まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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78.冬への備えと新施設

 

 

「何やライブにゲリラ参加して楽しんできたらしいなぁ(ボン)

「……楽しんできたと言うと、かなり語弊があると思うんだが」

「ボクらは寂しく家に残ってお仕事してたっていうのにねー」

「ねー」

「……それは仕事残してる方が悪いんじゃ」

「やかまし」

 

 ライブの後日。俺はなぜかマリーとメレディスの2人に執務室で詰められていた。

 理由は簡単。先日のライブの折にサバルに連れて行かなかったせいである。

 と言ってもメレディスは仕事を残していたので残務処理があったし、マリーは村の中ならともかくサバルまでゴーレムで行くと目立ちすぎるので留守番するしかない。俺は出かける前に仕事はきっちり終わらせていたし、詰められる謂れは無いはずである。きっと。

 

「何でちゃっかり自分の分全部終わらせとんねん。普通こういう時、仕事を残してウチが代わりにやるとかやないんか?」

「出かけるって分かってるんだから終わらせるだろ普通」

「クソ真面目か!」

 

 何で俺ちゃんと仕事終わらせてんのに怒られてんの?

 

「なんか普段通りのスケジュールで仕事して出かける機会逃したウチが損した気分やん」

「それは自分の都合じゃないか……?」

「ボクはいつ出かけてもよかったんだけど?」

「ゴーレムに乗ってたら観衆の中で悪目立ちしすぎるだろ」

 

 ただでさえ暗殺者を警戒しないといけない立場なのに何を言っとるんだこいつは。

 外に出て顔を見せられない立場の人間だと、不特定多数の人間がいる中でアピールするようなものだ。あの中に関係者がいたらバレッバレになるぞ。

 

「お二方とも、村長様で遊ぶのはその辺りで」

「せやな」

「俺『で』?」

「まあこの辺にしとこうか」

 

 からかわれてる部分はあると思ったけど俺で遊ぶって何よパトリシアさん。

 あと最近メレディスが来てから変に悪影響を受けたのか悪ノリが過ぎるぞマリー。

 ともかく二人も姿勢を正したので、俺も不満ながら頭を切り替える。

 

「移住希望者が早速出てきたで。バンドの宣伝効果絶大やな」

「春にしてくれって言ったつもりなんだけどな。誰だ?」

「花屋のあんちゃん。この人」

 

 メレディスがタブレットをこちらに向けてその人物の写真を示す。

 見たことがある……っていうか今でもたまにお世話になってる人だな。花フクロウの数がハチャメチャに増えて以来度々会いに行ってる。

 

「……その人ならいいか」

「ええんかい」

「花フクロウ愛好家だ」

「あー、あの人か」

 

 フローを保護した折に好物について聞いた*1例の花屋だ。花フクロウ保護協会とやらの会員だそうなので、移住希望を出してきたのはどちらかと言うと花フクロウたちのためだろう。

 トビーたちが宣伝をしたことで移住者を募っていると知ることができたといったところか。マリーの顔を見ても何も反応してなかったのでこの人は受け入れても大丈夫だ。

 あれだけの熱意を持っている人だから……まあ、ちょっと勇み足気味に来ようとしてしまっているのだろう。

 

「知り合い?」

「まあ一応。フローの食べる花のこと教えてもらったんだ。これからまだ繁殖して増える可能性もあるから、いてくれる方が正直助かる」

「なかなか奇特な人材で」

「あともうひと……集団、申し込みはあるで。ちと弾いたけどな。春まで待ちいって」

「ひと集団? 何人の?」

「宗教団体や。『星の子』って、坊の言ってた要注意集団。93人も来る言うとったで」

「……あの団体か」

 

 ローリエさんが潜入してるから実質人数は92人。かなりの大所帯だな……。

 それにこの最速のタイミングでの移住希望。理由は色々と考えられるが、村人が少ない状態で住人の大多数を占めることができれば、イニシアチブを握れるという思惑があってもおかしくない。

 後ろ盾があるとも無いとも知れない宗教団体だ。村を掌握して自分たちの拠点にする気だったりするかもしれない。

 

「一旦弾いてくれたのはいい判断だ。よくやってくれた」

「はいな。てか冬前にあの人数は支えきれんやろしな」

「どう考えても作物が足りません、村長様」

「だろうな……」

 

 問題は村の実効支配だけじゃない。食料面もだ。

 備蓄は常にある程度残しているとはいえ、野菜などの生鮮食品は足が早い。冬の間はそれほど多く採れるわけじゃないから、栄養も偏りかねないし……サバルに買い出しに行くのならそれだけ出費もかさむ。現状で92人もの大所帯を支えきるだけの資源は無いのが正直なところだ。

 では春になれば全く問題ないかというと、そういうわけでもない。まず農地を切り拓く必要があるし、ちゃんと収穫量も確保できるかも分からない。

 ……そこにやってきて、「斧」――の模造品を用いて救世主のような真似をして信仰を集めるか?

 やはりもう少し考える必要があるな。潜入しているローリエさんとも情報を交換したいところだ。

 

「そんなレスターに朗報だよん」

「ん?」

「温室栽培用のハウスの設計図ができたよ。これで冬でも継続して他の季節の野菜が育てられるね」

「確かに朗報だ。いいな。で、問題は?」

「キミのその察しの良さ好きだよ」

 

 温室栽培用のハウスということは、それなりの規模の「建築物」ということだ。

 つまり大地の魔力適性持ちの俺が酷使されるということである。

 どういう方向性かはともかく、少なくとも十数日からそれ以上……。

 

「外壁が全面ガラス張り、内部に鉄材の骨組みが大量に必要だね」

「つまりどういうことや?」

「……地下の工房をフル稼働、マリーが骨組みを作って俺がガラスを作る」

「……で、そのために相応に魔力が必要になるわけだね」

 

 ホテルを作った時と同レベルか、それ以上の労力が必要になるかもしれない。

 あと俺とマリーの魔力が枯渇することがほぼ確定した。

 ……まあ、あくまで内々にやるならという前提だが。

 

「外注せえや」

「それは……そうなんだが……」

「はいこれ設計図」

「ぉん? ……どんだけガラス使うねん!?」

「ボクさっき全面ガラス張りって言ったじゃんね」

 

 季節に依らずに日照時間を確保するにはハウスそれ自体を透明にするしかない。だからこそ屋根や上面だけでなく全面をガラス張りにするしかないんだ。

 この辺は王都の農業研究所や帝国でも検証が行われている。材質をガラスでない透明なもので構築する手もあるが……残念ながらそんな便利なものは開発されていない。

 擬似的に太陽光を再現する手段はあるし、実際に帝国の天井に掲げられて長いが、維持のためにはかなりの魔力が必要になるしオンとオフが効かない。帝国でも「夜」にするためには物理的に蓋をするくらいだ。

 

「あとこの規模! 横んあるハンターの集合住宅と変わらんレベルやんけ!」

「食料供給のためにはどうやってもねぇ……」

「100人以上の規模を冬の間も支え続けるには、それ相応の農地が必要になる」

「予算が……予算がえげつない……!」

 

 多少なりとも外注に頼らないといけないのは仕方ない。しかし、全面的にそうしてしまうと途方もない予算が必要になってしまう。

 数千万……いや、億はくだらないだろうか。一棟だけでそれなのだから、これからも拡張するとなると……冷や汗が出そうだ。

 

「それに輸送にも問題はある」

「駅まで持ってきてもらった後は、魔獣の出没するメインストリートを上がってこないといけないからねぇ。何枚も割れそうだよ」

「振動もゼロにできるわけじゃないからな……」

 

 舗装は完了したとはいえ常に見回りができているわけではない。結果的に魔獣が踏み荒らして段差ができてるということも十分にありうる話だ。

 ガラスであれば一応修理はできるが、あれは構成成分が判明していないと精度が低くなる。外部で作ったものは強度を高めるために水晶……ケイ素以外を混ぜることが多いので、もしかすると修理できない可能性もあるというのが正直なところだ。とはいえ外注しないとどうやっても俺一人じゃどうにもならないというのはその通りだし……。

 あ、そうだ。俺は軽く指を鳴らした。

 

「バイトを募るか」

「バイト?」

「俺たちも頑張る。外注もする。で、今村にいる人たちの中で適性を持つ人にも少し手伝ってもらう」

「全部同時並行なんか」

「まあそのくらいが妥協点かな。時間もそれほど無いし」

 

 本格的に冬になってもこの辺は南部地方。大雪が降るということはまず無いだろうが、それでも気温は大きく下がる。できるだけ早めに建設して早いうちに作物を作り始めた方がいいだろう。

 仮に失敗したとしてもまだ侯爵家の支援がある内だしリカバリーも効く。早く建ててしまうほど試行錯誤もしやすくなるし、今後の村の発展の助けになることだろう。

 

「決めたからには早めに動こう。メレディス、まずは予算を立ててくれ」

「はいな」

「マリー、必要なガラスと鉄材の量を試算しておいてくれ。それ次第で使える金額も変わる」

「りょーかい」

「パトリシアさんは可能なら現在のガラス相場の調査をお願いします」

「承知致しました」

「で、レスターは?」

「今のうちに基礎作ってくる」

「あ、うん……そうだね……」

 

 さて、力添えを頼むのはそれはそれとして、俺にできることは今のうちにやっておく必要がある。

 というわけで土木作業ノルマの追加が決まった。普通村長としてまず事務からじゃないかと思わないでもないが、人員が足りないので仕方ない。

 ……毎回これ言ってる気がするな。いや、でも人員が追加されたらやらなくなるかって言うとそういうわけでもない気がする。結局適性の問題だし。

 

「……やっぱ人増やすの優先した方がよくない?」

「……ま、まだダメだ。これは村の運営上譲れない」

「揺れとるやんけ」

 

 そりゃ揺れるよ。俺だって別に仕事に苦痛を感じてないわけじゃないんだから。できるだけ楽したいのも本音だ。

 だからって怪しい宗教団体を内側に招き入れるのは……ううむ……流石にそれは無理だ。最低限裏の無い人材じゃないと俺も頼れない。

 それに先程も言ったように食料の備蓄問題もある。マリーやメレディスのように地の魔力適性を持つ人材自体は大して珍しくもないんだが……やっぱ今いる人たちに一旦協力を求めるのが適切か。

 最悪の場合は父上にヘルプ求めて人員確保かな……。

 

 そうして後日、水晶や鉄を生成するバイトを募ると、魔力適性持ちのみならず適性外の人員すらやって来た。

 ……魔獣と戦わずに副業的に多少の金が出るというのはそれなりに魅力的らしい。

 

 

*1
32話

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