まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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25.発想の底の底

 

 

 マリーの主張はだいたい分かった。

 やる側の負担というのは一旦度外視するにしても、やればそれなりのメリットがあることは確かだし、個人的にも魔獣肉が安定供給されるのは歓迎だ。

 その一方、これを実現させるのは少々ハードルが高いのは確かで――うん、安全性を含めていくらか確認は必要だ。

 

「実現性は分かったけど、それ以外にも確認しておかないといけないことがある。まず味、それとエサ、生育にかかる時間……」

「飼育費用とかはいいのかい?」

「そんなに非現実的な額だったりするのか?」

「いいや。普通のヤギと同じく草食メインの雑食だから、そう非現実的とまではならないよ。油分は必要だけどね」

 

 油分……ああ、つまり角から分泌させるためのものか。

 体液なわけだから、何かしらで補充は必要だな。理解したことを示すために頷いて応じる。

 

「成体になって繁殖可能になるまでおよそ一年。これは普通のヤギと比べると倍は遅いね。代わりに自然寿命はやや長い」

「で、味は?」

「味気にしすぎだろう」

 

 何なら俺にとってはそこが一番大事だ。そもそも俺は「まず」味と言ったはずだ。レストランで使う以上は味こそ最重要とすら言っていい。

 普通のヤギ肉というのは他の肉と比べて野趣にあふれ、ジビエ肉に近い。そのため使い方が少々難しく、クセの強さを上手く調理できないとキツさの方が先に出てしまい、好みの幅がかなり限定される。

 実際に食べてみて試してみないと分からないことも多いため、言葉だけで伝わるとは限らないが……。

 

「ちょっと肉質がミルキーかな。乳臭いって意味じゃなくてね。クセはあるけど羊肉とそうは変わらない程度だよ」

「味の濃いミルクラムってところか……」

「ミルク」

「子羊肉のことな」

「そう……ん? 子供? それはそれでちょっとかわいそう」

「まあそうだな」

 

 美食のために生き物を殺めるのは人の業と言っても過言はない。

 大なり小なり、生き物というものは生存のために他の生き物を害して生きているものではあるけど、美食は単なるエゴだからな。

 命というものに鈍感にならないためにも、こういう感覚は大事だ。

 

「美味しさを追求しようとすると、どうしてもこういうことがある。気にするなら、余裕がある時に食材になった生き物への感謝やお祈りをしてあげるといい」

「わかったわ」

 

 そもそもサラク村自体もな……魔獣の犠牲者の慰霊碑とは別に、殺めた魔獣などの動物に祈りを捧げる場があってもよさそうだ。

 生存競争の側面もあり元は人間が縄張りにしていた場所を奪い返してる側面もあるにせよ……まあ……ちょっと魔獣死にすぎだしな……。

 

 ともかくやっぱ美味いは美味いんだな、爆弾ヤギ。

 これでヤギ乳も採れると嬉しいところなんだが、難しいか。ただでさえ強いから一旦固定して乳を絞るようなことはできないだろうし、大人しくもないだろうしな。

 

「必要ならこれから捕らえてまいりますが」

「居場所は分かるのか?」

「……どうなのだ?」

「地下行けばもうその辺から音がボンボン聞こえて来ると思うよ」

「承知した」

「無理せず頼む」

「はっ」

 

 返答と共に、クリスは風のようにその場から消えた。

 恐らく吹き抜けを使って、あちこち蹴って立体的に跳び回って洞窟へ向かったのだろう。

 多分。

 

「神器使ってないよね?」

「恐らく」

 

 ……あれはあくまで本人の能力に由来する素早さだろうが、実質クリスの実力を初めて目にするマリーは若干引いていた。

 暴走車椅子の時は相対速度を合わせてたからな。本気の速度までは知らないことだろう。

 俺もよくわからない。というかあれも本気とは限らない。そもそも現時点で視認すらできねえ。

 

「それにしてもレスター。キミって自分から意見出すの嫌いなのかい? ホテルも好きなように意見を出す流れでそうなっただけだし、魔獣素材の販売も……悪くないし出し惜しむことは無いと思うんだけどね」

「最悪の場合、俺がいなくなっても村の運営ができるように考える力を養ってもらいたい、とは少し思ってる」

「いなくなるつもりなの?」

 

 不安げにリンデが視線を向けてくる。しかし俺個人は逃げようとか出ていこうという気持ちがあってこういうことを言ってるわけじゃない。

 前々からの目標だったレストランを経営できる大チャンスでもあるからな! そんなもったいないことはできない。

 ……が、俺は貴族だ。

 

「いや。でも、政略婚で俺が婿入りするようなことがあれば、村を離れざるを得なくなる……ってことはありうる」

 

 血筋が確かな未婚の貴族、それも三男とはいえ侯爵家クラスとなると需要が結構あったりする。

 跡継ぎが女性ばかり生まれるような家というのも、少なくはあっても珍しくはないし、アシュクロフト家のために地方の有力者などと婚姻が組まれるということはありうる。そうなったら村を離れるよう要請されてもおかしくはないからな。

 

「じゃあ先に結婚しちゃえばいいのよ、姉さまとかと」

「理由ありきでそういう話するのは良くないぞ」

「理由ありきの結婚ばかりの貴族が言えることかい……?」

「だからこそやめとけって言ってるんじゃないか。貴族(おれたち)のこれは特権に伴う義務に近い。平民にまで割り切りを求めちゃダメだろ」

「ボク思うんだけど、貴族社会も王政も帝政も一回解体してしまった方がいいんじゃないのかい?」

「俺は聞かなかったことにするけど外じゃ言うなよ」

 

 今はコレで問題なく社会が回ってるし、寛容な貴族ばかりでもないから下手にこんなん聞かれたら不穏分子扱いされても不思議じゃないぞ。

 というか半分以上本気で言ってるだろこいつ。何だ。貴族やら王族やらに思うところあるのか?

 ……もしかして隠してる本名に何か理由あるか? これまた俺の胃が痛むやつ? くそっ、気付かなきゃよかった。

 

「しかしこの他にも何かアイディアを隠してるんじゃないかい? 遠慮して出してないやつとかさぁ」

「何を藪から棒に」

「言うだけならタダじゃあないか。ボク天才だよ? キミができるわけないと諦めてることでもボクなら実現の可能性が思い浮かぶかもしれない」

「自分で天才とか言っちゃうんだ」

「客観的事実だからね」

 

 タブレットの生みの親という時点でそこは疑いようが無いけどよぉ……。

 しかしマリーの言うことも道理か。俺が思う「無理」とマリーの思う「無理」の範囲は違う。ホテルなんて代物もできそうだし……。

 

「あんまり兄さま困らせると後で姉さまが怖いわよ」

「それはボクも困るけど、個人的にはぜひレスターの発想の底というものを見てみたいんだよね。自由でスケールが大きい方がいい。ボクの想像を超えてくれるとなお良し、ってね」

 

 よー無茶振りしてくるなこいつはよ。

 しかしスケールの大きな発想ねぇ……願望くらいのものでもいいのか?

 いや、求められてるのはそういうのじゃないな。貴族として領主の子として……うーん……。

 …………。

 

「災禍の洞窟を完全に管理下に置きたい」

「ん? 今も管理下だろう? 領地なんだし」

「いや、そうじゃなくて。全部だ」

「…………どゆこと?」

「洞窟には既に固有の生態系が築かれてる。60年前、魔獣が増えすぎてあふれ出してきてしまうくらいには自然豊かだ。一つのサイクルが完成していると言っていい」

 

 日光の届かないはずの洞窟で植物も豊かだっていうのは、一般的に見れば不思議な話だけどな。

 魔力を持つ植物や動物も多数いるおかげで、自力で発光するような存在も少なくない。日光が無くともそういった光源で光合成はできるし、場合によっては光など無くとも育つというちょっと強靭すぎる植物すらある。草食性の動物はこういったものを食べているのだろう。

 それでいて肉食動物のみならず、草食動物もまた大増殖できるだけの栄養が確保できてる。増えすぎたせいで縄張りを求めてあんなことになったが、適切な個体数調整ができればこれほど豊かな資源を持つ場所も無い……。

 

「生態系とそれを取り巻く環境、()()()()()()()()()()()

「……………………えっ。ぜ、全部?」

「全部だ」

「全部!?」

「そもそも俺の都市計画の構想自体が――」

 

 机の上にはまだマリーの食事があるので使えない。周囲を見回す……が、ちょうどよさそうなものは無かった。

 仕方無しにその場にデカい四角形の岩塊を作り出し、組み換え魔法を用いてここまでに判明している地下のルートを立体的に示していく。

 

「帝国への直通ルートを拓くのが最初の目標だった」

 

 続いて、石灰を用いて先日踏破したルートに白く印を刻んでいく。

 実際にクリスが駆け上がり、再度遡ってある程度の安全を確保した場所だ。

 

「その途中でマリーと会ったわけだが……」

「その節は本当にありがとう」

「どういたしまして。で、まず目標としては、帝国側大扉と直通で繋がる大通りを開通させたかった」

 

 印をつけた場所と、クリスの踏破したらしき場所、大扉へのルート構造上必要な経路に一本の線を引き、その全てを組み替えて巨大な一本道に仕立て上げる。

 ――ここまでは、既に俺が計画してた内容だ。

 

「これを交易路として整備、狩人を雇って定期的に洞窟内の魔獣の個体数を調整して帝国との貿易を推し進める。ゆくゆくは村自体も商業都市として発展させていくのが当初の計画だ」

「い、いいんじゃないか? ちょっと壮大だけど」

「だがこれはナシだ」

「へっ?」

「この計画の上でサラク村の立地は重要だが、役割は『交易路の整備』、これしかない。人や物の行き来は激しくなるだろうけど、あくまで通過点でしかない。ただ通り過ぎるだけの場所だ」

 

 国境をまたいだ貿易になるため、基本的にこれを主導するのは国になるだろう。

 今のままではそのおこぼれを貰うだけになってしまう。生きるのには十分かもしれないが、復興、発展を目指すことこそが俺の仕事だと考えると、それでは足りない。

 国益は確かに重要だが、この事業は国益になったというだけで済ますべきではない。

 

「交易路とそれに伴う経済活動、これは逃すべきじゃないとして……サラク村(おれたち)がここに能動的に介入する余地が欲しい。そこに打ち込む楔となりうるのが――」

「魔獣の素材や肉、というわけだね?」

「そうだ。ただ、家畜化した単一種の魔獣というだけでは、特産物にはなっても目玉にはならない」

「えーっと……だから……つまり……災禍の洞窟全域を管理下に置くことで、洞窟自体をそのまま、言わば『牧場』に仕立て上げ……多様な魔獣をそのまま商材にす…………えぇ……?」

「どうしよマリーちゃん、スケールでっかくなんて言っちゃったせいで予想以上のもの出てきたわよこれ」

「う、うん……」

 

 大きめのスケールをと求めた張本人がビックリしてどうするんだ。

 ……まあ、俺も言っててこんなこと考えてたんだとちょっと自分の不遜さにビックリなんだが。

 思ったより野心あったんだな俺。

 

「しかしねレスター、相手の多くは高位魔獣だよ。クリス一人に対応を任すんじゃ追いつかないんじゃないかい?」

「あ、さっき狩人を雇うって言ってなかった?」

「そうなんだが……」

 

 それはあくまで個体数調整のための施策だ。洞窟全域を管理できるなら、増えすぎと減りすぎにだけ気をつければいいだけで、必ずしも金を払って外部の人間を招き入れる必要は無い。

 ……いや、そうやって内向きに閉じるのは良くない。むしろ、これこそ好機だ。俺は軽く指を鳴らしてみた。

 

「一般公開しよう」

「なんで!?」

「???」

「一般公開というのは若干語弊があるかもしれないが、つまり安全が確保できてるメインストリート以外の場所を『狩り場』として開放するんだ」

「それは……狩人に業務委託するのと何が違うんだい?」

 

 ふむ。単純にどうこうと表現するのは難しい部分だ。

 実際のところ、運用初期は狩人に業務を委託するのとそう変わらない程度の成果しか得られない可能性が高い。というか、一旦業務委託をするプロセスは踏んでおくべきだ。普通の人が高位魔獣とどの程度戦えるかを改めて確認しておく必要がある。

 

「業務委託は契約を介してる。狩人は契約に縛られ、そこから逸脱した行動は基本的に禁じられる。非常時の対応力を上げるためにもそういった部分は排しておきたい。魔獣自体は無数にいるしな。もちろん、洞窟に入るに足る能力があるか、人格に問題が無いか――管理側で許可証を発行したり、狩猟組合に仲介を頼んだりする必要はあるだろうけど」

「相手の善性に期待して裁量を任せるのも少し怖いところだけどね……」

「そのための管理だよ」

 

 空洞の模型にそれぞれ小さな石片を打ち込んでいく。

 確認できる範囲だけだが、これでも100箇所以上……災禍の洞窟の広大さにはちょっとうんざりさせられるなこりゃ。

 まあ、必要なことだから仕方ない。

 

「確認できる範囲全てに監視網を敷く。映像の送信ができる程度の魔石を置くだけでいい。不審な行動を見かけたらそれですぐに分かる」

「監視網から出たらどうするんだよぅ」

()()がまさしく不審な行動だろう?」

「あ、そうか」

「マリーを狙ってた連中のことも警戒しないといけないしな」

 

 こっちの理由もあるので、管理計画の有無はともかく監視網を敷くことだけは確実にやっておく必要がある。

 災禍の洞窟管理計画も含め、勢い八割でぶちあげてしまったので穴は多いが、こうやって言語化してみると案外いけそうな気がしてくる。

 技術者のマリーが加わったのも要因としては大きいが、負担に関しては……俺含め一旦置いとくとして。

 

「狩人の狩った魔獣についてはこちらで買い取る。肉はレストラン、素材は魔道具に加工して販売……規模の拡大に応じて相応に利益の拡大も見込めるはずだ」

「……その人手とかって誰が用意するの?」

「俺だ」

「そろそろ倒れるわよ兄さま」

 

 それは俺も感じてる。

 ともあれ、なんやかんや勢いばっかりで始まったはずの話は、結局やる方向でまとまってしまった。

 

 クリスは話が終わって数分で帰ってきたが、自分がいない間に変な模型ができてたり、持ち帰った爆弾ヤギがあまり意味無くなったことに愕然としていた。

 

 

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