まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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35.寂れた村にバンドがやってきた

 

 

 だだっ広い空き地を、音の奔流が埋め尽くす。

 強い自己主張の中に繊細な技巧を感じさせる弦楽器(ギター)に、激しくも強すぎず、自らを影と捉えて前に出すぎない打楽器(ドラム)。そしてそれらをまとめ上げる伸びやかで華のある歌声――これは個々人の技量だけではない。音をまとめあげ拡大し、最適なものとして出力する魔法の使い手が裏にいる。

 音とは空気の振動だ。優れた「風」の魔力適性があれば可能な芸当だが、これほど繊細に扱える使い手もそうはいない。

 

 王都でも派手にその名前を轟かせている大人気音楽グループ(バンド)"明星の猟団"――その姿に、クリスたちは当然ながら唖然としていた。

 

「……いきなり村に来て何か組み上げたと思ったら何あの人たち!?」

「王都で人気の音楽グループ"明星の猟団"だ」

「あの……狩猟組合の方を呼んだはずでは?」

「……狩人でもある」

「あれで……!?」

 

 驚愕しながら三人の体つきを見たクリスは、更に目をわずかに開いた。戦う人間の筋肉のつき方だと感じ取ったというところだろう。

 ……実際そうは見えないな。20代少し手前くらいの歌手の女性は見るからに動き辛そうなハイヒールにスタイリッシュな衣装だし、ギタリストは金髪に赤いジャケット、色眼鏡と見た目からしてもう派手派手だ。ドラム担当は岩窟人(ドワーフ)のようだが、ゴーグルに革ジャンとかなりファンキーな格好をしている。

 いずれもおよそ狩人らしさとは無縁の見た目だ。クリスから見ると、さぞかし違和感がすごいことだろう。

 まあこっちには2メートルを遥かに超える体高のまんまるゴーレムが鎮座してるので違和感という意味ではどっこいどっこいだろうけど……。

 

「あの方々とレスター様はお知り合いなのですか……?」

「一人は学院時代からの友達だな。他の人は、話には聞いてるけどよくは知らない」

『変な人だろうなと思ったらとびきり変なんだけど、どういうこと……? ていうか何で音楽……』

「……順序が逆なんだ。元々、学院時代から音楽やってて、組合入ってからも音楽続けてて……んで、なんか気付いたら人気グループに……」

「才能に溢れすぎでしょ」

 

 それは俺もそう思う。

 わざわざ狩猟組合入ってからも音楽続けて同僚と一緒にグループ組んでるというのは……恐らく広報戦略の一環なのだろうが、それにしたって王都で一番の人気を博しているというのはちょっと俺も想定外だった。スケジュールを空けてくれたのは幸運だったと言って間違いない。

 しかし、それにしたって村に来ていきなりライブを始めるのは……多分アレだな。最初はインパクトが肝心とか言うやつだろう。あのバカはそういうとこばっかり凝るからな……。

 

「どうぞ」

「え」

「は?」

 

 一曲が終わり、4人で(約1名ゴーレムの中から)拍手していると、舞台袖から黒髪の女性が俺にベースを手渡してきた。当然だが、事情を知らないクリスやリンデ……だけじゃないな。歌手の人も一様に困惑している。

 

「サプライズだぜ」

「えー」

 

 ……と、俺に声をかけてきたのはギタリストの男である。

 まあ仕掛け人はこいつだろう。ギタリスト――兼、狩人兼組合幹部。そして俺にとっては10年前の学院入学からの腐れ縁。トバイアス・マクレーンというのはこういうヤツだ。

 つーか本人にすら黙ってるサプライズゲストがあるかこの野郎。

 

「仕方ないなお前ホント……」

 

 困惑に包まれたまま次の曲が始まるが、やはり他の二人もプロのようだ。俺とトバイアス(トビー)が軽く音を合わせて何を演奏()るのかを伝えると、即応して無茶ぶりに合わせてくれた。いやすみませんね本当に……。

 ベースが入った分さっきよりも音に重厚感があり、全体的に強い曲調になっている。というかこちらが本来だろう。

 

「なんで兄さま即座に対応できてるのかしら」

「まあ……できてもいいだろうレスター様なら」

 

 クリスの俺に対する期待値が高すぎる。

 それだけ信頼を向けてくれるのはありがたいが、これは別に即応できてるわけじゃなくて元々習得してた技術だ。

 芸能にも造詣が深くなければいけない貴族教育……ってわけでもないんだが……()()()()()()()俺はこういうのはだいたいできる。あの野郎突然無茶苦茶言い出すこと多かったからな……今回みたいに! 今回みたいに!!

 

 そして2曲目が終わると、盛大な拍手でライブは締めくくられた。

 ……いや、正確に言うと盛大に拍手してんのはクリス一人だけだな。リンデと(ゴーレムの中で様子見してる)マリーはやっぱり困惑を隠しきれていない。

 

「感服致しました。レスター様は芸事にも造詣が深かったのですね」

「何よ兄さまのあのプロみたいな対応は」

「間違ってないぜ。そいつは――言わば元プロだ」

「あ、ギターの人」

「お前……」

 

 ギターの人、と呼ばれたトビーは返答するようにギターをひと鳴らしした。

 ……昔より悪化してやがる。こいつここまで自分音楽家ですよみたいなアピールしてたっけか。伊達と見栄を誰よりも大事にしてたがここまで突き抜けてはなかったはず。

 麻偵辞めた後で会って……4年ぶりか? あの頃から何があったんだこいつ……。

 

「ていうかプロって何」

「俺がプロだったこと無いだろデタラメ言いやがって」

「この俺と組んでバンドやってた時期があるなら……ほぼプロだ。そうだろう?」

『何だいレスターこの変な人は』

「ダハハハハッ! 小僧、変な玉から変な人と言われておるぞ!」

「褒め言葉だね」

 

 返事のたびにギャインギャイン鳴らすなギターを。

 ……さて、ステージ上にいた3人も――内1人は困惑しながら――降りてきて、ステージ脇にいたお姉さんもこちらにやってきた。そろそろお互いの自己紹介をするにもちょうどいい頃合いか。

 俺は両者の間に立って、互いを向き合わせることにした。

 

「では、お互いに顔合わせ――いえ、余興も済みましたので、そろそろ自己紹介に移りたいと思います。私はレスター・コールリッジ・アシュクロフト。父エドガーよりサラク村の統治を任命されております。以後お見知りおきを」

「護衛を務めております、クリスと申します。こちらは義妹(いもうと)のリンデ」

「それから……」

 

 それから――皆揃って、小さくない困惑を込めながら異様な球体に視線をやった。

 極めて小規模とはいえ、ステージに上がっていたこともあって今までは彼らも気にせずとも問題は無かっただろう。しかし、こうやって対面するとなるとどうしたって意識に入れざるを得ない。俺たちだって事前知識無しに見ていれば何事かと思うことだろう。

 

『申し訳ない。理由(ワケ)あって顔を出すことができないんだ』

 

 拡声器を通して発せられたマリーの声には加工がされており、男だか女だかわからないような調整がされている。

 これには黒髪のお姉さんから待ったがかかった。

 

「失礼ですが、顔も出せず姿もお見せできないというのは……こちらとしても疑いの目を向けざるを得ません」

『つまりボクが犯罪者だと?』

「そうは申していません。ただ、万が一があれば責任問題になりかねませんので――」

「ラシェル」

「は……」

 

 ラシェル、と呼ばれたお姉さんの追求を制止したのはトビーだ。

 ヤツは切なげな旋律をギターで鳴らしてから口を開い……何で鳴らした?

 

「この村の運営にはレスターとその親父さん……アシュクロフト侯爵家が深く関わってる。そっちが不問にしてる以上、余計な勘ぐりは野暮だぜ」

「承知しました。申し訳ありません、不躾な真似を」

『いやー……ボクも今の自分を客観視したら怪しさ全開だし構いませんよ、うん……』

「めちゃくちゃ反体制的な見た目ですごい常識的なこと言い出したわよあの男の人」

「あいつ伯爵家の出だから生まれも育ちも死ぬほど良いぞ」

 

 おかげで制度とか暗黙の了解とかよく知ってて弁えてるんだよ。

 だからって断じて常識人とは言いたくないが。変人には変わりないし。

 

『そういうわけなので顔は出せません。本職は魔道具技師。博士とでも呼んでください』

「ダハハハッ! 随分腕の良さそうな技師じゃねぇか、ええ? オイ!」

「エーゴンさん、あまり無礼な真似はやめてください……!」

 

 ずんずん近寄ってゴーレムの前面をバシバシ叩くドワーフの男性――エーゴンさん。彼の目はまるで中にいるマリーのことまで見透かしているようだ。

 ……ロクな物資も無いのにこんなゴーレムを造ることができているのに、引っ掛かりでも覚えているのかもしれないが……決定的な証拠は無い。単に物珍しさでやってるだけの可能性も高いだろう。ただ、少し警戒はしておこう。

 

「改めまして自己紹介を。私、バンド"明星の猟団"マネージャー、兼狩猟組合」

「ハンターギルドだ」

「……ハンターギルド、スナイフェルス王都本部でマネージャーを務めておりますラシェル・セルベットと申します……」

「トビーお前……」

 

 頑なに名前を改めさせようとするトビーに若干引いていると、ヤツは涼やかにギターを奏でた。

 それでゴリ押しスルーしようとするのやめろや。

 

「名前の件はまた触れるさ。俺はトバイアス・マクレーン。トビーと呼んでくれ。ギタリスト、ハンター。そして次期ギルド支部長の――スーパースターだ」

「レスター様、私の学が無いせいで迷惑をおかけして申し訳ないのですが、この方は何をおっしゃっているのですか?」

「学のあるなしで理解度は変わらないから気にするな」

「「「うんうん」」」

 

 どうして俺のフォローに対して組合側の三人が揃って頷いているのかな?

 連絡入れた時も大概変わってないなと思ってはいたが、この分じゃ周りにロクな説明もしないまま突っ走る悪癖は昔のままだな……下手すると悪化してるまであるかもしれない。

 

「こやつのことは置いておいてだ。ワシはギルドの専属鍛冶師エーゴン・ツェンダー。あと小僧にせがまれてドラムもやっておる」

「専属?」

「おう。なんでも腕の立つもんに相応しい武器が見つからんっちゅう話じゃろ。任せとけい!」

「……専属の鍛冶師というのは、つまり」

「まあ……武具の消耗が激しい狩猟組合が全幅の信頼を寄せるくらい腕の良い職人だろう」

 

 冗談キツいぞトビーの野郎。何しれっとドえらい人材連れてきてるんだ。

 しかもよりによって音楽活動にまで巻き込んでいる。人によってはこんな話聞いたら卒倒するぞ。

 マネージャーだというラシェルさんも事務方ではかなり地位が高い人だろう。どういう経緯で集めたんだこの人材……。

 

「で……あー……フェデリカ・カファロです。その……ボーカルで、一応、ハンターやってます」

「王都最高位の五つ星ハンター。うちの秘蔵っ子だぜ」

「失礼ですが、宣伝戦略などではなく、ですか?」

「実力でしかこの称号は獲らせねェ」

 

 ……これもしかして、王都狩猟組合のガチガチの最精鋭揃えてきてない?

 

『すごい人材を……揃えてきましたね?』

()()サラク村へ行くとなればこれくらいの人材は必要不可欠です。未だ周辺は高位魔獣のはびこる過酷な環境です。可能な限り戦力を整えなければ、駅から村へ到達することもできないかと――」

 

 思っていたのですが。とラシェルさんは困ったように眉間を揉んだ。

 うん……整備したからな、道。併せて、その途中でクリスが現れた魔獣をだいたい駆除してるし、度々ミントの香気を撒いたりしてマーキングしたから、「あそこに近づくと死ぬ」と徐々に魔獣が学習しつつあるんだ。かつてと比較しても安全度は桁違いだろう。中位魔獣くらいは出るけど、これだけの人材が揃っているので一蹴してしまったというところだろうか。

 いや、分かるんだけどな。当事者でもない限り、サラク村周辺がちょっとだけ安全になりましたよ、なんて言われても信じられん。外部と交流もほとんどないから、動きがあることを知っているのは父上や関係者を除けばサバル総合病院の院長先生や花屋のマッチョさんくらいか。

 王都まで情報が伝わっていないとしても仕方のないことだろう。

 

「音楽活動をしているのは……」

「広報戦略だぜ」

「見りゃ分かるわんなことは」

 

 わかりやすく()()()人材であり、最前線に立つ人材だからこそ人々の憧れを集めやすい。スター性と言うのだろうか。

 単純に集客効果のみならず、音楽グループへの憧れと組合への憧れを混同させる意図もあるだろう。一方に興味を持って、もう一方にも興味を持ってもらえれば儲けものというか……ちょっとセコいが、それが当たって王都で人気を博しているのだから頭が痛くなる。

 

「……というか何だ星って」

「料理人のランクを示すのに星で示す文化があるだろ? アレをちょいと参考にしたのさ」

 

 参考どころか丸パクリだろ。

 

「等級分けも必要なんだぜ。ハンターの損害を減らすのは当然……内部での等級争いを煽ってより高い実力を備えてもらうにはな……」

「そんな意図があったんですか……!?」

「オイ何で身内がビックリしてんだお前ちゃんとそれ伝えたのか」

「…………」

 

 ジャカジャカジャンじゃねーんだわ。

 エーゴンさん爆笑してるし。

 

「あのように言葉足らずなので……我々がなんとか意図を汲み取っていい具合に解釈して調整しています。等級に関しては、確かに力量に対して適切な魔獣を割り振り、損害を減らす役に立つのでそういった意図かと思っていたのですが……」

「友人がご迷惑をおかけして申し訳ありません……」

「ああ、いえ、そのような。頭を上げてください、村長さん。なんだかんだで利益は出ておりますので……」

 

 クソ厄介なやーつ。

 逆に、利益が出てるせいで下手に処分できない状態になってるじゃないか。オマケに既に独立しているとはいえ貴族の血筋で、ある程度身勝手を通す権力もある。

 学院の頃ならな……俺だけじゃなくて、殿下や他の友人もトビーがアホなことする理由を逐一聞き出してたんだが、組合の人間にそれを求めるのは酷だ。この人たちは友人ではなくあくまで同僚だし。

 更に、この年齢で組織の幹部という地位まで昇進もしている。部下からすれば、上司のやることの意味をいちいち聞いてみるっていうのは難しいだろうな……。

 けど、やっぱ言わなきゃわからないからこの態度良くないぞトビー。

 荘厳な音鳴らすな。

 

「師匠の友達にしてはマトモな人っていうか……」

「レスターもヤンチャな時期はあったぜ。なァ」

「学院時代の話だろ」

 

 ヤンチャが許される時代だったからそりゃ俺も多少の無茶はしたよ。というか学院に所属する年頃の子供は皆大なり小なりヤンチャしてるよ。何より俺がヤンチャする時にだいたい一緒にいたじゃねーかお前。

 けど卒業した以上は社会に出ないといけないし、落ち着いていくのが普通じゃんよ。何こいつエスカレートしてんの。

 というか師匠って、ボーカルのフェデリカさんとトビーって師弟関係なのか。

 ……狩猟と音楽どっちの?

 いや、今気にするとこはそこじゃないか。

 

「お話も長くなります。いかがでしょう、宿泊施設を用意しておりますので一度場を移しては」

「ご配慮痛み入ります。行きましょう」

「レスター」

「はい?」

「お前に敬語で喋られると気持ち悪ィ」

「張り倒すぞ」

 

 外部との契約だし、親しき中にも礼儀ありって言うからなんて思ってそれなりの態度取ってたらさァ!!

 昔馴染みが一番無礼な態度取ってくんだけど!!

 

 





 書き溜めが尽きたので、次回以降週1~2回程度の更新になります。
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