まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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73.昇格試験を見に行こう

 

 

 色々と激動だった夏も過ぎ秋の色が深まってきた。

 いやマジ激動だった。激動だったがなんとかなった。まあ今後とも激動であり続けるのだろううがとりあえず業務が落ち着いたというか、流れを一通り掴んだのは大きな一歩だろう。

 で、そんな秋口のある日のこと。俺はクリスたちと共に、ギルドの訓練場に招かれていた。

 

「なんだか今日賑やかね?」

 

 普段の訓練場は、ここ最近のハンターたちの向上心の上昇から割と利用者も多いのだが、今日は特に盛況な様子だった。

 以前、俺と後輩がやったように軽く仕切りを設け、一対一で向き合って試合をしているのを囲んで見物している。

 ハンターはあくまで魔獣を狩る職業だ。対人戦闘にあまり意味は無い……が、腕試しでもしているのかとリンデが首を傾げている。

 

「昇格試験があるらしいんだよ」

「へー」

「試験官はどなたが?」

「……トビー」

 

 「うわ」とでも言いたげに二人が微妙な雰囲気になった。

 ……いや、言うほど悪い試験官でもないぞ、トビー。普段は仕事サボって不真面目なところばかり見せてはいるが、興が乗ることに対しては適応力も高いし、何より戦闘や狩りに対する理論をちゃんと言語化できる教養もある。態度が軽いだけであいつは本気出せば有能も有能なんだ。

 

「大丈夫ですか? あの方だと気分で合否を判定などは……」

「それはしない。ただ、判定は少し厳しいかもな」

「災禍の洞窟のせいですか」

「降格まで考慮すると言っていたからな」

 

 なんだかんだ口だけの可能性もあるが、ロマンチスト気取りつつこういうところはシビアだ。降格が相応しいと思ったらマジでやるだろう。

 で、貴族出身の教養持ちだからこそ理路整然と何が悪かったかを説明できる。納得できるかはともかく理解はできるだろう。あとは冷静になるのを待ってもらえば飲み込んでもらえるはずだ。

 訓練場の囲いを抜けると、こちらに気付いたラシェルさんが急いで駆け寄ってきた。

 

「ご足労おかけして申し訳ありません」

「いえ。こちらこそ試験中に失礼したします。どうなさったのですか?」

「はい。支部長がクリスさんにこちらを……と」

「これは……」

 

 ラシェルさんが取り出したのは一枚のカードだ。箔押しされていて高級感があり、硬質素材が使用されているようだ。端のほうに写真と名前、中央には5つの星が刻印されていた。

 

「五つ星ハンター用のライセンスです」

「へー。綺麗にできてるわね」

「ら、ライセンスですか……? 私はギルドに所属する気はありませんが」

「あ、いえもちろん所持されているだけで結構です。クリスさんがあまりに魔獣を狩ってくる頻度が高いので……ギルドを通して素材を売買するのにライセンスがあると煩雑な手間を省くことができますから」

「そういうこ……あの。私は今までその煩雑な手間というのを経験しておりませんが、どのように?」

「今までは村長さんに代筆していただいておりまして……」

「も、申し訳ありません……」

「いいよいいよ」

 

 クリスはまだ字の読み書きが拙くて代筆が必要なのは事実だ。それに村の貴重な収入源とあって惜しんでいいタイプの手間じゃないからな。

 今日まで待つことになったのはギルド側の事情だろう。実際に狩った魔獣の数も精査しないといけないだろうし、証言も複数必要だ。トビーは実力を何度か見ているがそれだけを判断基準にするわけにもいかないだろうし。

 

「おりゃー」

「初動が遅ェぞ!」

「ぐえー」

 

 こちら側の用を済ませている最中にも試験は続いていた。見れば、ノエラさんが身の丈ほどもありそうな大剣でトビーに切りかかっている……が、瞬時にいなされて転がされていた。

 ……あんな得物を使うんだな、彼女。実はとんでもなく力持ちなのだろうか。風の魔力適性持ちのようだし、軽くして扱っている線もあるが、力任せに振り回しているのを見るにあまり魔法技術に優れているようには感じられない。

 何度かそれが繰り返されるもトビーは涼しい顔でそれらを全て流して終わらせた。結果は……まあ、あまり芳しくないだろう。

 

「兄さま、見てかない?」

「いかがしますか?」

「そうですね、時間の許す程度に……」

 

 ラシェルさんに応じるが、群衆に割って入っていくわけではない。ギルドの建物二階から様子を見るような形だ。

 見れば、次の挑戦者はローラン少年。彼は片手剣を手に、右に左にとフェイントを交えながらトビーに近づいていく。

 

「想定相手を履き違えンなお前が戦うのは魔獣だろォが!」

「すみませんッ!!」

 

 しかし、ピシャリとトビーの木剣に打ち据えられて動きを止められてしまう。

 ……一理あるんだよなぁ。トビーは試験官でしかなく、ハンターの仮想敵はあくまで魔獣なんだから。

 フェイントが無駄というわけではない。しかし、人間を相手にするような時のフェイントでは効果が薄い。いくら相手の知能が高めとは言っても人間レベルではないのだから、足先の動きで翻弄したってそもそも気付かれない可能性の方が高い。

 剣技は流派のようなものがあるわけではなく、恐らく我流。二つ星あるならそれでも多少なんとかなったのだと思うが、もう少しちゃんとした型が無いと魔獣の強靭な皮膚を切り裂くには足りないだろう。

 基礎体力などに目を見張る部分があるのは救いか。まだまだこれからだな。

 

「次来い!」

「行きます! お食らいあそばされましてよ!!」

 

 ん、次はニネット嬢か。持っているのは……魔杖?

 ……魔杖なんて他に使ってる人いたっけ? と見回すが、誰も同じものを持っているハンターはいない。むしろ周りからも「あーあ」と言いたげな雰囲気を感じる。

 訝しんでいるうちに、ニネット嬢の水の魔力適性そのままに水弾が発射されるが、トビーはこれを体術のみで躱して見せた上で盾をぶん投げて反撃した。

 

「ぎゃぼー!!」

「前も言っただろォが、魔杖(それ)()()()()だ! 低位魔獣まではソイツでもいいけどなァ、中位以上の魔獣相手にすンのに牽制以上にならねェっつったろ!」

「も、申し訳ありませんでございます……」

 

 あー……そういう。

 実際対人武器としての魔杖はかなり強力だ。前に雷の魔杖でクリスが一瞬動きを止められたことがあったが、普通の人は回避や防御できる速度ではないので一瞬の停止なんて程度じゃ済まない。何なら普通に心臓付近に受けたらショックで死ぬことだってありうる。

 あの水の弾丸にしたって、受けたら水浸し程度で済むものじゃない。流石に今は戦闘用の設定にしていないだろうが、直撃部の体組織の水分を急増させ破裂させる凶悪な兵器にもなりうるものだ。

 ……が、魔獣に効果的かと言われるとそれはまた違う。中位以上の魔獣は魔力の影響を受けて肉体が大きく変異している。常時体を巡っている強い魔力が防壁となるため、効果を発揮し辛いわけだ。

 実は人間もその気になれば魔力放出で防げる。達人クラスの技量が必要だろうけど。普通に物理防壁張って受け止めた方が早いし。

 

「次!」

「よろしくお願いします」

「む!」

 

 続いてはフレデリクさんか。大きな盾と槍……ごくオーソドックスな重装歩兵のスタイルと言えるだろうか。

 どうやらトビーはそのオーソドックスさが気に入ったようだ。一気に間合いに入って切り込むが、フレデリクさんはまず基本通りに盾でこれを受け止めた。

 

「あんま受け止めすぎンなァ!」

「はっ!」

 

 馬鹿力で盾がガインガイン音を立てるが、トビーは攻め立てる手を止めない。

 しかし一方で、徐々にフレデリクさんの盾の激突音が変化していく。これは……「受ける」ではなく「流す」方向にシフトしたわけか。

 魔獣は総じて体が大きかったり力が強かったり、真正面から攻撃を受けることは避けるべきだ。低位魔獣くらいならそれでも問題は無いだろうが、中位、高位と位階が上がるにつれただの防御では意味が無くなってくる。というか中には火吐いたり雷出したり酸吹き出したりただの鉄盾で受け止めたらヤバいものだっている。

 

「よしお前三つ星! 次来い!」

「えっ!? あ、ありがとうございます……?」

 

 なんかサラッと流れでフレデリクさんだけ合格してしまった。

 その後も数人の二つ星ハンターが果敢に試験に挑み、その大半がトビーの暴言に近いアドバイスを貰いながら一蹴されていった。

 ……しかしなんだな。

 

「……三つ星四つ星の方は試験にいらっしゃいませんね?」

「そちらは本職の教官が受け持っております。支部長は若手育成に専念したいと」

「育成?」

「一応」

 

 半分いびりになってねえかと思わないでもないが、まあアドバイスそのものは的外れなものではないしそういうものだろう。

 確かにそれぞれのハンターに必要なことを言っていることには間違いないんだが……あいつフォローとかちゃんとするのか?

 ……そんな殊勝なことするタイプじゃないな。どうしようか。少し見に行ってみるか。

 

「少し様子を見に行ってきます」

「承知しました。支部長には言っておきましょうか?」

「いえ……多分あいつが来ると変に煽るでしょうから」

「そうですね」

 

 せめて同僚くらいヤツの言動を否定できんか?

 できんか……。

 

 というわけで一旦降りると、ニネット嬢ら4人は半分祝福ムード、半分落ち込み状態だった。

 他の面々もなかなか辛辣に言われたせいか少々気落ちしているようだが、俺たちが来ると顔を上げてできるだけ普段通りの調子で迎えてくれた。

 

「レスター様。この度はどうにも不格好なところをお見せしちまいまして恥ずかしい限りでございます……」

「そうお気になさらず。失敗は誰しもあります。乱暴な言い方でしたが、支部長も改善点には触れておりましたしいつかは必ず前に進めると信じていると思いますよ。フレデリクさんは昇格おめでとうございます」

「は。しかしなぜ私だけだったのでしょうか……」

「それはちゃんと己の役割を果たしていたからでしょう」

 

 クリスが応じる。そういえば元軍属だしこの辺の役割の遵守ということについてはクリスも詳しいな。

 

「フレデリクさんは防御をちゃんとされていて、このちゃんとした防御というのは自分を守ることだけでなく……あ、いえその前に役割というものを」

「チームで動くにあたってフレデリクさんは前に出て皆さんを守る役割を負っていらっしゃると思います。支部長はそれを見てフレデリクさんならそれが果たせると感じたのだと思いますよ」

「……そんな感じです」

「……な、なるほど」

 

 要領を得ない説明になりそうだったので俺が引き継いで説明を終わらせる。あいつの考え方を考慮すればこんなところだろう。

 ……逆に言えば、他の皆はそれができていない。いや、自分の役割というだけでなく……恐らくノエラさんはアタッカーなのだろうが、技量がそれに足りてないとか、そういう部分も評価対象にはなっている。

 

「……魔杖ではダメと申されましても……これ以外に扱えるものがねえでありますが……」

「そもそも金もねえよお嬢」

「きんけつ」

「ケツ!?」

「今ちょっと真面目な話してるから後にしような」

 

 ははあ。ニネット嬢は前から魔杖だけで戦うことの問題を認識はしていたが、それ以外の選択肢を採るのが難しい状況なわけだな。

 他の何が向いているかも分からないが、それを試すために新しく武器を買うようなお金も無い。とりあえず現状維持が最優先になっている。

 

「扱えるものがあるかどうかを試すなら、まずギルドの工房に行きましょう。試しに扱ってみていいものを見繕っていただけるはずです」

「なるほど。しかしお金が足りないことには変わりありませんが……」

「魔杖を下取りに出すか……」

「そ、それだけはいかんです! これは家から支給された……身分を示す唯一の武器であります」

 

 数少ないニネット嬢とムーレヴリエ子爵家を繋ぐ財産、というわけか。

 いや、しかしそれこそとっとと売っぱらって家との繋がり切っちまえよと思わないでもないんだが。

 

「なら、こちらから提示できる手段はいくつか。まずは借金」

「借金はキッツいなぁ……」

「ギルドを通して行うので利子も担保も低いはずですよ」

「他、ある?」

「別の手段でお金を稼ぐことでしょうね。例えば森に入って低位魔獣を狩るとか」

「まあ無難ですが……」

「それか、こちらから仕事も斡旋はできます」

「「「えっ!?」」」

「うおっ」

 

 なんかすごい勢いで他の二つ星ハンターたちがこっちに注目し始めた。

 何だ。彼ら皆お金無いのか? ……無いのかもしれない。今のところ彼らが狩ることができるのは低位魔獣まで。この辺の森に出るのは主に中位魔獣だから、まだまだ力不足で狩りに行くどころではないのだろう。

 

「そ、それというのは例えば何なんです!?」

「先に言っておきますが、貴方がたの意に沿うことができるような仕事とは限りません。雑用というか……ちょっときつい仕事なので」

「聞かせてくれ村長さん」

「……雨タヌキの小屋とトイレの掃除」

 

 ……今ね、滅茶苦茶増えてんの。

 花フクロウに至っては3桁目前、雨タヌキは20頭から数えてないし村をぽこぽこ跳ね回ってるから正確な数もよく分かってない。

 なのでパトリシアさんに世話はお願いできているが、あくまでお世話まででちょっと他が行き届いてないところがある。普段は俺たちがゴミや排泄物なんかの処理をしているんだが……その辺を委託できないかという話だ。

 花フクロウはちょっと気難しいところがあるのでまだ人に任せるまでにはいかない。羽根を勝手に持っていかれたりしても困るしな。

 

「……やらせていただきたく存じます!」

「結構きついですよ?」

「今更きつい汚い臭いが何でありんしょう。何でも来やがれです!」

「……よく言ったお嬢! 俺も手伝う!」

「うぃ」

「まあ……少し覚悟はしておいてください」

「覚悟?」

 

 綺麗好きの花フクロウはまあいい。問題は雨タヌキだ。

 ……いや、トイレも覚えるし風呂にも入るし問題ってほどの問題というものはあまり無いんだが。

 ここしばらくの交流で無駄に人に慣れてしまったせいで遊びたがるんだよ。べっしゃべしゃに濡れた体毛で。それも掃除の最中にすら。

 

 ――翌日以降、ニネット嬢ら二つ星ハンターたちの小さな悲鳴と困惑の声、それとちゃんと掃除させてほしいという懇願の声が小屋から響くようになった。

 

 

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