まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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60.期間限定教官代理

 

 

 空飛ぶ鉄球による訓練が確立して数日。

 当初はギルド支部の窓が割れたり設備が砕かれたりといったハプニングこそあったが、なんとかコントロールの術を見つけて訓練場でだけやれというルールを明文化し、ついでにイタズラ小僧を叱り飛ばして徐々に落ち着いてきた。

 洞窟の安全地帯を広げるためにクリスや他のハンターたちを交えて何度か洞窟に向かったが、今のところ大きな問題も起きていない。

 そんな折、トビーは重々しいギターの音を鳴らしながら不意に俺のところにやってきた。

 

「ちょっと頼みを聞いてくれアイデアマン」

「アイデアマンじゃないが頼みは聞くぞ。どうした?」

「育成の話だ」

 

 育成。というと、まず思い浮かぶのは二つ星のニネット嬢たちのことだ。

 洞窟探索の許可が出るのは三つ星以上。だというのに彼ら彼女らのような人材を連れてきたのは、ひとえに人材育成のためだという。

 年齢層も若く、上手く育てば今後のギルドの中核を担うことになるのは間違いない。フェデリカさんという特級の戦力を育て上げたトビーにはうってつけの話……だとは思うんだが。

 

「単刀直入に言う。手が足りねェ」

「まあ、それはそうだろうな」

 

 今のギルド職員は、食堂のご婦人含めて十数名。いずれも日中は事務処理に忙しく、設置した魔道具を通じた洞窟の監視も請け負ってくれている。

 過重労働とまではいかないにしてもフル稼働だし、そもそもギルド職員は事務作業が主業務だ。ハンターの鍛え方や戦い方なんかまでは知らないという人も多いだろう。なんか心得のありそうなラシェルさんみたいな人もいるが彼女も大概業務量が凄まじいし無理だ。

 その辺りのことをよく知っている専門職がやる方が、当然効率も良い。ので……。

 

「俺に頼むことか? それ」

 

 重要性も必要性も分かる。が――忙しさといえば、俺だって大概なもんだ。というか何なら、自分で言うのもなんだが村で一番忙しい自信があるぞ。

 人材が増えたと言ってもそれは全部ギルドの人員だ。村の経営に携わる人員は一人も増えていない。

 

「お前にそこまで負担かけるつもりはねェよ。クリスさんの手貸してくれ」

「クリス?」

 

 なるほど、あの戦闘力を見ての申し出か。

 従軍経験もあって規律には厳しいし、教官役に、と考えるのも無理は無いが……。

 

「やめとけ。クリスは人に教えるのに向いてない」

「何でだ?」

「説明がド下手なのと、強くなったのも()()()()()()じゃないからだ」

 

 トビーにはクリスがキメラであることを伝えているし、すぐに俺の言いたいことを察したようだ。渋い顔をしている。

 ……あと、キメラになる前も問題だ。礼儀は仕込まれているにしても、あまりに学がなさすぎる。勉強すらまともにさせてもらえなかったのだろう。代わりに、そうしたことに費やすべき時間を全て武術の鍛錬に使っていた、と考えるのが妥当だ。

 これは「槍」の担い手として相応しくあるために他の全てを犠牲にする、戦中の狂気が生んだ強さだ。普通の状況、普通の人にこの訓練量を課すのはあまりにも過酷だろう。

 

「先輩ハンターから下にレクチャーとかできないのか?」

「もうある程度やってるけどそれだけじゃ足りねェ。あと焚き付けすぎて一から鍛えるっつってそれどころじゃないヤツが増えてやがる」

「半分お前のせいじゃねーか」

「面目ねェ。今、正式な教官の派遣も頼んじゃいるが……」

「間に合いそうにはないか」

「あァ」

 

 ふむ……殊勝なトビーなんて珍しいものが見られたからこっちもある程度許容量が増えてるが、しかしまた難儀な状況だな。そもそも俺の側から出せる人員が少なすぎるし。

 洞窟を活用していく村の方針もあるし、育成が滞るのも容認し辛い。

 あんまり気は進まないが……仕方ない。

 

「教官が来るまで少し手伝おうか?」

「正気かお前」

「頼みに来た奴のセリフじゃねえなぁ」

 

 ……まあ、俺も同じ立場なら同じこと言うが。

 何で俺は自分から苦労を背負い込もうとしてるんだろうな?

 まあ友達が困ってる時だしそういうもんと思うことにするか……。

 

「と言っても俺にできることなんてたかが知れてるぞ」

「正気かお前」

「二回も言いやがったな」

 

 バリバリ正気だよ。

 多少バイタリティというかサバイバビリティには自信があるし、諜報活動も多少ならず教えられるが、麻偵の技術だから教えていいことじゃないという致命的な問題があるんだなこれが。

 で、まあそれ以外の技術はなくもないが、はっきり言って俺のは常人の域を出ないし狩りに応用できるかと言うと疑問がある。

 魔法なんて適性ありきな部分もあるんだし、俺のやり方を教えたとしてもあまり効果が無いかもしれない。そういうわけで教導という点ではあまり向いていないんだ俺は。

 

「俺が知る中でお前が一番器用だ。3日で王都のバーテンの技術盗ンだの忘れてねェからな俺ァ」

「あんなもんで器用さを語るな」

「コツの一つもあンだろ流石に」

「残念ながら特に無い」

 

 しいて言えばそういう家系だからじゃないだろうか。というか俺に限らず貴族の直系というのは全体的に記憶力が良い。

 何せ記憶力に優れてないと社交界では即死だ。結果的にとはいえ結婚する相手も記憶力が良いことが多く、そういった血筋同士のかけ合わせを代々続けていったので……歴史の長い上級貴族ほどそんな傾向はある。

 で、多分俺はその辺りの特徴がちょっと強めに出てるんだろう。コツと言われてもなんかできるとしか言えることがない。

 

「まァそれでも別にいい。体の動かし方や鍛え方教えろなんて無茶は言わねェよ。座学の方頼むわ」

「座学か……じゃあ洞窟について教えたらいいか?」

「そうなるぜ」

 

 ハンターによって使う得物は違う。トビーなら剣と盾だが、フェデリカさんは両手に剣を持つスタイルだし、槍や斧を使う人もいる。武器の軽さ重さもあるしどうやったって鍛え方は人それぞれだ。

 魔獣よりも対人に重きをおいている俺が教えて変なクセをつけてもいけないだろう。妥当なところだ。

 

「正直、クソ忙しいお前にやらせンのは気が引けるがな……」

「お互い様だ。次はこっちに手貸してもらうからな」

「あいよ」

 

 現地調査は俺の仕事だ。元々、父上に送る用に資料はまとめてあるんだ。そこから抜粋して編纂すれば危険な場所や注意しないといけない魔獣についても伝えられるだろう。

 今まで何事も無かったのに通路を抜けたらいきなり毒沼なんてこともよくあるので、できる範囲で注意は促しておきたい。全体図(予想)の模型も作っておいた方がいいな。

 

「あァ、一つ注意しとけよ」

「何をだ?」

「ハンターは自分(テメー)の腕に自信がある奴が多い。つまり、力の無いヤツを下に見る傾向が強い」

「力を示さないと言うことを聞かないかもしれない、ってところか?」

「そうだ。それもお前自身がな」

 

 面倒臭ぇ~~~……と、一瞬は思うが、そもそも彼らも貴族の儀礼と形式を大事にする価値観は理解しがたいだろう。

 ……相手の流儀に合わせることも時には必要か。

 

「いけるか?」

「まあ、なんとかしてみるさ」

 

 幸い、魔獣を相手にするわけじゃない。人間相手なら慣れたものだし、どうにでもなるだろう。多分。

 

 


 

 

 翌日、平時は訓練用の飛行鉄球がビュンビュン飛び交うギルドの訓練場だが、今日はいつになく微妙な雰囲気に包まれていた。

 当たり前と言えば当たり前だ。なぜか先日、料理人としてパーティ会場でいきなり村長がステーキ焼いて配り始めたというのに、今日は更にどういうわけか教官役としてハンターたちの前に現れたのだから意味が分からないことだろう。

 そして帯同してるのは最初の洞窟探索で圧倒的な実力を披露したクリスだ。オマケになんか知らん竜人族っぽい子(リンデ)までついてきてる始末。若手ハンターたちは困惑に包まれていた。

 

「失礼ながら質問をよろしいでしょうかレスター殿」

「はいどうぞフレデリクさん」

「……代理の教官役がいると伺って参ったのですが、まさか……レスター殿が?」

「私です」

「村長さんよ、脅されてるなら断れよ」

「あの支部長め、無関係の村長を巻き込むとはなんてことを」

「仕事は大丈夫なのか?」

 

 おや、予想外に同情的だ。

 なんか半分くらいトビーのアホっぷりのせいな気もするけど、パーティで肉焼いて配ってたおかげもあるだろうか。なんとなく括りがギルド職員や食堂のご婦人と同列な気もするが、サポート要員と認められたのかもしれない。

 少し面映ゆいな……。

 

「はい!」

「ローランさん、どうぞ」

「教官って何するんだ? 村長さんって戦えるのか?」

「多少の心得はありますが、皆さんに今回示していきたいのはそういうところではありません。災禍の洞窟の構造や環境についてです」

 

 ピクリと、目ざとそうなハンターの眉が動いた。

 今回の探索、彼らが撤退する原因となったのは主に炎酸アリだが、より正確には大きさや生態といった地上との差異や周囲の暗闇に乗じた奇襲など、言わば「環境」のせいで逃げ帰らざるを得なかったようなものだ。その対処法となりうる情報となればなんとしてでも欲しいだろう。

 

「オイオイオイちょっと待ってくれよ」

 

 ――だが、ここに例外が存在する。

 トビーの危惧していた例……力を信奉し、認めてない相手を軽んじる手合いだ。

 声の方に視線を向ければ、一見不機嫌そうな表情でこちらを睨みつける赤毛の少年の姿があった。だいたい俺よりも頭一つ少し小さく、いくらか年下くらいの…………例の後輩である。

 

 麻偵所属の赤毛の後輩である。

 

 奴は努めて表情を変えないまま困惑している俺の視線に気付くと、まばたきで符丁を送ってきた。

 「合わせてください」――いや何やっとるんだコイツ。

 

「何でしょう」

「ハンターでもない奴が教官役だなんてどれだけ信用できるってんだよ。テキトー言ってるかもしれないしな!」

「あな」

「あなた! 言葉が過ぎやがりますよ!」

 

 まず最初に嘘のにおいを嗅ぎ取った上に、前に後輩の顔を見て知ってるので色々察してしまったクリスが反応しかけたが、それ以上に勢いよく声を上げたニネット嬢によって機先を制された。

 思わず後輩まで「えっ」とばかりに真顔になるが、計算してたんじゃないのかコイツ。

 

「レスター様はかのアシュクロフト侯爵家の子弟。家の名を背負って村の復興を成し遂げようとしちゃってる人がテキトーぶちあげるなど……恥を知りなさいッ!」

「おっ、あ、えっ」 

「!?」

 

 ……どうしよう。言うタイミングをはかってたのに、なんか勝手に俺の素性をバラされてしまった。

 必要とあればこのタイミングで一旦立場で殴りつけておくのもアリとは思ってたけど……結果、案の定ハンターの方々は察していた人を除いて大騒ぎだ。

 かつての戦争の言わばきっかけとなったサラク村を復興させるという時点で、ある程度立場のある人物が村長という立場になって統括していると想像できた人であれば、まだ混乱具合はマシだ。もちろんそういう人ばかりではないので、急に貴族だのと言われてアワアワしてる人も見受けられる。

 

「……兄さま、全部言われちゃったけどいいのかしら?」

「いつか言わなきゃいけないことではあるから、もういいよ……」

「『構わない』ではなく『もういい』なのが察せられるわね」

「もしや私は言ってまずいことを申してしまいまして?」

「少なくともお嬢様の口から言うべきではなかったかと」

 

 そっすね。

 順序立ててできるだけそれとなく明かすべきだと思ってたので、この大混乱は俺の望むところではない。もうなっちまったもんは仕方ないけどさ……。

 

「……貴族が何だい! 話が信用できるかどうかって件は……解決してないかんな!」

 

 ところで無理に軌道修正しようとするの俺良くないと思うぞ後輩。

 ……いや多分アイツなりに、俺の力を示させて周りに認めさせようという魂胆なのだろうけど。言っちゃ悪いが爆裂に空回りしてるぞ。俺も想定してなかったタイプの爆弾のせいで。クリスですら嘘のにおいと、そんなものを軽く押し流す異様な状況のせいで困惑している。

 ニネット嬢、貴族としての意識が高いのはいいけど、黙ってるのは黙ってるなりの理屈があることは察してほしかったな……。

 

 

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