まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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52.察する力

 

 

 説明会の挨拶から3時間ほどが経ち、俺はリンデを連れてホテルのレストランの方に戻っていた。なんだかんだ言ってももう昼なので、これから戻ってくる人や、ハンターで歌姫なのに最近農業にハマってしまっているフェデリカさんの昼食を準備しないといけないからだ。

 珍しくクリスがいないが、これはトビーが「今の緩んだ状態じゃ確実に死人が出るから助けてくれ」とマジトーンで依頼してきたので、不承不承ながら洞窟についていったせいである。護衛に関してはフェデリカさんがいるので問題ないという太鼓判が押されているが、護衛という役割に並々ならぬ執着と矜持を持っているクリスからすれば不満を隠しきれまい。

 正直申し訳ないが、他に適任がいないのでこればっかりは仕方ない。

 そんなわけで、あまり遠くにいると守りきれないのでマリーも交えての昼食である。

 

「お待たせいたしました。ワイバーンのミートパイです」

「おー」

 

 さて、本日の昼食の一品は、蝙蝠(バット)ワイバーンの肉を使ったミートパイだ。

 ワイバーン肉は筋繊維の発達が著しいため、超薄切りにするか加工しないと硬すぎるというのは以前述べた通りだが、これはその「加工」でアプローチした形だ。

 硬めの繊維をほぐしてミンチ肉にし、いい具合に脂肪分を補うために多めのバターで玉ねぎ、トマト、人参などと一緒に炒める。スパイスで味をまとめたら、パイ生地で包んで焼き上げて完成。

 ……他の料理にも言えることだが、俺の料理は基本的にまったくもって普通の見た目なので、あまり華はない。

 

「うん、外はサクッとパリパリ、中はほどよく肉汁が溢れてきてて美味しい」

「肉汁……!」

『そこに反応してしまうともはや料理が立ち行かなくなるねぇ……』

「ついさっき褒めたばっかりでコイツ……」

 

 今日もリンデは平常運行である。この二面性だからこそのこいつと言えるかもしれないけど。

 今回のパイも反応は悪くないが、シンプルすぎるところはあるだろうか。次はもっと工夫をこらすのも悪くはないが……そんなことを思いながら外に目を向けると、荷車でギルドに運ばれていくズタボロのハンターの姿が映った。確か彼は……。

 

「あの人『しくじったヤツはマヌケだったのさ』とか言ってた人だ」

「やっぱりダメだったか……」

 

 ……集まってくれた手前たいへん申し訳ないんだが、予想通りの結果である。

 三つ星ハンターの力をもってしてもなお、奇襲や純粋な数的不利、環境変化といった災禍の洞窟の脅威全てに対応できるわけじゃない。むしろ、慣れのせいで緩みきった精神状態ではああなって当然と言える。

 戦後から50年に渡ってなお攻略されなかったのは伊達じゃないんだよ。マジで。

 命は助かっているし怪我も大したことはないあたり、致命的なことになる前にクリスが対処したのだろう。流石だ。

 

「三つ星でも油断するとああなるか」

『レスターが監視用魔道具の増産を急がせる理由が分かったよ。けど、これだけ人が増えたらもう遅くないかい?』

「いや、今日の結果を見れば流石に慎重論の方が優勢になるはずだ。無策で突っ込んだら死ぬってこうやって実証された以上、奥まで踏み込もうとする人はまずいないよ」

 

 今すぐ行く奴がいるとしたら、よっぽどのバカかよっぽどバカ強いかのどっちかだ。

 後者はまずいないからだいたいは前者に限られる。

 ……それでも歩いて行ける範囲ならある程度行ってしまうことがありそうなのが困ったところだ。

 

「現状で行けそうな範囲はクリスに頼んで魔道具を仕込んでもらってるし、ギルドの方に監視も頼んでるから万が一が起きても対応はできる」

「あの人たちも兄さまの言うことちゃんと聞いておけばよかったのに」

『レスターの言うこと聞いてないって何?』

「色々あって……」

 

 ……そういえば、マリーとフェデリカさんは折が悪く同席してなかったので、ハンターにあえて侮られることで仕事をナメてそうな人を見つけ出す作戦については話してなかったっけか。

 というわけで俺たちの意図について語っておくと、フェデリカさんはあからさまに「それはどうなの?」と言わんばかりの雰囲気を醸し出した。

 

「うちのアホ師匠がごめんなさい。でも、村長って偉い立場の人がハンターにナメられるのは良くないと思うけど」

「ええ、普通ならそうだと思います」

「良くないナメナメ」

「侮られる意味の方だぞ」

 

 当然ながら物理的なそれではない。

 ただ、もちろん侮られるという意味でも良いことは何もないのは事実だ。統治者という立場ならなおさらである。

 あんまり侮られると住民の統制がうまくいかなくなるだろうし、税の徴収や、ひいては行政機能にも影響が出ることは間違いない。

 ……が、これはあくまで「普通なら」、だ。

 

『レスターなら別に大した問題じゃないと思うよ』

「え、何で?」

『改めて名乗り直せばいいだけだからね。今度は家名も含めて』

「あ」

 

 まあ、すごく簡単な話ではある。貴族の威光を使わないことで侮られたんだから、その逆をすればいいだけだ。

 同じ相手には一度きりしか使えない手だが、ハンターの意識を確かめるならこの一回で十分だ。個人としての知名度が低く、一方で家の方は有名、という俺にしか使えない手だな。

 こういうリカバリの手段があるからこそ、俺も迷わず承諾できた側面はある。

 

「あと、ちょっとしたヒントで俺のことに気付けるなら、それはそれで目をつけておけるな」

「側室的な?」

「違う」

 

 教養や注意力があるか、単純に貴族と繋がりがあるか……いずれにしても、なかなか得難いものを持っていることに違いない。

 そうしたプラス方面の資質を見つける役に立つ、ということだ。

 

『ああいう将来有望そうな子を見つけ出すってことだよね?』

「ん?」

 

 マリーの乗ったゴーレムが指差しているのは、十代中盤くらいの少年少女たちだ。

 彼らはレストランの入口前で店内に入ろうか入るまいかと悩んでいるようだった。先程からしきりにあっちを見たりこっちを見たり……または焦った様子で相談していたりと挙動不審に陥っている。

 口の動きや手振りを見る限り、俺の素性に気付いているようだが……気付いているなら話を繋いでもいいか。

 

「そうだな。少し挨拶してくる」

「あ、あたしも行く」

『なんで……?』

「なんか面白そうだし」

 

 なんか面白そう、で挨拶まわりについてくるもんじゃないと思うが……まあいいか。同年代――と言うにはやや年上な感が否めないが、リンデからすれば珍しく年齢層の近い相手だ。仲良くなれるならそれに越したことはない。

 今までずっと村の中にいて外の人間と接する機会も多くなかった。それでも特に苦にする様子は無かったが、元々人懐こい子だ。交流に飢えているということはありうるだろう。

 

「できるだけ失礼が無いように頼む」

「兄さまはあたしを何だと思ってるのよ。場をわきまえることくらいできるわ!」

「1分前の自分の言動を省みて言ってくれる?」

 

 頼むから俺の不安を理解してくれ。

 なんだかんだソツなくこなしそうなところはあるけど、何かの拍子にポンと下ネタが出る可能性が高いんだよ未だに。

 結局フェデリカさんの前でも10日ももたなかったし……言っても問題ない相手を選ぶ嗅覚はあるのだろうが、どうにも不安でならない。

 特に、先頭でわなわなと震えている身なりの良い少女。立ち居振る舞いが洗練されているところを見るに、良家の出身のようだし……不安だ。

 

「失礼。何かお困りですか?」

「ひゃああああっ!?」

「…………」

「こんなびっくりすることある?」

 

 ものすごい勢いで皆して後ろに下がってしまった。

 あれだな。もう完全に俺のことは察していると見ていいなこれは。

 ……こうまで反応が良いとなると、また別の理由にも思えるが……万が一もある。俺も少し記憶を辿るか。俺は忘れているけど実は貴族、というような相手だとまずい。

 そう思っていると、頭一つくらい身長の高い黒髪の青年が、少女たちを後ろに隠すようにずいと前に出てきた。

 

「レスター・コールリッジ・アシュクロフト殿――侯爵閣下の御子息とお見受けします。お嬢様共々、改めてご挨拶に参りました」

「ご丁寧にありがとうございます」

「フレデリク・マリュスと申します。こちら、ハンターとしてチームを組んでおりますノエラとローラン」

「よろ」

「バッ……ちゃ、ちゃんと挨拶しろって!」

「やりやすいようにしていただいて構いませんよ。今の私はしがない村長ですので」

「お戯れを……」

 

 茫洋とした翡翠色の瞳をこちらに向けて、ノエラ――と紹介された少女が片手を挙げる。ローランと呼ばれた少年はそんなノエラさんの頭に軽くチョップを食らわせて注意を促した。

 お嬢様……というのは、フレデリクさんの後ろで小動物のように震えている少女だろう。

 しかし、こう……なんだろう。あのお嬢様、亜麻色の髪に青い瞳……どこかで見たことがあるような気がするんだが……ええいくそ、思い出せよ俺。頭のどこかに引っかかってるってことは確実に貴族としての付き合いがある相手だ。失礼があってはまずい。ハンターなんてやってる以上嫡子は確実にありえないとしても、それなりの立場の可能性は高いのだから忘れたなどと言ったらまずいことになる。

 ……と、ついさっきまで彼女たちも戦々恐々としていたようだし、似たようなことは相手も考えて相談していたのだろうか。結果、俺の本名を言い当てられているし。

 

「そして……お嬢様」

「……わ、分かっているのよ! あの……お久しぶりです」

「…………」

 

 ……「お久しぶりです」と来たか。これはマジで古い知り合いというセンが濃厚になってきたぞ。

 ええい、俺は末弟でそもそも王城や宮廷には顔見せくらいしか行ってないぞ……ただ、麻偵の仕事のおかげで色々と顔は繋いでる。確か、この特徴は……えーと……ああ、そうだ! 思い出した!

 

「ムーレヴリエ子爵家の御息女、ニネット様ですね。ご無沙汰しております」

「お嬢様。やはり覚えておいでですよ」

「ぐっ……や、やはり本物のレスター様のようでございますね……」

 

 ……セーフ!

 危なかった……これだから貴族関係の付き合いはあんまり好きじゃないんだ。随分昔に、一度だけ会ったっきりの相手すら記憶してないといけない。

 彼女に関しては、確か学院在学中に学内パーティで会ったはずだから7年ちょっと前か? 彼女も当時7歳とかだから面影しか覚えてないぞ俺……よく思い出せたな……。

 しかし、ムーレヴリエ子爵家か……うーむ……。

 

「ししゃく?」

「伯爵の一つ下の位だよ。街や港なんかを領地として受け持ってる貴族だ」

「へー……」

 

 安堵を表に出さないようにしながら、耳打ちしてきたリンデに小声で解説を送る。

 子爵――貴族の位としては下から二番目。そんな表現をすると大したこと無いように聞こえてしまうが、実態としては小都市や港などの要地の管理を任されるかなり重要な立ち位置の貴族でもある。

 ムーレヴリエ子爵家は戦前より聖王国西部の城塞都市を領地として任されている。戦時には当主の死や後継者の行方不明から取り潰し目前まで行ったそうだが、奇跡的に復興に成功したという。

 

(……色々と()()()()だけどな)

 

 一方で、復帰の原因となった事件にはある疑惑が常に付きまとっている。

 当時のムーレヴリエ子爵家当主は前大戦の最終決戦時、前線に赴いて槍の神器継承者クリスの死亡を確認、亡骸を国元に持ち帰った功績で貴族に復帰した。

 しかし、神器継承者……その中でも空間を操る「槍」の真価を発揮した最強の騎士が、そう簡単に死ぬものであろうか?

 

 ――あるいは、死を報告した彼こそが、神器継承者を殺した真犯人なのではないか?

 

 嘘が大嫌いで、味方からの裏切りを受けたような過去があり、なんとなく神器継承者っぽいクリスを知っているから、ちょっと信憑性が増しつつある……そんな疑惑だ。

 

 ……しかし何で子爵家のご令嬢がハンターなんてやってんだ?

 麻偵やってた俺が言えるこっちゃないけど。

 

 

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