まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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26.ルーチンワークと意外な弱点

 

 結局俺たちはクリスがいない間に話を進めることになってしまったのだが、ことの説明をすると意外にもクリス本人は好感触だった。

 

「いいと思います。長年村を占拠し続けていたのですから、せめて村の発展の礎になってもらいましょう」

「こういうところでちょっとドライだよねクリス。ほら、村の仇だー、とかさ?」

「60年も経っているのだからもう死んでるだろう」

 

 クリスは学が無く、表情の割に内心が激しやすいが、なんだかんだものの捉え方は冷静だ。

 戦場で培われたのだろうちょっと殺伐とした価値観もあって、分別もつく方だ。魔獣に村を壊滅させられたこと自体は悲しい思い出なのだろうが、それで魔獣全般に憎しみを抱くのは筋違いと理解しているはずだ。現に魔獣である爆弾ヤギも生け捕りにして連れて帰ってきている。

 ……結局、今は爆弾ヤギが必要無くなったというのは置いといて。

 

「クリスにも理想にしてる村の姿はあるだろうが――」

「いえ、理想はありません。ただ、昔の姿しか思いつかなかっただけで、それが懐かしく思って……ええと」

「郷愁?」

「それです。当時のことを懐かしんでいただけなので、お気になさらず」

「そうか……」

 

 とはいえ、郷愁(それ)も間違いなく重要なファクターだ。旧サラク村について多少なりとも知識があるのはもうクリスだけなのだから、あの当時のものを今のサラク村の色として取り込みたいのは事実だ。

 

(気にするなとは言うけどな……確か、当時のサラク村で作られたナポの実だったか……)

 

 ねっとりとした食感に甘味と酸味、マンゴスチンに近い……という情報はあるが、イマイチ実物の想像がつかない。

 そもそも最近は別件で忙しかったし、探しに行くこともできてないんだよな。

 

(クリスの働きに報いるためにも、手に入れておきたいな)

 

 暇があったら……できたら……うん……森の方を探してみよう。

 野生化してるとしたらあっちだ。動かせる人員が滅茶苦茶欲しい~~~~~~。

 

「ともかく、納得してくれるならこの計画を前提に動こうと思う」

「ん」

「異議なーし」

「レスター様の仰せの通りに」

 

 さて、これで計画はだいたい定まった。

 定まってしまった。

 

「じゃあ全会一致したところで始めるか、ルーチンワーク」

「おー……」

「あー……」

 

 さて。

 アイディアってものは出すまではいいんだ、出すまでは。

 問題はそれを実現させるまでの時間と労力、それから――クッッッッッソ地味な作業の繰り返しだ。

 

 クリスを除く全員のテンションがガッツリ底をついた。

 

 


 

 

 ハプニングが起きない限り、一つの方針が定まれば基本的に一日のやることは変わらない。

 

 朝5時半、起きて鍛錬してるクリスに挨拶して朝食と弁当を作りつつ晩飯やその他諸々の下ごしらえを始める。

 農民とか村人ってよりも開拓者な俺たちは、今のところあまり規則正しく時間に従う必要は無いが、今後のことを思うとある程度体を慣らしておいて損は無い。俺自身も元からこのくらいのペースで活動しているので、とりあえずは順応できている。

 

 6時過ぎ、鍛錬を一旦終えたクリスが畑の様子を見に行く。作物に水やり、害虫や害獣がいればこれを駆除して回る。この間にリンデが起きてくれば一緒に作業に入ったり料理の指導を受けたりする。

 俺も畑作業に加わりたいところだが、料理するのに土いじりするのはあまり好ましくないのでたいていは断念することになる。

 ひと区切りついたら風呂に入って二人には汚れを落としてもらう。だいたいこのくらいの時間で7時前。俺はガッツリ寝てるマリーを起こしに向かう。

 こいつは実験やら技術開発やらで夜ふかししてるので、絶対に自力で起きない。最悪起きても二度寝する。本人曰くどうも夜にならないと調子が出ないという話だ。技術面で分かることは少ないし、必要なことなのだろうとは分かるが……出来上がったものを見て度々首を傾げているので、多分寝不足でハイになってるだけだと思う。

 

 7時半ごろに朝食。メニュー開発も同時に行っているため、レストランの経営に活かすべく皆の反応をよく確かめておく。

 と言っても各々で好き嫌いはあるのでその辺りはあらかじめ勘定に入れておく必要はある。例えばクリスは濃い味と肉が特に好きだが、だいたい何でも美味しいと言ってくれるので、個人としての嬉しさはともかく参考にはし辛い。一方でリンデは割とあけすけにものを言うが、薄味でもしっかりとその中にある味の構成要素を感じ取れる鋭い味覚がある。

 マリーは……微妙なとこだ。好き嫌いが多い上に量を食べたいタイプで、食事量は指標にし辛いし味を語る時も好き、嫌いだし……美味い不味いじゃなくて個人の味覚によるもので語ってくれるのは、日頃の料理にはいいんだけどな。指標ではない。

 嫌いなものはきのこ類(帝国で食べ飽きた)にキャベツやピーマン(青臭い)、貝類も昔砂抜きを怠ったものに当たって苦手意識があるようだし、骨付き肉は食べにくいとたいへん不評だ。この分だと魚の小骨にも文句を言う気がする。まあ、それは俺も文句があるからいいんだが。

 とはいえなんやかんや、普通の人の目線って意味じゃ多分いちばん近い。指標にはできないが、レシピ開発には役立つ……というところか。

 

 さて、3、40分ほどかけて朝食を終えると、10時ごろまで畑仕事。その後は夕方まで洞窟調査と道の整備。この時に襲ってくる魔獣を(クリスが)倒して在庫を補充……今は増える一方だけどな、困ったことに。

 それを夕方までやって、クタクタになりながら帰ると、ここからはまたそれぞれの仕事だ。

 クリスは獲物の血抜きや解体、鍛錬。あと余裕があれば読み書きの勉強。できるようになるに越したことはないからな。

 マリーは魔道具作りとホテル建築の続き。それから個人目標として掲げているらしい技術開発だ。タブレットの開発という功績だけで一生語り継がれるほどだと思うが、満足はしていないらしい。

 俺は……色々だ。夕食作ってホテルに手を加えて、その日の分の在庫整理と洞窟の詳細を書類にまとめて逐次父上に送り、翌日の仕込みを済ませつつ経営計画を策定。宣伝の方法を調べて料理本も……等々。これを可能な限り0時を回る前に終わらせる。俺が寝ないとクリスも寝ようとしないからだ。

 リンデは腐敗魔法の調整を頑張ってる。併せて、各々の仕事の手伝いなどもしてくれるが……基本、夜は休むように言っている。なにせ22時過ぎにはもう眠たくなってしまっているのだから仕方ない。子供は寝るのも仕事だ。

 

 そんなこんな、絶望的な作業量さえ除けば状況が穏やかに進んで一週間ほど経った頃だ。

 

「甘味は無いのかい?」

 

 ――いつか来るだろうと思ってた試練が俺に訪れた。

 その日の作業を終えて夕食時。地下のリビングスペースでそろそろその日の食事を終えようとしていたところに、そんな声がかかる。

 甘味……甘味かぁ……。

 苦肉の策だ。その場で白い果実を八つ切りにして差し出す。

 

「……はい」

「何だいこれは」

「桃」

「うん」

「甘くて美味しいぞ」

「いやそうなんだけど、そうじゃなくて」

 

 マリーは元々帝国で生まれ育った人間なわけで、食事だって基本は普通に流通しているものを食べていた。

 それは何も料理だけではなく、菓子にだって同じことが言える。いずれこういう問題と直面することになるとは思っていた。思ってたんだけどなぁ……。

 

「すまんマリー。俺は……お菓子が作れないんだ」

「料理人なのに!?」

料理人(シェフ)であって菓子職人(パティシエ)じゃないんだ……っていうのは言い訳だが……俺お菓子全般ダメなんだ……」

「うそん」

「……言われてみたら、サバルで食べ歩きしてた時、兄さまお菓子全部あたしにくれてたわ……」

「れ……レスター様にも苦手なものがあったのですか?」

「あるよ?」

 

 クリスは俺のこと何だと思ってんの。

 俺だって人間なんだから好き嫌いも得手不得手も当然あるよ。表に出さないだけで。

 ……食に関して言えば、これこそ明確な弱点と言っていいかもしれないが。

 

「果物は大丈夫なんだけどな」

「みたいだね」

 

 両側から同時に桃を一切れずつ取って口に運ぶ。

 うん……生のままなら大丈夫だ。

 

「どのくらいダメなの?」

「事前に身構えてなかったら吐くこともある」

「重症じゃない?」

「まあ……4、5年も付き合えばもう性分だよ」

 

 街でケーキ屋でも見かけたら胸焼けがするし、匂いでちょっと頭痛がするのを性分で片付けるようになるのには色々紆余曲折あったが、それはこの場にはあまり関係ないことだ。

 

「良くないね」

「マリーもそう思うか」

「どういうこと?」

「レストランの目玉は魔獣料理。それはいい。けど、それ()()で満足してくれるとは限らない」

「ボクみたいにやっぱ食後のデザートは欲しいな~って思う人はいるだろうね」

「コース料理もできなくなる……フルーツで誤魔化すのもまあそれはそれで、とか思ってたんだが」

 

 この反応を見る限り、そういうわけにはいかないだろうな……。

 物足りないっていうのがアリアリと感じ取れる。

 

「一応確認。どこまでならできる?」

「……頑張れば氷菓(グラニテ)くらいなら。砂糖使わないやつ」

「お……思ったより重症だね……」

 

 あくまでコース料理途中の、「口直し」としての認識が効いているのかもしれない。菓子と思って調理すると逆にダメになる気がする。

 いっそ、どこかから菓子だけ取り寄せっていうのも……流石に無理か。我ながら面倒極まりない性質だ。

 どうしようか、と問いかけるようにマリーが片目を閉じてこちらに視線を寄越した。

 つったってなぁ……リンデは今基本を教えてる最中だし、クリスは肉を炭の塊に変えた実績がある。マリーは……そういやマリーの料理の腕前とか知らないな、俺。

 

「レシピならあるけど、やってみるか?」

「そうだね、何でも試してみるもんだよ」

「あたしもやってみる」

「分かった。なら、短時間で済むものが良さそうだな」

 

 そういうことなら、と皆して上層の厨房へ向かう。この一週間で随分と調理用魔道具が増えたが、それでも全体的にはこざっぱりしている。

 少なくとも一人で使う広さじゃあないな。いつかこれをフル活用したいものだが……というのは横に置いとこう。

 

「ざっと指示くらいはするけど、大筋は任せるからな」

「任せたまえよ。信じて人を用いることも上に立つ者の責務だよ」

「腕も知らないのに信じようがあるか……?」

「じゃあここで証明しよう。レシピは何だい?」

「そうだな……じゃあプリンにするか」

「ブレッドプディング?」

「カスタードの方」

 

 単にプリンと言った場合、多くの場合卵液を凝固させたカスタードプディングを示すが、パンを利用した菓子のブレッドプディングや乳粥とも呼ばれるライスプディングを言うこともある。

 師匠からは、血のソーセージを指してブラックプディングと呼んでいたとも聞いている。当然と言えば当然の話だが、人や土地によって呼び方も認識も変わる……そうだ。

 今回は俺の知る中で恐らく一番簡単だろうカスタードプディングだな。

 

「ぷりん……」

「正面を向け」

 

 吸い寄せられるようにクリスの胸に視線を向けるんじゃない。

 

「素材はシンプルに鶏卵と牛乳と砂糖。これだけだ」

「味見は相互にやるかい?」

「責任者として人任せにするわけにはいかないし俺も参加する。ケーキじゃないし、身構えてたら大丈夫……だと思う」

 

 アレルギーとかじゃないし死にはしない。良し悪しくらいなら分かるし、何もしないわけにはいかないだろう。

 

「ご無理だけはなさらないでください」

「確約はしかねる」

 

 領主然り、統治者の仕事は時によって無理が伴う。それも含めて仕事だ――と、少なくとも俺は父上と兄上の背からそれを学んだ。

 ……何でデザート食べる程度でそんな覚悟の話をしないといけないのかは置いといて。

 

「火の扱いに少し気を配る必要があるから、カラメルを作るのと蒸す工程はこっちでやろう」

「それは大丈夫なんだ」

「隠し味にカラメルソースを使うこともあるからな」

 

 と言っても、適量の水に砂糖を加えて煮詰めるだけではあるが……要は焦がしてるから、火を強くしすぎたりすると苦みが出すぎる。とてもじゃないが菓子材料にはできない、なんてことがあってもおかしくはない。

 そうなったらそうなったで、俺が料理のソース作りとかに使うから別にいいんだけどな。

 ともかく、初挑戦が失敗だと今後萎縮してしまうこともありうる。ここは難しい部分はサポートしておくべきだ。

 まず俺の方で鍋にかけておいて、器にバターも塗っておかないと。

 

「レシピは簡単に、この本の通り。卵と砂糖を混ぜる。少しずつ牛乳を加えながら更に混ぜる。泡やダマが入らないように濾したら、器に入れて蒸し上げる。完全に固まったら、粗熱を取って冷やして出来上がり」

「なるほど、簡単だね。じゃあ本貸して。ボクからやってみよう」

 

 と、料理本を受け取ったマリーは魔法で支えを出して車椅子に固定すると、いい感じの手つきでちゃっちゃか調理を始めた。

 素早く卵を混ぜて砂糖をドバッ。牛乳は一回で投入してしまい、撹拌魔道具(ハンドミキサー)でとっとと全部よーく混ぜてしまう。過程でできた泡は濾し器を通して即座に処理してしまった。

 あとは器に突っ込んで終わり――。

 

「いいのアレ!?」

「結果完成するなら『アリ』だ。料理は日進月歩だからな」

 

 最終的に行き着くところが同じなら、個人的にはこの辺とやかく言うつもりは無い。美味いならそれでいいのが料理だ。

 魔導加熱器なんかが邪道という人もいるが、全体の温度が均一になるように調整できるのは本当に便利なんだ。

 

「じゃあ、リンデもやってみようか」

「わかったわ」

 

 ちょっと釈然としない様子ながらも、続いてリンデがマリーから料理本を受け取って調理を始めた。

 この際だからと、撹拌機を借りて卵と砂糖をなめらかになるまで混ぜ、牛乳を少しずつ加えながら、周りに飛び散らないよう慎重に混ぜる。濾し器にかける時もゆっくりとだ。

 

「面倒じゃない? パパッとやっちゃおうよ」

「マリーちゃんはちょっと黙ってて」

「はい」

「……変に茶々入れるからマリー『ちゃん』なんじゃないか?」

「うご……」

 

 たった一つの指摘でマリーは声をつまらせた。

 どうか自分が一言多いことを自覚してもらいたい。マジで。

 

 

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