まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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70.夢と草と種と

 

 

 車椅子で活動する人は基本的に一日の食事を減らさないと、カロリーを使わないのでどんどん太る一方だと言う。

 ……マリーは驚異の代謝と頭脳労働と魔道具制作作業でこれを誤魔化していたようだ――理屈は分からない――が、なんだかんだ昔からのマリーを知る人間からすればもう一目瞭然らしい。

 ので、その場で食事量の聞き取りが行われ、パトリシアさんによる食事の改善と運動メニューが組まれることとなった。

 

「パットは……ボクを干し殺しにするつもりなのかな……?」

「むしろ健康にしようとしてるんじゃないか?」

「そういう正論は欲しくない」

 

 面倒くせぇなこいつはよー……。

 色々あって数日。連日のトレーニングのおかげでマリーの体重は徐々に改善されつつあるが、運動を全くしてこなかった人間が急に運動を始めたものだから自室のベッドで筋肉痛で動けなくなっていた。

 隣に侍っているパトリシアさんは、その様子を目にしてもなお涼しい顔だ。こんなことが以前からよくあったのだろう。

 

「そもそも今までのボクが痩せてたという可能性は?」

「研究最優先で食事をせず痩せていらっしゃったのを差し引いても今お太りあそばされております」

「断言するのやめてよ希望を持たせてよ」

「現実を見ろ」

 

 希望があると言うならあるなりの根拠を示さないと、ただの願望に過ぎんぞそれは。

 ……しかし昔はむしろ栄養失調気味だったのか。いや、栄養失調というか……純粋にただ食べること自体を面倒に感じてたやつだな。

 

「昔はそこまで根を詰めるようなことがあったのか?」

「というか食堂のご飯優先するほどじゃなかったっていうか……」

「殿下は以前から新技術の発展にご執心でしたので」

「新技術っていうか……まあレスターだしいいか」

「何だ?」

 

 実は何か特別な事情でもあるのだろうか。

 しかし、そう言うには少々雰囲気は軽い。暗殺されそうな原因とかではなさそうだ。

 

「ボクの夢は、異邦人(ストレンジャー)の技術を超えて完全な独自技術を創り出すことなんだよ」

「……あー……なる、ほど?」

「ホラ。今のボクらの使ってる技術の基礎理論は異邦人たちのもたらしたものが大半だろう? 独立したものは魔法技術くらいで、タブレットだって結局は『すまほ』とかいうものの模倣に過ぎない」

「だから異邦人のもたらした理論に依存しない技術を?」

「そういうこと」

「めっちゃくちゃ難しいだろそれ……」

「そうなんだよね」

 

 異邦人たちが持ち込んだ知識というものは数多い。この世界で既に発見されていたものも多数あるが、それは双方の世界でほぼ同等の法則が成り立つということでもある。

 だから彼らの後追いや模倣はできるしこれによって技術が発展した側面もいくつもあるのだが、なかなか「超える」ところまで至ることができていないのが現状である。

 そもそも超えに行こうという発想自体が無いんじゃないだろうか。まず模倣するところまで到達できてるのがマリーくらいだろうし。

 

「レスターも無理だと思う?」

「実績を見れば無理だと断言するようなものでもないと思うけど……」

 

 難しいのは否定しきれないだろう。まず俺たちの技術や理論の根幹に異邦人のもたらした知識があるのにそこから脱却しようというのがまず難題だ。

 魔法や魔力だけに干渉する技術なら異邦人とは全く関係の無い技術と言い切れるかもしれないが、そういうのは用途が限定的すぎてそもそも自己満足の領域を出ない。

 結局魔法だって物理に干渉するんだから、基本的な原理原則は物理法則に強い影響を受けることになる。

 

「『超える』だけなら筋道を立てれば行けるんじゃないか?」

「自分で難しいって言ってなかった?」

「いや……『異邦人の理論の介在しない完全な独自技術』ならそうだけど、既存の技術の延長線上にあるもので、未だ異邦人が作ったことの無いものは作れるんじゃないかって思ってさ」

「……なるほど?」

 

 マリーはプルプル震える手で近くのタブレットを引き寄せようと試みた。

 が、直前でパトリシアさんに遠ざけられて手が届かなくなる。

 

「おあああああああああ……」

「まずは回復に努めてくださいませ。ご趣味も仕事もそれからです」

「い、今思いついたことをまとめないと……」

 

 筋肉痛の体は思うように動かない。苦悶の表情で訴えかけてくるが、これはそちらの知識がある人に従ってもらうのが妥当だろう。

 

 さて、あとはよろしくとパトリシアさんにマリーのことを頼み、俺は元々の目的を果たすべく村の倉庫に向かうことにした。

 村の共有倉庫はその性質上、毎日何かしらの魔獣素材が出入りする。珍しいものもそうでないものも一旦ここに入れておく形になるのだが……今日は少し趣の違うものがそこに並んでいた。

 

「草か」

「草だな」

「草です」

 

 草。より正確には魔草。

 俺たちは以前から村の新産業となるものを求めてきたが、その足がかりとなりうるものが魔草栽培である。

 そんなわけなので、新種や珍種が見つかれば呼んでくれと伝えておいたのだが……うむ。

 

「こちら既存種、薬草のスエリン。残り2種類は新種ですので便宜的にサークルベリーと紅甘蔓と名付けました」

 

 ひとつは滅茶苦茶苦いが胃の病に効くと言われる、一見ごく普通の白い花をつけたスエリンと言われるやや希少な薬草。

 そしてもうふたつは、見たまま円環状に連なっているベリーと紅色のツル……甘いと表現されているくらいだから甘いんだろう。

 ……食べたのか? ハンター。毒かもしれないのに。

 

「……甘い、と名付けるあたり、食べたのですか?」

「食べたようです。どのような成分があるとも知れないのですが……現在は経過観察中です」

「王都の研究所へは送っていただけましたか?」

「無論、滞りなく。数日中には成分の調査結果も出ると思われます」

 

 ……万が一麻薬成分とかあったら焼き払うか?

 いや、流石にそれも早計か。ただの成分だけなら、麻酔などの別な使い道がある。

 可能ならこの世の全ての麻薬という麻薬を消滅させたいのが本心だが、苦痛の緩和のためだったり魔法でケアしきれない部分をカバーするのに必要な場合もある。割り切りは必要だ。

 

「生息環境に関するレポートを拝見させていただけますか?」

「まとめ終わっておりませんので、その後になりますが」

「お願いします」

「育てンのか?」

「成分次第、味次第だな。有用なものなら育てるしそうじゃなければ手を付ける気は無い」

 

 月並みな回答だが、まあ方針としてはそれ以外に無い。

 後々何かに必要になると分かれば生息域をメモしておけばどうにでもなるし、監視範囲内にあるなら大した問題でもない。

 スエリンは普通に栽培していいだろう。胃に効くから需要も小さくない。俺とか。

 

「発見した方には特別報奨をお出しします。相場はわかりますか?」

「そうですね、こうした例はあまり……支部長、いかがしますか?」

「中位魔獣調査依頼と同額、新種と希少種で一律5万。珍しいがまァある程度なら3万っつーとこだろ。加えて査定にプラス。支部長権限で定めろ」

「承知しました」

 

 ……こういうとこ即断即決で権限使って決めてしまえるのは一種の長所だよなトビーは。こうして独断で断言してしまえば、金額なんかの文句は全部自分に言えと強弁できるしギルド職員にかかる苦情も全部自分で引き受けることができる。

 そしてトビーはクソ強いので強さを是とするギルド内で巨大な発言力を持つ。こいつがこうと言えばそうそう文句を言う人も出てきはしないだろう。そもそも別に相場より低いとかそういうわけでもないし。

 ここは一旦預けておけば安心だな、と思っていたところで外から声がかかるのに気付いた。あれは……リンデとニネット嬢たちか?

 

「では後のことはお任せ致します。保管は厳重にお願いします」

「承知しました」

 

 何かあったか……にしてもそれほど大したことではないだろう。ラシェルさんは苦笑してあちらへの対応を促した。

 あの……雨タヌキを抱えてやってくる姿を見れば大して急ぐことではないとは思うが、俺を呼んでるということは何かしらあるんだろう。

 

「どうした?」

「さっきまでニネットさんたちとこの子と遊んでたんだけど」

「訓練でやがります」

「訓練」

 

 訓練をして(あそんで)いたようだ。仲良くなってくれて実に結構。

 まあ雨タヌキは中位魔獣なだけあって、普段はぽてぽてのんきに歩いていても機敏な時は機敏に動くし、追いかけっこしたりするだけでもある程度の訓練になることだろう。

 ともあれ雨タヌキに何かあったらしい。別に大層な問題ではないと思うが、俺を呼ぶあたり特殊な事情と考えるべきだろうか。

 

「訓練をしている時に何かがあったと?」

「あっち」

「ん?」

「行きたいぽい」

「雨タヌキが森の中に行きたがってる?」

「ん」

 

 端的なノエラさんの言葉は上手く事情が汲み取れないが、遊ん……訓練をしていたということはつまり運動をしていたはず。

 となると空腹を感じ始めたのだろうか。通常の雨タヌキは自分で埋めた種を育てる習性があるから、もしかすると何らかの果実を育てていたから、おやつとしてそれを取りに行きたいのかもしれない。

 

「と言っても森の中で魔獣が出てくるかもしれないし、俺らまだ二つ星なんでどうしようって思って。そしたらリンデが村長さんに相談しようって言ったんだ」

「あたしがいれば心配ないって思ったんだけどね」

「……心配は無いだろうけどな」

 

 獣化すればリンデは恐らく村内で最強だ。

 最強だが、できればこれは使わない方がいい力でもある。見た目で皆を怖がらせかねないし、何より強すぎる。森の中に出てくるハイドラ種程度なら一捻りだろうけど、その「一捻り」でどれだけの被害が生じるか予想もつかない。

 二つ星というからにはニネット嬢らもそれなりの実力があるが、突然高位魔獣が飛び出してきた場合が怖いからな……慎重なのは良いことだ。

 

「クリス」

「ここに」

「うおっ!?」

「姉さまそういうの好きよね」

 

 軽く手を叩くと、どこからともなくクリスが瞬時にやってきた。

 どこかしらに隠れたりしながら護衛していたのだろう。こういうムーブ好きだからな。呼べば来ると思っていた。

 

「ちょっと森に入るけど、予定は大丈夫か?」

「問題ありません」

「じゃ、ちょっと行ってみようか」

「よろしくお願い致します」

 

 そんなわけで雨タヌキの案内に応じる形で、俺たちは森の中に向かっていった。

 道中、なんというか案の定というか高位魔獣のグリフォン種が現れたが即時処理されていた。

 ……新しい槍になってから絶好調だなクリス。

 

「な、何をしたのか見えなかったでございますよ……」

「クリスさんすげー……」

「これが支部長が五つ星相当と認める実力ですか」

「もさ」

 

 そういえば、ニネット嬢ら4人は地下に潜っていないからクリスの戦いぶりというのは見ていないのだったか。

 流石に瞬殺も瞬殺すぎて学びになる部分が少ないかもしれないが……いずれにせよ4人とも唖然としている。

 俺たちは慣れたもので、雨タヌキは動じていないのでギルドに運搬の依頼を入れてそのまま進行だ。少しすると、開けた場所に数本の果樹が生えていた。

 あまり見たことの無いタイプの樹木だ。オレンジ色の成熟していそうな実と未成熟だろう緑の果実がなっている。

 大きさはこぶし大で球状。どうやら雨タヌキはこれを食べたかったらしい。

 

「…………あ、え?」

 

 一方、この果実に顕著な反応を示したのはクリスだ。目にも止まらぬ速度で熟していそうな果実をもぎ取ると、厚めの皮を剥いて中の果実にかぶりつく。

 いや流石に毒とか……と思ったけど、そもそも毒の魔力適性持ちのクリスだ。効かないだろう。それよりもクリスは、珍しく目を見開いてわなわなと手を震わせていた。

 

「れ、レスター様……これ」

「ど、どうした?」

「これ、ナポの実です。以前言っていた」

「えっ」

 

 ――大きさはこぶし大、形はだいたい球状、オレンジのように皮を剥くことができて、バナナのようなねっとり気味の食感。酸味が少しあるが、甘めの味。

 

 言われてみればその特徴は以前、俺たちに語っていたナポの実――旧サラク村で栽培されていたというそれと同じもの。クリスの記憶が確かならば、なるほど。確定と見ていいだろうか。

 ……えっ、マジで? こんな簡単に見つかっちゃっていいの?

 困惑しながら雨タヌキの顔を見ると、タヌキ何かしちゃいましたか? みたいな顔でこちらを見返してきた。

 割としてくれたよ。

 

 

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