まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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3.領都へようこそ

 

 

「姉さま……?」

 

 当面の話をクリスとまとめて更に30分ほど。ようやくリンデが意識を取り戻したようだ。

 状況が理解できないという風に幾度か目を瞬かせ、意識がぼんやりしたまま宙に手をさまよわせる。

 リンデは差し出されたクリスの手を握り返すと、安心したように表情を緩め――俺を見るやいなや即座に意識を覚醒させて目をカッ開いた。

 

「不審者よ!!」

「出会い頭に不審者扱いされたの生まれて初めてだよ俺」

「申し訳ありません……」

 

 俺も貴族だーって格好してるわけじゃないし、急に知らない人がいたら驚いてあらぬことを口走ることはあるだろう。超許す。

 子どもの言うことだし寛容でいないと。

 

「姉さまとあたしをひん剥いて不埒なことをするつもりね!?」

「しねぇよ」

「獣化して服が破れた私に上着を貸してくださったのだから、むしろ逆だ」

「……油断させてえろすなことをするつもりなのね!?」

「だからしねぇよ」

「申し訳ありません……本当に申し訳ありません……」

 

 脳みそ真っピンクか?

 どう見ても見た目通りの年齢じゃないだろこの子。

 クリスが本気で恐縮している。姉と仰ぐ相手にこんなことさせんなよお前……。

 

 頭の中も外も真っピンクな幼女に事情を説明するため、クリス主導で一旦落ち着かせてもらう。

 こういう子の扱いとか、俺には分からん……。

 

「――というわけで、この方は私たちの生活保障をしてくださるレスター様だ」

「話が上手くいきすぎてる……囲ってペットにするつもりなんだわ……」

「流石にそろそろキレるぞ」

 

 落ち着いてなおコレかよ。

 研究所に放置されてたのが別の理由に思えてきたぞ。

 

「上手くいくように先人が法整備を頑張ったんだよ。俺だけじゃなく誰でもこういう対応はできる」

「つまり大勢でよってたかっ――もごもご」

「申し訳ありません、黙らせておくので何卒ご容赦を……」

 

 クリスが後ろから抱きしめて口をふさぐことで、リンデはようやくアレなことを口走るのをやめた。

 これ以上混ぜっ返されたくはないので実にありがたい。

 

「……これから父上の屋敷に戻るわけだけど、二人ともその格好は色々まずい」

「でしょうね」

 

 一方はボロ布を服代わりに巻き付けているだけだし、もう一方は貸している上着が無ければ全裸だ。屋敷に向かうどころか街に入ることだってできれば避けなければならない。

 

「これは父上に手を回していただく。誰かしら手隙の者はいるだろうし、列車に服だけ乗せて送っていただいても当面は大丈夫だろう」

「なるほど。近くに通信石があるのですか?」

「いや――」

 

 言いつつ俺が取り出したのは、手のひらに乗せられる程度のサイズの平たい魔石だ。

 クリスもリンデもきょとんとした顔をしている。戦時も運行していた列車のことは知っているようだが、こちらのことは知らないようだ。

 

「携帯用魔石板、通称タブレット。今はこれひとつで遠くの人と話ができる」

 

 流石にぎょっとしたように二人の目が見開かれた。

 

「嘘でしょ……通信石って、もっとこう……おっきな部屋を一つ潰さないといけないくらいのもののはずなのに」

「10年くらい前に地下帝国の技術者が小型化に成功したんだ。異邦人(ストレンジャー)のもたらした知識から着想を得たらしい」

 

 先に制度のことなどの説明を済ませておいたからか、クリスの反応は比較的穏やかだったが、一方でリンデの反応は劇的だ。

 通信石。魔力の繋がりを辿り、遠方との通話や映像のやり取りを可能とする魔道具だ。原型は数百年ほど前からあったようだが、魔力回路の問題から小型化がなされず、城の大部屋一つを占拠するほどのものが一般的だった。流石にこれ以上の小型化は不可能と思われていたが、ある技術者がこの定説をひっくり返して手のひらサイズにまで縮めてしまったのだ。

 爆発的に普及した今では一人一枚が当たり前。情報の伝達速度もかつての戦争の頃より遥かに上がったため、上の兄上も根本的に戦争というもののあり方を変えていかなければと豪語するほどだ。

 なんでも、最初から戦争そのものが起きないように、「情報」そのものを武器として水面下で戦うことが主流になっていきそうだ、とか……個人的には戦いそのものが減っていくことを願うばかりである。

 

 ともかく通信を繋げば、父上はものの数秒とせずにこれに応答した。旧来の通信石と同様に、通信相手の姿が映し出されてクリスたちは小さな声を上げた。

 

「俺です」

『近頃流行りの詐欺か?』

「レスターです。調査の件で報告とお願いがいくつか」

『……もうちょっと乗ってこんか?』

「親子のコミュニケーションはまたいずれ。早急にお耳に入れていただきたいことがあります」

『傭兵の派遣が必要なら言え』

「いえ」

 

 どうやら父上も俺が失敗する前提で話を進めていたようだ。普段ならその手際に感謝するところだが、今はちょっと事情が違う。

 

「村跡地に巣食っていた魔獣を通りすがりのキメラが殲滅しました」

『は?』

「今そのキメラを保護しています」

『は?』

「領民申請を行いたいので試験の準備をお願いします」

『待て待て待て待て』

 

 わけわかんねえだろ。

 俺もわかんない。

 タブレットを覗き込んでくるクリスたちの顔が見えたせいでより真実味が増したからか、父上の顔が引きつるのが分かった。

 

『そんな偶然があるか?』

「あったんだからしょうがないでしょう。仕事に関して虚偽報告はしませんよ俺は」

『知っているから困っておるんだ。実際にその……魔獣を倒した場面を見たのか?』

「この目でしかと」

『しかと見ていたか……』

 

 タイミングも時期も幸運だった。遅れていれば衰弱死するかどこか知らない場所へ行っていた可能性は高いし、早ければ俺もこれ以上の探索は不可能と考えて調査を切り上げていただろう。

 調査に出かけるきっかけがきっかけだし、ある意味ではこれも爺様の導きか……。

 ……なんか爺様がいや違う違うと手を振ってるのを幻視した。

 

『承知した。こちらもそのつもりで準備をしておこう。他に何かあるか?』

「衣服をこちらに送ってください。まともなものが手に入らなかったようなので……」

『……家名に泥を塗るような真似はしておるまいな?』

「しててたまるか」

『ならばよし』

 

 そりゃ俺だって健全な男性であるからして、女性の裸身を見れば反応くらいはしようが……。

 ただ、衰弱してる上に返り血まみれの相手にそんな真似をするなんて正気の沙汰じゃないだろう。襲ったところで返り討ちにされるだけだろうし。

 

『到着時刻はどのくらいになる?』

「俺一人で一日半ですから……」

 

 リンデという幼い子を抱えての状態なら、倍近くかかりそうだ。

 しかし、見た目の年齢はあまりアテにならないしな……少し困ったのでクリスに視線を向ける。駅のだいたいの位置を伝えると、それならばとひとつ頷きを返してくれた。

 

「半日もあれば十分かと」

「え?」

『は?』

 

 人間二人の呆けた声に、クリスは表情を変えぬままグッと親指を立てて見せた。

 

 ――結論から言えば、クリスの言う通り半日足らずで駅に到着することができた。

 あの装甲をまとった狼のような姿に獣化したクリスが、そりゃもうものすごい勢いで魔獣はびこる森の中を突っ切っていったせいだ。

 村跡地に山のように積み上がっていた魔獣の死体は、下手に埋めてしまうと土地が荒れるので、後々処理する前提で適当な場所に穴掘って固めて置いておいた。疲労の極致にあるクリスたちを頼るわけにいかない分、何なら下手するとこっちの方が手間だった。

 

 結果的に、とても助かる……けど……けどさ……俺あの森抜けてくるのに一日以上もかかったのにっていうかさ……なんていうか釈然としないんだよな……。

 それに、宣言通りなのは結構なんだけど、早すぎて肝心の父上が対応できてないんだよ。結局さらに半日ほど野宿(家つき)するハメになった……が、これはそれだけ休むことができたと思えばアリだったかもしれない。俺はともかく、クリスとリンデは衰弱状態からどうにか回復したばかりだったわけだし。

 翌日、服を手に入れて列車に乗り込んだ後も、二人は俺が報告書をまとめる横で泥のように眠っていた。

 

 


 

 列車に揺られて丸1日と少し。そこからゴーレム車(くるま)に乗って約一時間。領都エウテルペにあるアシュクロフト侯爵家の屋敷にたどり着いたところで、俺はクリスたちから胡乱なものでも見るような視線を向けられていることに気付いた。

 

「レスター様。確か先日あなたは『しがない貴族の三男坊』と自己紹介しておられませんでしたか?」

「こういう家に生まれついただけの取るに足らない男だよ、俺は」

 

 人の身の丈を遥かに超える、装飾の施された正門を親指で差す。

 まあ、説明が面倒でややこしくなるから誤魔化した面はある。「しがない貴族」の「三男坊」ではなく、「しがない」「貴族の三男坊」だ。

 話をスムーズに進めるためにも意図的にどうとでも取れる言い方にした。

 

「軽い詐欺じゃない」

「下手に侯爵家なんて名前を出して話をややこしくしたくなかったんだ。悪いな」

「悪意を持って騙そうとしたわけではないようですので、私は構いません」

 

 ……何でもないような口ぶりだが、声のトーンが少し落ちているし目線も下がっている。嘘をついたり謀ったりというのがあまり好きではないのかもしれない。次からは気をつけよう。

 

 ともあれ、使用人に帰宅したことを伝えると、まず大急ぎでクリスたちが風呂に連行されていった。

 魔法を併用し、軽く水場でも洗い落としてはいたのだが、なにせ大量の魔獣を一人で屠った後だ。水洗いだけではどうにもならない汚れや、返り血のせいで染み付いた血の臭いなどが残っている。父上と会うには不適切と判断されたようだった。

 俺もさっと汗を流し、フィールドワーク用の軽装から着替えて執務室へ向かう。父上は厳しい顔をして到着を待っていたようだった。

 

「ただ今戻りました。こちら、サラク村跡の一件をまとめた報告書です」

「こういうものは言われてから持って来なさい。相手によっては面倒な言いがかりをつけられるぞ」

「経験ですか?」

「経験だ。現に私は仕事を押し付けられとる」

「心に留めておきます」

 

 宮廷での政治も大変なんだろうな……あっちで働いている下の兄上は、帰ってくる度にクソほどボヤいているし。

 父上は目元を軽く揉んだ。

 

「お疲れのようですね」

「40年も前の資料を引っ張り出すハメになったのだ。疲れもする」

「うちの領地でキメラの領民登録の例って無かったんでしたっけ?」

「無いな。国に報告はしたが、あちらも今更出てくるのかと困惑しておった。そもそも研究所の大半はシムゾニアにあるのだから、地上でキメラが見つかること自体異例だとな」

 

 ま、そりゃそうだ。元は帝国の生物兵器だしな。

 地下帝国シムゾニア。俺たちの暮らしている聖王国スナイフェルスの直下に広がる大空洞に存在する国だ。60年前に勃発した人魔大戦における敵国でもある。

 人「魔」大戦――その由来は、かつて地下帝国に住んでいた人たちが、普通の人間と異なる特徴を持って生まれてくることから魔族という蔑称で呼ばれていたことだ。終戦を機に色々なことが見直され、既にそういう蔑称を用いる人はほぼ見られない。

 終戦した現在は、あまりに密接に過ぎる位置関係も相まって親密な国交を結んでいるが……その話は置いておくとして。ともかく当時キメラ研究を主導してたのは帝国なので、地上でキメラが見つかるということは本来無いはずだった。

 

「レスター、お前はどう思う?」

「俺?」

 

 人柄……って話とは違うだろう。察するに、密偵の類かどうかを警戒しているようだ。

 年齢と政務を理由に退いたとはいえ、父上も昔は国家防衛の要として国境沿いでバチバチにやり合っていた方だ。気になって仕方ないだろう。

 

()()()()可能性は低いかと。いくらなんでもやることが派手すぎる」

「疑ってくれと言っているようなものか。監視の手を割かせようという思惑も否定できないが――」

「そのつもりで送り込むならもっと人材を選ぶでしょう」

 

 クリスは強いと思う。が、強いだけだ。尖兵として送り込んで暴れさせるだけならまだしも、珍しい出自も含めて密偵にはあまりにも不向きに思える。

 万が一、そういう思考も全て織り込み済みで密偵への監視の目を外すことを狙っていたりすると……手が込みすぎというか、もっと他にやるべきことあるだろと思う。仕込みに手間かけすぎてて本末転倒というか……。

 

「とはいえどう転ぶかも分からん。しばらく様子見を頼めるか?」

「頼まれたからにはやりますけど……俺の職の斡旋は?」

「……今回のように私の名代(みょうだい)として、調査や領内の調整役や折衝をだな」

「お疲れっしたー」

「待て待て待て待て」

 

 執務机から身を乗り出してきた父上にめっちゃ引き止められた。

 くっそ元南方軍の長だけあってメチャ速ぇし力強ぇ!!

 

「現当主の名代で顔繋ぐのは次期当主(あにうえ)の役割じゃねーか! 三男(オレ)にやらすな!」

「仕事は仕事だろう……! それに長男(オリアス)は軍務で帰ってこんわ!」

「他にあるだろ! 宮廷料理人……は流石に無理としても、接待の料理番とか!」

「そんなもん全部席が埋まっておる」

「それは……そうだろうけども……」

 

 外交目的もあって、大抵の貴族はお抱えの料理人というものがいる。が、更に新しく雇い入れるような余裕がある家もそうは無い。既にいる料理人を追い出すわけにもいかないし。

 もちろんうちにもお抱えの料理人というものはいるが、その人を解雇するわけにもいかないし、雇い主の息子を後継者として育てようというのも色々辛いだろう。

 

「――考えときます」

「うむ」

 

 俺は渋い顔をして返した。

 いや、別に家のために仕事をすること自体は嫌ってわけじゃない……ないんだが……なんというか、なんだかな。

 領主の名代なんて、いくら実の息子とはいえ後継者ではない俺がやっていいことじゃないだろ、と抵抗感が強い。

 

「あとレスター、お前もそろそろいい年なのだから早いうちに身を固めなさい。婚約者もおるのだろう?」

「え? 何ですそれ。初耳ですよ」

「は?」

「え?」

「街の方で噂になっておったが……違うのか?」

「今初めて聞いたんですが……父上が政治的意図で縁談を通したとかではなく?」

「もしそんな話があるならまず相談していよう」

「……じゃあ何だその噂?」

「分からん……何だこの噂……」

 

 こ……怖い……。

 何で当人や家すら知らない婚約者が無から生えてきてるんだ。

 噂になるにしたってどうして火元のないところに煙が立つ……。

 

「街で庶民の女子(おなご)にコナかけておらんだろうなお前」

下の方(ルーファス)の兄上に聞いてくれ。俺は全く身に覚えがない」

「それもそれで悲しい話だな……」

「ほっとけ!」

 

 半分は縁談を持ってこない父上たちの責任もあるだろ!

 確かに二十歳も過ぎて当家で結婚していないのは四人の兄弟の中で俺だけだから……噂をしたくなるのは分からないではないんだが。

 ともかくこの話はちょっとしたホラーだったので一旦触れないことにしておいた。風聞というものは放置すると恐ろしいが、実害が出てないうちから変に動いても逆に火を煽るだけの結果になりかねない。「そんな話があるらしいけど当家は知りませんしそんな事実はありません」というスタンスで当面様子見だ。

 

 一度気を取り直すために部屋に戻ろうとすると、エントランスの絵画の前で立ち尽くしているクリスの姿があった。

 ここに来る前とは異なる軍装のような服を着用し、左右の色が違う瞳を隠すためにか眼帯を装着している。多分使用人に着替えさせられたのだろう。

 ウチの使用人の趣味からするともうちょっとヒラヒラした服を着せそうだが、本人が嫌がったのだろう。見栄が特に重視される貴族だもんで、基本的にうちにある女性用の衣服はヒラヒラしたものかああいう軍装くらいだ。とはいえ、ビシッと整った立ち姿と相まって本職の軍人と思わされる程度には似合っていた。

 

「迷ったのか?」

「! レスター様」

「かしこまらなくても大丈夫だ」

 

 こちらの声に反応してその場で跪くのを手で制する。

 そういえば俺の方も着替えたんだった。急に貴族らしい服装をしているから驚かせただろうか。

 

「肖像画を見ておりました」

「肖像……ああ、爺様か」

「お祖父様……ですか」

 

 推定、戦時の人間だから爺様のことは知っていてもおかしくないか。万に近い数の相手に単独で殿を務めて生還するバケモンだし、有名人だからな。

 とはいえ当時から歳を重ねてかなり容貌も変わっている。今、エントランスに飾られているのは亡くなる少し前のものだし、なんとなく見覚えがあると思っているんだろうか。

 

「失礼でなければ、お祖父様の名前をうかがってもよろしいですか?」

「ディーン」

「――ディーン・アシュクロフト?」

「ああ」

 

 あえて家名を出していなかったのに、一発でこれを当ててきた。やはり爺様の知人なのだろう。

 実際、肖像画を見る表情からは懐かしさや寂寥感のようなものを感じられる……気がする。表情筋固くて大して動かないせいでそうは見えづらいけど。

 

「亡くなったのですね」

「5年前の寒い雪の日だったかな。現役の頃の無理がたたったらしい。寝てる時に心停止してそのまま」

 

 戦死や病死でもなく、苦しまずに亡くなったのは悪いことではないだろう。

 元々、60歳になったのを機に徐々に父上に引き継ぎを行っていたし、事務的にも大きな影響は出ていなかった。タイミングを狙っていたわけではないだろうが、色々絶妙である。

 

「知り合いなのか?」

「生前は、公私にわたって大変お世話になりました」

「悼んでくれるなら爺様も喜ぶ。試験と一通りの事務処理が終わったら、墓地まで案内しよう」

「ありがとうございます」

 

 またしても深く跪きかけたので、先程と同じように手で制する。ええい、恐縮しすぎだ!

 しかしなぁ。なんだかなぁ。

 あの爺様に世話になったとまで言い切るくらい親密な人間で、戦時の人間でかつ名前もクリスって。これ爺様の親友本人じゃね?

 ただ、性別だけは確実に違うんだよな……当時の高名な聖騎士って全員ちゃんと資料残ってるし、教本にも載ってるから俺も知ってるけど、キメラって異性の素材使っても上手く作れるのか?

 立場も地位もあるとはいえ、キメラ製造に関わるような資料は事実上の禁書扱いだから詳しくは知らないんだよな俺。検閲もかかってるし。

 

 ……まあ、そこ追求する意味もあまり無いが。仮にこのクリスが大戦における英雄だとして、本人がそのことに触れようとしない限りは真相なんて分からないし。

 施設も地下にあるようだから管轄は帝国側で、当家に調査権限は無い。あちらで調査が進めばあるいはというところだろう。

 

「試験はうちの離れを使って実施する。後で使用人を寄越そう」

「は。承知致しました」

 

 首を傾げつつ、クリスは異を唱えることをしなかった。家で試験を行うというのが、感覚的によく分からないんだろう。

 ……領内初の試みだから他にできる場所が無いんだよ!

 

 





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