まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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58.村の立食パーティへようこそ

 

 

 そんなわけで、暇なギルド職員の皆様とギルド支部併設の食堂に勤めているご婦人の手伝いのもと、俺たちはなんとか50人前のパーティ料理を時間までに仕上げることになったのだった。

 トビーからの依頼は「できるだけ豪華なやつ」とのことなので、割と本気である。コンフィやテリーヌ、ミートパイ、ステーキ……と、「魔獣肉」という括りのせいで流石に肉々しすぎる傾向があるが、まあ皆ハンターという肉体労働を生業にしているわけだし、問題はないだろう。

 

「――ご協力のおかげでなんとか時間に間に合わせることができました。皆さん、ありがとうございます。お疲れ様でした!」

「「「お疲れ様でしたー!」」」

 

 挨拶と共に、熱を帯びていた空気が弛緩する。

 当初の目標通りに作業が終わったことで、厨房のあちこちから安堵の息が漏れた。

 いやホント……急に招集をかけたのによく頑張ってくれたよ。一人じゃマジで下ごしらえが間に合わなかった。

 

「私は仕事があるので一旦失礼しますが、余分に作った料理は皆さんでどうぞ」

「ありがとう村長!」

「また仕事かい? うちの支部長ちゃんが悪いねぇ」

「自分で作っても食べられなかったの生殺しでしたよー」

 

 口々に思いを口にする職員の皆さんと食堂のご婦人。

 俺としては正直、初めてこの厨房をフル活用できたことに若干ならず感無量なのだが、流石に言うわけにもいかないので曖昧に笑うだけである。

 ……まだこの後も普通に仕事あるしな。会場でステーキ焼く係として。

 

「ホホー」

「ホー」

 

 厨房の熱気が収まった頃を見計らったように、外から花フクロウ隊が厨房を覗き込んできた。

 ……フローが怪我をしていた頃、他に人もいなかったし皆で一緒に食事を取っていた影響がコレだ。「いろんなものを貰って食べてた」ということがフロー経由で花フクロウたちに広まってしまったらしく、料理をしていると何かつまんでいいものはないかと覗きに来るようになっているのだ。

 これで料理を奪いに来たりするなら問題だが、彼らが持っていくのは決まって野菜や肉の切れ端などの料理には使わないものだし、途中で割り込まずにこうやって終わってから顔を出しに来る。皆特に邪険にすることなく接しているのは、こういった空気の読み方もあるだろう。

 なんか受け入れられすぎてキャットウォークならぬオウルウォークというかちょうどいい感じに留まれる木が厨房に架けられているし、裏口の上の方に専用の入口と殺菌消毒用の浄化魔道具までもが設置されている。出入りのしやすさも衛生面も完璧だ。勝手にやったマリーにはちょっと注意した。

 

「ほらほらこっち来なー」

「クー」

 

 ギルド職員の方々は宿舎完成より前に村に来ていたため、そういったアレコレについてももちろん承知している。

 慣れた様子で野菜の皮で作ったスティックを掲げると、手から受け取ってそのまま食べた。

 違う方に目を向けると、リズムに乗って体を上下に振りダンサブルな動きを見せる一団と、それをタブレットの機能で撮影している職員の姿があった。

 ほんのひと月前まで野生の世界で生きてきた猛禽の姿か? これが……。

 

「ホー」

「馴染み過ぎだな……」

 

 頭の上に乗ってきてそのまま座ってしまったフローを軽く撫でる。

 ……こうやって甘やかしてるせいなのは大いにあるが……まあ、これでギルド職員の皆さんが映像や画像を外部の人と共有すれば、花フクロウの賢さ可愛さも広まって保護の声もより広まっていくことだろう。問題ないといことにしよう。

 

「しかしお前ちょっともっちりしてきたな」

「ホッ!?」

 

 太り過ぎはもちろんよくないが、野生環境と比べてちょっと脂肪がつく程度ならむしろ健康的と言えよう。飼育下にある動物は触れたらぽよんとするくらいでちょうどいい。あくまで俺個人の感性だが。

 ……しかし、外見に気を使ってる知能もあるし、「太った」と言外に言われてしまうとちょっとショックだったりするだろうか。

 後でフォロー入れておこう。

 

「ステーキ入りまーす」

「はー……え、村長!?」

「村長です」

 

 熊肉を用意して会場に入ると、鉄板を温めて準備していた職員が驚きの目を向け……フローと俺とを交互に見た。

 村長が直々に何をしているんだというのもあるだろうし、何で花フクロウを頭に乗せているんだというのもあるだろう。

 ……何でだろうな? ステーキに関しては単に俺が一番焼き加減について詳しいというのがあるが、フローは……いつものことだから、としか言いようがないか。

 

「今は料理長です」

「どういうことなんです!?」

 

 熊肉のステーキの焼き加減が分かるなら俺も任せていいんだけど、そんな人はまずいない。

 ……それに、こうやって料理を配る時、立ち位置は必然的に会場全体を見渡せるような場所になる。トビーが何やらかすか分からないので、できるだけフォローに入りやすい位置取りをする算段だ。

 暴力ならクリスやフェデリカさんがいくらでも止められるが、そもそも俺たちの仕事というのはその前段階で止めること。何かヤバげな雰囲気になったら矢面に出ることも――あいつだからいいか、とはならないから必要だろう。

 

 鉄板をいい具合に熱しながら来場者を待つ。と、早めに来場した人からは何で村長を名乗ってた人が鉄板の前に料理を……? みたいな目で見てきた。開場からピッタリ5分でやってきたニネット嬢らはギョッとした様子で俺を見た。配膳だけじゃなくて料理まで俺が直々にやってるのを理解したらしいフレデリクさんは卒倒しそうになっていた。

 ……別に貴族だって料理得意だったりする人いるよ? というのは置いといて。

 

「ステーキはいかがですか」

「うぃ」

「ちょっとは躊躇しろおバカ!」

 

 唯一、ノエラさんだけは何も萎縮したり疑問に思ったりすることなく、ステーキを受け取ってその場でもっきゅもっきゅし始めた。

 この遠慮の無さ、何も考えてないかさもなければすごい大物の器かもしれない。

 

「貰ったその場で食べるのはやめないかノエラ!」

「あっちゅい」

「当たり前だバカ!」

「失礼しましてよ!」

 

 ほんの数秒前までアツアツの鉄板で熱していた代物である。当然のように口の中を火傷したらしいノエラさんは、ニネット嬢らに引きずられるようにその場を後にした。

 なお、ステーキはちゃっかり全員分持っていかれた。

 ……食えるうちに食っておけ、みたいな極貧生活故の教訓かな、あれは……。

 

 その後もやってくるハンターは度々俺の方に目を向けることになった。

 単にステーキを食べたいだけの人だったり、なんか花フクロウを頭に乗せてる変な村長に思わず視線が引き寄せられたり……理由は様々だが、こちらに注目していることには間違いない。

 中にはフローの身につけている布、そこに輝くアシュクロフト家(うち)の家紋から色々察した者もいるようだ。何人か冷や汗を流している。

 

「ホッホー」

 

 上から見てて周りの人の顔色がコロコロ変わるのが面白いんだろうか。頭の上からフローの小さな鳴き声が上がる。

 

「行儀が悪いぞ」

「ホー……」

 

 こういうのを愉快がるのはちょっとだけ分からないでもないけど、断じてエレガントではない。そう思って注意すると、フローはすぐに反省の色を見せた。

 よそだったらこのくらい許したかもしれないが、曲がりなりにも侯爵家管理って看板を掲げている以上品性だって重要だ。

 犬や猫だって、わがまま放題で躾もしてないなんてことになったら飼い主の貴族の品性やモラルが問われる。見た目も美しいのだから、ぜひ振る舞いもエレガントなものであってもらいたい。

 

 ほどなく、村のハンターが全員集まったらしく、じゃんじゃん焼くように裏手から催促が来た。

 うーん……俺、トビーが具体的に何するか聞いてないんだが、これ大丈夫だろうか。何も起きないといいけど。

 

「これ美味いね村長さん。何の肉なんだ?」

「熊です」

「何の?」

「この辺の」

 

 肉が具体的に何の肉なのかというローラン少年の追求を躱す。

 食べるものが何の肉かを伏せておけとトビーが言ってたあたり、魔獣肉であることを後で明かしてハンターたちを奮起させるつもりのようだが……。

 そう思って30分ほど。行列をさばきながら本題を待っていると、演台に上がったトビーが一発ギターテクを披露して皆の注目を集めた。

 

「ろくに働きもせず恵んでもらうメシは美味いか負け犬ども」

 

 第一声で喧嘩売りやがったあのバカ。

 

「ふざけんなテメー支部長コラァ!!」

「言い方ってもんがあるだろオラァァァ!!」

「囲め囲め!!」

 

 飛び交う怒号とフォークとナイフ、あと皿……は、ホテルの備品が壊れるとまずいと理性がはたらいたのか枚数少なめだ。いずれもこっそり成り行きを見守っていたクリスがキャッチしている。

 一部うずくまっている人がいるが、どうやら身に覚えがあるらしいトビーの罵倒がクリティカルヒットしてしまったようだ。

 

「お皿や武器を投げないでください! 魔法もいけません! お皿や武器を投げないでください!!」

「ナイフやフォークはいいってのかよ」

「自業自得です!」

 

 ラシェルさんがなんとか場を収めようと声を上げ、備品が壊れてはいけないとクリスが皿を回収して裏手に戻っていく。

 止める間も無くこんな騒ぎにしやがったことを批判するために俺も参戦したいところだが、手元に投げてよさげなものはない。仕方ないので、さっきのステーキから取り除いた骨を投げた。

 

「痛ってェ!」

 

 当たった。

 

 俺がやったことを察したのだろう。トビーの目が非難がましくこちらに向けられるが、そもそもアイツがいきなりあんなこと言わなきゃレストランの開店早々に乱闘騒ぎになんてなりゃしないんだ。

 

 ――お前文字通り()()()()思いをしたくなきゃ今すぐ本題に入って収拾つけろバカタレ。

 ――すまんかった。

 

 互いに視線だけでやり取りすると、冷や汗をかいたトビーが小さく息をついて皆に向き直った。

 ちなみに俺の学院時代の必殺技は他人の口に手を当てて砂を注ぎ込むことである。

 

「よく聞けバ――野郎ども」

「女性もおります」

「ハンターども」

 

 締まらねえなコイツはよ。

 まあ変に煽らなかったのは上出来か。

 

「……ともかくだ。お前ら、今食ったメシは美味かったかよ」

「美味かった」

「美味しいですよ!」

「今お前らが食ってるのは全部魔獣の肉を使った料理だ」

 

 その言葉を聞いた面々は、ギョッとして手元やテーブルに並べられている料理を見た。

 軽いな明かすの。いや、別にそれはそれでいいんだけど、もうちょっと重めに明かしてほしかった面はある。せっかくクリスが狩ってきてくれた獲物だし。

 

「狩ったのはフェデリカだったり村長の護衛だったりだ。レスター、ちと説明してやてくれや。そのステーキは?」

「沼熊のステーキです」

「他はどうだ?」

「説明しましょう。ミートパイは蝙蝠(バット)ワイバーン、テリーヌは爆弾ヤギ、スープは牢獄(ジェイル)ハイドラの骨で取りました」

 

 嘘だろ、とでも言いたげな視線がこちらに向けられる。

 嘘どころか常食である。何ならクリスに言えば今すぐにでも狩ってくることだろう。

 ……実際のところ、反応として正しいのはハンターの皆の方だろう。牢獄(ジェイル)ハイドラのような高位魔獣はまず普通のハンターが単独で戦うような相手ではない。沼熊だって、村に来たばかりでクリスがひょいと狩りはしたが、凶暴性を考慮すると中位魔獣の中でもかなりの格だ。

 ワイバーンも爆弾ヤギも洞窟の魔獣だ。外に似たようなものもいるだろうが、いずれも洞窟のそれよりも弱いことだろう。

 こうして料理に使っているということは、つまりそんな使い方をしても問題ないくらい狩ることができているということだ。

 

「つまりここじゃこの程度の魔獣を狩るくらいは日常茶飯事。料理に使うくらいワケねェのさ」

「……ワケもない、というのは語弊があるが」

「いいだろ別によ。クリスさんがいりゃ問題ねェのは事実だ」

 

 それはそうなんだが……俺たち結構クリスの戦闘力に依存してるし、あまり素直に肯定しづらいんだよな……。

 クリスがいなければ結局死ぬほど苦労するハメになるんだろうし、俺個人としても……どうだろう。高位魔獣相手だと、倒すにしても素材を傷つけない自信は無い。

 

「で? お前らはどうだよ。今回の洞窟探索、一匹でも狩れたか?」

「そりゃ……」

「…………」

 

 ある意味で致命的な一言だ。絶対的な自信を持つが故にこの場に集められたハンターたちは、結局洞窟探索において一匹たりとも魔獣を狩ることができずに終わった。

 増長した彼らの鼻っ柱をくじくために意図的に早期撤退した部分はあるのだろうが……いずれにせよ、図星を突かれたことでさっきまで文句タラタラだったハンターたちが言葉を詰まらせた。

 

「ま、俺ァ狩ったが」

「煽るな」

「へいよ。で、だ。そもそも俺とお前らにそこまで地力の差があるわけじゃねェ。じゃあ何で狩れない?」

「支部長アンタ煽ってねぇか!?」

「まあ聞けよ。一線を退いてる俺が狩れンだ。むしろ俺ァ油断してなきゃお前らなら普通に狩れるっつーこと言ってンだよ」

 

 ふむ?

 なるほど、一気に風向きが変わったな。トビーのヤツがやりたいのはコレか。

 

「お前らが逃げ帰ることになったのは油断が原因だ。まずは初心に帰れ。よく相手の動き見て周りの状況を確認しろ。惰性で仕事すンな」

 

 人間心理として、一度下げられたところから評価されると、普通に評価されるよりもより自分を高く買ってくれている気になる。

 ……まあちょっと前段階で下げすぎだが。流石に下げるにしても言葉を選んだ方がいいが。

 

「いいか、洞窟に入れなかったヤツらもよく聞け。お前らが本気で全部のポテンシャル出し切りゃ洞窟の魔獣だってワケねェンだ。鍛え直して打てる手ェ全部打て。協力だっていくらでもしろ。罠も使え。なりふり構うな! そうすりゃあ毎日だってこんな美味ェメシが食える」

 

 ……毎日はどうだろう、と裏手で冷静な声が聞こえるが、盛り上がりに水を差しかねないので何も言わぬが花だ。

 実際美味いことは美味いんだが、脂も強いし手間もかかるし、毎日はちょっと、と自分でも思う。

 しかし、ハンターたちの目は確かに変わった。どこか倦怠感を帯びていたものではなく、奥底に押し込めていた活力と欲が滲み出した鈍い光が宿っている。

 洞窟の魔獣を狩ることができるなら、少なくない財産を築くことができるだろう。ここではない別の場所に行っても活躍が見込めるかもしれない。

 

「明日から改めて洞窟攻略すンぞ。やる気のあるヤツァついてこい! 二つ星の連中は基礎固めて鍛え上げっから覚悟しろ!」

「「「おう!!」」」

 

 どうよ、とばかりにトビーはこちらにドヤ顔を向けてきた。

 なんだろうかこの全くダメとは言わないけど絶妙に釈然としない気持ちは。

 確かにまあ、結果盛り上がってちゃんと意識を改めることには繋がってるんだが……最初のあの煽りって必要あったかな……。

 ……まあ、結果仕事が捗るのならそれで……? かなぁ……体育会系の考えることよくわかんないんだよな……。

 

「結果オーライ、ってことでいいのかな……」

「ホー……」

 

 いつまでも微妙に結論の出せない中、首をひねる俺の動きに合わせて、頭に乗っていたフローが迷惑そうにじりじり頬の方に移動していった。

 まあ……意識改革になったんならそれでいいかぁ……。

 

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