まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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71.季節限定数量限定

 

 

 ナポの実。一応扱いとしては既存種なのだが、育てられていた場所が場所だけにどちらかと言うとその扱いはほとんど絶滅種に近い。

 よそで作られているという話も特に聞かないし、市場に出たという話も無い。特徴だけ見ればごくありふれた果実のようだというのにこれほど見ないというのは、それだけ生息域が限られた果実なのだろうというのがおおよその見方だ。

 執務室の応接机。皿の上に乗ったナポの実を口に運ぶと、ねっとり感と共に滑らかな甘みと淡い酸味が舌を撫でる。端っこを手に乗せると、フローが喜んでこれを口にした。

 悪くない。食べる動物も少なくないだろう。ではなぜ生息域が限られているかと考えると……。

 

「土地の魔力量かなぁ」

「味はまあ悪うない、食いでもある、けどそれ『だけ』やから他の果実から需要を奪えんかっただけ、とも考えられるで?」

「突然変異という可能性もある。しかし近縁種の話をあまり聞かないのはなぜだ?」

「気付いてないだけで実は近縁種あるかもしれんで。味もマンゴーっぽい……気がするし」

「その可能性もあるか……」

 

 あの後、俺は皆と協力してナポの果樹の植え替えを行ってより管理しやすい場所に移動させた。

 そのうちちゃんとした果樹園を作って、旬の季節などを研究するつもりだが……その前に、なぜ他の場所でこれが取れないのかという疑問を吐き出すことにしたのだった。

 メレディスは単に気付いてないだけ説、俺は特定の場所にしか生えない説。いずれもそれらしいようではっきりとこうとは言い切れないのが困るところだ。

 

「そもそも今は旬なのか?」

「ホー」

「美味い言うてるで。動物の感覚が正しいんやないか?」

「確かにあの雨タヌキも欲しがってたが……」

 

 だいたい初夏から秋にかけてが旬ということだろうか。まあだいたいの果物と同じか。

 

「唯一知っとりそうなお方は……聞き取り済ませたんです?」

「……要領を得なかった」

 

 本人視点では10年少し前のことだが、その10年の間に従軍戦争裏切り死亡蘇生とイベント盛りだくさんすぎて覚えているのが奇跡的だ。ちょっとでも味や特徴を覚えていただけでもよく頑張っていると言っていい。

 なんとなくぼんやり秋のような夏のようなことを言っていたので恐らく想像と変わりないだろうが……。

 ……一瞬、師匠がいたら旬の時期くらいすぐ分かってしまうんだろうなぁとか思ってしまった自分が嫌だ。

 

「まあ、育てながら気長に調べていくことにしよう」

(ボン)がええならええですけど。結局何本確保できたんです?」

「あれから追加で樹が合計4本。種をいくつか確保するつもりだが、そもそも実がなるまでに何年かかるかも分からないから安定供給できるようになるのは何年後かな……」

「じゃあしばらくはウチらのおやつってことで――」

「いや、限定的に売りに出すぞ」

「……は?」

 

 ……うん。恐らく商機だ。

 軽く指を鳴らす俺に一瞬唖然とするメレディスだが、すぐにその意図を察したのかこちらを指差して応じた。

 

「ブランドを盛り盛りに盛って売り出せるっちゅーことやな」

「『かつて滅びた村で栽培されていた今は流通していない果物』、それも『侯爵家お墨付き』で『ごく少量のみ生産されたものが市場に出てきた』――というバックストーリーがあれば」

「価格を吊り上げられる!」

「そこは抑えろ」

 

 あくまで適正価格で売り出す上で、スタートダッシュを決めるだけだ。

 まあいずれにせよ希少なものであることには変わりないのでちょっと値段は上がってしまうだろうがそれは常識の範囲内で……。

 悪評はなるべく避けないといけないしな。

 

「それに、サラク村の復興を間接的にアピールできる良い機会だ」

「ただ、こっちに来るまでに危険はあるやろ。護衛を雇える程度の金持ちの道楽ということになるかもしれへんで?」

「それでも構わない。まずは村が復興したことを知ってもらうのが先決だ。富裕層が知れば自ずと庶民にも知れる」

「移住者来るっちゅーのは難しそうやなぁ」

「それはまだいい」

 

 俺は書類の山を見ながら軽く拒否した。

 今、このタイミングで移住者が大勢来たら俺は書類に殺される。

 せめてもうちょっと落ち着いた……そう、可能なら冬……は環境が過酷だからやっぱナシとして、もし移住者が来るなら来年の春あたりから来てほしい。

 

「生産数が安定するまでは、こういう形で限定販売していこう」

「プレミア感の演出やな。人間『数量限定』『季節限定』っちゅー言葉に弱いからなぁ」

 

 ま、実際限定しないといけないくらい採れる量が少ないんだが。

 

「ともかくだ」

「何で今立ち上がったん?」

「ナポの実を売りに行かないと」

「自分で行こうとするなや」

「だって他に人いないだろ」

「何のためにウチら呼んだんじゃい!!」

「事務作業してもらうためだよ!」

 

 雇用契約外のことしろとは言わんだろ普通。

 他の面々もクリス、リンデ、マリー、パトリシアさん。後者二人は外に出られないから論外としてリンデに任せたりするわけにはいかないだろう。

 

「坊が行くんならクリスさんも行くやろ。対応力ガタ落ちやねん! ウチが行くからじっとしとき!」

「……そう言ってマリーから離れようとしてないか?」

「人を疑うの良くないで」

「残念ながら俺は人を疑うのも仕事でな」

 

 為政者だからな立場上。

 ……いや、皇女殿下ですって知らされた上でゼロから関係性構築するの難しいし、後ろめたさが勝ってると言われるとそりゃそうだろうなとは思うが。離れたがってるのは事実だろう。

 まあ、本人がいいならいか。

 

「……まあ、ともかくそれなら任せる。報告は逐次頼むぞ」

「はいな。ふぅ~~~~~~~」

「露骨に安心するな」

 

 ともかくそんなこんなでメレディスに一箱ナポの実を渡して、後のことは奴にお任せすることになった。

 あんまり不安要素と言えるほど不安要素があるわけでもないのに、どうにも安心できない部分があるのは……もう癖だろうな。イレギュラーなこと起きすぎてるし。

 

 善は急げと、とっとと一箱抱えて護衛を雇って行ったメレディスを見送ると、しばらくは一人で事務仕事を進めることになる。

 まあ部屋の外でクリスが護衛をしているし隣にフローもいるから厳密には一人じゃないが……ここ最近は必ず誰かが一緒にいたから、静けさが少し心地よい。フローが体を擦り付けてきて芳香が少し香った。

 そうしてひと段落がついた頃、頃合いを見計らったように執務室の扉を開いてリンデがやってきた。いつもの様子と違って、どことなく遠慮がちだ。

 

「どうした?」

「今話しても大丈夫?」

「ああ。ひと段落はついてる」

 

 と、言いつつ他の仕事の準備も始めなければならないのが悲しいところである。

 そもそも今の仕事も税金の話なので別に今終わらせてもすぐに同じ仕事が積み重なるわけで……考えないでおこう。

 

「あのね……色々考えたんだけど、あたしも何か仕事したいの」

「それは願ってもないことだけど……何ができる?」

「……獣化して運送とか!」

「そういうのはナシな。キメラとしての能力を活用すること自体は悪いことじゃないと思う。ただ、そっちの姿だけでしか見ない人もいるだろうし怖がる人も出てくるだろう。ドラゴンはちょっとな……」

「んんんん……」

 

 じゃあ何すればいいのよ、とでも言いたげな表情だ。それを俺が言ってしまうと道が固定されてしまうようで嫌なんだけど。

 ……「何かをしたい」という気持ちそれ自体は尊重したいところなのが困ったところだ。学びたいことがあるならそれに対する道筋は立てられるが……。

 

「言い方を変えよう。リンデは何がしたい?」

「兄さまのお手伝い」

「俺の?」

「だってお休みも無いし毎日ずーっと忙しいじゃない。代わりにあたしが何かできたら、お休みしたり遊んだりする日もできるでしょ?」

「…………」

 

 やべ、ちょっと泣きそう。

 普段の下ネタ大好きで所構わずアホな発言をカマす姿も別に見せかけだけとは言わないが、根の部分ではやはり他人思いなのだと思わせられる。

 ……あと、俺そこまで忙しい姿見せすぎてたかなとちょっと心苦しくなる。仕方ないことではあるんだが。

 

「でも何から勉強したらいいかわかんないのよ。兄さま何でもやってるじゃない」

「ある程度何でもできるように学院で学んだからな」

「あ、その『学院』! あたしも行けたりしないの?」

「リンデが? 学院に?」

 

 ……アリ、か?

 俺の手伝いというのは、そもそもそれ以外の選択肢を知らないからこそ言ってる部分もあるんだ。学院も狭い世界と言えば狭い世界だが、少なくとも聖王国中の貴族や学院に入れる程度には裕福だったりする庶民なんかが集まっていて色々な価値観に触れることができるのは間違いない。

 問題は、リンデが学院に入る条件を満たしているかどうか、というところだ。

 大半は貴族が入学するわけだから最低でもどこかの貴族が後ろ盾に立つ必要はある。まあ、これは実家で問題無いが……。

 

「……まんべんなく色んなことを学んで、色々なことができるようになるという意味では、なくはないな」

「でしょ?」

「ただ、俺の手伝いってことにこだわる必要は無い。まずは色んなことを学んで色んなことに触れて、それから改めて考えるのでもいい。そういう意味でも、一度学院に行くというのは間違いなく有益だ」

「うーん……うん、でも入学はどうすればいいの?」

「枠が無いか聞いてみよう」

 

 俺や兄上2人……アシュクロフト家は基本的に制度として利用していないが、学院に入るだけなら従者枠があるはずだ。

 メイドや執事……いわゆる侍従は、嫡子ではない良家の子息ということが多い。実家からではなく仕えている家からという経路になってしまうが、入学金の割引などもあるからこの制度を利用して学院に入学して知識や技能を習得して戻るという人も少なくはないんだよな。

 俺の親戚筋で言うと、甥と姪……長兄(オリアス)の子供がそろそろ入学のはずだ。タブレットで呼び出すと、十数秒ほど経って兄上の姿が映し出された。

 

「ご無沙汰しております兄上、レスターです」

『おお、レスター。どうした? 急に連絡してきて。俺の声でも聞きたくなったか!』

「父上はそろそろ聞きたい頃でしょうね。少し聞きたいことがありまして」

『緊急か?』

「いえ。ただウィルとミルがそろそろ学院に入学だったと思いまして」

『おいおい、2年後の話だぞ。そろそろと言うにはちと遠いな。ハハハ!』

 

 学院への入学資格は概ね13歳になる歳から。今2人は10歳だから、まあちょうど次の次の春で入学か。

 ……うん、2年あるならちょうどいいな。

 

「その入学、従者枠は使いますか?」

『いや、その予定は無いが……誰か推薦でもしたいのか?』

「推薦というか……リンデの話はしていますよね? あの子が学院に行きたいというので」

『ほう、そうかそうか。学院にねぇ……学びたいという気持ちがあるのは良いことだ!』

 

 兄上は次期当主ということで、クリスやリンデ、マリーのことに関してもだいたい余さず伝えてある。

 村に関しての定期連絡もしているため、こちらの事情については把握していて余計な説明が必要無くて助かる。

 

「アシュクロフト侯爵家は基本的にあの枠使ってなかったなと思いまして……」

『構わん、と言いたいところだが……父上には確認は取ったのか?』

「これからです。否とは言わないと思いますが」

『孫みたいな可愛がり方してるからなぁ父上』

「条件があるなら可能な限りはお引き受けしますが」

『お前も村の運営で大変だろう。わざわざ条件なんて出すものかよ』

「ご配慮痛み入ります」

『ただ、一つ頼みがある』

「は」

『――次の継承者。ウィルとミルのどっちが相応しいかを外の視点から見定めてほしい』

「……うーわ」

 

 ウィルとミル。本名はウィルフレッド・アシュクロフトとミルドレッド・アシュクロフト……兄上の一番上の息子と娘であり――双子である。

 よその家では、双子と言えど先に生まれた方を嫡子として継承権を上に定めるが、アシュクロフト侯爵家の当主継承権を定めるのは一点、「神器継承者かどうか」である。

 それはつまるとこ、たとえ次男三男長女次女だろうと継承者であれば当主になるということだが……。

 

「まだ定まらないんですか、継承者……」

『定まらないというか……()()()()扱えるんだよ……』

「……家の規定からすると、当主が二人?」

『んなわけにいかないから困ってるんだよなぁ!!』

「で、外の視点から……ですか」

 

 分かる。

 スゲー分かる。

 滅茶苦茶悩むだろうしどちらが本当の意味で継承者に相応しいかを知りたい気持ちは分かる。

 普通に家が割れる可能性あるからな。真面目にどちらを当主にするかを定めて権力の継承を一本化しておかないと絶対に火種になる。

 ……問題は、家を割るつもりがあるような心根の人間に神器はなびかないわけで……どっちかが野心持ってくれてたらまだ「盾」も確実にこれと定めてくれるんだが……。

 俺の甥と姪高潔すぎる。

 

『家の事情を知るお前にしか頼めないことだ。大丈夫か?』

「……口は固い子です。恐らく大丈夫でしょう」

 

 で、見定めだが……これはリンデも適任と言えば適任だ。何せ当代最高峰の神器継承者(未確定)のクリスを目の前で見てきた人間なわけだから、神器を扱うに相応しい精神性かどうかは判断できる。

 

「ただ、別案は用意しておいてくださいよ。どちらも適任であると判断されたら長子を優先する、とか」

『それは分かっている。あー……なぜうちの子が双子なのか……そしてなぜ二人ともこんなにいい子なのか……!』

「親バカにしか聞こえませんよ」

『やかましい。で、リンデは大丈夫なのか? 学力は』

「………………」

 

 俺は曖昧に笑って誤魔化した。兄上も察したのだろう。曖昧に笑って受け流した。

 

『条件としては問題は無い。後々時間を作って顔合わせを済ませよう。そちらはそちらのことを頼んだぞレスター』

「承知しました兄上」

『頑張れよ』

「兄上も」

 

 通信を打ち切ると、俺は小さくため息をついた。

 次代の継承者の問題もあるが、直近の問題はと言えばリンデの学力だ。

 何せ基礎教養があることはうかがえるが、それ以外の学力がどうかと言うと……ずっと村の中で遊んでたのでよくわからない。

 

「学院に入学する枠は確保してもらった。が……」

「いいの!?」

「……リンデ。学院というのはな、基本的に家で既にある程度の基礎教育を受けた人間が入学するものなんだ」

 

 貴族は家庭教師などを雇うことで12歳までの間に貴族教育と共にある程度の基礎教育を済ませておく。

 学院における授業というのは全てそれらを前提として行われるため、今の状態のリンデでは授業についていくどころか何もかもちんぷんかんぷんだろう。

 

「だから貴族の家における基礎教養程度の学力を先に習得してもらう必要がある」

「……えーっと……それってどうするの?」

「こうする」

「お呼びでしょうか」

 

 強めに指を鳴らすと、隠し扉を通じてパトリシアさんが姿を現した。

 いつの間に作ったギミックなのか、そしてそれをいつの間に把握していたのか、両方の疑問でリンデが目を白黒させているが今は置いといてほしい。

 俺もマジで隠し通路作ってそのまま来ると思わなかった。でもスルーしとく。どうせやってるだろうと思ってたし追及が面倒だから。

 

「パトリシアさん、リンデに学院入学レベルの基礎教育をお願いしたいんだが頼めるだろうか」

「お望みとあらば」

「えっ」

「そういうことだからまず基礎学習から。俺が教えてもいいが仕事があるからそれは無理だ。マリーのとこでパトリシアさんに教えてもらってくれ」

「すっごいトントン拍子に話が進んでいって怖いんだけど」

「俺もちょっとビックリした」

 

 自分で教育もできるんだなパトリシアさん。

 ……いや、もしかしたら一緒に学んでいきましょう的な方針かもしれないけど。まあどちらにせよそれがリンデのためになるなら何でもいいとしておこう。うん。

 

 

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