まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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24.村に足りないもの

 

 

 なんやかんや骨組みだけ取り繕うことに成功したこのホテルだが、そのコンセプトのひとつは「色々な機能を集約してみよう」というものだ。

 宿泊は元より、レストランに浴場、土産物屋、魔獣素材収容のための冷凍室を上層階に。地下には生活スペースとマリー要望の作業スペースだけでなく、仕事のための執務室や図書室、倉庫などの機能を詰め込んでいる。

 ……正確には詰め込もうとしている、か。将来的にそうしようという予定のためにスペースだけ設けたような状態だ。内装も外装も整っていないし、水路とも繋いでいない。トイレだってろくに機能してない。このあたりのことはこれからの課題になるだろう。

 

「ホテルとして開業していくにあたって、足りないものがあると思わないかい?」

「家具」

「従業員」

「そ……それは実際その通りなんだけどニュアンスが違くて……」

 

 レストラン――は、まだ完成してないので、地下の居住スペース。

 前の仮住居から運び込んだ食卓を囲みながら、朝食ついでに本日も村作りの相談……のはずなんだが、なんだかそこに行きつけなくなっていた。

 マリーは助けを求めるような視線を向けてきた。つまりもうちょっと抽象的な、それでいて村の運営に関わる話か……。

 

「この村には分かりやすい魅力が足りないって話で合ってるか?」

「そう! そういう話がしたかったんだよボクは!」

「クリスたちの話もあながち間違ってないが……」

「そっちは今すぐどうこうできそうにないからね、お金かかるし」

 

 この辺りはどういう方向から人を呼ぶか、だな。

 自発的に移住しようって人がいてくれればそれが最高だけど、少なくとも現在のサラク村に人が来る理由が無い。

 知名度ゼロ、魅力ゼロ、危険度マックス。なので客が来ることすら正直想定の外だ。

 以前、うちの使用人に報酬上乗せして働きに来てもらうという手段も使ったが、これと同じ手を使うことも考えられる。

 いずれにせよ金が必要になるから、今すぐどうこうできる話は無いんだなこれが。

 

「人を呼び込むための手段を先に定めてから、村作りに取り組むべきだと思うんだよね」

「自然な状態で人が来る方がいいのではないか?」

「クリスは純粋だね~」

「なっ……なんだ、バカにされているようなにおいを感じるぞ」

 

 嘘だけじゃなくてそっちの嗅覚も鋭いようだ。

 もっとも、マリーも本当にバカにしているわけではあるまい。若干生暖かい感情はあるようだけど。

 ここは辺に勘違いされてこじれるより前にフォロー入れとくか。

 

「理想論としてはクリスの言う通り自然な状態で人が移住してきてくれるのが最良だと思う」

「で、ですよね」

「ただ、それでも今は、サラク村の評判……いや、知名度に問題がある。そもそも復興しようという動きがあること自体が知られていないんだ。村が存在するという認識も無いのに、移住者が現れることがあるか?」

「それは……確かに……」

 

 まあ評判もクソも、一歩踏み入れたら命の危険がある死と隣合わせの危険地帯というのは純然たる事実なんだが……。

 俺たちはクリスが頑張ってくれるおかげで割と呑気に過ごせているが、依然として一般人が遭遇したらまず死ぬってくらいの格の魔獣は普通にその辺をウロウロしている。

 駅から距離もあるからここまで来られる人間もまずいないし、「いつも通りの生活」なんて見せられる機会は滅多なことじゃありえないわけだ。自発的に調べようって人もまずいないだろうしな。

 

「まず、村の復興を進めてることを知ってもらう必要がある。人も呼び込んで、村の良さというものを広く知ってもらわないといけない。自然に人が入ってくるようになるというのは、知名度が高くないと成立しないんだよ」

「兄さま、そういう……勝手に人が入ってくるみたいな実例ってどんなのがあるの?」

領都(エウテルペ)かなぁ……侯爵領一番の都市で、とりあえずここに行けば食いっぱぐれないって皆が思ってる。人の行き来も活発だ。勝手に人が来ると言えば、あとは王都もそうか」

 

 何の宣伝もしなくとも勝手に人が来るって場所はそう多くない。

 元から有名だったり、それ相応の大都市……交通の便が良いような場所がそうだろうか。

 

「ま、ボクもレスターも意見はほとんど一緒だよ。『そのまま』じゃちょっと無理でしょ、ってハナシ。ワイルドすぎるもん」

「クリスが故郷のことを誰より想ってるのは知ってる。飲み込み辛い話かもしれないが……」

「い、いえ、そういうつもりでは!」

 

 わたわたと、せわしなく手を動かすクリス。普段は落ち着き払っているので、多分今は相当慌てて言葉を探しているんだろう。

 悪感情があるわけではない、と表明したいんだと思うが……それはそれとして、俺は脳の回路をちょっぴり切り替えた。

 これは解読が必要なやつだ。

 

「私の生まれ故郷は確かにこの村なのですが、実は滅亡して以降は首都の方で世話になっていまして」

「え? あ、うん」

「当時は両親も亡くなっていたので、あ、村の者全員亡くなっているのですが、孤児院に入ってて――孤児院というのは教会の運営しているもので、そこでお世話になっていたのも二年ほどで」

「……ん? 何の話?」

「村が滅びた当時が7歳、2年後に9歳になった時に色々あって軍に入ることになったのですが」

「いや、本当に何の話!?」

「姉さまは説明が壊滅的に下手なのよ」

「いきなり過去語り始めたと想ったらこれ説明だったの……!?」

 

 フフッわけわかんねえだろ。でもこの支離滅裂な説明のような過去語りのような何かにそこそこ重要な情報が入ってるから聞き流すわけにもいかないんだよ。

 で、ともかくマリーたちが半分くらい聞き流した話を軽く要約すると、だ。

 

「村が滅びる前の光景が今でも頭に残ってるから、その印象のまま『自然な状態で』という話をしちゃったんだな?」

「はい、そうなります」

「そういう話だったのォ!?」

 

 どうやったらこんな下手な説明ができるんだと言わんばかりにマリーが困惑の視線を向けてくる。

 原因……うーん……あえて理由を挙げるなら……時代が悪いんだよ。

 さっきのとりとめない話を分析するに、村が滅びた60年前の時点で7歳。9歳くらいの頃に人生を一変するくらいの()()()があって軍に入隊したようだから、基礎学習を受ける暇もあったかどうか……。

 とにかく、クリスの説明が下手なのは、有り体に言うと学がないせいだ。

 本人の礼儀はしっかりしているだけに、このあたりの歪みは特に際立って見える。

 色々な部分を憂慮していると、ふとマリーがこちらに近付いて耳打ちしてきた。

 

「あとさあ、レスター? ……ボクが言いたいこと、分かるよね?」

「『村の生き残り』って話だろう」

「……だよね?」

「確証の無いものを暴く気はない」

 

 流石にマリーも話を聞けば可能性には行き当たる。

 けど、なぁ。本人が嫌がってる話を俺が訳知り顔で語るっていうのもどうなんだ。決定的な証拠があるわけでもないし……推測自体はしてもいいけど、それを伝えて外れた時は赤っ恥だぞ俺。

 

「クリスって名前もそうだし武器もそうだし……性別違うこと除けば英雄本人じゃないのこれ?」

「本人には言うなよ。忘れたがってるのか過去を捨てたがってるのか分からないけど、この話しようとすると妙に渋い顔するから」

「難儀だね~……まあ、嫌がらせを進んでする気は無いからいいけどさぁ」

 

 神器継承者のクリスって男だったはずなのにここにいるクリスは女という問題とか、遺体をどうやって回収したのか問題とか色々あるので、確証の有無以上に歴史の闇に踏み込んでこれ以上頭を悩ませたくないというのもある。

 ただでさえ村のことでいっぱいいっぱいなのにこの上更にとなると脳が熱で茹だりそうだ。

 

「よし、一旦村作りまで話を戻そう。クリスの話は大事だけど、本題からは逸れてる」

「申し訳ありません」

「ま、つまりだ。独自の魅力が欲しいんだよ。他に例を見ないほど珍しいものじゃなくてもいいけどね」

 

 本日の朝食、キノコのクリームスープに浮かんでいるシメジを嫌そうにつつきながら、マリーはそう告げた。

 キノコあんまり好きじゃないのかもしれん。覚えとこう。

 

「それってどんなの?」

「分かりやすい例だと温泉とか観光地かなぁ。独特なランドマークなんかもあると人が来やすいね。高層タワーとか城とか、地下帝国(シムゾニア)だと巨大キノコの街とかあったね」

「キノコの……キノコ……街……!?」

「マジやめろお前、最悪名誉毀損だぞ」

「ごめん」

 

 帝国は地下にある関係上、場所によってはまともに野菜が育たなかったり、人工太陽の光が届かず常に薄暗いような土地もある。巨大キノコで有名なのはそういった場所だ。

 ……が、俺は知っている。リンデのアホな下ネタが今回は半分くらい正解なことを。

 こっちでもそこそこ有名なんだよ。巨大キノコを利用して作り上げた一大風俗(あはん)施設……。

 帝国からの留学生の持ちネタだったせいで嫌でも覚えてしまっている。元気してるかな殿下。

 

「じゃあここでも温泉掘る?」

「先に空洞に行き当たるのがオチだね、流石に」

「山2つ越えたところに、領内でも有名な温泉街がある。温泉を引くこと自体に文句は無いけど、競合相手が近くにいるのは厳しいな」

 

 要素としては面白いけどな。温泉「も」良かったという話になれば評判にもプラス材料だ。

 ただ、それだけが売りになってしまうとどうもな……列車に限らず、今は移動手段も発達しているから、わざわざここまで来るより温泉街に行ったほうがいいと判断されてしまいそうだ。

 

「でしたら……塔……? などでしょうか……」

「観光以外に建てる目的はあるかい?」

「目的? ま、魔獣の監視用……?」

「それはそれで別個に必要だからいずれ建てよう。ただ、これは生活に必要な施設であって村の名物とか観光施設として取り扱うのはまた違うな」

「そうですか……」

 

 建築物というのは建てたらそれが名物になるのではなく、歴史や背景があるからこそ名物になっていくというのが実情だ。

 塔、という括りで見ても、「前大戦で使われていた」監視塔だとか、「世界一の高さを誇る」塔だとか、人々が見に行きたいと感じるような情報が必須だ。

 箔付けのために過剰に宣伝をするという手もあるんだけど、これをすると実態が知られた時の失望が大きいし、親の仇かのように嘘が嫌いなクリスが嫌がることだろう。

 

「レスターも何かあるだろう」

「断定するのはやめてくれ」

「でも何か考えてるのは事実だろう? ボクそういうの分かっちゃう」

 

 椅子の背もたれによりかかって体を預ける。

 言ってもいいものだろうか。そもそも俺自身が一度否定していることだ。

 それに、問題なのは俺が言うことならだいたい何でも聞いてしまうクリスだ。場合によってはかなり負担が増してしまう。こういう案を出してもいいものか……。

 いや、意見を取り入れやすい今だからこそ聞いておくべきか。

 

「――魔獣肉を使ったレストランと、魔獣素材の売出し」

「……あれ? 兄さま、それ前にダメだって言ってなかった?」

「ダメ……というか、良い点と悪い点があるっていう話だな。村の収入をそれ『だけ』に頼るのが良くないって話でもある」

「安定供給さえできればこれ以上の武器は無いと思うけどね」

「そこが問題なんだよ……」

 

 野生動物を相手に「安定」なんて言葉は全く意味をなさない。

 ……いや、クリスがいるなら、そもそも狩り尽くすことを心配しないといけないかもしれない。どちらにしろ「安定」とは程遠い。

 

「それにクリスにかかる負担も大きくなる」

「私は多少の負担は気にしませんが。あ、いえ。レスター様の護衛ができなくなるのは」

「それは一旦置いといてもらっていい」

「そんな」

 

 最悪、あの時の暗殺者が変なことを仕掛けてこないとも限らないが、対処はできる程度の自信はある。

 俺も元は密偵の端くれだし、暗闘は得意だ。二重の意味で。

 なので、少しの間外に出てもらうくらいなら許容範囲と言ってもいい。

 

「野生動物相手なのがとにかく難しい。特別メニューみたいな形で提供するならともかく、常設するのは非現実的だ」

「そうかなぁ。ボクはもうちょっと違う意見だけど」

「聞かせてくれ」

「帝国は魔獣の家畜化に成功してるんだよ」

「なん……だと……?」

 

 嘘やん。

 思わず頭が真っ白になりかけた。貴族教育受けてなかったら今俺「なにィ!?」とか叫んでたぞ。

 

「俺の認識が正しいなら、魔獣の家畜化は成功していないはずだが」

「何事にも例外はある……っていうか、本当にある種の例外だからね。特定の地域でのみ、ある個人だけがそれを成し遂げてる。『技術』と体系化するのは不可能だから公開はされてないってことさ」

 

 ホタルモグラという――と、マリーはタブレットを机の上で滑らせた。

 見れば、牛ほどもある巨大なモグラが地面に横たわっている画像のようだ。臀部が淡く光っており、これが「ホタル」の由来だろうと察せられる。

 

「モグラなのよね? 地面掘って逃げない?」

掘削(ディグ)ワームと同じで一定以上の硬度があると掘れないんだよ。それに、基本は群れで行動する魔獣でね。ひとつの場所に居着いたら、食べ物がなくなるまではなかなか動かない」

「おおらかな生き物だな。外敵はどうするのだ」

「仮にも魔獣だよ。群れの力で囲んでボコボコにするんだよ」

 

 牧歌的な名前に反して戦術がガチガチすぎる。

 

「ただ、同種の放つ光以外を極端に嫌う性質があるんだ。魔灯(ライト)の光を当てたらショック死する個体もいるくらいに」

「繊細すぎる……」

 

 よく種として立脚できてるな。

 いや、それもあるいは生存戦略か? 野生動物は臆病なくらいが生き残りやすいとは言うし……。

 

「そんなわけで、ほぼ常時エサを供給できること、暗闇の状態を維持し続けること、外敵と認識されない上で仕事を済ませること――このあたりの条件を完璧に満たして初めて魔獣の畜産に成功したというわけだね」

「めっっちゃくちゃ大変なのね……」

「だから年間数頭しか卸せないんだってさ。卸先も帝室だったり高級レストランだし、一頭あたり数千万の値がつくこともあるそうだ」

「そうか……それで?」

「それでって?」

「あなたはうんちくを披露したかっただけなのか……?」

「あ」

 

 クリスの指摘に、いや違う違うとマリーはタブレットの画像をスライドさせていく。

 発明品発明品キメ顔のマリー発明品何かの回路国家機密キメ顔のマリー。一部は見て見ぬふりするが、自撮り多いなこいつ。友達いないのに。

 ……いや、そのことは触れずに置くとして。しばらくすると目的の画像に行き着いたのかマリーはこちらに画像を見せてきた。

 

「……つまり、ここでも畜産をすればいいと思うんだ。それができる人材はいるからね」

「これは?」

「ヤギか」

「そう。爆弾ヤギという」

「ば、爆弾?」

「爆弾」

 

 物騒な名前をしているが、実際に見た目もだいぶ物騒だ。

 全体的にヤギとは思えないくらいムキムキだし、半身が煤けたように黒い。確かに爆撃でも食らったような見た目だが――原因は、頭部にある肥大化した角だろう。

 一見して分かるほど、油を塗りたくったかのような鈍い輝きがある。大小さまざまな傷も見受けられるし、名前の如く実際爆発したようだ、これは。

 

「見たところ、角が爆発するタイプの魔獣みたいだな」

「何それ……えっ、これ体中焦げてるの?」

「角から揮発性の高い油を分泌しているのさ。魔力の込められた角が何かに激突すると火花が散って……ドカン!」

「……いや。そんな危険生物をどう飼育するのだ?」

「そこは魔道具と……それこそ皆の才能によって成し遂げようという話だよ」

「漠然とした話で煙に巻こうとするな」

 

 技術職だから演出も大事にしているのは推測できるが、そのあたりクリスにはお気に召さないようだ。

 実家でもあったな、この手の軍部と技術部の妙な対立……実用性を重視する軍部と、技術の粋を集めて大量の機能を盛り込もうとする技術部……みたいな。調整が大変だった。

 

「油が常温で揮発するなら、温度を落とせば防止できる。鉄板でも張れば爆発くらいは防げるだろうな。適度な空間が必要なら俺が作る」

「あたしの出番は?」

「火気厳禁だから今は無い」

「ぶー」

「これ以外だと死ぬほどあるから今は待っていてくれ」

「死ぬほどは勘弁して」

「ともかく、マリーの言いたいことはこうやって技能を活かせばやりようがある、ということじゃないか?」

「納得しました」

「ボクの言葉でも納得しておくれよー」

 

 無茶を言うな。

 

 

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