まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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34.変装の心得

 

 

「真面目な話をしてよろしいですか?」

 

 食事がとりあえずひと段落ついた頃、クリスは口元の汚れを拭いながらそう切り出した。

 今このタイミングで真面目な話などと、大丈夫だろうか。胸焼けでぐでんぐでんになったマリーを見ながら、クリスは慌てて手を振った。

 

「身構えるような大事な話ではないのですが」

「うん」

「今度村に来られるという人が、どういった方なのかと思いまして」

「あ、それはボクも気になってた。その人レスターの何なのさ」

「何って……」

 

 真面目ってそういう話か。とはいえ次の仕事の話だし、真面目な話というか必要な話ではあるな。

 眠たげなフローを近くのクッションに丸まらせてやりつつ、少し考える。

 

「学院の寮で同室だった男だ。今は王都の狩猟組合の幹部をやってる」

「かなり偉い人じゃないか」

「偉い人……まあ、偉い人か……」

「歯切れが悪いけどどうしたの?」

 

 別に子供の頃の認識のまま止まってるわけじゃないんだが、あいつ当時から相当変なヤツだったからな。「偉い人」と表現するのはちょっと抵抗がある。

 ……いや、偉いんだけど。なんというか、もっと適切な表現がありそうというか……。

 

「俺の中であいつは『目立つ人』って感じなんだ」

「何それ」

「派手好きですぐ変なこと始めるし、今も狩猟組合のことギルドと呼べってあちこちで働きかけてるし」

「何で……?」

「『その方がカッコいいから』だそうだ」

 

 他にもスーパースターを自称したり……ディグワームをダンジョンワームと呼ぶように頑なに主張してたのもヤツだな。

 俺と同じ継承権を持たない貴族の子としては破格の活躍をしているのは疑いないんだが、いかんせんエキセントリックさが先に立つ。悪人じゃないんだが……アホではあるというか……。

 いや、それはそれとして確固たる信念のもと活動していて実績も出しているのだから、すごい男ではあるんだ。感情的に認めづらいだけで。

 

「大丈夫なんですかその方は」

「貴族の嫡子を除けば一番の出世頭だよ。ちょっと変だけど悪人じゃない」

「レスターって寛容な方だし『ちょっと変』って言うと一般的に『だいぶ変』だと思うんだけど大丈夫かい」

「……だいぶ変ではあるが」

 

 悪いヤツではないんだよ……いや本当に……。

 ……いや、思い返すとちょっとダメなヤツではあるんだが。俺何回あいつに奢ったっけ。年8ペースの時もあったから、かれこれ50回以上?

 いかん。金は返してもらってるのにちょっとイラッとしてきた。

 

「それなりの立場とはいえ俺の友人だから、そこまで身構えなくていい。ただ、これから取引して契約を交わす相手でもあるから、無礼をはたらくことはないように頼む」

「……そうですね」

「あー……うん」

「ちょっと何で皆してあたしの方見るのよ」

 

 ついさっきやらかしてる実績があるからだが。

 名目上は視察だし、同行者もいるからな。本人は面白がって超許すタイプだが、他の人がどうかはわからない。

 それに組織に属している以上は変な下ネタを許容してはいけない時もあるだろう。

 

「ボクも姿を見せない方がいいよね?」

「基本的にはそうなるが……」

 

 紹介しないならしないで面倒くさいことになるんだよな。

 ホテル作る資材や魔道具はどこから用意したのかという話に関しては、最低限技師がいるということを説明しておかないと。洞窟の管理権限を委任する関係上、唯一の技師であるマリーと組合とのコネクションは半ば必須だ。しかし、姿を見せたら見せたで今度はマリーのことが大々的に広まりかねないリスクがある。

 ……元から病院で騒ぎを起こしていたし、サバルの街で出歩くくらいはもう気にしても仕方がないで済ますしかないが。こういう機会だとどうにもこうにも、だな。

 いっそ暗殺者全員返り討ちにして「あそこに手を出すと大火傷する」と思って貰うことで自然に手を引いてもらうのも一つの手だが、リスクも高いだろうな。

 人道を無視して考えると、マリーっていうわかりやすいエサをぶら下げておいて、やってきた刺客を皆殺し……なんて筋書きもできなくはないんだが、俺にそんな桁外れの戦闘力は無いし、クリスにそんなことさせるのも心苦しい。必要があるならやってもらわないといけないけど、これは最後の手段だな。

 

「……変装の心得とかあるか?」

「ないよもちろん」

「だよな……」

 

 かと言って今から教えて習得できるものでもない。加えて、仮に習得できたとしても、人の出入りが激しくなるなら変装を維持していてもらわないといけなくなる。

 いっそ仮面でもつけて顔隠してもらうのがいいのかもしれないが……。

 

「フッフッフ……しかしね、こんなこともあろうかと」

「ん? お、おう」

「『こんなこともあろうかと』って先に使われたから今度いつボクが使おうってウキウキしてたんだけど――こんなこともあろうかと!!」

 

 2回も言うか。

 そんなに言いたかったのかコレは。

 

「いずれ外部の人間と会う必要に駆られるだろうとは思ってたんだ。だから洞窟監視用の魔道具を作る合間に、そのための魔道具を造っていてね」

「ほー」

 

 紹介しよう――とマリーが指を鳴らすと、小さく音を建てて近くの壁が開いた。

 ……近くの壁が突如として開いた。

 

「おい」

「はい」

「説明」

「……この魔道具はねぇ」

「扉の方だよ何だアレは」

 

 あまりにも自然にスイーッと開くから、こっちも一瞬スルーしかけただろうが。何だあの巧妙な隠し扉は。合わせ目が見えなかったぞ。

 そして一箇所の違和感に気付くと元麻偵の習性としてどんどん周りの違和感を見つけてしまう。

 

「そのぉ……こっそり隠し通路を」

「どのくらい?」

「……かなり」

「あ、あんな通路をいつの間に……確かに空気の流れが少し変わったなとは思っていたが……」

 

 なんかクリスが恐ろしいことを言っているが、外れ値なので一旦置いておく。

 ちょっとした空気の流れの変化を感知できてしまうのは達人とかじゃなくて超人の領域なんだよ。

 あとあの隠し通路に鎮座している巨大な物体が物悲しい雰囲気を醸し出しているが、今そこに触れてる余裕はない。

 

「暗殺者対策か?」

「そ、そう! そうなんだよ。万が一のことはありえないわけじゃないだろう? 特に地下階だと逃げ場が少なくなるから、脱出経路を複数作っておかないと!」

「やるなら事前に言え」

「はい……」

「バッサリだわ……」

 

 ()混じりの銅色の瞳は、どちらかと言うと金属の魔力適性の方がドンピシャなのだろうが、大別すると属性は「地」。俺がちょっと金属混じりの岩などでも問題なく組み換え魔法で動かせるのと同じように、マリーもコンクリートを組み換え魔法で弄ることはできる。この建物(ホテル)を建てる時もそうしてたしな。こっそりちょちょいとやれば建物の構造を変えるのは難しくはない。

 ……そして難しくはないからこそ、せめて俺の方に報告は欲しい。あんまり入り組んだ構造にされると居住地で遭難から死まで見える。

 

「で、でもさレスター。暗殺者対策なら隠し通路のこと知ってる人は少ないほどいいんじゃないかな……?」

最高責任者(オレ)が知らないのは論外だろ」

「仰る通りです……」

「バッサリだわ」

 

 リンデが知らないくらいならまだいいよ? 特別な役職に就いているわけじゃないんだから。

 でも村長とその護衛が知らなかったら他に誰も知ってていい立場の人間いなくなるだろ。

 失伝して将来的に何やら変な方向にこじれてしまう未来まで見えるわ。

 

「経緯が経緯だし俺たちのこともまだ信用できないか?」

「そうじゃないよ!」

「では何故だ?」

「……暗殺者ぶち転がしゾーンとかノリノリで作ってたって聞いて引かない?」

「すまないがそれは少し引く」

「うわぁん!」

 

 いや罠のひとつやふたつや10や100必要なのは認めるが、ちょっと行き過ぎだ。ノリで作るなそんなもん。

 それだけ恨みが深いのは分かるが……。

 

「罠は計算して設置しないと機能しないぞ」

「引くどころかダメ出しされた!?」

「何よ兄さまの専門家みたいな視点は」

「元密偵(プロ)だよ」

 

 潜入する時その手の罠だけの部屋なんてあったらすぐに分かるし、迂回するだけなんだよ。

 で、一回撤退してじっくり調べて対策を練る。殺意を前面に出しすぎると逆に読みやすくなるだけなんだ。

 

「怒りはしないけど、次からこういうことやるならまず教えてくれ。力にはなれると思うから」

「うん……ありがとう、ごめん」

 

 俺もたいがい昔のことを引きずっているが、マリーが殺されかけたのはつい最近のことだ。振り切れも割り切れもしないとしても、ある程度は仕方のないことだろう。せめて信用してもらえるよう力を尽くすしかない。

 

「こほん。ともかくだね、用意したんだよ、この魔道具」

「忘れてた。何だこれ?」

「ゴーレム……のように見えるが」

 

 と、そこでようやく本題の魔道具に視線を移す。

 見た目は――なんだろう。球から板切れと丸太が生えてるみたいな……すごくゆるい造形だ。

 

「ゴーレムだね」

「ゴーレムって、これが?」

「……何の用途で使われるものなのかがわからない。私の知る限り、車両を牽引するなら車輪がついていたり動物のような形をしているものだが……何だこれは?」

 

 通常、魔導人形(ゴーレム)というものはその用途に最適化された状態で製造される。ゴーレム車(くるま)なら車輪がついていたり、動物の形をしていることもあるし、建築用なら資材運搬用のアームを備えていたりする。しかし、今姿を見せたコレは何とも言い難い。いやホント何だコレは。

 

「これはね、ボクが乗り込んで操作するゴーレムなのさ。仮面とか覆面だと見た目を誤魔化せない部分が多いけど、これなら外見から中身を特定することはできないよ」

「技術力で特定されたりはしないだろうか」

「別に発明品に名札くっつけてるわけでもないし、見ただけじゃわかんないよ」

「単に技師ってだけならごまんといる。誤魔化すこと自体はそう難しくはないはずだ。ただ、あんまり派手なことはしないでくれよ」

「わかってるともさ」

「でもこのゴーレムだけでも十分派手でしょ」

「そこ追求し始めるとキリなくなるから一旦置いとこう。必要ならフォローしていくしかない」

 

 そして基本的にフォロー(そのへん)は俺の仕事。全身を隠す手段があるだけマシ、と考えることにしよう。

 

「ところでこのゴーレムは一体なにができるんだ?」

「大したことはできないよ。とりあえずで作っただけだし。歩く、走る、手を動かす。このくらいだね。ただ、ちょっと中は快適な空間にしてるけど」

 

 パカリとゴーレムの背面が開くと、柔らかな毛布に包まれた操縦席があらわになった。

 上の方には空調魔道具が仕込まれていて、どうやら温度も快適なように作ってあるらしい。

 ……これ、(マニピュレーター)が完璧な動作をするなら、下手すると一切このゴーレムから外に出ずに生活することができるようになるんじゃないか?

 人をダメにする代物になりかねないようだから、よく気をつけておこう……具体的に言うと体型とか。マリー(あいつ)食いすぎだし……。

 

 ともあれ、一応これで一番の懸念は……解決とまでは言わずとも、対策はできた。あとは延び延びになってたガラスを張って、宿泊する部屋だけでも壁紙や調度品などの内装を整え、食事を用意……とすれば、おおよそ準備は完了。あとは迎えるだけだろうか。

 何にせよ作業し通しだな。ここ最近は毎日そうだけど。

 

 

 ――そして、やれるだけのことをやって、約束の日。

 サラク村は、王都人気ナンバーワンの音楽グループ(バンド)を迎えることになったのだった。

 

 ………………迎えることになったのだった。

 

 

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