まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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59.いい感じの棒マークツー

 

 

 立食パーティという名の決起集会だか乱闘騒ぎだか判断に迷う集会から一夜明け、俺とクリスはエーゴンさんが主を務めるギルドの工房に訪れていた。

 キンキンと鉄を打つ音が……あまり聞こえてこない。熱気……も応接用のスペースでは感じ取れない。

 壁面に消音の魔法式を刻み、空調魔道具をうまく利用しているためだ。一般にイメージされる工房とはやや異なるが、現代の工房はだいたいこんなもんである。

 鉄を打つ音は騒音と捉えられかねないので可能な限り外に漏らさず、強すぎる熱気は職人の体力を奪い、時に熱中症などを引き起こしかねないので必要な場所以外は適温を保つ。

 戦前生まれの豪快な人物だが、肩書や年齢から受ける印象と違ってエーゴンさん自身はどうも新しいもの好きで柔軟な人だ。

 ……でないとトビーに誘われてバンドのドラマーとかやってないよな。

 

「随分待たせて悪かったの、村長、クリスの嬢ちゃん」

「いえ、問題ありません」

 

 さて、こうしてやってきたというのはつまり、クリスの新しい槍が完成したということだ。

 このひと月あまりで破損した槍は追加で10本ほど。もはや壊れること前提で運用しているフシすらあるが、そんな状況とはこれでおさらばだ。

 こころなしか、クリスも無表情ながらソワソワしているようだ。視線が横に立てかけられている槍とそれを保護する布に向けられていた。

 

「最初に言うておくが、頑丈さを最優先したでな。全部の要件は盛り込めなんだ」

「そうですか……」

「具体的に言うと外見」

 

 ……まあ、うん。

 クリスのセンスは、なんというか情緒が今になって育ちつつあることも踏まえても、学院に入学したばかりの学生とそう大差ないくらいだ。カッコいいもの好きで「若い」感性と言えるだろうか。

 コレくらいの頃はなんというか、とにかく盛りまくるのを良しとするので……俺にも覚えはあるが、ゴテゴテしがちだ。

 しかし、武器があまり装飾過剰だと、そもそも使い勝手が悪くなってしまう。どこかで妥協する必要は絶対にあったりする……というか無かったことがないというか……俺も覚えがある(2回目)。

 

「やるだけやったがの、満足いくかどうか」

 

 言いつつ、かけられた布を取り払うと、まず綺麗に磨かれた刃があらわになった。

 普通のものよりやや長いのは、切断に使うこともあると見越してのものだろう。柄は黒を基調としているが、浮き彫り(レリーフ)加工と共に金色の装飾が施されているため少しゴージャスな印象だ。全体的に余計なパーツは少ないが、これはエーゴンさんがギルドお抱えの鍛冶師だからこそだろう。

 ハンターは「素材を傷つけずに獲物を狩る」ことを信条とする。刃が変な形だったり余計なパーツがあったりすると、毛皮や骨を余分に傷つけて素材の価値が落ちかねない。一撃で急所を仕留めるクリスの戦法も考慮すると、こういった形の方が適しているのは確かだろう。

 とはいえ、強者の象徴としての外見に気を使っているのもちゃんと見て取れる。見事な仕事……。

 

「うん?」

「おお、これが……」

 

 そして布が床に落ちきると共に、石突に変なものがあるのを見た。

 細く長い鎖である。

 

「クリス?」

「……邪魔にはならない場所です……!」

「俺チェーンはやめとけって言ったよね?」

「嬢ちゃんに激推しされての、邪魔にならんならまあええかと」

 

 いいのか?

 ……いや、ちょっと待った。この感じ、これは……。

 

「エーゴンさん、これもしかして、鎖は魔道具ですか?」

「よう分かったの。そうじゃよ」

「専門家が身近にいるので……」

 

 クリスも眼帯を上げてよく「視」ると、魔力の流れを感じたのかピクリと片眉を上げた。

 

「と言ってもそのサイズだからの、魔力を注ぐと伸びるだけの機能しか無いわい」

「いえ、素晴らしいです。打撃、拘束、そして投擲からの引き戻し。応用がききます」

「よろしいのですか? こんなに小さな鎖を魔道具化したのなら高額になるのでは」

「構わん構わん。素材の大半は村長から貰ったもんだし、普段ギルドに卸してもらっとる素材の料金で相殺してもお釣りがでるわ!」

「ありがとうございます」

 

 一応、クリスが狩った魔獣の素材は、今はギルドに卸す形を取っている。

 元は実家に卸していたが、これは父上から領都のギルドに声をかけていた形だ。経路が一本化されたことで余分な手数料を払う必要がなくなり、正しい解体法を知る職員もいるおかげで使用可能な部位の判別も容易につくようになった。収入そのものもこれまでよりも増えていたりする。

 

「で、どうする? 試しに狩りにでも行くかの?」

「え、いえ……なぜ狩りに? 試すなら木人や巻藁で十分では?」

「ギルドの方だと新しい武器作ったら実戦の中で性能を試すのが広まっとるが……」

「今すぐ是正した方がいいと思いますよその悪習」

「お言葉ですが、狩りは生きるために必要だからやるものではないでしょうか」

「耳が痛いのう」

 

 クリスの言う通り、本来狩りというのは食料のためだったり個体数調整による生存領域確保のためだったり、または人的・物的被害への対処だったりと生活のためという側面が強い。

 というか、そうじゃないと無秩序に稼げる魔獣ばかりを狙って絶滅なんてことにもなりかねないので、ギルドが一定の管理を行っているはずだ。

 モラルとしても、武器の試し切りのために生き物を殺すなんていうのは褒められたことではないだろう。いずれ「別のもの」を狙いだす可能性まである。

 ただ試すだけなら、それこそ木人や巻藁、ゴーレムでいい。そもそも作ったばかりで安全性も強度も確認できてないなら、いきなり実戦投入なんて命の危険しか無い。

 倫理、効率、安全、どの角度から見てもやるべきじゃないというのが俺の意見だ。

 

「だがの、クリスの嬢ちゃんだと、ホレ。半端な木人じゃ一撃で粉砕してしまうんじゃあないか?」

「む……」

 

 確かにそこは問題である。クリスの膂力は常人の数倍以上。木材くらいなら素手で砕くを通り越して指で()()()ことすら可能だ。

 流石に鉄はちょっと無理だが、訓練にならないかもしれないと言われると確かにそんな気もする……。

 

「強度はどのくらいを想定しておられますか?」

「鉄くらいなら悠々貫くじゃろう。魔獣の甲殻をどうにかできるかは嬢ちゃんの力と技次第」

「できる、と」

「ではゴーレムが適しているかもしれません」

 

 ……ん? あ、ちょっと今ティンと来た。

 普通のゴーレムは魔法式を刻まないといけないから、全体が金属製で柔軟性に欠ける。

 しかし、魔法の使い方次第では……。

 

「クリス、金属ならそれなりに訓練になるか?」

「ええ、それはもちろん、昔は使い古した鎧を相手に打ち込み訓練しておりましたので」

 

 軍ならそういうのもありうるか。となると、やってやれないことはないな……。

 

「エーゴンさん、少し思いついたんですが、鎧を用意して中に水や泥を詰めて魔法で動かせば、武器訓練用の人形を用意しつつ魔法の制御訓練ができませんか?」

「必要な最低レベルが高すぎるぞい」

 

 ……まあ俺も水晶の形を変形させたりしてマリーに器用すぎてキモいとか言われたの思い出して思いついた面はあるんだが……。

 実際、難易度は低くないか。マリーもマリーで、車椅子からベッドに移動したりゴーレムに乗り込む時とかは、金属の触手を出してウネウネさせて移動することもあるから、ちょっと基準狂ってるかもしれない。

 

「だが、ちいっとばかし興味はある。どうだ村長、試しにそいつをやってみちゃくれんか」

「いいですよ。クリスも構わないか?」

「はい、仰せのとおりに」

 

 というわけで、一旦戻ってマリーに協力してもらい、廃棄予定の汚れていいゴーレムのパーツを貰って鎧型に加工。外から操れるように、密閉処置を施して内側に泥を投入。これでだいたい完成だ。

 流れでついてきたマリーとリンデも交えてギルドの訓練場に向かうと、村長が何やら変なことを始めたぞとばかりに好奇の視線が向けられるのに気付いた。

 ……まあ、変なことしてるのは事実だし仕方ないか。うん。

 

『しかしよく変なこと思いつくねレスターは。ゴーレムじゃダメなの? コレ』

「別にダメってわけじゃない。ただ、ゴーレムだと決まった動きしかできないし、訓練って観点だとどうなんだろうって思ってさ」

 

 ゴーレムを訓練に使ってる例は割とどこにでもある。ただ、ゴーレムは人が乗り込んでるのでもなければ決まった動作しかできず、対人、対魔獣の訓練としてはあまり質が良くないのが現状だ。

 これをある程度、遠隔で自由に動かせるのなら訓練の質も改善されるのではないだろうか。

 もっとも、こんなこと考える人は少なくないだろうし、机上の空論で終わる何かがあるかもしれないが。その辺りが洗い出せるのなら収穫と見ていいだろう。ちゃんと応用できる技術があればそれも取り入れればいいし、何をするにも全くの無駄ということにはならないはずだ。

 

「というか、なんか見た目ばっちいわね。これ、他のもの使っちゃいけないのかしら?」

「要は鎧の中に流体を入れて動かすってことだから、泥である必要は無いよ。俺が地属性(こっち)方面の適性だからこうしてるだけで」

 

 目の近くを軽く叩いて、大地の属性を示す。

 

「他にいい手段があるならそれもよしだ。水の適性があるなら中に水を詰めればいいし、金属を動かせるならそれでもいい」

 

 斬ったり叩いたりした時の感触をできるだけ実戦に近くしたいから空洞にするのを避けたとか、砂だと刃が削れてしまうとか色々他にも理由はあるけど、それも絶対条件じゃないしな。

 

『うーん……難しいと思うけどなぁ』

「まあ一回やってみなきゃその辺はわからんわい」

「じゃ、始めるぞ。クリス!」

「はっ」

 

 水混じりとはいえ主要な成分は土のそれだ。魔力が泥と結び付き、内側から鎧を動かす力となり……。

 

「うお!?」

「!」

 

 ピンと伸ばした腕部分――正確にはそこに詰まっている泥――に引きずられるように、鎧がものすごい勢いで空中を横滑りしていく。

 なんかこう……遠心力で振り回しているような感じだ。

 

「ダハハハ! 人間そんな動きはできんぞ村長!」

『ありゃー……やっぱこうなるか』

「『やっぱ』ってことは想定してたの博士ちゃん?」

『まあねー。こういうの難しいよ、すごく繊細な魔力コントロールしないといけないし。だからボクも魔法で足を作るんじゃなくてゴーレム(コレ)や車椅子使ってるんだしね』

 

 うーむ……思い返すと変形は繊細にやる技術があるが、移動となるとまあまあ大雑把にやる傾向はあるかもしれない。

 指定した場所に動かすのに緩やかなスピードにする意味あまり無いしな。

 

「だからこのやり方普及しないんだな」

 

 どういう要領でやれば上手くいくだろうか。マリオネットの操演か、あるいは自分の動きをトレースさせるか……いずれにしても感覚(センス)の占める割合が大きすぎてイマイチ掴みきれない。

 歩かせてみようにも足はフラフラしてるし、支点が動かしてる泥の一点に定まってるので移動させるとそのまま遠心力で揺れまくる。

 こりゃ専門の技能や卓越した制御技術が必要だな……。

 

「私個人は最初の動きくらいがちょうどいいのですが……」

「それはもう訓練用の的の動きじゃないじゃろ」

 

 ん~……あ、いや、待てよ?

 そもそも俺は鎧という形の第一印象に引きずられすぎていないだろうか?

 クリスの言うように、最初の機敏で不規則な動きの方が、訓練には適しているんじゃないか? となると……。

 

「……もしかしてこれ、人型にこだわる必要無いか?」

「む?」

「博士、これ例えば……いや、そもそも生物の形にすらこだわる意味無いな。球状にできないか?」

『球? ……あ、なーるほど。どうせ的なら、立体的に動き回る的の方が繊細なコントロールも要らないし訓練になるってわけだね?』

「そういうこと。今、俺たちが戦うことになるのは人間より魔獣の方が多いしな」

 

 魔獣は人間のような体術を持たない。代わりに、極めて高い身体能力が備わっている。頑丈な外殻を持っていることも多く、動きは型にはまらず不規則だ。

 マリーのゴーレムが手をかざすと、鎧は見る間に球状に変形した。再びこれを動かせば、ドヒャアドヒャアと急加速しては不規則に飛び回る鉄球が爆誕することになった。

 ……これならいい具合に対魔獣の訓練になるんじゃないか?

 

「どうだろう。これならちょっとは歯ごたえがあるんじゃないかな」

「試させていただきます」

 

 言うと、クリスは不規則に空を飛び回る鉄球に向かって歩き出し……一瞬にしてバラバラにしてしまった。

 

「これ本当に訓練になってるかしら」

 

 瞬殺すぎて思わずリンデもそんなことを言ってしまうレベルである。周りのハンターの反応も、何やらとんでもないものを見たと言わんばかりだ。

 いや、まあ……うん……クリスの実力からするにこうなるだろうと予想はしてたけどな……。

 あの一瞬、クリスは鎖を伸ばして鉄球を絡め取り、柄で外装を叩き割った後で穂先を差し入れて切断したようだった。

 新機能をしっかり使いこなしての鮮やかな瞬殺劇だ。呆れるとか感心するのを通り越していっそ笑ってしまう。

 

「良い武器です。強度も申し分ない。鎖も私の想定通り……いえ、想定以上。素晴らしい仕事です、エーゴンさん」

「お、おう。気に入ってくれたんなら良かったわい」

『え、ええと、今のレスターのアイデア、ボクは良かったと思うんだけどクリス的にはどうなのさ?』

「もちろんそちらも素晴らしいと思う。速度も強度も強い方の低位魔獣くらいはあるから、ハンターの訓練にはうってつけのはずだ」

 

 少し興奮した様子でクリスは槍と鉄球に高評価を下した。

 あの瞬殺っぷりで? とでも言いたげなリンデの訝しげな目がこちらに向けられるが、そもそもクリスは魔獣相手なら高位中位低位問わず全部瞬殺だ。

 嘘どころかお世辞すら言えるタイプではないので、言葉も額面通りに受け取っていいだろう。……多分。

 

「しかしまあ、確かにこりゃええ訓練になるかもしれんの。村長、ちとこのアイデア貰ってええか?」

「構いませんよ。ハンターの実力の底上げになるなら歓迎です」

『おっと、アイデア料はもらうからね』

「カッ。ちゃっかりしとるのう」

 

 ともあれだ。

 ただのでかい鉄球を宙に浮かしてすごい速度で動かすというだけのアイデアだが、これはこれでなかなか便利なのがよく分かった。

 腐っても鉄球だ。当たればすこぶる痛いのでハンターが対魔獣を想定した訓練をするのに役立つが、動かす側にも一定の習熟が必要なので魔法のコントロール訓練にもなる。トビーにもこういうのどうだと提案してみたところ、即日訓練に取り入れてしまった。

 ……そして翌日からこの鉄球飛ばし訓練は支部長お墨付きとあって流行を始め、サラク村は鉄球の飛び交う謎の村と化してしまったのだった。

 

 

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