まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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56.継承者の正当性

 

 

 聖王国に残された神器は盾、鎚、槍の三本。他三本はいずれも大戦のさなかに失われている、と伝えられている。

 なにせ50年以上前の話だ。何が事実とも知れないし、誰が真実を言っているとも知れない。ムーレヴリエ子爵家のジュスト元当主のように、虚言を弄していてもそれを嘘と判定する手段にも乏しい。結果、真偽は不明だがそういう風に伝わっている、という事例が多い。

 例えば剣の継承者は数万を超える大軍を相手に殿を務め亡くなったと言われるが、そもそも帝国は領土が限られているのでそこまでの兵力は無いし当時の動員数も記録に残っている。爺様も笑ってせいぜい数千だと語っていた。冷静に考えるとそれも大概だな。

 このように、戦史というのは誇張されたり脚色されたりというのが常のことで、現在主流の考え方も何かあればすぐ覆ってしまうものだ。

 よりにもよって神器の行方について、新たな真実が発掘されるとは思いもよらなかったが。

 

「神器が使えるなら人格者……じゃなかったっけ?」

「それは……一般論としてそうなんだが」

 

 そして神器それ自体についての認識も揺らぎつつある。邪悪なものには扱えないのではなかったのか?

 戦争に使われることや殺人それ自体は悪と定めていないあたり、俺たちの思う善悪の基準と異なる可能性はある。それこそ、時代によっては殺し合いを見せ物として扱い、殺した数を栄誉としていたこともあるんだ。現代の基準で定められた善悪とは少し基準が違う、というのは十分ありうる。

 それに、意思を持つ武器だけあってそれぞれ個性もある。ちょっと人格的にダメな人でも……いや、限度はあるな……。

 

「ねえ。姉さまってさっき煽られたって言ってたけどあれってサン……なんとかって人?」

「あ、そういえばそれ気になってた」

「ジュストだけだったが……」

 

 性格終わってんのが一人だけで安心したわ。

 いや安心していいのか? ちょっと常識を揺るがされたせいで混乱してきたぞ。

 ええと、サンドリーヌ……サンドリーヌ……教本に載ってたが……。

 

「『弓』の神器継承者のサンドリーヌ様といえば、『槍』の継承者クリス、『斧』の聖女様と並んで平民出身の継承者として語られてるな。聖女候補でもあり、各地で慈善事業にも携わっていたと聞くが……」

「はい、ですのでもしかすると、私が至らぬことをしてしまったのか……とも」

 

 そうか。だからクリスは怒るに怒れなくなってしまっているんだ。

 民から支持を受けている継承者、それも知人に殺されるほどの「何か」が自分にあったのではないか、と。

 しかし、そうは言っても今となっては当時のことなんて何もわからないからなぁ……サンドリーヌ様も弓と一緒に行方不明だし、正直俺たちも亡くなったものとばかり思っていた。

 

「神器はそれぞれ個性があるだろう。例えばその『弓』の捉えている正義がボクらの思うものと違うことはありえないかい?」

「なくはない、というか今のところその考え方しか思いつかない」

 

 正義の逆は悪ではなくまた別の正義だなんて使い古された言葉もあるが、一般的には正しい行動でも別の側面から見るとそうじゃないなんてありふれた話だ。そこの認識や利害がうまく合致しないと、戦争になったり犯罪が起きたりする。

 

「兄さま、例えばその人に何かあって急に悪い人に変わっちゃったりしたらどう?」

「どうだろうな。表面的な態度で選ばれるわけじゃないし、そうなったら不適格とみなされると思うが……」

 

 なにせ神器は希少だし、モデルケースも少ないし、個体差も大きい。こうだ! って断言できることがあまりにも少ないんだこれが。

 今語ったこともかなりの割合で推測と伝聞が混ざっているし、継承者ですらよく分かってないけど使ってるって部分は多々あるんじゃないか。兄上とかそうだし。

 

「不適格になったらいきなりポンッとどこかに行くわけじゃないわよね?」

「だったらジュスト元当主が持ち運べないよ。俺も何度も『盾』を触らせてもらったことあるし、そういうわけじゃない」

 

 盾は俺が触った時はちょっぴり反応もしてくれた。

 「まあいざとなったらお前でもええわ」くらいの微妙なもんだったけど。

 

「しかし彼女が神器の力を引き出したのは事実です。でなければ私は死んでいません」

「『弓』の力ってなに?」

「……魔法や……エネルギーを……こう……」

「収束だ。見える範囲まとめて太陽光を収束して薙ぎ払って火の海とかいう逸話もある」

「それです」

 

 言ってて、不意に腹の古傷がじわりと痛むのを感じた。

 収束させた光……いや、考えすぎか。俺の心がトラヴァーズ港の大火にとらわれすぎて何でもアレと結びつけてしまっているだけだろう。

 光を収束させる程度の魔道具ならいくらでもあるし、もし本物なら俺は今頃消し炭だ。

 ……ん?

 

「そういえばクリスはキメラの素材にできる程度に遺体が残ってたんだよな?」

「ええ。ん? ……んん?」

「どしたの?」

「殺す気なら出力を絞る必要無いだろ。跡形も残らない威力を出した方がより確実だし万が一の反撃も考えずに済む。ジュスト元当主が煽りたがってたにしても、そんなアホ臭い話に付き合ってやる必要は無い」

「最初からキメラに(そう)するつもりで殺した?」

「……あっ」

 

 もし仮に、クリスの遺体をどうにかしてキメラにするつもりで殺したというのなら……ジュスト元当主とサンドリーヌ様は帝国の秘密研究所と繋がっている?

 確かに戦争終期は聖王国対帝国じゃなくて両国の和平派対主戦派って構図になってしっちゃかめっちゃかだったと聞く。そういうこともありうる……のだろうか?

 ええい、頭がどんどんこんがらがってきた。

 

「よし、一旦ここまで。これ以上話しても憶測にしかならない」

「えー。ここから憶測に憶測を重ねて好き勝手言うのが楽しいんじゃないか」

「気持ちは分かるけど、それやって万が一サラク村の公式見解みたいになっても困んの。この話も外に出すの禁止。サンドリーヌ様も生きてるんだか死んでるんだか分からないし」

 

 生きてたら70歳以上……しかし、せっかく素材を集めて作ったキメラを、始末するでもなく運用するでもなく50年以上も放置する理由もよく分からない。

 となると、まあ多分死んでるんじゃないかな。死んでてくれた方が話わかりやすくなるしそうであってくれ。主題もそもそもそこではないし。

 ぶっちゃけ、クリスの因縁の相手であるにしても、村の運営には全く関係無いからね。元々これ、ニネット嬢の関係の話だったわけだし。

 全ては過去。今目を向けるべきは村の経営だ。

 

「で、そもそも本題はこっち。クリス」

「はっ」

「ジュスト元当主との間に確執があるのは分かった。その上で、彼の孫娘のニネットさんとどう接するかを聞かせてほしい」

「血縁というだけで疎むということはありません。彼女が善良である限り、私も村の一員として対応致します」

 

 クリスならこうなると分かってはいたが、ちゃんと言葉にしてくれるとそうじゃないのでは安心感が違う。

 若干、言わせてしまったようで申し訳なくはあるが、儀式的な側面もあるからな。言葉にすることで自分にも言い聞かせて確かなものにするという……しかし、多少覇気に欠けるか。やはりさっきの話が少し尾を引いているのだろう。

 これで後に引きずってほしくはないな。俺の言葉がどれだけ効果があるかは分からないが……。

 

「ありがとう。それと……サンドリーヌ様がクリスを殺したことに何か正当性があると思っているようだが……」

「はい……」

「そんなものは無い」

「えっ? はっ!?」

「言い切っちゃっていいのそれ」

 

 わからん。

 のっぴきならない事情があったりするかもしれないし、何か急いで殺さないといけなかった事情もあるのかもしれない。俺たちの伺い知れない遠大な何かがあったりなかったりするかもしれない。

 ただ、現時点で出ている情報を整理すれば言えることも少なからずある。

 

「死にかけの人間煽り倒すような人と共謀してる時点で信用は底値というのもあるが……」

「印象論じゃないか」

「それはそれとして」

「たまに強引に行くわよね兄さま」

 

 そりゃ俺だって理屈無視して印象で語りたくなることはあるよ。

 もちろんそういうわけにいかないので理屈も固めるけども。

 

「正当性があるならそれを主張すればいいだけだ。なぜサンドリーヌ様はクリスを殺した後わざわざ雲隠れした?」

「誰かにハメられてとか……あ、そっか」

「神器継承者の人格を疑うってこと自体、50年前の時点じゃ思い浮かびもしない。事実、俺たちも()()()()認識があった」

 

 と、言ってもさっきまでの話だが。

 そしてクリスも、神器継承者だからという理由でサンドリーヌ様の正しさを盲目的に信じていた。

 だからこそ、逃げることが理屈に合わない。

 

「騙されて奸計にかけられたとしても、騙されていたんだと言えば大半の人が信じるだろう。わざわざ身を隠す理由が無い」

「何か特別な企みが無い限りは、ってことだね」

「50年以上も隠れて何してるのかしらその人」

「さぁ?」

「表舞台に出てきてないんだから推測のしようもない」

 

 憶測だけなら何とでも言える。で、真実を知りようがないのだからどんどんエスカレートし続ける。これが嫌なのでさっき話を打ち切ったんだ。

 冷静に考えたら50年も動き無きゃとっくに死んどるわい。

 仮に生きてても70過ぎの婆さんだし何かできるとも考えづらい(建前)。考えたくない(本音)。

 

「どちらにしろ、俺はそんな怪しげな人よりも、今日まで見てきたクリスを信じるよ」

「神器継承者を怪しげとまで言うかキミは」

「……隠し事があるのに、ですか?」

「隠したいことも忘れたいことも捨てたいことも、人間いくらでもあるよ」

 

 神器継承者とはいえ、人柄も何も微塵も知らない上に怪しげな動きしてる人と比べれば、今日まで生真面目に忠実に働いてくれてるクリスの証言の方が、俺にとっては大きく重い。

 それこそ隠しごとなんて……ほら……サラク村の住人にはごくありふれてるっていうか……まさしく俺たちの中に帝室の血という爆弾を抱えてる人間もいるわけだし……話の中で概ね察することができる程度の隠し事なんて可愛いもんっていうか……。

 ……ちょっと感覚麻痺してるなこれ?

 

「……ありがとう、ございます」

「…………」

「何だ」

「なんでも」

 

 マリーがニヤついているのを目ざとく見つけたクリスが鋭い視線を飛ばす。同じくニヤついているが、ちゃっかり後ろに回り込んでいるリンデの姿は見えていない……いや、あえて気にしていないのか。いつものことだしな。

 またクリスの周りがキラキラしているし、高揚による魔力暴走でダイヤモンドダストが出てしまったのだろう。ちょっとからかいたくなる気持ちはわからないでもない。

 いつもより血色も良い。これは、今まで抱えていた心配事が少し解消されたからというのもあるだろうか。よりにもよって神器継承者に殺されただなんて、いつまでも抱えていたくないだろうしな……。

 

 ……俺も抱えてたくねえよ!! 何だこのクソ特大の爆弾!!

 ああクソッ! 神器継承者だからって自動的に持ってた正当性と発言力が崩れかねん! 最悪の場合侯爵家(うち)の権力どころか聖王国の権力構造そのものに響きかねないんだけどコレ!

 うちだけじゃなく、北のフェアバーンズ侯爵家もだが……いや、でもこの方が正しい形ではあるのだろうか。あくまで貴族としての領地運営能力によってのみ権力を語ってよいという……でも今更この辺変わってしまうとなぁ……ぐぐぐ。

 

「……ところでレスター、顔が極彩色だけど胃は大丈夫?」

「今胃液が喉元(このへん)まで上がってきてる」

「表情変わらずに顔色だけ変わるの器用よね」

「な、なんだか申し訳ありません……」

 

 別にクリスが悪いわけじゃないので謝る必要はない。

 ないけど今俺の胃だいぶ収縮してると思う。何せこの後また更に報告が待ってるからな。

 

 今回も父上と兄上には俺と地獄に付き合ってもらう。

 

 

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