なんだか色々と疲れるような出来事があったが……色々あったが!!
ともかく、俺たちは組合……もとい、トビー曰くギルドの4人を連れてホテルへと向かうことになった。
ステージにするために盛って固めてた土を分解した後、皆で向かったのはホテル(仮)の地上六階建て宿泊施設。
これにはさすがのトビーも口笛を吹いて……一応感心はしているようだった。
「はー、すっごい……これなんていうの、ラシェルさん。ハイカラ?」
「だいぶニュアンスが違うかと」
「おう、村長よ。こいつァこんな建材の足りなさそうな村でどう作り上げたんだ? 特にあのガラスとかよ」
「そうした分野に明るい博士の指揮のもと、皆で試行錯誤しました」
外面もあるので黙っとこう。
取り繕っても仕方ない部分はあるが、外向けに情報を出すなら多少の取捨選択は必要だ。建物自体を俺とマリーが死ぬほど魔力絞り出して突貫で仕上げたとか、炉を造るのに妹分の鱗使ったとか、そのまま言葉にすると
いや、俺労働者じゃないから法律の適用外だな。フハハハン!(ヤケクソ)
「他に建物が見当たらねェ。お前らはどこに住んでんだ?」
「ここの地下に生活スペース作ってる」
「フーン……」
トビーについてはビジネス的なやり取りはもう諦めた。こいつは自由すぎる。
狩猟組合幹部トバイアス・マクレーンではなく、俺の同級生アホのトビーだこいつは。もうそのつもりで応対していく。
「生活スペースは別に作っとけよ。村長が穴蔵暮らしじゃ示しつかねェだろ」
「急にマトモなこと言い始めたわよこの人」
「……余裕ができたらそうするつもりだよクソァ!」
今の居住スペースは、いずれ屋敷でも建てればそっちに移るつもりで使われているものだ。
ただ、今の総人口4人の状態では必要性を感じないし新しく建てる時間・人材・経済的余裕も無い。だから後回しだ。
「…………フー……」
クッソこの野郎「どうだかな」みたいなため息つきやがる。腹立つ!
ええい、もういっそトビーの話は一旦置いといてだ。
「部屋と食事を用意させていただいておりますが、いかがいたしますか?」
「メシじゃ!」
「食事だ」
「いえ。身だしなみを整える時間をいただきたいので先にお部屋の案内をお願いします」
「……あ、ごめん。ラシェルさん、それと……」
「お手数おかけしますが、浴場などあればそちらもお願いします」
「承知しました」
すごい。トビーたちの主張を一蹴してしまった。
どうやらこの集団の主導権を握っているのはラシェルさんらしい。酒! 肉! と文句タラタラなトビーたちに対してもどこ吹く風だ。
「クリス、案内を頼んでもいいか?」
「はっ。万事お任せください」
「万事は任せきれない……」
目に見えて落ち込んだ雰囲気のクリスは、四人をそのまま各部屋に案内し始めた。
いや。だって、なあ……例えば事務仕事とか任せられないだろう。
最近字をちょっとずつ読めるようになってきたとはいえ、未だ算術はできないし……任せられることは着実に増えつつあるが、万事は無理だ。
……あくまで心構えの話と言うならそれもちょっと身構えすぎなので心を穏やかに仕事してもらいたい。
「よし、じゃあこっちは食事の用意をしようか」
『フルコースは出せないけど大丈夫なのかい?』
「デザートやソルベ、魚料理を省いた簡易的な方式で行く。先に断りはいれてあるし、店としてオープンする前だから流石に納得はしてくれてるよ」
相手がトビーだけなら米と肉焼いただけの丼出すだけで満足してくれると思うが、団体様だとそうはいかない。ちゃんと店の料理として提供しないとな……。
「お待たせしました」
1時間ほど後、俺は(突貫で内装を整えた)レストランのスペースで、組合の4人と改めて対面することになった。
ラシェルさんは仕事とあってか組合の制服姿のまま。トビーも特に着替えてはないようで、色眼鏡を外してジャケットの胸ポケットに収めている程度だ。ギターは置いてほしい。
一方、エーゴンさんは先程と違って作業服を身に着けており、ゴーグルも外している。ファンキーさは鳴りを潜め、白髪交じりの髪と併せて職人らしさがよく出ていた。
フェデリカさんは――狩人らしからぬ軽装だ。あと全体的に洗練された雰囲気のトビーなどと比べて少し服の選び方が野暮ったい。ステージ衣装を身に着けていた時と別人のようだ。姿勢が堂々として見えないのも大きいだろう。役割に入り込むタイプと見える。
……まあ、個々人のことは置いといて今は料理だ。
「前菜、二種類のジュレを添えた冷製テリーヌです」
「ひぇっ」
「ほう」
一品目は食欲増進のために酸味と塩味をきかせた品だ。ジュレはトマトとコンソメの二種類。混ぜすぎないことで味の境目を作ることに少しこだわったものだ。見た目も宝石のように細工するのに少し苦労した。
……しかしなぜ今小さな悲鳴が上がったのだろう。フェデリカさんか? ……何に対して?
「ジュレの色味が綺麗ですね。このテリーヌは何を?」
「爆弾ヤギの肉……それと、レバーをはじめ、内臓と
「レバー……あ、いえ。それよりも、爆弾ヤギ?」
「ええ、洞窟の」
「興味深いのう。やったのはあの隙を微塵も見せなかった護衛の嬢ちゃんか?」
「はい」
感心、驚き、疑念。様々な感情が見え隠れする中、その中で唯一トビーは素知らぬ顔でテリーヌを口に運んで小さく頷いていた。マイペースなやつめ。
「おう、小僧は気にならんのか?」
「無意味な嘘をつくヤツじゃねェ。レスターが『そう』だっつーんなら事実だろうぜ。それよかお前らもこいつを味わえ」
「そいつはそうだな!」
豪快にかぶりつくエーゴンさんに続き、少しレバーが苦手っぽいラシェルさんと、なんだか緊張していそうなフェデリカさんがテリーヌを口に運ぶと、すぐにその表情が和らいだ。
レバーが苦手だという人の話を聞く限り、その原因はパサついた食感と独特な臭いによるものが多い。だがこのレバーは違う!
というのも、魔獣肉だから――というだけではない。調理の際に低い温度でじっっっくり熱を通したためだ。時間こそかかるが、臭みを抑えて食感を良くするには低温での調理が適している。更に、香味野菜をペーストに混ぜ込んでおり臭いをより誤魔化しているというところだ。
「これは……レバーの臭みがありませんね」
「このジュレも、酸味と甘味、塩味と旨味が交互に来て飽きない……お母ちゃ――母さんにもこんなの食べさせてあげたいな……」
「ワシちともの足りん」
もっとない? と皿を差し出してくるエーゴンさんだが、オードブルというのは足りないくらいが適正というか、メインに行く前に満足されたらコース料理に行く意味がないんだよ。難しいことに。
逆に言えばこれはオードブルとして求められている要件を満たしているということでもある。食欲増進にはちょうどいいと考えてよさそうだ。
さて、求められた以上は応じるべきだろう。次の皿だ。
「二品目、甘藷*1のポタージュです」
「甘藷だぁ~?」
じゃがいもなどと比べると甘藷は甘味が強い。人によってはデザートや菓子の印象が強く、酒好きらしいエーゴンさんにとってはあまり好まないものなのかもしれない。
メニュー変更も考慮していたが……ここはあえて出す。俺が料理を出すのは、ただ彼らをねぎらいたいからというだけじゃなく、魔獣を食材としてどう使うかを示すためでもあるのだから。
「甘……いや、旨い!? 甘旨い!」
なんとなく拒否感を持っていたようだが、匙を口に運べば再び驚きの声が発せられる。
このポタージュは沼熊の獣脂で素材を炒め、ハイドラの骨から取った出汁でのばしたものだ。深い旨味と脂のコクが加わることで甘味が際立ち、メインにも負けない存在感や重厚感を出すことができる。
デメリットとして、クセ強の脂は一緒に使う香味野菜の調整を誤るとすぐに臭みになる点と、重厚感がありすぎて普通の1皿分を食べるとこれだけで満足してしまいかねない点だ。
量を調節することで対応はしているが、試作した時はマリーが2皿目の途中で「もういいかな」とか言ってしまうほどである。
「不思議……量は物足りないはずなのに妙な満足感がある」
「これは何を使用されているのですか?」
「甘藷、玉ねぎ、セロリといった野菜を粉砕・裏ごししてハイドラ種の骨から取ったスープで軽くのばしております」
「小僧、なんぞ神経質な飲み方をしているが、体調でも優れぬのか?」
「テーブルマナーだぜ」
突然食事中にギター弾き始めるやつにテーブルマナーを説かれると、軽く頭がおかしくなりそうだ。俺じゃなきゃ許してねーぞこの野郎。
それでいて食器の音はまるで立てないし飲む時も静かで割と完璧なのが腹立つ。
「レスターのとこ以外でこんな真似しねェさ」
「考えをナチュラルに読むな」
そしてシームレスにギターを弾き始めるな。
音もなく置いて音もなく手に取るのは何らかの魔法かと疑うレベルだが、食事中はやめろ。ギター汚れるぞ。
……さて。
「三品目。爆弾ヤギのコンフィ、
ここでそろそろメインディッシュだ。低温の油でじっくりと煮込むコンフィ……調理そのものはごくありふれたものだが、メインを張る以上はそれなりの工夫はしている。
というのは名前の話ではなく。
「……何仕立て?」
「複数種の魔獣の素材を使用しております
当初は
……これ本当に看板にしていいやつ?
「こんだけいい肉をコンフィにするとちとクドくなりがちだがな……」
予感を口にしながらも丁寧な所作で肉を口に運んで、トビーは――ギターを弾かなかった。
何か不味かったのだろうか? と思ったがそうではないらしい。カッと目を見開いたかと思えば黙々と、そしてもりもりと食べ進めていく。
「うおっ」とうめいた後はエーゴンさんも同様で、フェデリカさんは……なんかもはや泣きながら食ってる……。
「なんちゅうもんを……なんちゅうもんを食わせてくれたんだべ……」
なんか今北方の地方弁使ってる人いなかった?
ちょっと困惑していると、食べ終わって少し落ち着いたトビーがギターを手に……せず、手振りだけで
「レスター。このコース、フルでやるならいくらになる?」
「……手間賃込みで5万から10万を想定してる」
「そんなとこだろうな……」
「何だよ急に……」
「…………」
今にも音が聞こえてきそうな迫真のエアギターテクを披露するトビー。
どうやら思考の海に沈んだらしいが、もうちょっとわかりやすい形で考え事はしてほしい。
「お持ち帰りとかできたり……しないかな」
「フェデリカさん……」
「い、いや、だって、こんなに美味しいものをお土産とかにできたら最高だ……でしょ」
「無茶をおっしゃらないでください。あちらも準備があるでしょうし、突然そんな申し出をしては失礼です」
「そっかあ……」
「構いませんよ」
「「えっ」」
皆の顔が一斉にこちらを向く。元々は土産物屋などもやる予定はあった。それが早まった上に料理もその品に入れていいとなったと考えれば悪いことでもないだろう。
「コンフィは油に浸して調理することで保存性を高めた料理です。風味は落ちますが、浄化魔法を併用していただければ5日ほどは問題なく食べられますよ」
「やった……!」
「ちなみにお値段は……」
一応コース料理のメインを張る看板だし、技術と素材の粋を集めたものだけあって安売りはしたくない。
オマケに、瓶詰めか缶詰にしないといけないのでその分の手間賃もある。一応トビーには5万くらいと言ってしまった手前だし……。
「……2万
「10個ください」
「しょ、承知しました」
安い買い物でもないだろうに、あまりにも食いつきが良すぎる。
いや、まあ……金はあるのか。音楽活動と狩人の仕事のおかげで。しかも二足の草鞋状態だから金を使う暇もなさそうだ。
「マクレーンさんはいかがされますか?」
「いらねェ。ここにいりゃいつでも食えるだろ」
「ここ……あの、まだ支部を作るとは決まっていませんよね?」
「それをこれから話すんじゃないのか……?」
そもそもだ。俺がトビーを村に呼んだのは、災禍の洞窟の視察と狩猟組合のサラク村支部建設の「依頼」のためだ。決定事項では断じてない。
みんなそのつもりでいると思っていたし、ラシェルさんの反応を見る限り彼らもそのつもりのようだが、なんかトビーの中で決定事項になってしまっている。
そもそも一介の幹部候補の一存で決められることか?
「そもそもここに支部を作ンのは既定路線だ。いちいち誤魔化して話をまどろっこしくするのは趣味じゃねェ」
「お前それ内部機密だろ。もっと誤魔化せよ――と、申し訳ありません、出過ぎたことを」
「いえ、むしろもっと言ってください。この方は本っっっ
「………………」
次期支部長って、もしかしてこいつの悪癖を疎んだ上層部が仕組んだ左遷じゃないか?
そんな思考がふと頭をよぎった。