まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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23.地の魔法

 

 

「――さて」

 

 調子に乗って高笑いし通したマリーは、気を取り直してひとつ咳払いをした。

 頬には薄く朱が差している。流石に調子に乗りすぎたと反省しているらしい。

 改めて、こういうところで増長して傲慢に振る舞うような人格ではないようで良かった……ということにしとこう。

 

「図面が定まったところで、早速作業に入りたい。構わないかい?」

「待て。結局建材についてはどうする気なのだ?」

「それは後のお楽しみってことで」

「モノ次第では私が採取に向かわねばならないのだが」

「ああ、大丈夫大丈夫。どこにでもあるような普通の素材しか使わないよ」

 

 図面をもう一度見るが、普通の素材しか使っていないのは確かだ。確かにクリスの力はそれほど必要無い。

 ……いや、全く必要無いなんてことは無いが。建築作業するのに魔獣の接近は警戒しないといけないから。

 とはいえ、ここから重要になるのは俺と――マリーの扱える魔法だろう。

 

「そういえば地下も作るのよね? 洞窟の空洞に行き当たったりしないかしら」

「計算はしてるよ。一度掘り進めてみないと分からない部分はあるけど、だいたいは大丈夫なはずだ」

 

 そんな数メートル掘った程度で空洞に行き当たったりするなら、もっと早くに判明しているはずだ。

 以前の調査の時も、そこまで建築に影響するものは見つけられていない。完璧に断言できるわけじゃないけどな。目立たない細い横穴から繋がる空洞、みたいなものはあの時点では分かりようが無いから。

 

「でもよく気付いたな。偉いぞ」

「えへ。そんなに褒められるほどのことじゃ……」

「……どした?」

「褒め殺しにして好感度を稼いで……どうするつもり!?」

「素直に褒めさせてくれよ」

 

 ほんっっっとマジこいつよぉ……。

 建築分野の知識も皆無なのに地盤調査の必要性に気付いたのは聡明と言っていいのにさぁ……。

 

「レスターとリンちゃんさ……いつもそのやりとりしてるの……?」

「え、うん」

「割と」

「疲れない?」

 

 疲れたような俺の顔を見かねたのだろうか。マリーがそんなことを聞いてくるが、こちらの返答は曖昧に濁した笑みだけだった。

 じゃれついてるだけだとは思うんだけどね。一方でなんかこう、この頭真っピンクの小娘が……って気疲れも否定できなくてね……。

 でも公の場ならともかく、身内しかいないこういう場で強く注意してもなんだし、もしこれが本人にとってストレス解消の手段になってたら止めすぎるのも……ってさ……。

 

「気を取り直していこう」

「え、あ、うん。うん? いいのかな……?」

 

 いいの!

 

 なにはともあれ作業開始だ。

 ここからここまで、と敷地を定め、そこに沿って地面を削り取りくり抜いていく。今回は基礎から作る必要があるので普通よりも更にもう少し深く掘る。

 

「うちには土木作業用のゴーレムはいらないね。レスターがいる」

「普通に疲れるから余裕があるならゴーレム使ってくれ」

「いや、でもさ……」

 

 マリーは次々と勝手に――実際は俺の魔法によるものだが――運ばれていく山のような土砂を見て顔を引き攣らせた。

 ……言わんとすることは分かる。俺もちょっぴりそう思う。

 けど、建築ってそういうものじゃないから……今は必要だからやってるだけで、本職がいるのならそちらに任せたほうが確実だろう。何より村長が仕事を斡旋するんじゃなくて奪ってどうするんだ。

 

「魔力で『作り出す』『発生させる』んじゃなくて『操る』からこそできる芸当だよ。俺は異邦人(ストレンジャー)ほど無法なことはできない」

「すとれ……そういえば何気なく使ってるけどこれどういう人?」

異邦人(ストレンジャー)――ボクたちと『違う場所』から来たとされる人々の総称だね。特別な知識や特殊な能力を持っていて、度々国の繁栄や滅亡に関わっていると言われているよ」

「国の興亡って言われると流石に眉唾だがな……何なら探したらその辺にいるぞ」

 

 有用な知識を備えていたり、特別な才能を持つ異邦人(ストレンジャー)が多いのは事実だ。が、別にそれをひけらかすようなこともせずに普通に暮らしている者も多い。だいたい大きな街に行けば一人二人はいるだろうという塩梅だ。

 何ならアシュクロフト家(うち)の祖先もそうなんじゃないかと言われてることがある。希少性としては……どうだろう。学院の庭に犬がたまに入ってきて学生に眉毛描かれたりしてたが、あんなもんだろうか。

 まあいるよな、と俺たちが呑気に話す一方、クリスは少し複雑そうな雰囲気だ。

 

「クリス、昔何かあったりしたのか?」

「いえ、私個人がというわけではないのですが……当時はなかなか、王国軍が困らされたことがあったな、と……」

「あー……」

 

 まあ、別に皆が皆善良でも大人しいわけでもないしな。人間なんだし、中にはアレな人もいるだろう。

 と、そんなことを話している間に土砂の運搬も終わり、その場に巨大な穴がぽっかりと開いた。だいたい計算通り、やはり空洞に行き当たってまではいないようだ。あとはここに基礎を作り上げることになる。

 

「さて、ここでボクの出番だね!」

 

 満を持して、とまでは言わないが、ここでマリーがようやく前に出た。

 今回の工事では俺に並んで最も重要と言える人材である。

 

「何をする気だ?」

「クリス、キミたちは鉄筋コンクリートというものを知っているかい?」

「……いや」

 

 鉄筋コンクリート……そういえば割と最近確立された技術だったかな。少なくとも、戦前からあったという話は聞かないし、クリスたちは知らないんだろう。

 

「すごく簡単に言えば、骨組みとして鉄を用いたコンクリート建材だな」

「頑丈だし、石材や木材では形作れない自由な曲線も表現できるのさ」

「で、その鉄は?」

 

 そんな疑問にマリーはまってましたと言わんばかりに指を鳴らし、魔法を発動させた。

 

「む……」

 

 整えた穴に、魔法を用いて作り出した液状の金属がドロドロと注がれていく。

 俺も思わず小さな声が出た。かなりの魔力量だ。鉄――特に精錬されたような純度のものをあれだけ生成できるというのは驚くべきことだろう。

 瞳の色も赤みがかっているし、火炎に関する魔力資質も備えていると見ていいかもしれない。

 さて、だったら俺も今の内にと少しその場を離れて、洞窟出入り口に置いておいたものを取りに向かう。

 

「ボクは()()()()()が得意でね、魔道具を作るときにも……ま、あっちはもっと精密にやらないといけないから話が別か」

 

 続いてマリーが行使するのは、俺のそれと同じ組み換え魔法だ。

 溶けた鉄が、設計したとおりにグネグネと姿を変え、みるみるうちに建物の骨組みを形作っていく。クリスとリンデはポカンとした様子でそれを見守った。

 そうして数十秒ほど。俺たちの視界には、地上6階地下2階の巨大建築物の骨組みと、魔力がほぼ枯渇して肩で息をしているマリーの姿だった。

 

「死にかけてる!」

「まあ……これだけやったらな……」

「組み換え魔法の消耗は基本少ないはずでは?」

「と……途中途中で足りない分を継ぎ足ししていったのがよくなかったね……」

 

 どうやら単純に目算を誤ったらしい。

 ここまでの高層建築を個人で作ろうという人間もそうはいないだろうし、まあ仕方のないことだろう。俺も正直、あのくらいで大丈夫だろうと思ってたし。

 

「無理をさせてしまったようで申し訳ない。何かしてほしいことがあったら何でも言ってくれ」

夕食(おゆはん)大盛り」

「懲りろや」

 

 お前それでついさっきまでダウンしてたんだぞ。

 なんならそのうち腹はち切れて死ぬぞ。

 

「美食で死ぬならそれはそれで本望……!」

「ちょっと分かる」

「クリス!?」

 

 いらんところで同調しやがってこいつ……!

 

 さて、ともかくこうなると次は俺の番だ。と言っても、人間としては普通かやや多いくらいの魔力量しか無い俺ではマリーほどの無茶はできない。

 簡易住居を建てたりできているのはあくまで土という媒介があるからこそだ。0から10を創り出すのは難しい。しかし、既にある10を分割したり移動させたりというのは比較的簡単だし効率も良い。

 

「というわけで、こんなこともあろうかと用意していたんだ」

「え、何それは」

 

 洞窟の出入り口付近、小高い丘のように隆起している場所に転がしておいた白いキューブ状のものを大量に手元に呼び寄せる。

 だいたい2m四方で、それが10個ほど。続々と積み上げては分解し、白い粉に変えて水と混ぜていく。

 

「今後サラク村に来たいって人がいた時のために……住居用のセメントを固めて用意しておいたんだ」

「買ったの?」

「いや夜なべして作った」

「マメなことを……」

 

 魔力は一度消耗したとしても、休めば多少なりとも回復する。これを利用し、書類仕事がメインの日にあらかじめ作っておいたのだった。

 空き家か何か建てたり水路の整備などにも使えるので、作りすぎたとしても問題はない――と思っていたら、思ったより出番が早く来たのだが。

 

「こいつを分解して水を加えて溶かせば最低限の量にはなるはずだ。日が落ちきる前にやってしまおう」

「わぁ頼もしい」

 

 若干引きぎみでも評価されるというのはなんだかんだ嬉しいものだ。思わず「任せとけ」なんて言って指を二本立てて調子に乗ったりなんかして、俺も作業に取り掛かった。

 

 そして数分後、俺も魔力がほぼ枯渇して倒れた。

 

「死にかけてる!」

「レスター様ー!?」

「普通に足りなかったね……」

 

 残念なことにこれだけの高層建築だと普通にセメントの量が足りなかった。

 それでもできれば今日中にカタをつけたいと思って少し無理をしたのが良くなかったんだろうな。

 あと水が混じって流体になってるから組み換え魔法の魔力効率的にあまり良くなかった。俺のは土や石特化なんだ。

 

「ていうかドロドロの状態だけどアレいいの!?」

 

 で、だ。セメント……コンクリートというのは硬化しないと泥のような状態で、放置しておけば勝手に流れていってしまうことになる。

 粘性もあるから必ずしも全部流れていってしまうわけじゃないけど、普通は型枠などを用いて固定する必要がある。更に、木槌などで叩いて内部の水分や気泡を追い出すのだが、これは組み換え魔法でクリアしているとして――。

 

「ホイ」

「あっ」

 

 ちょっぴり回復したマリーが引き継ぐようにして指を鳴らし、コンクリートはその場で瞬時に硬化した。

 

「状態の変化を操るのは『地』に属する魔法の初歩だよ、リンちゃん」

「そうなんだ……」

 

 師匠に言わせてみれば「地属性は食いっぱぐれが無くて羨ましい」とかなんとか。

 実際、建築に関してあまりにも便利が過ぎるからな。

 俺は一人だったせいでエラいことになってるが、もう少し人数がいればせいぜいちょっと疲れる程度で済むだろうし。

 

「ええと……ともかくこれで新たな拠点が完成したわけですよね?」

「え? いや、まだ三割くらいだけど……」

「えっ」

 

 肩を貸して起こしてくれたクリスの疑問に応じると、わかりやすく瞳孔が収縮した。

 何せこれ、ガワができた……どころじゃなくて骨組みだけできたようなものだからな現状。

 

「次は内装を整えないといけないし、トイレや風呂も必要だろう。それぞれの部屋に扉を設置する必要もあるしコンクリートのままだと危険だから、場所によっては絨毯なんかを敷く必要もある」

「日光を地下に取り入れる設計になってるから吹き抜けにガラスも張らないとね。外壁も塗装が要るし、内壁もあんな灰色の味気ないのじゃなくて壁紙を貼って、調度品も揃えないと」

「兄さまもマリーちゃんも一旦満足しとこうよ……」

「この状態で満足してたら村の復興は遠いぞー」

「復興の前にご自愛ください。あなたが倒れたら村は終わりです」

「大げさな……」

「本気です」

 

 そりゃ村長としての執務があるからとは思うが、やろうと思えば今首都の方にいる下の兄上に頼んで引き継げばなんとかなるだろう。

 ……そうは思うのだが、クリスの表情が真剣だったので茶々を入れるのはなんとなくはばかられた。

 

 

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