「レスター、お前には南部のサラク村の様子を見て来てほしい」
春の暖かな日差しが差し込む執務室。俺を呼びつけてきた実父であるエドガー・アシュクロフト侯爵はそんな頼みを唐突に振ってきた。
言葉だけを聞けば村の運営状況の視察だが、実情はだいぶ違う。
「死刑宣告か?」
「違う! いや、確かに疑うのも無理はないが」
「ウン十年前に滅んだ廃村ですよ。高位魔獣の巣窟の様子を見てきてほしいというのはそういうことじゃないんですか、父上」
サラク村。60年ほど前に魔獣の大発生で滅亡した廃村だ。
今となっては地名にしかその痕跡は残っておらず、跡地は高位の魔獣がはびこる巣窟と化している。大した戦闘能力を持たない人間が何の準備も無しに様子を見になんて行ったら、数分ともたずに魔獣の胃の中だろう。
そんな場所の様子を見に行けと。死ねと言っているのと変わらないのでは?
「前当主――お前のお祖父様が亡くなって今年で5年が経つ」
「節目の年に同じ墓に入れと」
「違う! お祖父様が生前よくあの村を気にされておったから、節目として何ができるかと思っていてな!?」
うちの爺様、先代当主のディーン・アシュクロフトは、このサラク村の滅亡に端を発する人魔大戦を最前線で戦い抜いた英雄の一人である。50年前に条約が締結されて終戦となった際には、調印式にも招集されている。
神器と称される特別な武器に選ばれて多大な功績を残したらしく、生前は俺も何度も当時の話を聞かされていた。中でも特に爺様が繰り返していたのが、件のサラク村唯一の生き残りだという親友の話だった。同じく神器に選ばれ、互いに背を預け合う間柄だったという少年を死なせてしまったのがずっと心残りだったのだという。
「戦時に亡くなった親友の故郷だからなんとか復興させてやりたかった、とは言っていました」
「お前はお祖父様によく懐いていたと思ってな……だから……な!」
「何で言い出しっぺの父上が行かないんだよ!?」
「執務が死ぬほど忙しいからに決まっているだろう! 親子二代ずっとこの調子だ!」
「兄上がいるだろ兄上が!」
「軍務で忙殺されておるわ! 暇なのはお前だけだ!」
「暇!? いや、暇って……ワケじゃ……」
なくもないが……。
俺ことレスター・アシュクロフト――本名レスター・コールリッジ・アシュクロフトは、侯爵家の三男に生まれた継承権の低い末弟である。
物心ついた頃から既に兄上が家を継ぐことが決まっていたので、自分が侯爵家の運営に携わることなどは特に頭に無かった。王都の学院を卒業後はあっちへフラフラこっちへフラフラ。どうせ兄上が家を継げば家名の「アシュクロフト」も取れて分家の平民になるのだし、趣味と実益を兼ねて就職先を探す役に立つと考え料理を学んでいた――のだが。
「働き口も見つかっておらんのに暇じゃないは無理があろう」
「実の親のくせに的確に人の傷口抉るじゃねーの」
「馬鹿め。実の親でなければこんなに躊躇なく抉らんわ」
かれこれ一年近く、俺は無職と貴族の間を揺蕩っていた。
修行を終えてそれなりの実力がついたはいいものの、雇ってくれるレストランなどは無し。ならばと資金繰りを考えるも融資などを受けるにはリスクが高くその手前で足踏み。父上に紹介された別の仕事などもやってはみたが長続きせず……と、辛辣になるのも無理はない。
「そもそも貴族の時点でお前を評価する軸にはいささか以上の忖度が入る。たとえ実力が本当に伴っていたとしても、厄介の種になりかねない立場の人間など誰が好んで招き入れると思っているのだ?」
「やめてくれ父上、正論で刺してこないで」
22にもなったいい年こいた大人がさめざめと泣くぞ。
いいのか? 実の息子だぞ。
でも本当に正論なだけに辛い。そりゃそうだよな……普通の人が貴族を見る時はたとえ末席であろうと、「普通に」色眼鏡をかけて見るだろう。いわゆる普通の職場で俺が働き口を見つけるのは難しい。
「レスター、交換条件といこう。サラク村の様子を見てきてくれればちょうどいい就職先を用立てよう。どうだ?」
「あまり軽く見ないでくれ父上。たかがドラ息子一人のために貴族の権力なんて使うなんて恥ずかしい真似をするわけにはいかないだろう。俺にだって矜持くらいある!」
「この辺が旧サラク村かぁ~」
3日後、俺は列車を乗り継いでサラク村の方面までやってきていた。
列車でほぼ丸1日以上、森の中を徒歩で更に1日ちょっと……僻地と言うにも生ぬるい、未開拓地も同然の土地だった。
管理されていないため草木は生え放題で半ば密林のような状態だし、もちろんまともな道だって存在しない。獣道はあっても凶悪な魔獣がうろついているのがわかりきっているため使えない、という……少なくともまっとうな人間が足を踏み入れるような場所ではないことは明らかだ。
矜持? 知るかそんなもの。犬にでも食わせておけ。まっとうな働き口の方が遥かに大事だわ。
人間、必要な時に頭を下げられる能力が重要だな!
まあ今は命が危ないのだが。
「しかしとんでもない土地だな……」
知識として知ってはいたが、実際に行くとなると大違いだ。
もはや命の痕跡も無い荒野、みたいなことになってるよりはいくらかマシだが、魔獣の奇襲なんかに常に警戒しながら進むというのはだいぶ神経を使う。師匠からサバイバル技術を教わっていなかったらもっと苦労していただろう。
(もうここまで来たら、道も無くなってるし村の跡地にも近づけなかったぞ、って報告でいいんじゃないか? 父上もそこまで期待しちゃいないだろうし……)
流石に俺も命は大事だ。「これ以上深入りするつもりならちゃんとした傭兵でも雇って出直した方がいい」というこれも立派な報告だろう。
というかこれが通じないなら出奔してしまおう。そうしよう。
もうちょっと先の様子を見たら引き返すとしよう、そう思って双眼鏡を取り出した時、爆発にも似た大きな地鳴りが足を止めてきた。
「うおっ……な、なんだぁ!?」
まだサラク村の跡地には距離があるはずなのだが、狩りにでも出かけた魔獣の襲撃だろうか。咄嗟に身構えたところで視界に入ってきたのは――上空に飛び出す、全身に装甲めいた甲殻を備えた狼だった。
距離があるため、幸いなことにこちらには気付いていないようだが、全身を血で染めたその姿は俺の知るどの魔獣とも異なる特徴を持っている。
(
自然とその名が頭をよぎった。
人魔大戦の折に生み出され、現在は違法とされる生物兵器だ。当時、研究所がどれだけ作られたかは定かではないが、高位魔獣の脅威からサラク村近辺に人が足を踏み入れる機会は極端に減っていた。この近辺にあったとしても不思議ではない。逃げ出してきた実験体、とかだったりしたら万に一つも俺に勝ち目は無いだろう。
「どう逃げるかな……」
あのキメラも、全身を血で染めているということはおそらくは魔獣と戦っているのだろう。タイミングを見ながらすぐにここを離れるしか無い。
再び森の中に身を沈めた巨狼を探すため、双眼鏡を前方に向ける。と、これまで続いていた鬱蒼とした森とは異なる、広い平野があった。
意外な発見だが……その中央部には、山か丘のように土が盛り上がっている。その中ほどに何らかの……魔獣の唾液などによる作用だろうか。出入り口がガチガチに固められた大穴が開いており、あれが魔獣大発生の大元――「災禍の洞窟」と呼ばれるそれなのだろうと察せられる。
見れば、その周囲にはおびただしい数の魔獣の死体が転がっていた。唯一残っているのは、円筒状の巨大なワームだ。街になんて出たら軍が総動員で対処するほど危険な魔獣である。そして肝心のもう一匹は……。
「……ん!?」
身を潜めて巨狼の姿を捉えたところで、信じがたいものを見た。
(子供!?)
その背に、10歳にも満たないだろう、褐色の肌をした幼女がしがみついている。キメラはキメラで、その子を振り落としたりするような様子は無い。むしろ体を揺らさないようにしたり、速すぎる足を緩めたりとなんとか守ろうとしているようにすら見える。
もっとよく見てみれば、幼女にはいくらか普通の人間と異なる特徴があった。桜色の髪をかき分けるように側頭部から生えた黒い角に、爬虫類のような尾……恐らくただの人間ではなく、竜人だ。
(知性があるのか……? 王都でそういう人型のキメラがいるとも聞いたことはあるが……)
巨体をうねらせ突撃してくるワームに対し、キメラは最小限の動きで横に躱すと、腰部に折りたたまれていたらしい「鎌」を展開して一刀のもと横腹を掻っ捌いてみせた。
体躯に対して小さな傷口にもかかわらず、ワームは幾度か体を震わせると数秒と経たずにその動きを完全に止めてしまう。
異様で血なまぐさい光景に息を呑む。毒でもあったのか? それとも何らかの魔法的な作用? いずれにしても、ほんの一瞬の交錯で巨大ワームを仕留めたのは確実だ。
――とんでもない場面に出くわしてしまった。
教本くらいでしか見たことのない高位魔獣と、それを一息に始末してしまえるようなとんでもないキメラの激突だ。その力の一端でもこちらに向けば、俺は瞬時にミンチと貸してしまうだろう。
普通に考えたら逃げるべきだ、が……。
(み……見過ごすのもちょっとな……)
あのキメラからは幼女を守ろうという意思がうかがえる。危害を加えようとしなければ、案外話が通じたり……しないだろうか。
好意的な見方とか希望的観測を通り越して楽観視が過ぎる気もしないではないが、少なからず人間に近しい価値観はあるはずなんだ。
警戒しながら様子を見守っていると、不意にキメラがその巨体を揺らし――その場に倒れ込んだ。
幼女だけは守るようにしているみたいだが、そのせいで自分の受け身が取れていない。更に次の瞬間、キメラの体の内側から赤黒い帯のようなものが飛び出し、その全身を縛って押さえつけた。
誰か近くにいて拘束魔法でも使っているのか? と思ったがどうも違う。帯によって縛り付けられた後、
十代半ばかもう少し下か、くらいの年頃の灰色の髪をした少女だ。守っていた子よりもいくらか年上だろう。全身を返り血に染め、
「どあっ!?」
下の方の兄ならもっとスマートに対応できるのだろうが、生憎俺はあまり免疫がないタチだ。思わず目を逸らしかけ――思いとどまる。
恥ずかしがっている場合であるものか。この危険地帯で、幼女を守り力尽きている。それを知っておいて見捨てるなど貴族の風上にも置けない、なんて父上に叱られかねない。
草むらをかき分け、広場の少女のもとへ向かう。恐怖はあるが、今は飲み込んでおいた。
「大丈夫か!?」
呼びかけに応える声は無い。死んでしまった……ってことは流石に無いだろうが心配だ。
脱いだ上着を少女にかけてやり、もう一人の幼女の状態を確かめる。ボロ布のようではあるが、こちらは一応服を着ているようでひと安心だ。
だが、意識はない。単に気を失っているのか衰弱しているのかも判断しなければならないし、手当の必要があるならそれも併せてどうにかしなければ。
「待て……!」
「うぃ!?」
そう考えて近寄ろうとしたところで、巨狼のキメラ……灰色の髪の少女がこちらを呼び止めてくる。キメラに特有の左右の色が異なる瞳が、しっかりとこちらを射抜いていた。
「私は……捨て置いてくれても構わないが……」
「へ?」
「どうかあの子は……人里に連れ帰り、普通の……」
「え?」
「暮らし……を……」
「お、おい、ちょっと、おーい」
困惑しているうちに、少女は再び力尽き、意識を失ってしまった。
どうやらこの言葉だけはなんとか他人に伝えなければ、という精神力だけで意識を保っていたらしい。
たったそれだけで肉体が精神を凌駕するとは、凄い奴だ。ただ……。
(スゲェ厄介ごとの気配がする……)
人が足を踏み入れられないくらいに廃村にはびこっていた魔獣を、たった
けど、だからと捨て置くのはやはり信条に反する。なんとか……俺にできるだけ、なんとかしてみるか。
「――――っ!!」
「あ」
三時間ほどが経っただろうか。魔法の光で淡く照らされた部屋の中、灰色の髪の少女が目を覚まして飛び起きた。頭頂部の耳――のような、甲殻に覆われた感覚器のようなそれがビンと上に跳ねている。
過度の疲労で意識を失っていたみたいなのに、よく起き抜けにああも機敏な動きができるものだと逆に心配になる。
「目が覚めたみたいだな。もう動いて大丈夫なのか?」
「え? え、ええ……」
「体の調子は? あんな倒れ方をしたんだから、良いということはないはずだ。もう少し横になっていた方がいいと思うんだが……」
「いえ、それよりも――」
気にしているのは幼女の方だろう。毛布にくるまって眠っているのを示すと、少女は安心したようにほっと息をついた。
肌の色も髪の色も違うが、姉妹だろうか? キメラにこういう理屈が通じるかは知らないが。
「――ありがとうございます。我々のような素性の知れない者を救っていただいて」
「その素性を知るためでもある。気にしないでくれ」
その場で跪き、深く頭を下げるその所作からは獣とは異なる確かな理性を感じられる。
最初からそういう知識が入っていたとしても、こうした礼儀というものは実践しないことには身につかないものだ。見た目通りとは最初から思ってはいないが、素体に人間の脳でも使っているのかな、これは……。
厄介ごとの予感に頭を掻き、息をついて気を取り直す。
「俺はレスター。しがない貴族の三男坊だ。君は?」
「貴族様でしたか。私は……クリスと申します」
「クリス……」
爺様の親友と同じ名前だ。大戦の英雄にあやかりたいっていうのと、男女どっちにも名付けやすいから一時期爆発的に増えたんだよな……。
邪悪な研究者界隈にもその波が来てるのだろうか。案外俗っぽいな。
「ところで、この場所はいったい……?」
クリスは周囲の土壁を見回し、困惑した様子で問いかけてきた。
無理もない。意識を失う前までは、建物の痕跡すら無いような場所にいたんだ。三人が雨風をしのぎながら休めるような場所に心当たりがないのだろう。
「そうだな――いつまでもそのままの体勢でいてもらうわけにはいかない。そこにかけてくれ」
「は……?」
跪いたままでいられるのも困るので、説明ついでに俺はクリスの前に土でできたブロック状の腰掛けを
直後、わずかに彼女のまぶたが上に持ち上がった。
「組み換え魔法……その場で住居を造り出したのですね」
「知ってるなら話が早いな。まあそういうこと……住居というか、穴蔵だけど」
手元に浮かべた土と石を揺らして示す。物質を操作して構造を作り変えるだけののごくありふれた魔法だが、特化すれば仮住居をその場で作り出すということだってわけはない。
俺は魔力資質が極端に大地の属性に偏っているようなので、師匠にサバイバル技術を教わった時に絶対に習得しろと念を押されてついでに仕込まれた。おかげで今回のサラク村への旅も、人里から遠く離れた場所にもかかわらず宿に困ることは無いし魔獣から逃れる術にも事欠かない。
この要領で、広場から少し離れた場所に穴を掘って仮拠点としているわけだ。
「食事は取れるか?」
「……分かりません。この3日ほど、ろくにものを口に入れられておりませんので」
無言で重湯を差し出した。
今までどのくらい食べ物を口にしていなかったのか分からなかったので、うちの領内特産の米を使ったおかゆを作っていたが、それでも胃が受け付けるか分からないレベルだ。
おかゆの上澄み液を取って、塩分補給を兼ねて塩を一振り。とりあえずはこれで様子を見よう。
……で、だ。
「クリスはなぜこの場所に?」
「……話せば少し長くなるのですが」
「構わない」
「我々は人間を材料に製造されたキメラのようでして」
「少し待ってくれるか?」
「え、はい」
目元を揉む。
いけないな。想定はしていたがちょっとヘビィすぎて脳みそにガツンと来た。
ちょっとね、準備が足りないところにこういう精神にクる話はダメだよ。辛いよ。
「続けて」
「あ、はい」
心の準備を整えたので話の続きを促す。覚悟してたら何でも大丈夫というわけではないが、軽減くらいはできるのだ。
無効化はできない。
「私とリンデ……あの子はそういうキメラで……」
「うん」
「地下にある研究所で造られたようなんですが」
「うん」
「この場合改造と呼ぶべきなんですか?」
「うん? え、いや知らない……」
「ええと……それで……」
説明が要領を得ない。
なんだかそういう妨害の魔法でも使われているのかと思ったが、どうやら別にそんなことはないようだ。これは、そう……。
「どこまで言いましたっけ……」
「地下の研究所で造られたと」
「あ、はい。何らかの意図があるとは思うんですが」
「今は製造者の意図は置いてくれる?」
壊滅的に説明がド下手……!
一見すると怜悧で、表情も大きく変わらず知的そうな外見のまま、死ぬほどぼんやりした説明を叩きつけてくる。誰か助けてくれ。
ともかく話を要約すると。
人間を素材に造られたキメラのクリスと
けど、長年施設が放置されてたせいで人もいないし食べ物も無い。キメラという生物は魔獣に近しいため、差別や迫害を受ける危険もあるので人里に降りることも避けたい。
だから危険を承知で地下研究所から魔獣の巣をそのまま突っ切って、人がいないだろう旧サラク村へ向かったのだという。
「……だいたい話は分かった」
余談に逸れるわ、互いの認知の差を考慮せずに喋るわ、順序立てようとしすぎて話が無駄に冗長になるわ……正確な意図を汲み取るのに苦労したけど、なんとか解読できた。
壮絶に過ぎる出自だ。あまりに出来すぎていてちょっと嘘じゃないかと疑いが顔を覗かせたが、村跡の状況とさっきの戦いを見る限り嘘と判断するのは難しい。やたらたどたどしいながら必死な説明も、嘘にも思えなかった。
まずは信じてみよう。父上も言っていたことだ。疑うのは簡単だが信じる姿勢を見せるのが大事だと。あと信じたとしても裏取りはしっかりやれと。後者は結果的にできてるから今は置いとく。
「まずクリスが危惧しているキメラへの迫害だが、今はもうほとんど無い」
「えっ」
で、まずは勘違いや互いの認識のズレを正していくところから始めていこう。
「40年くらい前にキメラ研究に法規制がかけられることになったんだ。その時に研究所も一斉に閉鎖するハメになったんだが……クリスたちみたいに、人間を素材にしたキメラも大勢保護されたらしい」
戦時は倫理観を度外視してでも勝たねばと考える人も多かったし、
で、戦後しばらく経って、流石にこの辺を曖昧にし続けるのはまずいだろうと両国で条約を制定。合同で調査機関を立ち上げて……という流れだそうな。
「魔獣混ざりだから当時は色々揉めたようだけど、色々あって人権を認めることになった。表立って弾圧したりするようなことがあったらその方が問題になるよ」
「えっ」
現に俺は特に忌避感は無い。
けど当時はそりゃもう荒れに荒れたと聞く。父上世代は当時の話をよくご存知だが、皆揃って苦い顔をしてるあたり結構なもんだったようだ。
ベースが魔獣であることも要因としては大きい。何かあったら暴走してしまうのではないか、という危惧も大きかったようだ。
しかし、暴走して犯罪に走るなんて普通の人間でも普通にありうることで、キメラだから人間だからと一口に括れないのも事実だ。そんなわけで色々議論があった結果、今はクリスが危惧するような状態ではないのだった。
「つまり……ここまで来たのは無駄足……?」
「…………」
何も言葉にはしないでおいた。
肯定しても……なんというか可哀想だし……。
「……60年誰も対処できなかったこの村の魔獣を一掃したのは快挙と言っていいと思うぞ!」
「50年も経っている……!!」
フォローのつもりだったのに逆になんだか落ち込んでしまった。正確に言えば「対処するだけのコストをかける理由が無いから放置されてた」っていうのを察されているのかもしれない。
というかやっぱり相当昔の人間だったしかなり明瞭に記憶が残ってるタイプのようだ。まあ数百年も放置されたりするよりマシだと思うよ。うん。
それにしても下手すると爺様と同世代か。ここ数十年で新しく確立した技術や常識も山ほどあるし、こりゃ相当苦労することになるぞぉ……。
そう思うと、自然と俺はクリスへ手を差し出していた。
「……ここで会ったのも何かの縁だ。色々と手続きも必要になるし、クリスたちさえよければ一度うちに来てほしい」
「えっ……よ、よろしいのですか?」
「元々、サラク村の調査のために来たんだ。俺としても、証人がいてくれる方がずっと心強い」
というかキメラの領民登録やら一時的な生活保障やら報告書の作成やら状況説明やら、こっちとしてはむしろ来てもらわないと死ぬほど苦労するんだよなぁ!!
この戦闘力の持ち主が自由気ままにあちこちウロウロするのも非ッ常~~~に困る。まかり間違って反社会勢力なんかに与するようなことがあってみろ。最初に見つけた俺の、ひいては領主である父上の責任問題になりかねない。何としてでも来てもらわないと!
「頼むぞクリス。本当に」
「……頼むのは私の方では……?」
あともう一つ大きな問題があってね。
一応クリスが殲滅したとは言っても、ここ超のつく危険地帯なんだよ。
生きて帰るには実力者の協力が……ね!!