まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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 連休なのでストックがある内に連続更新です。


17.天才発明家

 

 

 ここ10年と少し、現在の世界における情報通信を爆発的に発展させている原因は、間違いなくタブレットの存在だ。

 手のひらサイズの魔石板一つ持っているだけで、だいたいどこにいても通信が可能になる――こいつのおかげで各国の情報戦略は崩壊し、どこの国も新たなセオリーをゼロから構築するハメになった。

 そんな代物の開発者となれば、界隈によっては神とも悪魔とも称され……。

 

(暗殺したがる奴が多すぎる……!)

 

 どこでどんな恨みを買っているともしれない、そんな立場に間違いないのだった。

 確実に特許(パテント)で莫大な富を築いているだろうし、タブレットによる繁栄の裏で潰れた業界は数知れず。本名を名乗らなかったのもある意味当然だ。素性がバレたら殺しに来そうな人間が山のようにいる。

 ただ……あれって基幹技術の確立って今から10年ちょっと前のはずなんだが……。

 

「失礼ですがご年齢は?」

「28」

 

 見た目クリスたちと同じくらいで十代中盤もいいところだが、思ったより年齢(トシ)が行っていた。

 いや、十代後半でタブレットを開発したと言うなら間違いなく天才の類だな、うん。

 ……よし、無関係な質問をしたおかげで少し落ち着いてきた。とりあえず、はっきりしているのはこのマリー女史を放置するのは危険だということだ。

 よその組織に拾われた場合、特に反社会的組織に加担するようなことがあれば秩序と治安が終わる。殺されたら当然この頭脳が失われるし、各国で責任の押し付け合いが始まって下手すると戦乱の世に逆戻りまである。

 

 父上に相談……いや、これに関してやるべきことは一つだ。ウチで保護して、暗殺者対策で世間から身を隠してもらう。これしかない!

 今ここで通信するわけにはいかないから……すまない父上。事後承諾になるの前提で動く!

 

「で、ボクのことばかり話すのは不公平じゃないかな? 助けてくれた人。キミのことも聞きたいな」

「レスター・コールリッジ・アシュクロフト。侯爵家三男です」

「……………………傅いた方がいいかい? いや、よろしいですか?」

「どうかそのままで。改めて畏まっていただく必要はありません」

 

 単に侯爵家の者とだけ伝えていたからか、やはりただの調査員と思っていたようだ。

 そりゃそうだよな。兄上のような後継者ではないとはいえ、貴族の実子があんな危険な場所で何をしているんだって話だ。

 まあ原因はクソ単純でただの人手不足なんだがなガハハ。

 

「心臓に悪いよ……」

「こっちのセリフなんだよなぁ」

 

 タブレットの基礎理論の提唱者なんて聞いてどれだけ驚いたことか。一瞬にして胃がキュッと痛みを訴えてきたぞ。

 

「私は今、サラク村の復興を目的として災禍の洞窟の調査を進めています。あの場所にいたのは、有り体に言えば人手不足が原因ですね」

「世知辛いなぁ……ていうかあんな危険地帯よく復興しようと思うね」

「それを望む人がいて、ちょうどいいタイミングだったから……でしょうか」

 

 爺様がいつかはとチャンスを探していて、爺様の友人であるクリスがそれを強く望み、それでいて魔獣が一掃されたタイミングがあって色々とちょうどよかったのは確かだ。まあ、ざっくり言えばめぐり合わせというところだろう。ざっくりしすぎだが。

 もちろん仕事として果たすべき責任というのもある。あと……俺が無職だったのも……。

 

「過酷な環境だと思うんだがね」

「魔獣のことさえ除けば気候はむしろ過ごしやすい方かと。当家には腕の立つ護衛もおりますので、上手くやれていますよ」

「腕の良い護衛か……」

 

 腕が立ちすぎるしクリスがいないとそもそも成り立たないとも言う。

 いつかこう、村と魔獣の生息域を完全に隔離できたら、もっと住みやすくなってクリスの仕事も減るはずなんだが……予算と手間と人手がな……。

 内心ボヤいているとマリー女史はスッと姿勢を正し――たかと思いきや、ばちこーん! とばかりに片目を開け閉めしたり体をクネクネさせ始めた。

 えっ何コレ。人の判断力を奪う不思議なダンス……的な……?

 俺の視線が何やら哀れなものを見るような生ぬるいものになっていることに気付いたのか、マリー女史はピタリと動きを止めて冷や汗をダラダラ流しながら口を開いた。

 

「匿って♡」

「最初からそれを言葉にしてくれませんか」

「しょ、しょうがないだろう! こんな駆け引きするの初めてなんだから!」

「今までどうやって研究費を引き出していたんです?」

「は? 研究費? 成果を出せば勝手についてくるだろう?」

 

 うーわガチで言ってるやつだコレ。

 しかも生半可な研究や成果物じゃ太刀打ちできないから反論もできなくなるやつ。

 流石にこの程度で暗殺者を差し向けられたりはしない……と思いたいが……反感買いやすそうだな……。

 

「というわけで……できることなら協力はするから、是非とも匿ってほしいなぁと……」

「いっスよ」

「そりゃあ今は足がこんな調子だし技術開発以外何もあれぇぇぇ!?」

「いっスよ」

「交渉は!?」

「……交渉材料がありますか?」

「うむむ……そりゃあボクは確かに身一つで口座も凍結されているだろうし無一文だが」

 

 だから悪い意味じゃなく、交渉の余地なんて無いんだよ。技術提供します、承ります。このやり取りで終わりだ。

 なにせ交渉材料が無いという点に関しては、実のところこっちも全く同じだ。資源も無い、開拓もしていない、整地もできてない、金も無い。むしろこっちがお願いして招聘しないといけない立場だからな! 最悪、父上の手を借りてでも保護して滞在してもらわないとと思ってたくらいなんだ。

 

「何か思惑でもあるのか?」

「あなたのような重要人物が勝手によそに行って殺されでもしたら、明日にも戦争が再び勃発しかねないので自重していただきたいのですよ」

「ごめん」

 

 流石に自分が重要人物であることは自覚できているらしい。こちらとしてもそうであってもらわないと、たいへん困る。

 どっかの方面軍の総指揮官みたく、ことあるごとにあっちへフラフラこっちへフラフラされたら胃が痛むじゃ済まないんだよ……まあうちの兄上の話だが……。

 何度探しに行ったと思ってんだあの自由人。

 

「申し訳ありませんがそろそろお時間です」

「あ、はい」

 

 なんて、内心ボヤいている間に面会時間が終わってしまった。

 それもこれも兄上のせいだということにしておこう。

 

「リハビリもしていただく必要がありますので、ご了承ください」

「もちろんです。では、私はこれで失礼します。詳細な話はまた後日詰めましょう」

「うん。ではまた」

 

 看護師と入れ替わりに、俺は医師と共に外に出た。

 話を詰めないといけないのはこちらもだな。

 

「……話は変わりますが、やはり村への医師派遣は難しいですか?」

「現段階では無理、と言わざるを得ませんな」

 

 さて、俺も一応村長なのだから、その仕事も実はかなり多岐にわたる。施設の誘致もその一つだ。

 現在、村には医者がいない。今回のように、怪我人を見つけたらわざわざサバルの街まで来なければいけないので、非常に不便だ。

 なので、ダメ元で誰かサラク村に派遣してもらえないかと思って申し出たのだが……案の定、無理だったようだ。

 

「我々も求められれば応じる用意はあります。しかし、人口三人の村というのはいささか……」

「ははは……そうでしょうね……」

「人を救いたいという意志があるなら尚更……ですね。はい。街のほうが患者は圧倒的に多いですから」

 

 まあなぁ……下手したら俺たち、一年間誰も怪我せず過ごすくらいできそうだし。

 医師としての経験を積むにしても、患者がいないのではそれができない。治療費、つまり金目当てにしても患者がいない以上儲けはまず出ない。では単純に暇を持て余して余暇に使えるかと言われると――それも不可能だ。何せやることが多すぎるので人手を余らせてなんていられない。街から離れる理由は微塵もないのだ。

 

「ちなみに、具体的にどのくらいの人口があればという指標があったりはしますか?」

「そうですな。職種にもよりますが、100人いればどうか……」

 

 まあ、妥当なところか。職種にもよるというのは、怪我をする確率や頻度の高い肉体労働者の割合が高ければ、なお派遣しやすいということだろう。

 よし、このあたりも持ち帰って検討するとしよう。

 

「ありがとうございました。参考になります」

「いえ、今後のご発展をお祈りしておりますよ」

 

 医師に頭を提げ、荷物をまとめて外に出る。

 さて……まず父上に連絡して、クリスたちにも状況を伝えて、マリー女史の足が不自由になったなら車椅子での移動が欠かせないだろう。街道の整備も急がなければいけない。

 いや、その前にまず地下で仕留めた獲物の解体を……うおおおおおおおお頭がクラクラしてきた!

 

「もしもし父上? 給金割増しで払うから2、3日使用人派遣できない?」

『だ、大丈夫かレスター? お前、顔が緑色だぞ』

「大丈夫じゃないから助けを求めてるんですよ」

 

 ……まあ、俺もね。村の独立性を保つためにギリギリまで頑張ってみようとは思ったんだよ。

 でも流石にこう……自分の仕事を列挙して、実際に徹夜してまだまだ大量に残ってるとなると心が折れた。無理なもんは無理だわコレ。

 アシュクロフト家の使用人は、貴族の使用人だけあってそれなり以上の給金を貰っている。本来の報酬に危険手当なども上乗せすると考えると、今回の探索で得られた魔獣素材の利益のいくらかは費やすことになるのだが、それでも倒れるよりマシだ。

 

「申し訳ありませんがちょっと胃を痛めていただきます」

『何だその話を聞く気が失せる前置きは!?』

 

 でも俺が眠気と疲れでブッ倒れる前に聞いてもらわないといけないの。

 一緒に混乱と胃痛の極みで苦しもうぜ! 家族だから!!

 

「マリー・フレーベルという方をご存知ですか?」

『タブレットの基礎理論の提唱……待て、それ以上言わんでいい。分かった。くそ……分かってしまったぞ……』

「名前は『マリー・フレーベル』で間違いないんですね?」

『当然だ。私がそのような大事な情報を間違うと思うか?』

「いえ……」

 

 ……と、まあそんな具合で依頼ついでにマリー女史のことを伝えると、父上は苦悶の表情でそれを聞くハメになったのだった。

 聞きたくないけど領主として聞かないわけにはいかないし、というのがはっきり伝わってくるもんだな。

 しかし、少なくとも広く知られてる名前は「マリー」で合ってるのか。だとするとあの言いかけた本名らしきものは何だ? 何を隠している?

 本人が隠したがっていることを暴きたてる趣味も無いが、村の安全保障上、そこに暗殺者が彼女を狙う理由があるなら調べておく必要はある。ああまたしても仕事が増える。

 

 ともかく俺は、報告を終えると同時に乗り込んだ列車の席で意識を手放すことになった。

 胃の痛みが消える気配は無い。

 

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