まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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22.建築計画を策定しよう

 

 

 少しずつ陽が傾き始めた午後4時頃。ようやく復調したマリーを交えて、俺たちは災禍の洞窟出入り口の扉近くにある空き地に訪れていた。

 

「で、つまりレスターはここに行政の中心を置きたい――ということだね?」

「行政の中心……あー……でも、村長の家ってなるとそうなる……のかな?」

 

 やらないといけないことは多いが、村民が4人となって仮住居のままでいられなくなった今、新しく家を建てることは急務だ。

 で、分かりきったことだけど、ここでも新たに問題が立ち上がる。どういう家にしたいのかという根本的な、それでいて頭の痛い話だ。

 

「どんな家にする気なんだい?」

「そこなんだよな……」

 

 なにせ基準が無い。今後の展望も見えない。どういう機能を備えるべきかもイマイチ不透明だ。

 

「兄さまのおうちを参考にするのは?」

「あれは侯爵邸だからこそあれだけの内装や外観を備えていないといけないのであって、この規模の村の長があれだけ大きな邸宅を建てるべきじゃないんだよ」

「ふーん……」

 

 確かに一番イメージしやすいのは侯爵邸(じっか)だが、そのまま真似るんじゃ村の規模と釣り合いが取れていない。下手をすると顰蹙も買うことになりかねないだろう。

 とはいえ村の権力者なのだから、それなりの格や規模というものは必要で……うーむ。

 

「クリスはどう思う?」

「レスター様の個室があるならそれ以上は求めませんが」

「個室を要求するなら全員分要求してくれ」

 

 しかも俺かよ。普通に針のむしろだよ。

 

「そう言うレスターもちゃんと要望があるなら出した方がいいよ」

「って言ってもな……ああ、冷凍室や厨房、あと執務室なんかは欲しいな。資料室も……」

 

 それでいてマリーは個室、というか専用の作業部屋が欲しいとも言っていたはずだ。車椅子であることを踏まえると段差は極力無くした方がいいだろうし、階層分けするならやはり昇降機も必要だ。

 ……頭の中でこねくり回すだけじゃ形にはできないな。

 組み換え魔法によって石の机を作成。更に、土を用いてその場に建築物のミニチュアを構築していく。

 

「視覚的イメージがしやすいように、ここから肉付けしていこう」

「器用だねキミ……」

「材質もこれと同じように?」

「いや、本番はもっとちゃんとした材質のものを使うよ。あくまで便宜的なものだ」

 

 土じゃなくともちょっとしたセメントくらいなら組み換え魔法の効果範囲なので、本当に材質まで同じミニチュアも作ることはできる。しかしそのために一度セメントを作るのも手間だし、形ができるまではただの土で十分だ。

 

「というかレスター、建築知識まであるのかい?」

「学院で習った程度だよ。貴族の基礎教養だって」

 

 公共事業であちこち色んなものを建てていくことになるので、図面を読んだり引いたりできるだけでも違うんだそうだ。

 実際、俺も麻偵(しごと)で何度も役に立った。建てる方じゃなくて壊す方と侵入す(はい)る方だが。

 

「じゃあこの際遠慮なく案を出させてもらうけど、地下をワンフロア、丸ごと作業用に欲しいな」

「地下でいいのか?」

「生活スペースを侵食するのもいかがなものかと思うしね」

「なるほど……となると、そもそもの広さをどうするかも問題だな」

「目一杯とった方がいいんじゃないの?」

「庭くらいは欲しい……それに、来客も迎える必要があるから……」

 

 机の上にミニチュア置くだけじゃ広さが足りないな。机の上そのものを、周辺の立体的な地形図風に組み替える。

 どうせ予想図だ。いっそついでにメインストリートも敷いてしまえ。

 で、えーっと……敷地はこのくらい取るべきか。

 

「かなり……広いですね」

「こればっかりはどうしてもこうならざるを得ないんだ」

「客間や宿泊施設も必要なんじゃないかい?」

「そうだな」

 

 出された要望は拒否せず一旦全部形にしていく。この方式なら、どんな無茶でも「とりあえずやってみる」ということができるし、消費するのも俺の魔力だけで済む。いくらでもやり直しがきくのもありがたい。

 マリーも思っていたより建築分野に明るく、柱の位置なども的確に指示してくれるのでなお助かった。そうやって皆で意見を出しながら形にしていったところ――。

 

「ホテルじゃないか?」

「ホテルだね」

「高級宿泊施設ですね……」

 

 うーん……我ながら色々盛り込みすぎたかもしれない。

 客は来るだろうし、訳アリの人間も来るだろうし、せっかく昇降機もあるのだし……なんて理由を付けて部屋を増やしていこうとしてくと、今度は部屋足りないし階層増やすか! とか今度は生活スペースが足りないから地下に持っていこう! とか途中からちょっと楽しくなってきて誰も止めないし、むしろマリーなんてそこに乗っかってくるもんだからどんどんエスカレート。

 結果、出来上がったのがこの地上6階地下2階建ての狂った巨大ホテルである。

 

「兄さま、これもうちょっと横に拡げて高さどうにかした方がいいんじゃないかしら……」

「そ、そうだな。それは……そうなんだけど」

「村長の家だけあればいいという話じゃない。他にも必要な施設がいくらでもある以上、ボクらだけであまり広い範囲を占有できないのさ。利便性も落ちるしね」

 

 いっそ完全に総合施設にして家を別に建てる方がいいんじゃないかと思えてきたが、そういうのはもっと人がいないとただの無駄にでかいだけのハコが出来上がるだけだ。再利用も難しいだろう。

 

「ふーん。そういうものなのね……」

「感心したらボクのことも『姉さま』って呼んでいいよ?」

「マリーちゃん」

「どうして……」

 

 恐らく、打ち解けるために俺に対して砕けた接し方を要求してたのが原因にありそうだ。それに加えて初対面があんなだし、迎えにいった病院でもあんなんだった。

 今の段階だとマリーなりのすごさとか村に対する貢献とかを見せられてないから、平たく言うとちょっとナメてるんだと思う。

 その分心理的な距離はちょっと近いけど。

 

「しかし……どうなさるのですか? 土や石ではこのような高層建築はとても……」

「うーん……それは、そうだな。ただ、まったく不可能ってわけでもないが」

「ないんですか?」

「こう……」

 

 応じるようにミニチュアのホテルより大きめの石をドーンと置く。そのままパパッと内部をくり抜けば……まあまあ頑丈な石造住宅が。

 

「ここまでの巨大建築物を作るのにそれは無理があるよ」

「だよなぁ……」

 

 知ってた。

 それでも俺ができる中だと一番頑丈ではあるんだよ。とにかくデカい一枚岩出すの。魔力絶対に足りないけど。

 

「そもそもそんなに部屋とか機能とか要るかしら? もっと削ぎ落とした方がよくない?」

「一理ある。けど、俺個人は今後の村の発展には必要だと思ってる」

 

 石を砂に分解しながら考える。確かに一見バカげた建物だが、今後の村のことを思うと宿泊施設は必須だ。よっぽど事情があるクリスたちと違って、普通の人は移住するにあたって現地の下調べなどを行うのが普通なのだから。

 サバルの街まで行くと当然宿泊施設はあるが、列車の本数は少ないし、村までの道のりも片道20kmを超える。一度ここまで来てしまうと、サバルまで戻って宿泊施設を探す、という暇がなくなる可能性は高い。

 その上この村の料理人は俺一人。もてなしをするなら、できるだけ同じ建物内にいて手間を省いた方がいいわけで……。

 この先の展望を見据えていると、リンデはやや頬を紅潮させながら深刻そうに口を開いた。

 

後宮(ハレム)を……築くのね……!?」

「違うよ? お前そんな単語どこで学んだの?」

「通信書籍で読んだわ!」

 

 クッ! 検閲から漏れてたか!

 とはいえ全年齢向けの冒険活劇でもこの手の展開はよく見るからな。別に聖王国(スナイフェルス)地下帝国(シムゾニア)も禁じてるわけじゃないし、知り合いの貴族にも政治的意図から複数の妻を持つことになった人がいる。

 ……ま、逆に言うとそういう政治的意図に巻き込まれでもしなければ、複数人と婚姻関係を結ぶなんてこと滅多にないんだけどな。経済的にも圧迫されるだろうし。よっぽどの大貴族でもないと無理だ。

 その「よっぽどの大貴族」の父上や二人の兄上も妻は一人だ。こんなド田舎に赴任するハメになった俺に関しても、中央の政治からは遠く離れてるし……基本的に縁のない話だな。

 

「イヤン。囲われちゃう~」

「ありえないから安心しろ」

「そうやって断言されるとなけなしのプライドが傷つくねぇ!」

 

 仮にマリーが好みど真ん中だったとしても、この状態で囲うなんて弱みにつけ込んだ感しか無くて印象最悪。まず選択肢から外れるし、何より忙しすぎてそんなこと考える余裕がまるで無い。

 あとそうやってわざとらしくクネクネしてみせるのにピクリともこない。竜族で成長遅いせいか28なのにちんちくりんだし。

 

「それにしたって女の子に囲まれている現状に何か思う所は無いのかい?」

「そんな事考える暇があるなら仕事進めないと終わらない」

「世知辛」

「ごめん」

 

 ……とは言っても俺だって健全な男性だ。多少思うことはあるよ。それを追い出すために仕事に没頭している側面はある。

 ただ、それを差し引いても突如頭に浮かんでくるリンデの下ネタで萎え、心残りか未練でもあって現世に留まってるのか知らんが爺様の顔がちょくちょくよぎって萎え、麻偵時代の嫌な思い出がフラッシュバックして気分が落ち込み……思い返すとロクでもない脳内だ。

 いや、そんなことはいいんだ。

 

「話が逸れた。確かに家として変なんだけど、じゃあいっそ本当にホテルとして運用するのはどうだろう?」

「き、奇抜な発想……どうしてそんなことを?」

「理由はいくつもある」

「いくつ『か』じゃなくて『も』と来たか。話してみてくれる?」

 

 話す……のは構わないが、視覚的にわかりやすくしたいな。

 その場に黒い石板を出現させ、石灰を生成。ここに図を書き込んでいく。

 

「図もつけて説明しよう」

「また器用なことを……」

 

 ボヤきながらマリーはタブレットを取り出し弄り始めた。時折こちらに視線を向けたり頷いたりしているので、恐らくちゃんと聞いてはいるのだろう。

 ともあれ、利点として分かりやすいのは、宿泊施設である点だ。観光や仕事といった個人的な用事にせよ、移住前の下見にせよ、客の受け皿というものは絶対に必要だ。軒先を貸すというのではなく、ちゃんと「宿」という業態があれば利用料も見込めるし、雇用も生まれる。

 また、施設としてレストランや公衆浴場、土産物屋などを併設すれば、宿泊以外を目的とした広い客層を望めるだろう。住民が増えたら利用者も出てくるだろうし、それほど悪い案でもないはずだ。

 

「だったら家とは切り離すべきじゃないかな?」

「職場と生活の場を切り離すべきっていうのはそうなんだけど、土地を占有しすぎるのはあまり好ましくない」

「……農地の問題か」

「うん。土地そのものは……開拓さえすれば、って部分はあるんだけどそれが難しい」

 

 言ったところで、遠くから高位魔獣の咆哮がギャオンと響いてきた。

 あの中に突っ込んでいって開拓を進めるってなると……なぁ。

 クリスがいる以上無理ではないんだけど、対処してもらわないといけない範囲が広すぎるし頭数も足りない。せめて狩猟組合に話を通して、狩人を派遣してもらえたら状況も違うのだろうが。

 

「隣街に食料を買いに行けばいい、という理屈で安易に済ませられる距離じゃないしね」

「ああ。二人は何か意見はあるか?」

「ううん。建物のことはよくわからないから」

「申し訳ありません。私も経営などは……」

「いや、構わない。また何か不便があれば言ってくれるか?」

「はっ」

 

 ……と、もしものことを語っているように見えるが実際のところ、この9割勢いと思いつきでやってる家作り、不便が出て当たり前だとしか言いようがない。

 が、俺の組み換え魔法で石や土、コンクリートといったものはある程度自由に動かせるので、一度組み立て終わった建築物でも増改築は比較的簡単にできる。

 今更ながら、これ習得しといて本当に助かったよ。業者呼んでもいいんだけど、やっぱり効率が段違いだ。

 

「とりあえずこの方針で行こうと思うけど……そろそろ日が暮れそうだな」

「すまないね。ボクがお腹いっぱい食べたばっかりに」

「ホントだよ」

「否定しておくれよぅ」

「マリーちゃんが食べすぎたから作業が遅れたの事実じゃない」

 

 今そのことで謝ったのよね? とリンデは正論を叩きつけて首を傾げた。

 ……まあ、気持ちはちょっと分かる。フォローしてもらえる前提で謝罪するやつ。こんな風に相手によっては普通に叱られることもあるんだが。

 声音から察するに本人も別にそんな期待してたわけじゃないみたいだしいいだろう。

 

「まあ、アレだ。仕事ぶりで汚名を返上してくれると信じよう」

「その通りだとも。ボクもただ無駄にお腹を痛めて寝てたわけじゃ――あるんだけど」

「せめてそこは無いと断じていただきたい」

「それが、できようが無いんだよ。さっきまでこのホテル兼住宅の構想なんて形も無かったんだからね」

「む……」

 

 これにはクリスも反論できなかった。新しく家を建てよう、という話はしていたが、大きさも敷地も何もかも定まっていなかったのは事実だ。図面の引きようもないし、作業も何もあったものではあるまい。

 ……食いすぎるな、という話でもあるが。

 ともかくマリーは得意げに笑い、先程までいじっていたタブレットをこちらに見せた。

 

「けどね、コンセプトさえ定まれば話は別だよ。さっきレスターが説明している間にボクの方で図面を引いてみたんだ」

「見せてもらってもいいかな?」

「今タブレットに送るよ」

 

 スイスイと淀み無い操作で一斉送信されてきたものを見ると、なるほど。ごく短時間で書き上げたようには見えないほどまっとうによくできてる図面だ。

 さっき指摘してもらったように柱の位置や隠し方なども――専門外だから断言はできないが――よくできているように見える。

 クリスは図面の見方が分からないようで、画面を見ながら額に冷や汗が浮かんでいた。

 

「よくこの短時間でここまでのものを仕上げたな……」

「フフフフ! もっと褒めていいよ」

「流石! 素晴らしい! 天才!」

「ワハハハハハ!」

 

 滅茶苦茶調子乗るじゃん。おもろ。

 まあ、実際俺はこんな素早く図面引くようなことはできないだろうから、本当にすごいのは間違いないんだ。

 この後引きずって増長するような雰囲気でもないからひとしきり調子に乗ったらそのうち落ち着くだろう。

 多分。

 

 

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