まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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61.村長の戦闘力

 

 

 何のかんの色々混乱は起きたものの、ともかく流れを修正することには成功した……と、後輩は考えているのだと思う。

 実態はどちらかと言うと「世間知らずの若造に身の程を知らせるには一度痛い目を見せた方がいいかもな……」的な周囲の生暖かい気遣いの賜物だ。結果的に成功と言えば成功だが、これを成功体験にしてしまうと他の麻偵というか密偵に失礼なので後で叱っておくことにする。

 

「よろしいですかニネットさん。貴族というものは権力と切っても切り離せないものではありますが、無闇に権威を見せつけていいものではありません」

「はい……」

 

 さて、とりあえず力を見せやがれという話にしてくれたので、模擬戦でもする流れになったのだが、少し場を整えるために時間ができたので俺はニネット嬢に軽く注意しておくことにした。

 状況を引っ掻き回しかねないのが良くないというのもそこそこあるが、ニネット嬢の「貴族」に対する意識の高さが今後何らかの軋轢を生みかねないとも感じたからだ。

 

 確かに今回はそこそこ有効に働きはした。しかし、毎回そうだとは限らない。貴族の威光を嫌う人もいるし、目立ってはいけない場合もある。

 権力はあくまで民からの支持によって成り立つものだ。無闇に振りかざせば貴族社会という土台そのものに影響しかねない。このため、実家ではまず権力の乱用を戒めるところから教育が始まるのだが……ニネット嬢はそもそも教育自体を受けていないことだろう。

 

「私は何の実績も無い一個人として村を治めています。必要とあれば家の力を借りることも仕方ありませんが、それは断じて自分の力とは言えない。いかに無礼なことを言われようと、権力に頼るのは最後の手段です」

「割と使ってないかしら権力」

「そうしないと立ち行かない状況が多いからな」

 

 そう、例えばサラク村復興最初期とかクリスの件とか……マリーの件とか……花フクロウの件とか………………。

 ……一般論ということにしておこう。俺が権力に頼らないといけないのはサラク村の村長なんて役割を振られたせいだ。

 

「れ、レスター殿。これはあくまでこの私の教育が行き届かなかった不徳のいたすところで――」

「フレデリクさんは教職か何かだったのですか?」

「あ、いえ。元子爵家家政です。これほど高潔であらせられるのに何も知らずに放り出されるお嬢様を見ていられず……」

 

 ……この人も大概お人好しとか通り越して忠誠心の塊だな?

 初対面の時胡散臭いとか思って本当に申し訳ない。

 

「……そうすることを選んだのはニネットさんです。教育がどうというお話ではなく、ご自身の意識の問題でしょう。それが改められなければ何も変わりません」

「はい……」

「はい……」

「お説教の相手が二人に増えたわよ」

「フレデリクさんがあんな言い負けてんの俺初めて見た」

 

 注意こそしているが、もちろんフレデリクさんやニネット嬢が悪いというつもりは無い。本来なら、ろくに教育も施さなかった家の責任を問うべきだ。そのため、最も責められるべきはムーレヴリエ子爵家の現当主だろう。しかし、彼に言葉を届ける術が無い以上、怒っても仕方ない。そちらには後日抗議文を送るとして……。

 とはいえ、ニネット嬢らに何のアプローチもしなくていい、とはならない。一応は迷惑を被っているし、今後もこの調子だとまずいしな。

 口調はできるだけやんわりと、かつ、一回で話が終わるようになんとか組み立てよう。

 

「しかしレスター殿、村長が目上の立場であることは事実です。規律のためにはあのような態度は戒めるべきではないでしょうか?」

「それは一度話を聞いてみてからでも遅くはないでしょう。立場が上だからこそ、寛容さというものも必要です」

 

 締め付けるだけの統治者というものに民はついてこない。

 それにアレが仮に後輩ではなく本物の不満を抱えたハンターだった時、頭ごなしに押さえつけるのでは根本的な問題解決は望めないだろう。

 

「申し訳ねえでございます。恩人を疑うような口ぶりに、つい我慢できず」

「その気持ちはありがたいのですが、衝動的に言葉を発してしまいそうならまず一度立ち止まることも大切ですよ。思わぬことが変に影響を与えることもあります」

「よ、よく刻みつけておきますです」

「私もいざとなればお嬢様を止められるよう精進致します」

「努力の方向性が違わない?」

「方向おんち」

 

 どちらかと言うとフレデリクさんには教育方面に力を入れてほしいんだが……しかしこう考えると、何の教育も受けてないのにナチュラルボーン正義感と貴族意識だけで義憤を燃やせる性格になってるって、世が世なら神器継承者に選ばれてもおかしくない程度の純粋っぷりだな。

 ……ともかく、お説教というか貴族としての注意事項はこんなところだろう。別に理解力に乏しいわけではないし、突発的な行動さえ控えてくれるならそれで十分なはずだ。

 このあたりで切り上げて皆が準備している方へと戻ろうとすると、釈然としなさそうな雰囲気をまとったクリスが、周りに聞こえないように声をかけてきた。

 

「……あの者は()()()の人でよろしいのでしょうか?」

「ああ、まあ……そうだな」

「仕込みということは?」

「仕込んでるならもっとスマートにやるよ」

 

 クリスの指摘通り、さっきいきなり反抗的な声を上げたのは、マリーの事情について報告してくれた麻偵の後輩だ。身バレ防止のために男装しているが、線の細さは隠しきれていないし声音もあまり変えられていない。「少年」だからギリ成立してるけど、普通に女性ハンターに扮したほうがいいだろう。

 で、仕込みをしておくなら、俺だって人選もタイミングももっと考える。そもそもこの教官代理も昨日いきなり決まったことだ。準備期間があまりにも足りない。

 

「別の仕事でこっちに来たついでに、状況がうまく回るよう気を使ったつもりなんだろう」

「ありがた迷惑な話ですね」

 

 ホントだよ。

 別に全然ダメな手法ってわけじゃないんだよ。そうした方が認められるというなら、むしろ力を見せる方向で誘導するのはアリだ。

 この場合に問題なのは、状況をコントロールできないことだ。事実、さっきはニネット嬢が暴走したしハンターの皆さんも混乱の中に叩き込まれた。

 ちょっとばかりお灸をすえるのもいいか。

 

 木剣を受け取って訓練場の囲いに入ると、心配と期待、それと値踏みの入り混じった視線が向けられた。応じるように手を振ると、囃し立てるような乱暴な声が上がる。

 思わずクリスがそれに反応して絶対零度の視線を向けそうになるが、今は威圧すべき場面ではないので手で制する。むしろこの軽く見られてる感じの方が、ギャップが際立つのでちょうどいいだろう。

 

「アシュクロフト侯爵家は聖王国南方の国境を守護する由緒正しき軍人の家系。三男とはいえ実子となれば生まれた時からの鍛え方も違おう……」

「どちら様ですかあなたは」

 

 そしてなんか突然ヒゲを生やした玄人風の壮年がうちの実家についての解説を始めた。

 誰このおっさん。

 

「背も高い。単純なフィジカルでは村長に分があることだろう。だが対する赤毛の坊主の体捌きも優れている」

「だから誰ですかあなたは」

「この模擬戦は魔法を使うことも許可されている……初撃が勝負を分けることだろうな……」

「人の話を聞いているのか……!?」

 

 ひとしきり解説を済ますと、ツッコむクリスを尻目に壮年は観衆の中に紛れて姿を消してしまった。

 誰だったんだあのおっさん。

 

「さっさとやろうぜ村長」

「え、ああ、はい」

 

 木剣を構えている後輩に急かされたので向き直って構え直す。

 一応、こういう流れにしたからには、あいつもある程度理解して負ける前提で話を進めてくれるとは思うが……相手任せにするのもよくないな。それに、何の打ち合わせもしていないのだから何をしてくるか、何がしたいのかも分からない。ある程度は力入れてやるべきか。

 

「よろしいでしょうか。できるだけ当てないこと、魔法は使っても構いませんが規模は絞ってください。危険と判断したらそこで止めます」

「承知した」

「いつでもどうぞー」

 

 気を取り直したクリスが審判として間に立つ。俺の知ってる限り最も公正かつ厳格で、いざという時のトラブルにも強い審判だ。これで俺たちも観客も大きな怪我を負うようなことはないだろう。

 

「では――はじめ!」

「どりゃあ!」

 

 合図と共に魔力が高まり、無数の氷の礫が飛んでくる。

 クリスの片目と同じアイスブルーの瞳がぼんやり輝いている。アイツも適性は氷だ。普段はもっと繊細な使い方をしているのだが、この手合わせはある種のパフォーマンス的な側面もある。多少は派手な方がいいと踏んだのだろう。

 でなくとも、魔法を解禁した状態での組手というのは初手である程度高威力の魔法を使って様子見するのが鉄板だ。対処できないならそれで終わり。出方によってもそれで詰み。

 まあ、こうして向き合ったところから始まるからこその戦法ではあるな。

 ただこの戦法、あまりにもポピュラーすぎて皆これを前提として動くフシがある。まず回避、または防御。その後がだいたい本命の一手、という流れだ。

 俺もそれに倣って腰を低く落とし、迎撃の構えを取る……のと同時、氷の弾丸に乗じてこちらに踏み込もうとした後輩の足先に、魔法で小さな穴を掘った。

 

「ふお゛っ!?」

 

 案の定、そこにあるはずの地面が無いことで奴はそのままバランスを崩した。畳み掛けるように組み換え魔法で進行方向に落とし穴を作ると、後輩は小さな悲鳴を上げて倒れ込んだ。

 

「ふっ!」

 

 操っていた人間の視界が塞がれたせいで、氷の弾丸があらぬ方向に飛んでいく。

 観客の方に飛んでいきそうなのはクリスに任せれば問題ないとして、俺に当たりそうなものは木剣で払い、叩き落としながら前進する。

 あとは穴に落ちて目を回している後輩に木剣を突きつければ終わりだ。

 

「そこまでです」

「瞬殺…………いや、確かに強いが……」

「せこっ」

「狡い」

「お貴族様の戦い方じゃない……」

 

 さて。模擬戦の終了がクリスから告げられて空気が緩むと、同時にハンターたちから割と引き気味の感想が発せられた。

 ……まあ、うん。自覚はあるけど邪道の剣だね。穴の中から後輩が「もう少し正統派のかっこいい倒し方とかできないんっすか」とでも言いたげな視線を向けてくるが、打ち合わせも何も無くそんなんできるわけないだろ。そういうのはトビーの方が得意だ。

 

「もうちょっとカッコいい勝ち方できなかったの兄さま、皆引いてるわよ!?」

「すまん、勝つこと最優先にしたから見栄えを気にする余裕が無かった」

 

 そして後輩と同じように思ったらしいリンデも声を上げた。

 ただなあ……大地の属性持ちっていうのは得てしてこんなもんというか……いちいち岩を創り出したり大規模な落石起こしたってたかが知れてるし、それよりも今既にある地面に干渉した方がよっぽど早い。

 あとは俺の職業病……元麻偵としてあまり目立つことをしないように心がけてるというのもある。戦闘は最小限の動作で、静かにコトを終わらせる。凶器もできれば使わない方が望ましい。

 が、村長という職業を考慮すると、多少派手な方がいいか。正道(そういうの)は兄上の領分だと思ってたんだが。

 

「姉さまからも何か言ってよ!」

「こういうのは戦場ではよくある手法だ。対応できない方が悪いのではないか?」

「もー!」

 

 あー……まあ、戦場育ちのクリス的にはそうなるか……。

 どれだけ地味でも戦法として有効ならいくらでも採用するし自分も使う。この辺は普段の見栄え一点張りな様子とは真逆だな。魔法に関しては体内に流し込む毒や冷気を頻繁に使っているし、大規模魔法も好まない様子だ。とにかく魔力消費も体力の消耗も最小限に抑えており、一見地味ではあるものの洗練された美しさすら感じる。

 一方、槍の見た目に拘ってるのは……どんな槍だろうが魔獣を仕留めるのには何も支障がないということだろう。いざとなれば獣化という切り札もあるし、()()()()()もありそうだしな。傲慢さにも近いものがあるが、事実に基づいた自信の賜物だ。

 それはそれとしてアイツ何使っても変わらんからって半分くらい槍をファッション感覚で選んでないか? とは思う。

 

「フッ……あんなに強い護衛を抱えている村長だ。どんなに強いかと思えば……」

「まあ強いな……」

「勝てるか?」

「勝てねえ」

「前触れ無く足元を崩す魔法の腕も高いが、氷の礫を直撃を一発たりとも通さない剣の腕も地味に優れている」

「認めてやるのもやぶさかではない……か」

「いやアンタらはまず村長に追いつけるように頑張れよ」

「フッ……」

「………ふっふっふ……」

 

 さて一方、なんだかんだでとりあえず当初の目的である「ハンターたちに力を示す」ということはそれとなく達成できたようで、それなりにこちらのことを評価する声が聞こえてきた。

 本当にそれとなくといったところだが……このくらい評価してもらえるなら、災禍の洞窟の内部構造についてもちゃんと聞いてくれるかな。

 

 

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