まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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68.新入職員を迎え入れよう

 

 

 雨タヌキのことなどちょっとしたハプニング? らしきものはあったものの、近頃の村の運営はごく順調と言っていい。

 ハンターたちは順調に村に馴染んでいるし、花フクロウも雨タヌキも何らかの被害を受けたという報告は特に受けていない。プールを含めた総合娯楽施設も村長邸も本格的に業者に委託し、あとは成果を待つだけとなる。

 そんなわけで俺もついに時間的余裕が――できませんでした。

 

「決済ヨシ承認ヨシ次こっちの資料の校正と検証と……クリス、こっちの魔晶産出地の件の裏取り頼む」

「承知しました」

「20分後から洞窟の整地に行くから終わったらそのまま最前線で待機を頼む。マリー、輸送列車だが」

「あーあれまだ無理。トロッコで我慢して。ていうかボクだけで作るのは勘弁して」

「分かった。貿易路としても使う以上国からの支援を取り付けるしか無いな。父上に連絡しておく。監視魔道具は?」

「追加20個お待ち」

「クリス、余裕があれば設置もいけるか?」

「問題ありません」

 

 地下執務室は以前にもまして忙しない。以前から既に時間刻みで組まれていたスケジュールは、既に分刻みと化していた。

 クリスもマリーもフル稼働である。俺は次々に溜まる仕事を処理する機械と化していて既に心の具合がヤバい。

 休み時間? ねえよんなもん。

 

「兄さま……こんな忙しいなら料理する時間減らしたら?」

「それだけはしたくない」

「『できない』ではないのですね」

 

 アレだって趣味なんだよ。

 ストレス解消なんだよ。

 料理する時間減らしたら心が死んじゃうよぉ!!

 

「あたし何か手伝うことない?」

「フローのお世話を頼む」

「フロー全然お世話すること無いじゃない」

「ホー」

 

 自ら羽根を手入れして見せるフローを膝に乗せているため、リンデはその場を動けない。

 ……現状、何をできるというわけでもないため、むしろリンデは何もしないこと自体が仕事だ。タブレットで本を読んでいるようだが、学術書などではないだろう。せめてエロ本ではないことを祈りたい。

 

「レスター様。流石に何もしないというのは……」

「できないことをしてもらうつもりは無い。やりたいことがあるなら歓迎するが、まだその段階でもない。働きたいというなら知識を付けてからだ」

「そこんとこ微妙にシビアだよね……」

「そうだろうか? 昔は何歳だろうが農作業に駆り出されていたぞ」

「おおう……ガチ戦前の農民生まれはそっか……」

「ではもう行ってくる」

 

 ちょっとしたジェネレーションギャップを見せつけた後で、クリスは姿を消した。

 クリスは60年前の農民だから、その辺の感覚が少なからずあるのだろう。当時はそれこそ幼い子どもも総動員して農業をするのがスタンダードだったし、今も農村に行けばある程度そういう面がある。フェデリカさんなどが代表例だ。

 もういっそ何もせずにフローと戯れてくれていれば、その方が見てて精神に良いまである。

 

「まず何をしたいかを見つめ直してからにしてくれ。それによって施すべき教育も変わる」

「何をしたいかって言われても……」

 

 コミュニケーション能力や周りとの打ち解けやすさも鑑みて、次期村長になんて普段から色々言ってはいるが、あくまでそれは俺個人の理想だ。リンデがやりたいことがあるならそちらを優先していいし、そのための支援も惜しむつもりは無い。

 そもそもリンデの性格もな……やりたいことが無いのに無理に何かやらせても長続きしなさそうだし、別にやりたいことがあったらそっちに意識向けてヘマしそうだ。

 エロ本書きたいとか言われたりしたら……流石に俺もちょっとお手上げだが……。

 

「今兄さま失礼なこと考えなかった?」

「気のせいじゃないか」

 

 もし失礼なことを考えているとしたらそれは普段から脳内真っピンクな人間のせいである。

 

「それにしてもいい加減事務員増やしたらどうだい?」

「屋敷ができてからだな。地下にいる間に増やすのはマリーのリスクが高い」

「なんか兄さま、屋敷できてもまだやれるまだやれるって粘って結局体壊しそうよね」

「……そこまで粘りはしない、はず、だぞ?」

 

 多分。

 事務員見つからない限りはどうしようもないけど。

 でもそもそも見つかるかな事務員。今から若干不安になってきた。

 

「足りない人員って例えばどんなかな」

「事務員はもちろん、家政と……村の警備隊くらいは必要だろうな」

「家政ってメイドさんとか?」

「似たようなものかな。屋敷の管理をしてくれないと、流石に持て余す」

 

 今まで考えたことも無かったが……必要になるんだよな、部下。

 特に今後、帝国との折衝が必要になってくる場合はどうしても誰かに任せないといけないわけだし……仕事にかかりきりになっている現状、俺が村を空けてしまっては色々と問題が起きるので今動ける余裕がほとんど無い。一度王都に行かないと、というような場合でも、例えばトビーに任せたら……どうなるか分からない。ちゃんと代理として任せられる部下か……。

 ……その場合、クリスやマリーのことも打ち明ける必要があるよな? 心配だ……。

 

「なんかそういう時のいい手段とかない? ほらいつもみたいにさー」

「いつもそんな解決法を思い付けてるわけじゃないが手はある」

「あるんだ……」

 

 本物の天才ならアレやこれや全部一挙解決みたいな策を思いつくんだろうけど、俺には無理だ。なので前から温めてた案をそのまま使うことになる。

 それも次善の次善のくらいできればあまりやりたくなかったことなので少なからず抵抗があるんだが……。

 

「要はマリーのことをちゃんと知っていて身元の確かな人間でさえあればいい。エーベルハルト殿下を通じて帝国に支援を求めよう」

「げ。そ、そういう手か……」

「そんな解決策があるのに何でもったいぶってたのよ」

「ハンターが来て今までよりも街道の行き来が安全になったのと……どうしても帝国に借りを作ることになる。村の運営に口出しされる可能性を潰したいんだよ」

 

 帝国の影響力もそれだけ大きくなる。

 在野でちゃんとした人材がいるならそれが一番良かった……良かったんだが……冷静に考えると俺、村から出る余裕は無いけど在野の人材は見つけたいなんてかなり支離滅裂なこと言ってるな?

 

「で、この村が帝国に対してだけ借りを作って影響力が大きくなるとまずいので、釣り合いを取るために聖王国側……うちの父上にも同じように支援を求める」

「元々この村自体、閣下の支援ありきでできた村じゃないか。少々帝国からの支援を受けても釣り合いを取るどころか影響力は聖王国側の方が圧倒的に強くないかい?」

「洞窟の貿易路が開通した暁には帝国からのありとあらゆる支援を受けることになるんだから、今の時点で聖王国からの影響力の比重を強くしておかないと弱い。あとそれだけじゃ人が足りない」

「最後のが一番の本音よね?」

「全部本音だぞ」

 

 問題は、どこも優秀な人材なんて手放したがらないことか。

 父上の方はあれで持て余してる人材が……あー……いないこともない、か……?

 アイツとか……アイツかぁ……上昇志向激しいからわざわざ村に出向するかって言うと疑問はあるが……一旦ここで言うこと聞いといて、今後の昇進のために来る可能性は低くない。あとは俺の口説き方次第か……。

 

「実家には事務方の補佐官の派遣を要請するつもりだけど、マリーは誰か呼んでほしい人とかいるか?」

「えー。友達も何もいなかったボクにそれ聞く?」

「使用人とかでそれなりに交流あった相手とかいるだろ誰か」

「あー……なら一人いる、かな? 一応ハルに言っといて」

「分かった」

 

 ……まあ、どんだけ早く帝室から離れたにしても、人間関係からそう簡単に離れられるわけもなし。ちゃんと繋がりがある相手みたいだし、暗殺者関係の心配をする必要もなさそうだし安心だ。

 問題は帝国からこっちに来るにしても領都からこっちに来るにしてもそれなりに時間がかかるということか。

 まあ屋敷が建つ前後で来られるならそれで問題無いか……。

 

 


 

 

 2日で来た。

 

「オラ(ボン)面接来たで!」

「面接に来た人間の態度かそれが」

 

 父上に連絡したところ、その場ですぐ行くとの連絡を貰ったので急遽ホテルに面接の場を設けたのだが、予想通りやってきたのは侯爵家が元々雇っていた事務方の使用人だった。

 強い西方訛りと乱暴な言葉から受ける印象とは裏腹に、見た目はなんとなくヘビを思わせるような細身の女だ。

 値踏みするような金色の瞳が向けられるが、動じるようなことはまあ無い。元から知り合いなのもあるし、「何をレスター様に無礼な態度を取っているんだ処すぞ」とばかりに睨みつけているクリスが同じ部屋に控えているのもある。おかげであちらの方がビビッてる有り様だ。

 

「まあ座れ」

「はいな」

「悪いが互いのことを知らない者もいる。自己紹介を頼む」

「メレディス・ロブソン言います。侯爵家使用人で事務作業やっとります」

「護衛のクリスだ」

「ああ、あん時の」

 

 メレディスは数年前からアシュクロフト侯爵家の事務員として在籍しており、クリスの件の時も俺や父上たちと徹夜で書類を仕上げた人間の一人である。

 例の事件は彼女の頭にも強く残っていたらしい。苦笑いでクリスの挨拶を受け取った。

 

「今日は村の拡大に合わせて、事務員を新しく受け入れるためにこの席を設けた。父上から具体的な話は聞いているか?」

「んまあ聞いとります」

 

 とは言いつつもあまりやる気らしいやる気は見せてくれない。俺の想像通りなら、村での仕事は踏み台程度にしか思ってないんだろう。

 言い方は良くないんだが、実のところそういうの自体はままある話というか多少は当たり前だ。給料のことだってあるしキャリアのことだってある。あと事実として現状のこの村踏み台扱いされても仕方なしな発展度合いというのもある。

 本当にこの人で大丈夫か? とクリスが視線を向けているのも仕方ないな。帝国からこっちに来るためにまだ道中のもう一人も少し不安に感じてきた。

 

「要は村の書類仕事いうことでしょう? まー適当にこなしますわ」

「適当、だと困るんだが……」

 

 原義的な意味ならともかく。

 ……まあなんというかやる気を無くしているな。急に領都からサラク村なんていう僻地……ってか危険地帯に送り込まれて不満が無いわけがないか。左遷みたいなものだし。この態度ももしかして半ばヤケクソだな?

 

「一応、立ち位置は出向いうことでええんです?」

「可能なら転職してほしいところなんだが……」

「アッハッハ、無茶言うわ。侯爵家使用人の立場放ってこんな僻地の事務職って、そりゃあちょい都合ええこと言い過ぎや」

 

 だよなぁー。

 そもそも侯爵家使用人って立場それ自体が大きなステータスだ。昇進していい地位まで就くことができれば給料もかなりのもの。世間体も完璧。それを捨ててサラク村の事務に来てくれ、というのはまあ虫のいい話なのは実際その通り。俺自身無茶苦茶だと自覚はあるからこそ、わざわざ話を持って行かなかったし在野に誰か良い人材いねえかなぁ! とか言ってたわけだ。実質引き抜きだしな。

 ……が、この先について見通しが立つようになった現在はもう少し事情が違う。

 

「お前がしがみついてるのは、いつまでも上のポストが空かない侯爵家使用人の立場、か?」

「えぁ?」

「自覚が無いとは言わないだろう。数多くの職員を雇って事務作業をこなすことになる都合上、侯爵家の使用人は100人以上が在籍している。今の立ち位置はどの辺だ? 家令までのし上がれるとしたら、それは何十年後になる?」

「う……」

「メレディス。お前はまだ下級使用人の扱いだったな。経理・経営の才を見出されて事務に加わるようになったはいいが……次の家令は上級使用人の中から選ぶことになるぞ」

 

 アシュクロフト侯爵家の使用人は、家事をする者も事務をする者もあまり呼び方で明確な区分けをしているわけではないが、だいたいこいつはこの仕事、というような部分は決まっている。

 というか魔道具の発展と仕事の煩雑化によって、最近の貴族にとっての使用人は……なんというか、仕事が回らないので昔ほど特定の仕事だけを任せてるわけじゃないし呼び分けもできてない。我が家に限った話でもないが。

 

 家令は使用人の中でも最高位であり、領地の内部の経理・経営の管理関係はだいたいこの人物が請け負っていると思っていい。当主の補佐役というところか。よってそこに立つ人間はごく限られている。事務方面における全使用人の長と言っていいかもしれない。当然給料もそれに応じてめちゃんこ高い。

 メレディスは事務方の下級使用人。才能があると見込まれてはいても、家令の地位までのし上がるのは、能力や才能以上に実務経験……あと家に仕えた年数が足りない。

 今の家令がその立場を退いて次の上級使用人に引き継ぎ、更にその次の次……くらいまでは時間が必要になるだろう。

 うまくいって30年後くらいじゃねえかな。その上、別に適任者がいるならそっちに役目が回ってくる。

 

「でもなぁ坊……侯爵家以上に安定した職場この辺に無いで?」

「だろうな」

「いや分かっとるんかい」

「だからこれは一つの賭けとして提案させてもらう。俺の補佐官に転職してくる気は無いか?」

「は? 坊の? いや、だからそれが不安やて」

「何十年後かになれるかどうかも分からん侯爵家家令も不安には違いないんじゃないか?」

「ぐ」

 

 まあ、こいつもその辺を理解しているからこそ、俺のところに出向してキャリアを積むつもりでいたわけだ。

 他の誰よりも先んじようという気持ちは確実にある。そして、確実にそういう上昇志向があるからこそ、この話も「効く」。

 

「――まだ構想の段階だが、俺は数年内……いや、2、3年のうちに爵位を賜るつもりだ」

「は?」

「……レスター様、それは言っても問題無いことですか?」

「父上も承知していらっしゃるさ。早ければ年内には帝国までの貿易路が開通する。これからのサラク村の発展はほぼ確実だし、爵位に値するだけの利益を国にもたらすことができると、少なくとも俺は確信している。つまりだ」

「つ……つまり?」

「新興貴族の初代筆頭家令の座は欲しくないか?」

 

 今、ここで村のために貢献して俺の補佐をすることになった場合、爵位を得て正式に貴族になれば自動的にその役割は貴族としての役職にスライドする。

 たった一人しかいない補佐官なら、それはもう家令に内定していると言って過言でない。クリスは警備隊長かな。そして家令となれば給料も倍率ドン。

 

「……マジですか」

「大マジだよ」

「……実は給料は雀の涙とか?」

「クリス、給与明細を見せてやってくれ」

「はっ……」

 

 クリスは懐からタブレットを取り出し、今月の給与明細をメレディスに提示した。

 まあ、まだクリスはこういうものの見方が分からないのでただ教えられたとおりに表示しているに過ぎないだろううが。

 ともかくそこには1000万S(スフィア)という目が飛び出そうな金額が表示されていた。

 

「………………」

「レスター様、メレディスの息が止まっています」

「……あ、これ危険手当とか全部上乗せした金額含めだぞ」

「ってぇことは基本給は!?」

「月100万S?」

 

 クリスは毎晩のように警備してるからその分の残業代、それから魔獣を狩りまくってるので危険手当がその分出ている。その分で上乗せされた結果が1000万Sだ。

 基本給を100万Sとしているのは暫定的措置だが、警備隊長として正式に就任したらもっと出る形になるんじゃないだろうか。

 

「何やこの金ェ!?」

「この村における今の基本産業は魔獣素材の売買だ。沼熊一頭の素材で……ギルドとのやり取り分を含めて税収としては25万前後……で、毎日のように色んな魔獣を狩ってるから、まあ結構なもんだよ」

「使う機会も無くただ貯まるだけなのですが」

「この前の槍に使ったろ」

 

 メレディスの金色の目がお金の形に変わっている。

 上手く働くことができれば年収1億Sである。多少目が曇るのも……まあそうなるな。

 ……業務内容? 一緒に地獄に行くっすよ。そんな感じ。

 

「これから業務が回り始めたら今の比じゃない金が動く」

「そうしたら給料もそれに合わせて……ってことやな!?」

「……ああ!」

「何や今ん間」

 

 俺は常識の範囲内で使って良い金額もお賃金も決められてんだよね。だって貴族ってあくまで税金で飯食ってんだもの。国の下にいるのよ貴族。

 もっともモチベーションのためにそれは言葉にはしなかった。家令に使う金額まで一定にしろという話は無いもんな!

 

「……ここまで聞いて請けん言うのは女が廃るわ。いっちょ頼むで坊!」

「こちらこそよろしく頼む。それとだな」

「何や、まだ何かあるんかい」

 

 ……で、さて。

 父上からの紹介であって、元からアシュクロフト侯爵家で雇っていた使用人。つまり一定以上の信用を置ける相手ということである。

 こうして契約関係で縛ったことである程度あちらも逃げ道を塞いだわけで……様々な事務を任せなければならない以上、俺たちの秘密も公開する必要がある相手である。

 部屋の隠し扉が開いてマリーが姿を現した。

 

「やあ」

「こちらシムゾニア帝国第二皇女マルガレーテ・F・パラヘリオン殿下だ」

「おぼろろろろろろろ」

 

 キャパを超えたメレディスは吐いた。

 

 

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