まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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39.負担を増やさない手段

 

 

 災禍の洞窟入口――の、徹底的に整備した一種のエントランス。ここはサラク村にとって忌むべき場所であると同時に今後の観光資源となりうる重要な場所でもある。

 ホテルから一歩外に出るだけですぐにその入口が見えるこの場所は、帝国側からこちらにやってきた時の「顔」となりうる。すぐに開通するわけではないとはいえ、早くその外観や内装を整えるに越したこともない。

 今後の発展を見越して、「駅」を意識して入念に手入れをしたその場所を目にした組合側の4人は、それなりにわかりやすく驚きを示すことになった。

 

「ここどこ!? 魔獣は?! 洞窟は!?」

「すごい……これはもう洞窟というよりは一つの施設ですね」

「……のう村長よう。これをこの人数でやったんか?」

「……フフッ!」

 

 戦闘を予想して篭手や具足、胸当てなどを装備してきたフェデリカさんはまったくの想定外に愕然とし、事務方のラシェルさんは既にここまで手が入っていることにポジティブな驚きを見せる。

 ……そして、じゃあそれを「誰が」「何人でやったか」という疑問に思い至ったエーゴンさんは、こっそりそこを追及してきた。俺は曖昧に笑って濁すしかできなかった。

 この人数でじゃないよ。整地は俺一人だよ。

 同僚や部下じゃなく自分自身だから酷使し放題だよ。やったぜ。

 

「レスター。魔獣はクリスさんが対処したっつったな」

「まあ……そうだな」

「どうやってだ?」

「どう……?」

 

 思わずクリスと顔を見合わせて手振りをして考える。

 どうって……こう……こう……?

 どう……?

 

「頑張りました」

「精神論を聞きたいわけじゃねェンだ」

 

 どうしよう。真面目な話、どうやってと言われても、規格外の強さのクリスが疲労と空腹で倒れるまで頑張ったと言うほかない。

 それも俺と会う前のことなので色々と説明が難しい。何よりクリス自身に説明させると5分で済むものが30分も1時間もかかる。

 ……俺の方でかいつまんで説明するか。

 

「実はだな……」

 

 そういうわけで、やや不安まじりながらも、俺たちのこれまでの活動についてを(マリーのことはボカしながら)だいたい語ることになった。

 突飛に過ぎる出会いに始まり、クリスたちの出自。サラク村復興を始めたきっかけ。これまでの活動などなど……話せば話すほど4人がどんどん百面相していくのが印象的だ。

 そしてトビーはいちいちギターを鳴らして茶々入れてくるのはやめてほしい。

 

「……つまり、既に一度帝国側からこちらまでの道は開通している、と」

「それを再び辿って改めて一本の道にしようという計画ですね」

「…………」

 

 トビーが色眼鏡の下から俺を睨んでいる。何でそんな重要なこと俺に言わなかったんだ――という文句と、クリスのことを半ば推察出来ている顔だなこれは。

 仕方ないんだ。俺も多忙だったし、内部で色々済ませてしまいたいことも多かったし……あと、組合の幹部を動かすのにちょっと引け目があったんだよ。

 

「戦場のにおいどころか、本当に戦場経験者じゃったか」

「はい。ですがそのこと自体は重要ではありませんので」

 

 クリスの話題の逸らし方が露骨すぎる。

 エーゴンさんだから気にしないでもらえるけど、逆に気になるぞその言い方……。

 

「フー……ま、気になることはあるが明確なビジョンと手段があるなら俺は構わねェさ」

「マクレーンさん、あまり安請け合いは……」

「慌てンな。俺()()()全面的に賛成だが……組織としての方針がコレで決まりとは言ってない」

 

 あくまで個人としての心持ちを述べているようだが、率直に言って詭弁に近い。トビーの組合幹部という立場からこういうこと言われると、部下はある程度意を汲まないわけにいかないからだ。

 ズルいやつだな。

 

「ワシは小僧に賛成じゃな。こんな面白い仕事もなかなかあるまい」

「……アタシはちょっと反対。人少なすぎてカバーしきれないよ」

「洞窟は広大です。配置しなければならない人員も多く、私には非現実的に聞こえるのですが……」

 

 なるほど。ラシェルさんたちは狩人にかかる負担の大きさが気にかかるらしい。

 正直すごく分かる。俺だってクリス一人に負担がかかるのが不適切だと思ったからこそ、組合にこうして依頼を出しているのだから。

 その上で、人数が足りない、負担が大きいと言うのならこちらもそれなりの案を出して説得しなければならない。

 

「では、こちらをご覧ください」

「うわっ!」

「も、模型……?」

『また出たね、レスターの変態じみたミニチュア』

 

 変態とか言うな変態技術者め。

 その場に俺が魔法で形作ったのは、いつぞや作ったのと同じ洞窟のミニチュアだ。エーゴンさんは興味深そうにこいつに触れ――あっ、端っこ折れた。

 エーゴンさんが滅茶苦茶申し訳無さそうにしているが、強度は重視していないし組み換え魔法で作っただけのものなので、その場ですぐに修復できるから問題はない。

 

「なんじゃこりゃ?」

「洞窟を大雑把に模型にしてみました。今我々がいるのがここですね」

 

 以前と同じように、石灰で白く印をつける。更にクリスのルートを示して、それを元に地下の大扉までを大きな道に変えてつなぐ。ここまでの計画は前回と同じだ。

 問題はこの大きく、そして長い道だろう。どうやったってこの全域をカバーするのは難しい。

 

「クリスの証言を元に計算すると、だいたい大扉までは20キロ超。ここから最寄り駅までと同じくらいの距離ですね」

「防衛しないといけない範囲が広すぎるとは思いませんか?」

「仰る通りです。なので、いくつか策……いや、方針を考えています」

 

 言い直したのはそれが「策」だなんて言えるほど練られたものじゃないからだ。改善すべき点はいくらでも見つかるだろうし、運用面でもやってみてはじめて分かることはある。

 そこは優秀な人材が修正を加えてくれるだろうし、まずは大枠だけ示す。なので方針だ。

 

「と、言うと……?」

「洞窟全域に映像を送信する魔道具を設置して、監視体制を整えます。見回りをする頻度は減らせるでしょうから負担も軽減されるはずです」

『異変があった場所を特定したら人を送り込むこともできますしね~』

「ふむ……」

 

 もちろんこれは魔獣対策だけでなく、不審者対策も兼ねている。暗殺者対策には洞窟だけでは当然不十分なため、村の中にもこうした魔道具は設置するつもりだ。

 

「それから2つ目……ゴーレムを要所に配置します。狩人が到着するまでの時間が稼げるなら、常に警戒態勢を維持しておく必要は無くなるでしょう」

「……なるほど」

 

 これは軍の力があまり強くない地域で使われることの多い手だが、魔獣が暴れ始めた時の初期対応で戦闘用のゴーレムを使うことがある。

 鉄などの硬質な素材を外装に使用していることが多いため、足止めくらいなら難なくこなしてくれるのも大きい。

 そして今、ラシェルさんが視線を向けたマリーは、快適空間を備えたまんまるゴーレムを片手間で造ってしまうような技術者だ。防衛用のゴーレムを作るくらいは簡単だ、と本人も言っていた。

 相手によっては防衛のみならず、討伐までできることだってあるだろう。改良してく余地もあるだろうし、こっちを主導していくのは狩人ではなくあくまで技術者。狩人の負担なら確実に減らしていける。

 

「そして3つ目」

 

 最後。ある意味これが一番大事な話……というかある種の根幹だな。

 これからやろうとする事業を考慮すると、こいつが無いと何も始まらないし、何より徒歩での移動が死ぬほど辛い(体験談)ので……。

 

「ここに鉄道を通します」

「……!?」

 

 トビーのギターの弦が切れた。

 正気か、とでも言いたいような視線が向けられるが俺は一点の曇りも無く正気だ。いや、やっぱちょっと疲労という曇りはあるかもしれん。

 ともかく、何度も整備のために洞窟には潜ったが、大扉まで道が開通してはいないとはいえ――()()()()()人と物を移送するための機構は絶対に必要だ。

 

「国家規模の事業だろそりゃ。村って単位でやることか?」

「確かに、王都を貫いて国を縦断するような鉄道を敷くなら国の支援は絶対に必要だと思う。けど、ここに関しては長めに見積もっても20kmから30km程度……都市と都市を結ぶ街道ほど長くもない」

「長くないどころかまだ10kmも整備できてないんじゃないかしら」

『まだまだ手を付け始めたばかりだからね。最初は人員と物資を運ぶだけの簡素なものでいいと思いますよ』

 

 どんどん開拓していくと共に、徐々に線路も延伸していく。その後、開通し切ってから、改めてちゃんとしたものを敷き直す。

 ……そんな流れでも何ら問題は無い。要は長距離を移動するのに負担を軽減できる手段があるか、という話だ。

 

「のうラシェルの嬢ちゃん、ここまで考えておるなら、もうええんじゃないか?」

「……そうですね」

 

 促すようなエーゴンさんの言葉にラシェルさんが頷きを返すが、あまり納得はいってなさそうだ。

 個人的にはそのくらいの方がありがたい。俺自身、自分の考え方の詰めが甘いことなんてことは分かってるつもりだが、ある程度ズバッと他人に指摘された方が修正がしやすくて助かる。

 

「つーわけで……俺らハンターギルドは全面協力で行くぜ」

「ありがとう。で、ひとつ聞きたいんだが」

「おうよ」

「お前何で組合をギルドとかって呼ぶのにこだわってんの……?」

「……フー……」

 

 トビーは俺の質問に答えることなく、それはもう綺麗なムーンウォークを披露してその場を去ろうと試みた。

 

「確保」

「はっ」

「待ってくれ!」

 

 2秒でクリスに制圧された。

 

「お見事です」

 

 ラシェルさんが見るからに溜飲が下がったような顔をしていらっしゃる。

 今までこういう手でそのまま逃がしていたのが見て取れる。フェデリカさんは弟子らしいから動きのクセくらいは知っているだろうし、逃げることも容易いだろうな。トビー自身もクリスにあれだけ食らいついていける優秀な狩人ではあるのだし。

 ……それはそれとして。

 

「ちゃんとした理由があるなら言葉にしろや……姉御や殿下みたいに何でもかんでも察して根気強く内容聞いてくれる人ばっかじゃねえんだぞ……」

「珍しく兄さまがイライラしてる」

『ボクもちょっと前に叱られてるけど』

「あれはマ……博士ちゃんが悪いじゃない」

『ぬぐぅ』

 

 俺だって身内が目に余るようなことしてなきゃ叱りゃしねーよ!!

 

「さ……酒の席で話すから今は見逃してくれ……」

「言質取ったぞテメー」

 

 どうせこいつ自分の考えてることは口に出さない方が神秘的に見えてイイとか考えてるんだろう。カッコつけ野郎め。

 

 

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