まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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63.下心と村長の過去

 

 

「下心って例えばどんなだと思う?」

「あ?」

 

 夜。

 バンドの練習に付き合えとアホ(トビー)が無茶振りをし始めたが、コイツは下心でトップギタリストにまで上り詰めた言わば欲望のスペシャリストである。これはちょうどいいということで、練習が終わって軽食をつまんでいる時にちょっと聞いてみた。

 ギルド地下にある音楽練習室のため他の誰もいないのが幸いだが、何言ってるんだコイツ的な皆の視線が痛い。珍しくトビーもマジかコイツと言いたげなダルそうな顔だ。

 

「モテてェ」

「まあそうなるか……」

「何だ急にお前」

 

 ……まあ、元々がモテたい全振りだったコイツに聞いたのがちょっと間違いだったかもしれない。

 下心。当然ながらそこには恋愛や性愛も含まれる。それ以外に何かあるか……と思ったが、方向性が限定的すぎる。人選が悪かったようだ。

 

「急にどうした村長。何ぞ良くない下心でも読まれたんかの?」

「その逆です。もっと下心を出して行こうと言われまして」

「リンデちゃん?」

「まあそんなところですね」

 

 普通に嘘ぶっこいたけどすまんリンデ。日頃の言動のせいだと思って許してほしい。

 俺もフェデリカさんがいきなりリンデの名前を出すとは思わなかったが、心理的な距離が近づいたからと言って当たり前のように下ネタを解禁するからこんなことになる。あと単純にマリーについてバレるわけにはいかないんだ。

 

「じゃ……お金とか?」

「物欲はわかりやすいの。村長は何ぞ欲しいもんは無いのか?」

「村の運営資金……?」

「ダメだこいつは致命的にこういうのに向いてねェ」

 

 貶してるのか褒めてるのか判断に迷うな。

 いや、悪いことじゃないんだろうけど。うん。

 

「貴族の生まれだから物欲が満たされとるんかのう」

「にしては……村長さんってあんまりそういう感じしないよね。質素っていうか」

「変に着飾ったりする立場ではありませんので」

「着飾れや村長(えらいひと)

「村長が私腹を肥やしてるなんて噂されたら恥ずかしいし……」

「コレなんだよなァ」

 

 トビーは呆れたように大きなため息をついた。

 まあ物欲金銭欲も下心の一種か。美術品収拾が趣味だって貴族も少なくないし、ごくありふれた感性と言えるだろう。貴族たるもの審美眼を養っておくべし、という面もあるが、真贋が分かる程度でいいやと思って俺は特に美術品には興味を向けていない。

 欲望! そのあふれる情熱が俺を行動させたッ! ……なんてことが思い返すとほぼ無い。

 ……案外現状に満足してるのだろうか。と言っても、向上心が無いわけではないと思うし……。

 

「学院にいた頃のお前もう少し色ンなことに意欲向けてたぞ」

「学生時代はそれが許されてたからな。今は立場もある」

「クソ真面目がよ……」

「趣味とかあったらそれ言うのもアリなんじゃ?」

「料理……?」

「実利を兼ねてる……」

「どこまで自分本位の割合が小せェんだ」

 

 別に完全に無私無欲というつもりは無いんだが……そう言われてみると俺は家や村のことばっかりになってるのか?

 

「昔はどうだったか覚えておるか?」

「もうちょいアホで反骨心があってアクティブだった。今のレスターにはその頃のギラギラが足りねェ」

「アホはお前が言えることか」

 

 思い返すと当時は今より活発だったのは事実だ。どっかのアホと一緒に行動してたせいで確実に今よりも影響を受けてた。

 それを許容してくれる環境に人、学院という閉じた状態だったこともあって身の程を知らなくとも問題は無かったし……ちょっと増長してたこともある。

 

「あんまり想像できないんだけど、貴族の学校でしょ? 師匠たち何してたの」

「王都のゴロツキを罠にはめて大量検挙してみたり……?」

「いきなりハイレベルなのが来たね」

「俺とコイツともう一人で学内の武術大会1位から3位まで独占して、嫡子だからっつって偉ぶってた奴らァ煽り倒した」

「ダハハッ! ヤンチャだったのう」

「た、確かにそんなことしてた頃と比べると、今の村長さん大人しすぎるような……」

「色々鬱憤というか……鬱屈してた時期でもあるので」

「鬱憤?」

「正直に言うと、神器継承者になりたいと思ってた時期があるんですよ。けど、物心ついた頃には既に兄上が継承者に決まっていて」

「あー……」

 

 神器を受け継いでいる貴族家は現在二つしかないが、共通して言えるのは神器継承者がそのまま当主になるということだ。

 うちで言えば「盾」を継いだ長兄オリアス……なんだが、兄上は13歳になる頃にはもう「盾」に次期継承者として選ばれていた。

 次兄ルーファスは……まあ、子供の時分だったから相当荒れに荒れた。が、ここで荒れたおかげで逆に歪みは少なくなったと言えるだろうか。潔く諦めきれたようだ。

 で、一方の俺は当時2歳。神器がどうのと言われても何も知らないしそもそも触れたことすら無い。自動的に俺が当主になる道は絶たれてたわけだ。

 しかし、年を経るにつれて、そもそも選ばれるチャンスすら微塵も無かったことにだんだん腹が立ってきて……学院に入る頃には第二次反抗期も相まって……まあ、トビーの言うように相当ギラギラしてたと思う。

 ただ、今思うとこうやって嫉妬に焦がされるような人格をしているからこそ、「盾」も俺を選ばなかったのかもしれない。「槍」ほどじゃないとはいえ、かなり人格的な部分は内面まで見られるし。

 

「あの頃のヤンチャは……若気の至りというやつです……」

「それにしちゃァ枯れすぎなンだよ」

 

 何かあったか? とトビーが目線で訴えかけてくる。

 学院を出て7年。色々あったが、半分は麻偵の件なのでおいそれと語ることはできない。おかげで職歴も7年空白だぜフハハ。

 ……いや、その話は済んだことだから脇に置いといて。話しても問題なさそうなことと言えば、師匠のことくらいか……。

 

「卒業後色々あって……5年前に爺様が亡くなって少し経った頃、自分探しの旅に出たんだが」

「急に妙な流れになってきたのう」

「村長さんと自分探しの旅が全然噛み合わないんだけど」

「まず色々って何だ」

 

 トラヴァーズ港でほとんど何も守れなかったことに責任を感じて退職、逃げるように放浪に出た、なんて流石に言えないので突飛な流れになってしまうのは仕方ない。機密だし。

 師匠の件を語るにはあまり関係ないので、苦笑いする2人を置いて続ける。

 

「その頃に魔法と料理の師匠に会って弟子入りしたんだが……」

「ほゥ」

「実は師匠には見た人間の才能を見抜く特別な目があるんだ」

「ちょっと面白そうな脇道用意するのやめねェか」

 

 ……気にはなるよな。才能を見抜く目。俺もそれで師匠に興味持ったクチだし。

 どこでどうやって得たものなのかもあの人は結局語らなかったが、誤魔化し方が異邦人(ストレンジャー)のやり口に似てたのでその絡みの可能性は高い。

 

「で、言われたんだよ。『レスターは覚えはいいけど才能の上限が低い。何も極められない。無駄な努力はしない方がいい』――って」

「うわ」

「ンだそのクソ野郎」

「女性だぞ」

「クソ女は」

 

 自分のことではないというのにわざわざ言い直してまで憤ってくれるあたり、やっぱ師匠はちょっと……いやだいぶアレだ。

 本人が100年に1人の料理の天才だからこそ、こうまで言える側面はあるんだが、それ以外のあらゆる物事を犠牲にしすぎている。

 才能の世界で頂点を目指そうという人にとっては大事なことなのかもしれないけどさ……。

 

「才能というのは分かってから努力するものではあるまい。努力にしても、その過程で得られるものが数多くある。はなから無駄だというのは、ちと感心せん物言いだの」

「生まれた時から才能が見えてた人にとってはその基準で行動するのは当然だったんだと思います。ただ……」

「折れたか」

 

 俺は何も言わずに苦笑で返した。

 なんていうか……元々傷心中だったのもあって、これがクリティカルヒットした。

 他に何か言ってた気もするが、何も聞こえないくらいにはダメージを負った。おかげで俺は置き手紙を残してそのまま実家に帰ったのだった。

 それ以来、自分のことに意欲がろくに湧いてこないというのは正直ある。俺じゃ何も極められはしないという師匠の言葉がリフレインして足が止まってしまった。

 

「お前人の世話焼いてられる精神状態か?」

「現にできてるし、その方が余計なことを考えずにいられる。心配いらないよ」

「この手の発言って普通強がりなのに本当にできてるの何?」

 

 結局、時間でしか心の傷は癒えないだろう。俺は誤魔化すようにベースを軽く鳴らした。

 トビーはそれを上回る情動たっぷりな音色を鳴らしてみせた。

 何だコイツ。

 

「……ま、ちと話は逸れたが……アレだ。お前は下心云々言う以前にちょっとカウンセリングとか受けとけ」

「そんなレベル……!?」

「そんなレベルだ。そもそも欲望を燃料にできるタチじゃねェだろ」

「師匠と違ってね」

「ほっとけ」

「どちらかと言えば責任と義務で動いておる感じはあるの」

「それに……話戻すついでにだけど、そもそも本当にマジの下心見せたら引くと思うよ」

「「え」」

 

 想定外なフェデリカさんの言葉に、俺とトビーの声が重なった。

 エーゴンさんはどうやら、何か納得しているようだが……え、下心を見せろと言っているのに下心を見せると引くって何?

 

「リンデちゃんなんかは、村長さんの普段の様子を知ってるでしょ。その感じに慣れて懐いてるのに、急にガチのやつ見たら引く。ってかなんなら泣くと思うよ」

「……見せろっつっといてか?」

「見せろって言ってるけど、見たいのはほんのちょっとの可愛げがある程度、ギャップが見たいわけ。その辺の機微わかんないかな」

「……すみません、わかりません」

「ま、村長さんはいちいち意識せずに普段通りにしてたらいいよ。こういうこと相談されたって話したらあの子も満足すると思うからさ」

 

 話題の大元はリンデじゃなくてマリーなんだが……まあ、リンデ経由でマリーにも伝わるか。

 マリーはそれで満足するだろうか……いや、そもそもリンデにしても、あの下ネタ大好物なアイツがそれで満足してくれるものか……?

 ……俺たちよりは、女性のフェデリカさんの方が遥かにあっちの感性には近いか。だったら変に疑うこともあるまい。いつも通りでいいならそうするまでだ。

 

「ちなみに師匠が下心見せたら引かれる通り越して軽蔑されるから」

「何でだ……!?」

「いや、なんか村長さんと違ってガチの下心っぽいし」

「…………」

 

 ジャンジャラジャンじゃねーんだわ。顔に似合わない切なげな音出しやがって。

 モテたいを原動力にしてるヤツが下心見せたら軽蔑されるというのは……ちょっと可哀想ではあるかもしれないが。

 

「……レスター。もう2、3曲付き合え」

 

 若干ショックだったのか、トビーは不貞腐れた感情を隠しもせず、鬱憤晴らしにギターを掻き鳴らした。

 コイツはこうなると長い。付き合ってやらないと明日まで引きずりかねないし、部屋に戻ってもギター鳴らしまくって騒音を撒き散らす可能性がある。

 

「ベース? ピアノ?」

「1曲目ベース、次からピアノ」

「師匠……村長さん仕事あるのに付き合わせていいの? ていうか何でも弾けるからって便利に使いすぎじゃない!?」

「ストレスが解消されない方がパフォーマンスも落ちそうですし、お気になさらず。でもトビーは本職ベーシストやピアニスト見つけとけよ」

「いつかはな。つーか俺だって仕事あるぜ」

「余計ダメじゃろ」

「全然仕事しなくてラシェルさんにキレられてるのによく言う……」

「…………」

 

 反論できなくなるとギター鳴らして適当に誤魔化そうとするのやめろや。

 ……まあ、なんだかんだ相談に乗ってくれたのは頼もしかったので、お礼としてもう2、3曲練習するのに付き合うくらいは問題ないだろう。

 

 






◯例の件の裏

「レスターは覚えはいいけど才能の上限が低い。何も極められない。無駄な努力はしない方がいいよ。でも逆に言うと幅広く何でも一流手前くらいにはなれる。だからわたしの店の運営をやろう。ぜひやろう。それがいい。広く色々なことができる人はそういうのが向いてるからね」

『お世話になりました。これ以上学んでも仕方ないようなので実家に帰ります』
「どうして……」
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