まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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42.残る者と戻ってくる者

 

 

 さて。

 あんまり魔獣を狩りすぎても今度は肝心の素材を運ぶことができなくなるため、適度なところで引き上げることにした。

 いつも通りさっと整地し、通路は土と岩で塞ぐ。これで大抵の魔獣は入ってこられない。岩をぶち抜ける魔獣自体はいくらでも存在するが、わざわざぶち抜くことに労力を使うよりも普通に移動できる場所に行って食料を探す方がよっぽど効率が良いためまず入ってはこない。

 ……はずだ。

 絶対は無いので監視の魔道具が欲しい。切実に。あれさえあれば、入り込んできた魔獣にも即応できるし……。

 ともあれ、今日も無事洞窟の整備が終わり、様々な魔獣素材を手にして帰宅できたわけだ。

 

 しかし……なぁ。

 ギルドの面々によるプロの処理を見せてもらいつつ、次々と保管庫に素材――というか大半は肉――を運び込んでいくが、その量が半端じゃない。

 大型の蝙蝠ワイバーンに珍しい陸生の砲弾エビ、中型は爆弾ヤギに火猪、ヌメリカエル。火猪は以前仕留めた時にそのまま自然発火するまま燃え尽きてしまったが、これに関しては空気を遮断して燃焼できなくするという方法で対処に成功した。

 水は脂が浮いて消火できないため逆効果なのだそうで、俺たちだけで対処する際は難燃性の砂や岩を俺が生成して囲うことになりそうだ。ラシェルさんがいるなら酸素を遮断すればいいんだけどな。風系統は……クリスが使えなくもないが、適性ドンピシャじゃないので酸素だけを除くみたいな微細なコントロールはできないだろう。

 

「これ……食べ切れるか?」

「お望みとあれば食べきってみせます」

「そういう話ではないんだ……」

 

 クリスはだいぶしょんぼりした。

 ……そりゃ食べられないよりは食べ切れるほうがいいけどさ。そういう話じゃないじゃんね。

 食べ切れるかどうかで言うとクリスは気合と忠義で獣化してでも食べきるだろうけど、食べろと言っているわけじゃないんだ。もちろん腐らせるよりいいけども。

 

「安心しな。30日……いや、20日もくれりゃハンター揃えてくっからよ。むしろ食い物が尽きる心配をしてな」

 

 尽きさすな。

 

「結構必要ね……」

「一度王都に戻って、募集をかけてからなら短いくらいじゃて」

「……試験内容の選定から素行調査まで、私の仕事ですよね?」

「……頼むぜ!」

 

 張り倒すぞこんちくしょう、とでも言いそうなほどの鋭い視線がラシェルさんからトビーに向けられた。

 ……俺たちは知っている。彼女は「やる」人間だと。トビーはそれで足首を捕まれ体勢を反転。首から落とされついでに肘を破壊されかけた。魔力の作用で肉体を強化する素養が無ければ危なかったかもしれない。

 ダメージを与えるつもりは無いにしても、もしかするとラシェルさんも結構動ける人なんじゃないだろうか。カタギの動きじゃなかったぞアレ。

 

「ワシも戻って工房を建てる準備をせねばな。今のままじゃあクリスの嬢ちゃんに合うものは作れん」

「私はカッコよくて頑丈であれば何一つ問題ありませんが」

「俺に二度同じことを言わせないでくれないか?」

「ダハハハハッ! まあまあ、村長よう! その方が士気が上がると言うんなら邪険にするもんじゃあないぞ!」

「いえ、邪険にしてるとかそういうわけじゃなくて……」

『エーゴンさん、これなんですけど』

 

 みょん、とマリーはタブレットをゴーレムの腕先に移して、エーゴンさんへ向かってクリスが求めるだろう武器の想像図を示して見せる。

 今まで見たこと無いような渋い顔になった。

 

「ワシの、使うもんの能力を損ねる武器は違うと思っとるんじゃよ」

「あうう」

 

 流石にそこは職人として譲れないようだ。

 譲らないでいてくれてありがたかった。もういっそ本人にしか扱えないほど難しい武器でも構わないが、実力を発揮できなくなるのは根本的に問題が違う。

 

「なぁに、そういう調整もワシの仕事よ。強者にはそれと分かるシンボルが要る。武器の見た目を凝るのもその一環、完璧ではなくとも納得のいくものは作ってやるわい」

「よろしくお願いします」

 

 

 と、まあそんなわけでトビーたち3()()は一度準備を整えるために王都へ帰っていった。

 後には彼らを見送る俺たちと、リンデとマリーにガン見されているフェデリカさんが残ることとなった。

 

「……さて」

「『さて』じゃなくって兄さま」

『彼女、戻らなくていいのかい?』

「アタシ、戻っても仕事無いから残ってていいってさ……」

『世知辛いねぇ!』

 

 フェデリカさんは唯一、3人にはついていかずに村に残ることになった。

 これは前に語っていた通り、軍の力が強い王都ではハンターの仕事が少ないことが原因だ。トビーたちもこちらに来るための準備に追われ、音楽活動をする暇は無いだろう。タイミング的にちょうどいいようだ

 

「いっぱい仕事あるから助かるわ。よろしくね、フェデリカさん」

「うん、よろしく」

「申し訳ありません。しばらく給金などは出せないとは思いますが……」

「それはあまり気にしていないから大丈夫……です」

「恐れ入ります」

 

 いやもう本当に……いずれまとめて支払うつもりではあるんだけど、今すぐはどう考えても無理だ。

 リンデやクリスに渡すお小遣いとはわけが違う。魔獣素材の売買にしても、ギルドの介在が決まった今、またラシェルさんたちと練り直す必要がある。

 もちろん、必要に応じて支給はするが……。

 

「代わりに、後日精算させていただくのと……食事と住居は無償で提供させていただきます」

「助かる。じゃない、助かります」

「……それから、私は気にしませんのでどうか楽な喋り方をなさってください」

「え。いや、村長さんだってお硬い喋り方じゃん……」

「これでも責任者です。礼を失するわけにはいきません」

「……師匠に爪の垢を煎じて飲ませたいよ」

「効果は無かったのでやめておいた方がよろしいかと」

「…………!?」

 

 色々試したことはあるんだよ。実行犯は俺じゃないけど。

 あと爪の垢を取られたのも俺じゃなくて殿下だったな……結果は現在のヤツを見れば分かる通り、トビーが体調を崩しただけで何の改善にもならなかった。

 

「レスター様。少しお待ち下さい」

「どうした?」

「……ええと、あの、あれを」

「あれ? ああ」

 

 クリスは最近自分の説明が下手なことに自覚的になってきたせいか、できるだけ説明を省こうとする傾向が生じてきた。

 ジェスチャーなどを交えているから分からないではないんだが、いかんせんクリスの性格に対する理解力が必須なので俺やリンデ以外にこれを読み取れる人間がいるかは分からない。

 ともあれ今の「あれ」は「机と椅子を出してください」だ。とりあえず言われるがまま組み換え魔法で作ったが、クリスはそこに座って俺たちを招き寄せた。

 

「面接を始めたいと思います」

「面接!?」

「面接……!?」

「ヴッ」

 

 その瞬間、俺の脳内に溢れ出す1~2年前の記憶。

 麻偵のことを語れないので自動的に履歴書に発生する3年間の空白期間……ついでに師匠のもとで学んで発生してしまった3年間の空白期間……後者について語っても師匠の悪評のせいで面接で落とされることも数度……嫡子じゃないとはいえ貴族を雇うことに難色を示されること更に多数……。

 

『急に遠い目をしてどうしたんだいレスター』

「いや……面接にちょっとした苦手意識が……」

『今キミ面接官の側だろう』

 

 面接官だからと言って面接が得意とは限らないのである。

 というか、採用前提だろうにどうしてクリスは急にこんなことを?

 

「フェデリカさんの実力は姉さまも見たでしょ? 面接って何で?」

「私が見たのは戦闘力だけで……ええと」

「狩り以外で何ができるかを知りたいのか?」

「それです」

 

 なるほど。マリーが来た時も、個々人で何ができるのかを確認したが、それを踏襲したいというところか。

 ハンターとしてある程度ビジネスライクな契約関係だとはいえ、村に居を置く以上は何かあれば力を借りることになるだろう。できることとできないことをきちんと明確にしておくのは大事だな。

 ただ、俺の心がビックリしちゃうので面接という言葉は控えてほしい。

 

「できることって言っても……」

『気負わなくていいさ。できないことがあるからって不利益になるわけじゃあない。なにせボクも技術屋だけどそれ以外ロクに何もできないからね!』

「威張って言うな」

 

 とはいえ実際、クリスは基本的に護衛や狩猟などの体力仕事だけに集中してもらってるし、マリーは魔道具関連の仕事が主体。無理にできないことをやろうとしなくていい、とは伝えてある。

 心情的なものもあるが、この2人に関しては特定の仕事に専念してもらう方が圧倒的に効率が良いんだ。他の仕事を全部俺がフォローすることになってもなお余りあるほどの利益が出る。

 フェデリカさんにしても、あれだけの戦闘力を見せてもらったのだから問題はない。フォローすべき点が先に分かる分、できないことを挙げてもらった方が助かるくらいだ。

 

「歌は歌える、かな。でもそのくらい。家事はお手伝いさんとかに任せきりだったから」

『安心するといいよ。レスター以外誰も家事なんてできないから!』

「安心要素どこ?」

 

 完全に同類を見つけた時のダメな安心感である。

 そりゃフォローくらいいくらでもするが、改善を試みてはほしい。

 

「村には娯楽が乏しいので、これもまたとない機会かと」

「そうだな……」

 

 ポジティブな方向で考えるなら、フェデリカさんを含め"明星の猟団"のメンバーが全員村に来るのは大きい。トビーはあんなんでもフェデリカさんを見出して育てた実績がある。呼吸が合う相手であれば、音楽を教えることも苦にならないはずだ。

 

「あ、あと」

「はい」

「アタシの実家農家なんで、ちょっとしたことなら教えられると思う」

「なんですって?」

「……あ、これプロモーション的に言っちゃダメだっけ……?」

「農家?」

「あー……うん、はい……」

「――――ッスゥー……」

 

 俺は思わず無言でガッツポーズを取った。

 横でクリスがマリーとゴーレム越しにハイタッチしている。

 ――農家!! 農家だ!! 正しい農業知識の持ち主が村にやってきたぞ!!

 

「えっ、何この急に……何……?」

「給金は予定の倍出します。フェデリカさんがご存知の農業知識を教えていただきたい」

「なすて急にこいなこどに」

 

 絶対に逃さんぞ農家の娘!!

 高級料理と高額な給料でジワジワと農業知識を絞り尽くしてくれる!!

 

 

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