ところで俺は麻偵時代の経験から、基本的に下着の上に二枚の全く色の異なる服を着用している。
例えば上着を白い色、肌着を黒い色とすることで上着を脱ぐだけで外見の印象をガラッと変えられるわけだ。追跡などをしている時、気付かれそうになったら伊達メガネを生成、上着を脱いで人混みに紛れる……みたいなことで相手を欺くことができる。この時の癖もあって、上着が無い状態の俺を見るとなんかいつもと違うな、と思うのもある程度は致し方ない。
後日、俺のいつもの上着はまだ返却されないので別のを使ってギルドの訓練場に向かうことになった。
何でアイツ俺の上着返してくれねえの?
「
「……必要経費」
「経費で650万もポンと必要になるかい」
ついでに俺はメレディスに詰められていた。
……マリーの研究開発のためだと財布の紐が緩みやすいが、今回は魔晶を予備分も含め購入したので結構な額だ。今までずっと金勘定してるのが俺一人だったので右から左へだったが、
いや、仕方ないんだけどね。お金の管理に関しては人一倍厳格にしてないといけないし。
「博士の研究費用だ。費用対効果についてはこれから検証する」
「これからて……そのゴッツい
『ここからブラッシュアップする余地はあるけどまだ試作段階だからねー』
肝心要の新兵器を担いだゴーレムからマリーがボヤいた。
うーん……こうして見ると本当に「兵器」だな。そもそも撃ち出す杭の大きさが相当なものだし、銃身もそれに伴って長さが必要になる。デカめのゴーレムが担いでいるから一見オモチャみたいに見えるが、総重量は20kgを超えるし撃ち出す弾体の速度も……音速とまでは言わないがかなり高速だ。人体を相手に撃ち出したりしたらまず即死だろう。
「場合によっては売り込み先も変わる」
『対魔獣用じゃないのかい?』
「軍やろ。魔獣対策しとんのはギルドだけやないで」
「軍は安全対策が優先だ。ギルドほど素材の汚損に拘らないから高威力の武器なら喜ばしいだろう」
元従軍経験のあるクリスが補足を入れる。実際売り込むとしたら兄上のところがいいだろう。
侯爵家軍は国境警備だけじゃなくて、周辺市町の治安維持と魔獣対策も同時にやらないといけないので武器も物資も常に入り用だ。一発で魔獣が粉砕できそうなこの装備も喜んで購入するだろう。杭も再利用できそうだし。
再利用するための専用の機構も設けていいかもしれないな。ワイヤーとかで。
「待ってたぜェ」
「仕事は?」
「てめェわざわざ見に来たのに第一声がそれかよ」
「ワシは一旦終わらせてきたぞい」
「歓迎します」
「態度の違いが酷ェ」
そして訓練場に到着するとやっぱりトビーたちがいた。
暇でもなんでもないくせによくやるよこいつ……。
隣にエーゴンさんが一緒にいるのはまあ構わない。彼はギルドの専任鍛冶師だ。新兵器となればその機構などを確認したいのは当然だろう。
「新兵器だっつゥなら俺にも確認する権利はあンだろ」
「そうだな。で、仕事は?」
「お前強引さのレベル上がったな」
村長だからな。色々な意味で多少強引にならないと統治者はやっていけない。
「リンデはいねェんだな」
「勉強してる」
ちなみにリンデは地下でパトリシアさんとお勉強中である。
太くて大きな長い棒の試し撃ち!! と騒いでいたがスルーして出てきた。
ともあれ、射撃用に適当な木人を用意して置いておく。安全のために俺たちは10メートルほど距離を置いた。
「コレの名前は何じゃ?」
「とりあえず魔杭投射機と見たままに」
「ほう、魔法式を重ねた杭を撃ち出すと」
「飾り気がねェ。別名を考えようぜ」
「後でな」
「んで誰が撃つんや?」
『効果が視覚的に分かりやすい人がいいね。まずクリスに頼むよ』
「では僭越ながら」
クリスはマリーのゴーレムから魔杭投射機を受け取ると、僅かに顔をしかめた。やっぱりそれなりに重いのだろう。
杭は既に装填してある。クリスが側面から軽く手を当てて魔力を流し込むと、杭にわずかに青白い燐光が灯った。
あとはロックを外し、引き金を引くだけだ。直後、ほとんど無音かつ高速で杭が射出され、目標にしていた木人が木っ端微塵に砕け散った。
『あれ?』
更に勢いのまま飛んでいった先の地面に着弾すると、訓練場の地面に巨大な氷の柱が突き立った。
……ついでのように、弾け飛んだ木人も凍結して氷の中に閉じ込められている。流石にこの威力は想定外だったのか、横で見ていたメレディスやエーゴンさんはポカンとしていた。
「何やねんこの殺戮兵器」
「貴重な素材を爆散させる気じゃねェだろうな」
「……ちょっと強すぎるな。クリス、魔力はどの程度込めた?」
「は……ええと、せいぜいあの木人を覆うくらいにできればと……」
『ちょっとやりすぎたかな。魔法の強化幅が大きいねコレ。それにちょっと……速度も調整するべきだったかな……』
「うーむ……魔獣相手にも強すぎるかのう。調整するなら手伝うが?」
『うん。お願いします』
そんなわけでその場で調整が始まる。
魔杖は魔法を凝縮・強化して発射されるため、魔法や魔力に対する抵抗力が高ければ効果が薄くなる。魔杭投射機はその難点を解決するために、皮膚や甲殻を貫いて内部に魔法を流し込むコンセプトだ。
すごく分かりやすく絶対に殺すというコンセプトだが、トビーの言う通り「素材」となる毛皮や甲殻を粉砕しなければならないので、それなりの速度が求められるのは当然のことだ。訓練で使う木人程度なら破壊できないとお話にならない。
まずそもそも標的が標的として適していないわけだ。これはマリーが魔法で鉄鎧を代わりに出すことになった。
続く問題は威力の高さだ。ただちょっと木人を覆う程度に調整したとクリスが言う以上はそうなのだろうが、それが氷山と見間違えるほどの氷の塊を生成するようになるというのはちょっと増幅しすぎだ。
これは魔杭という媒体も原因だろう。魔力を秘めて変異した魔晶を使ったこともあり、内部の魔法式はひと目で見て理解しがたいレベルで精密に編まれている。編みすぎている。とにかく詰め込めそうなら詰め込みまくるのはもうマリーの癖だろう。食事も詰め込みまくっていた。
マリーとエーゴンさんは、そこでまず魔杭のスリム化を始めた。杭そのものを小さくすれば内部の魔法式を小さくして強化幅を抑えられるからだ。
射出機構もそれに合わせて普通は小さくすることになる。が、想定と逆に俺が見ている間に射出機は全体的に大きく……というか太くなっていく。
「……これは何をしているのだ?」
『射出機構に手を加えてるのさ。段階的に射出速度を変えられるようにね』
「威力が高ければ高いほど良いわけではないが、威力を求めねばならん時もあるからのう」
『今までの大きさと形状だと破砕する形になってしまってたのもちょっと問題だったんだよね。これなら貫通する形になるからもうちょっと使い勝手が増すかな』
いずれにせよ肉がダメになってしまわないかはちょっと心配である。
……心配する部分が違うな。あくまで肉も素材も副産物だ。ハンターたちが安全に狩ることができるならそれに越したことはない。
しばらく待つと魔杭投射機のバージョンアップが完成したのか、マリーのゴーレムがこちらに投射機を差し出してきた。
『じゃ、次はレスターに頼むよ』
「俺でいいのか?」
「村長の身体能力で扱えるかも一つの指標だからのう」
「じゃあ試しに……ぬっ!?」
「重ェか」
「そら重いやろなこんなゴッツいの」
当然だが、追加パーツもあって魔杭がスリム化しても相当重い。元から20kg近くあったものだから、今は25kgくらいか……?
「だ、大丈夫ですかレスター様……」
「米を運ぶ時と比べたらまあまあだ……!」
「基準が農家やん」
うちの領、米の産地だし貴族しての始祖が米狂いだったから米の収穫やらに貴族として参加することもまあまああるんだ。だから大量の米を運ぶ経験も割とあった。30kgくらいだろうか。
とはいえ継続して持ち続けるにはちょっとな……全身に魔力を回し、強化して耐える。クリスは難なく持ち上げていたが、あれはクリスだからこそだというのがよく分かった。
「反動が気にかかるな。魔法はどういうのにする?」
『石を発生させるようなのがいいな。その方が分かりやすいし』
「よし」
相手を石で囲うのがいいか。学院時代によくやってたのと同じやつでいいな。比較が容易い。
そういうわけで俺もクリスがやったのと同じように側面に魔力を込めながら掌を当てると、魔杭からわずかに俺の瞳と同じ琥珀色の燐光が漏れた。
反動を抑えるためによく腰を入れ、速度を最低限に設定して引き金を引く。と、ちょうどいい具合に鎧の表面に刺さって止まった。直後、石でできた檻が鎧の周囲に形成され――どころか、完全に鎧を覆ってしまうほどの岩塊と化してしまった。
「うお……」
「こりゃすげェ」
学院時代、喧嘩の時やら試合の時やらで石檻を作ってたのを知っているトビーがギターを鳴らしながら口笛を吹いた。あの時の比じゃない。
軽くビビりながらも組み換え魔法を使って岩を分解すると、あくまで球状の外殻が覆っているだけの状態だった。
これならまあ、想定通りの範疇だろう。さっきまでの設定だと、岩が内側まで侵食し押し潰していた可能性は高い。
『鎧の破損具合はどうだい?』
「まァまァだな。槍で突いた程度で済んでる」
「ダハハッ! これなら狩りにも使えそうじゃの!」
「問題は……」
「価格、重量、適性やな」
『フッ……』
「何か手があるか?」
『無い』
思わせぶりな笑みをするなや。
まあ量産の手法が確立すれば価格は抑えられる可能性はあるが……それでも半値がせいぜいだろうか。200から250万?
…………200万かぁ。
「……トビー、これ買う気無いか? 原価で」
「いくらだ?」
「500万……」
「……ちィっと考えさせてくれ」
そりゃこの支部の長とはいえ一存で決められるわけがないのはそうだよな……。
500万を動かすのは……いや俺は確かにやったが。俺と同じようにやれるかって言うと、流石に無理だろう。組織という重石がある。
「小回りが効かねェ難点もあるが破壊力と魔法の増幅は惜しい……だが500万……」
「こりゃ悩ましいのう。のう博士、もう一丁作るならいくらかかる?」
『ノウハウは確立したから200万くらい』
「ノウハウが確立しても大概やないけ」
人件費も考慮すると400万くらいが適正な値段になりそうだな……。
というかそもそもこんな重量物振り回せる人間がいるかっつー話でもあるし、有効に扱う方法がどれだけあるかって話でもある。
魔杭の再利用は簡単とはいえ……ふむ? いや、これはこれでやりようはあるか?
「なあトビー、例えば一本置いといてレンタルするのはどうだ? レンタル料で長い目で利益を出せる可能性はあるぞ」
「よォし採用だ。ラシェルに相談してみる」
というわけで即決ではないが、何やかやでまず試作品がギルドに売却されることとなった。
原価そのままなのでこちらに利益は無いが、まあ新技術の研鑽とお披露目代わりと考えれば……まあ、今後のためにはなるだろうか。
「この
「マジかよお前ら二つ星だろ。すげェなどうやったんだ」
「魔獣ではなく地面を狙うことで泥沼に変えて、足元を崩してノエラが首を斬るサポートをしたのでございます!」
「何が何でなんて?」
後日、なんかニネット嬢がいきなり適性発揮してしまった。
しかも俺たちの想定外の使用法で。
……魔杖を長く使ってたおかげでこっちにも親和性があったのかもしれない。