まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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44.裏取り連絡

 

 

 後輩からの報告を耳にした直後、俺は思わずその場にうずくまった。

 この場にいないのにすごい勢いで胃にダメージ与えてくるじゃんよアイツ。

 いまだかつてここまで胃が痛くなったことがあるだろうか。いやあったな。麻偵での最後の仕事。トラヴァーズ港の大火。あの一件で胃……とあと全身……に穴開いたせいで辞めたんだ。

 まあ、この件とは直接関係ないから置いといて。

 

「裏は……取れているのか……?」

 

 あるいは、ということもありうるので立ち上がりながら問いかける。心配の視線がクリスから向けられるが、後回し。それよりも……。

 

「直に確認しようにも帝室にパイプ無いんで、そこまではできてないっすね。情報の断片のかき集めっす」

「もし本当に第二皇女とかなら確実に情報規制もかかるだろうしな……」

「しかし、その……レスター様は皇女殿下のお顔をご存知ではなかったのですか?」

「残念ながら、聖王国(うち)の王族関係者ならともかく、帝国の関係者全員は分からないよ」

 

 皇帝陛下と、あと俺の同級生だった第四皇子殿下のことなら知っているんだが……アシュクロフト侯爵領の立地上、王都から遠くて帝国と関係することも滅多に無い。

 必要になれば相応に調べるとは思うんだが、必要になることが無かったんだよな……。

 

「そもそも第二皇女殿下は早いうちから継承権を放棄されて一般人になってたっすから、追跡のしようもなかったっす」

「麻偵も人手不足だからな……」

 

 オマケにその後は偽名だから、余計にどうしようもない。

 ……まだ本人と決まったわけじゃないけどな! 裏が取れるまでは!

 何かの間違いという可能性もまだ残ってる。

 頼むから残っててくれ!!

 

「ちなみに情報ってのは?」

「ネームバリュー的に、大発明家の名前使ってまで隠したいことってこともそんな無いんで、まぁそれより『上』だろうと。で、帝室関係の記事漁ってそれらしい人相と名前見つけたんっす」

 

 後輩は服の隠しポケットからいくつか書類を取り出して見せた。

 タブレットでやり取りしてもいいんだが、機密情報のやり取りをするなら紙媒体の方がいいというのは確かだ。

 今回のは機密情報でも何でもないけど。探せば集まる程度の機密でも何でもない新聞記事の切り抜きとかだし……こいつマジで形から入るな。

 

 えー、なになに……マルガレーテ・F・パラヘリオン殿下……あの時「マル」と言いかけてたのはこれか。で、愛称マリーと。

 ミドルネームがフレーベルで母方の姓というところかな。12年前の写真だから微妙にわかり辛い部分もあるし、確実とは言い難い。

 メガネを外して髪を切って整え服装も整え、更に目の隈が無くなれば………………割と違うなこれ。別人の可能性アリ! ヨシ!

 でも確実に髪色は同じなんだよ困ったことに……!

 

「裏取りしてきましょか?」

「待て。俺の引導は俺が渡す」

「半ば確信していらっしゃいませんか?」

 

 もうさァッ! 無理だよこんだけピース揃っちゃったらさァッ!!

 なのでせめて俺は自分の(胃の)運命は俺自身で決める。止めてくれるな。

 

「パイセンここ動けないのにどう裏取りするんっすか」

「安心しろ、アテはある。明日の朝一番で確認するから、父上に報告頼む」

「朝イチで胃を荒らされる閣下かわいそ……」

 

 俺は可哀想じゃないと言うのかね?

 

 さて、ともかく朝一番に殿下に連絡するしかなくなったのだが、この後俺は結局一睡もできなかった。

 一度眠ると眠気が飛ぶなんてレベルの話じゃない。胃がネジ切れそうなんだよ。

 心配してパニックに陥ったクリスが添い寝でもするべきでしょうかなんて似合わないことを言い出すので丁重に断った。

 失礼ながら余計に疲れるだけである。爺様が草葉の陰からずっと微妙な顔で見てる気がしてる。

 

 そうしてアレコレ手を動かして、朝食の仕込みも終えて3時間。朝6時を過ぎた頃に、俺は自室に戻って機密通信を立ち上げた。

 連絡先は地下帝国(シムゾニア)第四皇子、俺の同級生の「殿下」ことエーベルハルト・F・パラヘリオン……本物の帝室出身者だ。

 何度かの呼び出しの後、タブレットの画面に金髪の美少年の姿が映し出される。……成長の遅い竜人族とはいえ、学生時代からほとんど変わっていない姿に思わず苦笑してしまいそうになるが、相手は皇帝の実子。礼を失するわけにはいかない。

 

「ご無沙汰しております、殿下。急を要する話のためこのような形で申し訳ありません。レスター・コールリッジ・アシュクロフトです」

『レスター? 久しぶりじゃないか。どうしたんだ急に。よりにもよって機密通信でなんて』

 

 返してくる言葉は以前からの殿下とそう変わりない。しかし、声にあまり覇気は無く、目の下に軽く隈を作っているし顔色も良くない。

 うーん……何やら参ってるな。こうやって不調なの見ると余計似てるぞ。俺も胃が痛くなってきた。

 

『同窓会の誘いとかじゃないようだね』

「はい。不躾な真似をお許しください」

『いいさ、僕とキミの仲だ。それで、何があった?』

 

 寛容な方だ。もちろんその寛容さに甘えすぎるわけにはいかないが……今回はいいだろう。緊急だし必要だ。

 

「姉君の話なのですが」

『姉様!? あい゛っだ!!』

 

 画面越しに悶絶している姿が見える。どうやら驚いて立ち上がった拍子に執務机に足を打ち付けてしまったらしい。

 そそっかしい方だ。

 

『マルガレーテ姉様の話だね!?』

「殿下、誰とは言っておりません」

『えっ? あ、そうか……いや待て、今緊急を要する話で、僕の姉の話だと言うのならマルガレーテ姉様の話しかないぞ』

「…………」

 

 いや、さぁ。あっちも立場がある以上、婉曲的な表現を使ってヤマをかけつつ、それなりに情報を引き出せるならいいな、くらいに考えてたんだよ俺。

 ダダ漏れじゃん殿下。

 大丈夫かシムゾニア帝室。いくら同級生相手で油断してても話していいことと悪いことがあるんじゃないか?

 

「それは表に出して問題ない話なのですか?」

『……この際仕方ない、言っちゃったんだし。機密通信だから、レスターが喋らないなら問題ないよ』

「コラ」

 

 戦争を経て聖王国も帝国もあの頃何だったんだと言いたくなるくらい親密になってるとはいえ、一応両国は別の国だ。情報漏洩はマズい。

 ……もう聞いてしまっている以上仕方ないとしておくが!

 クッソ、なんかこう改めて見ると確かに口ぶりや空気感にマリーの影響とか遺伝子を感じる!!

 

『単刀直入に言うよ。僕の姉が行方不明になった』

「……そのようですね」

『どうしたんだい、胃に穴が開いた時の父様みたいな顔してるよ』

 

 胃に穴が空きそうなんだよ。

 

「姉君についてお聞かせ願えますか?」

『姉様は………………尖った才能を持っていて、公務にあまり関心の無い方だったよ』

 

 ものっそい気を使った表現をしていらっしゃる。

 ……もし仮に……マリーがそうだとしたら、まあ公務に興味関心が無いのはそうだろう。普段の生活態度と超被ってて嫌な納得があった。

 気分次第で農作業の手伝いくらいはしてくれるんだけど、一番関心があって最高のパフォーマンスを発揮するのはやはり技術開発だろう。

 俺に黙って隠し通路作るくらいだからな!

 

『継承権を放棄したのは知っているかな?』

「調べさせていただきました」

『宮廷政治や腹の探り合いが大嫌いでね。やりたいことに専念すると言ってそのまま……』

 

 で、やりたいことに専念した結果が最先端情報通信機器(タブレット)の爆誕である。

 とんだことだよ。

 

『別に家族仲が悪くなったわけじゃないから、連絡は取り合っていたんだけどね。その連絡が取れなくなった』

「心中お察しします。……ところで、その姉君ですが、マルガレーテ様ということは愛称はマリー?」

『そうだよ。髪色も僕とお揃い。いや家族みんなお揃いか。ハハハ』

 

 ハハハ……と笑い返しながら殿下の髪色と記憶の中のマリーの髪色を比べる。

 そっくりだ。何なら髪質まで似てる。

 

「技術者ですか?」

『そうだよ。明言できないけどすごい発明をしてる』

「――タブレットのことではありませんか?」

『いやぁ。僕の口からそれを言うわけにはいかないよ~』

 

 ――見るからに、殿下の調子が上がってきてる。何かを確信したらしき表情だ。

 そして俺も確信を得た。得てしまった。

 あああ……オ゜ア゛ッ*1

 

「……ご報告します。マルガレーテ殿下、ご健在です」

『……そうか!』

 

 まるで疲労感が全部吹き飛んだかのように殿下の顔に生気が戻る。

 逆に俺はというとどっと疲れが押し寄せてきていた。

 もう何も考えたくねぇ……。

 しかし貴族だから義務を欠かすわけにはいかんとばかりに俺の口は意思に反して動き続ける。

 

「しかし、何者かにお命を狙われている模様です」

『心当たりは……いや心当たりしか無いな……』

「現在はアシュクロフト侯爵領で保護しております。毒を使われたようで後遺症がありますが、命に別状はありません。安全のため居場所はお教えできませんが……」

『友達のよしみでなんとかならない?』

「どこから情報が漏れるとも分からないのでダメです」

 

 別に殿下を信用していないわけじゃないんだ。もし殿下のような皇帝の血族がマリーを殺したいなら、そうするタイミングは今じゃない。継承権を失ってない頃のはずだ。

 タブレット開発による巨大な功績によって帝位継承権争いに復帰する可能性を疎んで――これもありえない。だったら10年以上経った今じゃなくてもっと早い段階でやる。竜人族の長めの時間感覚からしてもこの悠長さはありえない。()()()()()()()()()()()()()今、マリーを殺せば国力の低下を招きかねないのだから、流石にそんな頭のおかしい選択はしないだろう。

 

 では、帝国の国力低下を狙う国は? と考えると、まず聖王国が挙げられる。

 しかし、これは最もありえない。種族的に能力差があるとはいえ、前の大戦では神器継承者が勢揃いしていても半数以上が死亡。痛み分けの状態で終戦したんだ。

 今となっては肝心の神器継承者が2人しかいない。なんなら失われた神器も実は帝国が確保してるかもしれない。そんな状況下で戦端を開きかねない蛮行は絶対に避けるべきだ。

 戦後からずっと帝国と聖王国がゆるふわ国交関係を築いているのは、今後二度と戦争を起こさないためだ。積極的に交流を図り、融和を目指し……もはや国境など無いんじゃないかと言えるほどにまで至ったというのに、それを壊そうなんて正気の沙汰じゃない。

 ……正気じゃない人間いっぱいいるけどな、世の中。

 

「無事……あくまで一応ですが、無事の証明のために後ほど写真を機密通信で送ります」

『助かるよ』

「確認次第、削除してください。誰が再び暗殺者を送るとも知れませんので」

『そうだね』

 

 と、言ってはみるがマリーが生きてること自体は遠からずバレるだろう。機密通信も絶対じゃない。

 サバルで度々出歩いているから詳しい人間なら分かるだろうし……ハンターが来て人の出入りが増えたらより警戒を強めないとダメだな。

 諜報員や護衛を派遣してもらえたら一番だが……俺とクリスで対応できると思われる可能性もあるか? いや、流石に父上もそこまで楽観視はしないだろう。

 俺と同じ胃の痛みを共有することになるだろうからな! フハハハハハ!!(ヤケクソ)

 はぁー…………。

 

 俺は腹に手を当てながら、後輩が待機してる2階の客室に向かうことにした。今から報告するのか……かなり気が重い。

 

「月」

「星」

「ヨシ」

 

 合言葉を告げて部屋に入ると、後輩はやっと望んだ通りのやり取りができたようでご満悦顔だった。

 

「裏が取れた。父上に報告を頼む」

「あちゃー、了解……パイセン顔色紫色っすけど」

「俺これからマリー本人と話さないといけないんだ」

「応援してます!」

 

 ……期待するようなことじゃないとはいえちょっと腹立つ!

 

「……朝食作ってるけど食ってくか?」

「ゴチになります!」

 

 ちょっとは遠慮しろと思わないでもないが、まあ誘ったのはこっちだ。

 他の面々と同席させるわけにはいかないのでキッチンで立食いだが、美味そうに食べてくれるのでよしとした。

 次は普通にテーブルで食べてもらおう。

 

 

*1
(胃壁が悲鳴を上げる音)

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