まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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65.福祉厚生を拡充しよう?

 

 

「福利厚生ってのは大事だと思わねェか?」

「どうした急に」

 

 個人用空調と名付けた魔道具の納入をギルドに行った折のこと。突如として他の職員に代わって魔道具の受け取りにやってきたトビーは、そんな明らかに何か裏のありそうなことを言い出した。

 福利厚生。もちろん仕事をする上で大事だ。職員の心身の健康と財産を守るためには制度も設備も充実させておくに越したことはない。雇用主(おれ)に適用されないという難点はあるが。

 

「今それを充実させようとしてる最中だろう?」

「もうちょっと……拡充してみねェか」

「……将来的にはもちろん」

「いや、今」

「…………」

 

 何を言い出してやがるんだコイツは……もしかして俺は今何か試されているのか?

 そりゃ医者とかまだ呼べていないし衣料品店なんかも無い。色んなものをサバルに依存してる状況ではあるし足りないものが多すぎる。これは俺も憂慮してる点ではあるが、急に今どうにかする……?

 思わず色眼鏡越しに、爛々と輝いているトビーの目を見返す。

 

「お前の目からは何か邪な企みを感じる」

「よく見ろこの純粋な目を」

「純度の高い我欲を感じる」

 

 欲は大事なものだ。あくまで常識の範囲内でさえあれば。

 コイツはそれでトップギタリストになってしまったが、やはり平時は過剰と言うほか無い。

 

「……まあいい、とりあえず言ってみろ。判断はそれからだ」

「プール作ろうぜ」

「却下だ」

「判断する間ァどこ行った」

「判断するまでもないと判断した」

 

 他に優先すべきものがいくらでもあるだろうがよ……暑さと下心で知能がミドリムシ並になってるんじゃねえかコイツはよ……。

 別に俺はプールが嫌いだというつもりも無いし娯楽施設が不要とも思っていない。ただ、今作るもんじゃないだろという話だ。

 

「別に俺も無駄な事をしないわけじゃないし無駄まみれだが……」

「だったらいいじゃねェか」

「曲がりなりにもいち自治体の長だぞ。引くべき一線はある。それを踏み越えるだけのメリットが示されない限り頷くわけにはいかない」

 

 仮に趣味に走るにしても、それなりの大義名分は必要だ。

 例えばワインを飲みたいからブドウを作ろうという話にしても、村の特産品として作って経済効果を狙おうとか、村の外にばかり嗜好品を依存しないようにとか、そういう理由を建前として用意してきてほしいわけだ。

 

「職員やハンター共の慰労にっつー話ならどうだ?」

「理由として弱いな。プールである必然性が無い」

「野郎どものモチベーション維持」

「肌を晒すのが嫌な女性もいるだろう。それに皆が皆その発想で行くと、女性はサッと引いてって目の保養どころか半裸の男祭りだぞ」

「オエッ」

 

 まさにトビーが王都にいた頃に混浴風呂に突撃して経験したことでもある。何で懲りないんだろうなコイツ。

 しかしまあ慰労のための施設、それ自体は一理あるんだよな。先日の件を見ても分かる通り、ハンターは基本的に命がけの職業だ。今のサラク村にとって不足している軍人の役割も兼任しているようなものだし、日々の疲労はどうしても大きなものになる。

 職員たちも、事務以外で色々なことをやってもらっている。ただ、プールってことは……泳ぐわけなので運動だ。ぷかぷか水に浮いてるだけでも疲れるだろうし、これだけではどうにも……。

 

「……なあトビー。ちょっと思ったんだが、それプールじゃないとダメか?」

「…………」

「ギターじゃなくて共通言語で応じろ」

「水着も見てェし、ひと夏のナントカ言うのも憧れてっからよ……」

「貴族が一夜の過ちに憧れるな」

 

 だいたいアレは普段と違う場所、環境だから開放的になっていつもの違うことをしてしまうという心理状態だ。

 村の中の一施設でいつもと違う環境も心理状態もクソもあるか。

 

「言い方を変えよう。プール()()じゃないとダメか?」

「詳しく聞くぜ」

「主目的を『慰労』と捉えるなら、そのための複合施設の一要素としてプールがある、でも問題は無いんじゃないか?」

「採用」

「予算どうすんだよ」

「……ポケットマネーから出す。提案してンのは俺だからな」

「剛毅なことだな」

 

 伯爵家を離れたとはいえトビーも一端の元ハンター、そしてサラク村支部という危険地帯の責任者を任されている身だ。金はあるのだろう。

 個人的にもリラクゼーション施設にはちょっと興味がある。ここのところ書類仕事も多くて肩が凝っているし、何も考えずに体を休める施設が欲しいのは正直なところ。

 ……いや、まあ……運営のために人呼ばないといけないけどさ……。

 

「ククク……やっぱり俺の漠然とした案を現実的に落とし込む腕はレスターが天才的だァな」

「あんま嬉しくねえ褒め方ありがとう」

 

 ついでに、先日は有耶無耶になったが、まさに下心を原動力に行動を起こした実例を見せてくれてどうもありがとう。

 確かにこういうのは致命的に向いてないわ俺。他人の「それ」を聞いて倫理や実現性とすり合わせる方がよっぽど得意だ。

 

「じゃ、ついでに専門家にも話を聞くか」

「専門家?」

「俺とあのホテル作った立役者」

 

 というわけで、マリーに連絡を入れてから向かったのは、ギルドの工房応接室だ。前の件で懲りたが、ある程度大掛かりなことをやりたいならある程度人数がいないとお話にならない。

 色んな人の感性からくる意見を借りる算段であるので、今回は若手職人たちも同席している。

 

「プールを建ててェ……!」

「今の発言は忘れて貰って構わない。ギルド職員やハンター、住人向けに慰労のための複合施設を考えているんだ」

「複合施設とな?」

『今でも十分複合施設じゃない? ホテル』

「それはそうなんだけどな」

 

 今俺たちが住んでるホテルも、レストランやら何やらの機能を備えた複合施設には違いない。ただ、これは宿泊客向けの機能をまとめているだけなのでちょっとばかり機能の方向性が違うんだ。

 

「発案者はトビー。出資もしてくれるそうだ」

『ワオ。下心しか感じないね!』

 

 マリー、正解。

 俺が軌道修正しなきゃ案はプールで終わってた。

 

「ふうむ、複合施設か。村長は何ぞ考えておるんか?」

「温泉、サウナ、プール……とりあえずはこんなところですね」

「まァ慰労メインだからな」

『ふーん。じゃあボクならそこにエステやマッサージの施設でも足したいね』

「エステティシャンどうするんだよ」

『……まあそれはおいおいで』

 

 女性客を呼ぶならそれはもちろんアリだろう。マッサージに関しては……魔道具で代用できるか。

 異邦人(ストレンジャー)のもたらしたマッサージチェアなる健康アイテムの理論を利用すればいい。街の銭湯などでも使われている。

 

「娯楽施設も欲しいですね」

「じゃあカジノってェとこか」

「賭け事は却下だ。治安の悪化を招きかねない。ただの遊技場にしろ」

『まあそれは確かに。あ、ボク本読みたいんだけど』

「なら図書室を設けるか……」

 

 さっきまでの立ち話では気が付かなかった拡張案がどんどん挙がっていき、あれも欲しいこれも欲しいと割と好き勝手に皆が意見を述べていく。

 土地と工費の件もあるし他にも色々……要望と現実の間をすり合わせながらどんどん話が大きくなっていった。

 あと、こうして話と規模が大きくなるとトビーのポケットマネーという話で済まなくなりつつあるのが分かる。冷や汗をひとつかいたヤツを横目にしながら、俺は魔法で作った立体完成予想図をコネコネしていった。

 ……しかしなぁ。

 

『ウォータースライダーも欲しいね!』

「だったら元の位置に戻りやすいように昇降機も!」

「安全面も考慮する必要がある。こっちに柵がある方がええの」

 

 言われるがままどんどんどんどん拡張していくと――それはそれはもう大変なことになっていくわけで。

 

「これはもはやレジャー施設では……?」

「「『…………』」」

 

 慰労とか休息どころか、これはもうただ遊ぶことに全振りした施設である。皆はほんの少しばつが悪そうな表情を見せた。

 変なことを始めるとどんどんエスカレートしていくのは俺たちのあまり良くないクセだ。

 ……何せホテルの時も大概なことになったからな!

 

『……経済効果は高いと思うよ!』

「人が来るならな……」

『まあ、うん』

 

 実際のところ、目玉施設というか……こういう娯楽施設があること自体はそれほど悪くない。観光客などがお金を落としていくための導線になりうる。

 村の住人なら一定の優遇措置を取るというのもアリだ。今後ハンター以外の住民が来るなら、純粋な娯楽施設はもちろんあった方が生活の質は上がる。

 ……住人がいるなら、だ。ハンターもギルド職員も結局のとこ仕事でここにいるだけなので、純粋な村の住人は依然として俺たち4人だけ。まずそこをどうにかしないことには経済効果は見込めない。

 

「それにこの規模、どこに建てたらいいんだ?」

「土地は余りまくってンだろ」

「都市計画の延長線上に無い。あくまで慰労が目的なんだから、交通面の利便性も考慮しないと利用してくれなくなるぞ」

「居住地から遠くなく、誰でも利用できる程度の位置にあり、それでいてそれなりに広い土地……」

「それに、ホテルと被る機能もある。大浴場もレストランもあるんだから近い位置にあると客の奪い合いになりかねない」

 

 うーん、と皆して頭を捻る。というか、捻ってもらう。

 ……ある程度議論は誘導した部分はある。機能をどんどん追加していくもんだから、どこかで歯止めをかけつつ自分たちから「やっぱり機能は絞ろう」という方向性の考えに至ってほしかったし。

 ただ、魅力的なのは魅力的なんだよな……リラクゼーション施設にプールなんかも。ホテルの周辺だと客の食い合いで問題があるわけだから、いっそ駅近くに設置するのが適切だろうか?

 そう考えていると、ふとトビーは窓の外を――ホテルの外観に目を留めた。

 

「………………機能が被ってンならよォ。ホテル(アレ)に併設したらどうだ?」

「……は!?」

『土地……は、あるね。庭園予定にしようって言ってた部分とか……』

「レストランは今のまま置いておくとして、大浴場を改装すれば打たせ湯や寝湯、立ち湯に電気風呂なんかも設置できるかのう……」

「待った待った待った! 花フクロウ小屋とか……」

『アレってレスターがいつでも移動できるようにって石造りにしたやつでしょ?』

「あっ」

 

 そういやそうだ。いつでも拡張できるようにしつつ、組み換え魔法使ってどこにでも移動できるように最初からデカい岩くり抜くだけで作ったやつだアレ。

 その気になったら分解も移動も魔力ひとつでポン、というのが売りというかその予定でしかなかった……。

 

「そう考えるとでき……るのか……? 横にプール作って……ちょっと拡張して……? いや、しかしそうすると管理が更に難しく」

「いや管理は委任しろ。ちゃんと屋敷作って出てけお前。仮宿だろォがアレ」

「……あっ」

 

 そ……それもそうだった。その方が管理が楽ってんで結局ホテルの地下で生活してたんだ俺たち。

 

「今のホテルの機能を拡充して娯楽・保養施設にしつつお前らも新しい屋敷に移る。何も問題ないだろォが」

「い、いやしかし、それは暇ができたらで」

「ハンターが揃って洞窟の舗装も訓練も軌道に乗ってきた今がまさしくタイミングじゃねェのか? これから人増えンのにいつまで穴蔵で引きこもってる気だお前」

『……裏方が長かったからかなぁ』

 

 うぐ。

 ……そう言われると俺はちょっとそういう部分がある……かもしれない。当主は兄上確定、学院じゃ常にトビーと姉御に続く三番手。選んだ職業も裏稼業。目立たないことに慣れきってるフシは……少なからずある。

 

『じゃ、いっそちゃんとした業者呼んで工事始めてもらおうか。ギルドの方にも業者の護衛の依頼よろしく』

「そっちの金は大丈夫なのかよ?」

「……ずっと貯蓄してきたし最悪父上に泣きつくから問題ない」

「では設計の方にも携わろうかの。ダハハッ! 変な方向じゃがこれもこれで楽しいわい」

「……あとロイヤリティの話も」

「それは今すべき話じゃない」

 

 そんなわけで、なし崩し的にホテルのレジャー施設化と村長の屋敷の建設が決定してしまった。

 トビーのアホみたいな下心から始まった話なのになぁ……いったいこれどういうことなんだろうなぁ……。

 

 

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