に対する執着は」

 

 本当に引き下がってるかこれ?

 人数がこれだけ少ないんだ。結局のところ役割分担は必須と言える。護衛の立場に執着されて、その辺の融通がきかなくなってもらうと大変困る。せめてもうちょっと人数増えてからにしてくれ。

 ……そもそも俺の立場脅かす人間がどれだけいるんだって話だが。言っちゃなんだが、サラク村の長の座なんて若干罰ゲームに近いぞ。

 

「とにかく俺は仕事ついでにあの子が目を覚ますまではこっちに残る。留守は任せたぞ」

「はい……」

 

 この際なので待ってる間に書類仕事を済ませて……いや、進めておこう。

 報告関係が盛り沢山すぎて終わらせるには数日かけないといけないことに気付いて憂鬱なのだが、今のうちに少しでも進めておけば後が楽になるはずだ。

 ……なるか? 本当に? なってほしいなぁ。

 

 そんなこんなで翌朝、まずは二人を駅まで送った後、俺は公衆浴場で前日の汗と汚れを落としてから再び病院へ戻った。

 深夜で浴場は開いていないし、浄化魔法や消臭の魔法を駆使して誤魔化すことで仕方ないということにしていたが、一度落ち着くと流石に汚れが気になってくる。病院で待たせてもらうにしても、他の患者や客は必ずいるので、清潔にしていないと迷惑がかかるからな。

 で――問題はここから。

 

(資料にマップにレポート、魔獣の分布図……これ全部俺が作んないといけないのか……)

 

 うんざりするほどの仕事量が重くのしかかってくる。

 近年は技術の進歩のおかげで、タブレットを介した報告書などのやり取りができるようになったから、まだマシと言えばマシなんだが……それでも人が見やすいように体裁や文面を整えないといけないのは確かだし、何より根本的に記録しないといけないことが多すぎる。

 しかし、病室で仕事をすると医者の邪魔だし、かと言って院内の休憩室では今度は患者の邪魔になりかねない。結局、医師と話すべきことを終えたら、周囲の視線に耐えかねた俺は病院の近くに宿を取るハメになったのだった。

 痛い出費だが、必要経費ということにして心を慰めよう。

 

 ……と、まあそんなこんなで更に一日。病院から連絡が届いたのは、夜が明けてからのことだった。

 

「顔色が土気色ですが、診察を受けられた方がよろしいのでは……?」 

「大丈夫です」

「いやしかし」

「大丈夫です」

 

 病院にたどり着くと開口一番この扱いである。

 洞窟から脱出してからというもの、ろくに寝てないので仕方ないと言えば仕方ない。

 仕事仕事で現在二徹目。連絡が来たらいつでも対応できるようにと気を張りすぎていたのも良くなかったかもしれない。

 

「彼女の様子はいかがでしょうか?」

「落ち着いています。少々……落ち着きすぎているとも思えますが」

「足や神経のことは?」

「ご自分で確認して、理解しているようです」

「その上で『落ち着いている』、ですか」

 

 少々不気味だな。足が動かなくなったのだから、もう少し取り乱してもいいものだが。

 あるいは、一気に色々なことが起こりすぎて理解が追いついていないのか……こんな目にあっても納得するに値する何かがあるか……。

 いずれにせよ、少し話を聞いてみるしかないか。

 

「面会は可能ですか?」

「衰弱している様子はありませんので、短時間でしたら」

「ありがとうございます」

 

 まあ、医者からすれば目を覚ましたばかりで負担をかけるのは望むところではないだろう。むしろこの場合は、このタイミングでよく許可出してくれたなと言うべきかもしれない。

 病室の前に着くと、医師は気を使ってか一旦その場から離れた。それに合わせて、来客を告げるために扉をノックする。

 

「はいはーい」

 

 部屋の中から聞こえてくる声は、どうも気落ちした様子の無いものだった。

 やっぱりよく分からない。何か思惑でもあるのだろうか? それとも本当に、ただ気にしていない……?

 

「失礼する」

「おや」

 

 訝しみながらも入室すると、先日よりもいくらか顔色の改善した金髪の少女が目に入った。

 いや、あんだけザクザク刺されて毒も盛られておいて、適切な治療を施したとはいえほんの二晩でここまで持ち直すって、生命力本当にすごいな。

 だからこそ、50年前の戦争が泥沼化して10年も続いたんだが。獣人とか竜人とか、身体能力の平均値が常人より遥かに高い人が多いんだよな帝国。まあ今は同盟国として友好関係を築けているからむしろ頼もしい面ではあるんだが。

 ……一旦その話は置いといて。

 

「やあ、助けてくれた人。よく来たね」

「一度関わりを持った以上、責任がありますので」

「じゃあこの足のことも責任を取ってくれたりするのかな?」

「ぜひとも、犯人に責任を取っていただきましょう」

 

 俺の返答を耳にして、少女はケラケラ笑った。

 冗談のつもりだったのだろうか。言われたこっちは背中に汗ダラッダラだわ。

 たまにいるからな、危害を加えてきた犯罪者よりも、その前に助けられなかった側に恨みを持つ人。

 

「それにしても、最初に会った時よりも随分態度がカタいなぁ。何かあった?」

「緊急時というわけでもありませんので、礼を失するわけにはいきません」

 

 人は立場に応じて求められる立ち居振る舞いというものがある。

 災禍の洞窟の時はただの調査員ということでいいが、変な時間に病院に対応してもらうのに貴族としての立場を使った以上、今の俺はアシュクロフト侯爵家三男かつサラク村村長として接する必要がある。区切りは明確にしておかねば。

 そもそも相手がどういう立場かも分かってないしな。俺より遥かに上の立場だったりするかもだ。

 

「改めて、あなたのことをお聞かせいただいてもよろしいですか?」

「大した人間じゃないよ。ボクはマル……マリー・フレーベル。しがない魔導技師だよ」

「マルマリーさん」

「マリーだけだよ」

 

 愛称か。本名は明かしたくないと見える。

 それにあの自己紹介、「しがない」なんて前置きする人が本当に取るに足らない立場だったことはそうそうない。俺含め。

 

「専門は何を?」

「ひとことで言えば、新技術の発明かなぁ」

「発明……」

 

 暗殺者を差し向けられるような職業だろうか、と少しだけ思ったが、意図せず危険なものを生み出したり、偶然大量破壊兵器に繋がる技術を見出したりすれば、秘密裏に――ということはあるかもしれない。

 

「失礼ですが、具体的に研究成果などを教えていただいても?」

「組み換え魔法と光の屈折率を応用した多重魔法式の効率化……あー、いや、これだと分かりづらいか。ん~……」

 

 最悪、後で調べること自体はできるので、成果を羅列してもらうだけでもいいんだが……と思っていたのだが、マリーは言い換えを探しながら少し首を傾げる。

 そして。

 

「あ、タブレットの生みの親と言えば分かる?」

「嘘ぉ」

 

 ――これ以上無いほど分かりやすいインパクトを叩きつけてきた。

 

 

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