まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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79.温室の完成と力加減

 

 

 気温が下がり、屋敷前の噴水に浮かんでいた雨タヌキたちが屋敷の風呂に浮かぶようになってきた頃。

 本格的な冬の到来に合わせて計画していた栽培用の温室が完成し、俺は魔力枯渇で萎びれてぶっ倒れた。

 

「レスター様ー!」

「兄さまこのくだり何回目?」

「数えてない」

 

 倒れる俺。心配して駆け寄るクリス。呆れるリンデ。いつもの光景だ。

 なるべく食料自給率を高めたい一心のもと、最後の一押しのために魔力を絞り出したらそれが最後の一押しになってぶっ倒れるとはね。フフッ。

 ……まあ笑い事ではないんだが。普通の人は魔力が枯渇するほど乱用したりしないし、それで倒れるようなことも無い。無防備に倒れるようなら頭を打つようなこともあるし。別に使い切るほど酷使したからって魔力容量が増えるわけでもない。ほぼ無駄である。

 

「ご無理をしすぎです……」

「でも、急がないと冬の間の収穫量を確保できないからな……無理をするだけの価値はある」

「何か理由があったらどこまでも無理する人の言葉じゃないこれ?」

「…………そんなことないよ?」

 

 ないよ?

 ……多分。

 無理ってほど無理して……いや客観的に見ると若干無理をしているかもしれないが。リンデが言うほどどこまでも無理することは無い、はずだ。別に俺にそういう趣味があるわけでもないし。

 俺はいざとなれば他人に頼ることにためらいの無い男だ。頼らなくても済むうちは自力でなんとかするが。

 

「それほど急がなくともよろしいのではありませんか? 季節の野菜だけでも我々は我慢できると思います」

「我慢の問題じゃない。栄養面の問題だ。クリスもハンターたちも体が資本の職業だろう。栄養の偏りは命取りだぞ」

 

 俺もローラン少年にちゃんと栄養を取れと言った手前……というのもある。

 我慢しすぎていざという時に体を動かしきれなかったりすると貴重な人材を失うことにもなりかねないし、十代中盤の少年少女の成長を阻害することにもなりかねない。

 サバルで買ってくるだけじゃ不足は出るだろうし出費も激しくなる。長い目で見ると、経済的にも温室はあった方が良いはずだ。

 

「ねえ兄さま、これ全面ガラス張りなのよね? 大丈夫なの? 魔獣対策とか……壊れやすくない?」

「ある程度は壊れる前提だ」

「え、そうなの?」

「ガラスも骨組みも魔法で修理はできるからな」

 

 とはいえ構成素材をちゃんと理解していなければ魔法による修理の効果が薄くなることがある。なるべく品質を均一に揃えられるよう、ある程度は俺たちの手で製造していたわけだ。

 魔獣による被害が生じることだってもちろん頭に据えてある。というかそれを言うなら、別にハウス栽培じゃない畑の時だって危険は常にあった。

 

「そもそも今までだって魔獣対策の問題は常にあった。畑には柵くらいしてあるが、破壊するのでも飛び越えるのでも中位魔獣程度の力があれば楽にやってのける――けど、そもそも俺たちは何のためにギルドを村に誘致したんだったっけ?」

「洞窟探索の護衛の……あ」

「それは一側面。本来のハンターの仕事は魔獣への対処()()だ。つまり畑のパトロールなんかも仕事の範疇ということだな」

「私設軍があればそれが一番なのでしょうが……」

「難しいな。まず人が集まってからじゃないと役割分担もできない」

 

 だから移住者が来そうな次の春が本番なわけだな。ははは。

 そして異教の宗教団体の暗躍も本番なわけだ。ははは……。

 ぐぅ。また胃が痛くなってきた。戻ったら胃薬飲むか……。

 

「レスター様、お具合でも……?」

「大丈夫だ。ただ今後のことを考えると頭と胃が痛い」

「今後って……人が増えた場合のこととかかしら? それとも()()()()()場合の?」

「ニュアンスにどういう違いがあるのか教えてくれるか?」

「子供」

「……医療体制が充実しているべきという意味ではそれも当然考えるべきではあるが」

 

 お前が興味あるのはそのための行為の方だろ。ニッコニコで言うな。

 俺も興味自体はあるが死ぬ気で抑制してるんだから話題に出さないでくれ。

 

「住人が100人を超えれば医者が村に常駐する可能性がある。まずはそこからだ。今はサバルに行って何とかするしかない。その時は、急ぐならリンデの力を貸してもらう可能性は高いだろうな」

「任せてちょうだい」

「で、併せて温室も増やす必要がある」

「人数が増えるから、ですね」

 

 村の住人の胃を支えきるためには当然それ相応の規模の農地が必要になる。よって農地の拡張と併せて温室も一緒に建てておく必要がある。

 季節の旬の野菜だけじゃなく、他の季節の野菜も育てられればレストランなどでも使えるだろう。逆にハウスの温度を下げれば冬の野菜を夏に育てることもできるはずだ。

 

「それと実験用に小規模な温室も作りたい」

「実験って?」

「魔草や薬草の栽培実験だな。どういう環境が生育に適しているかを調べるために使う。栽培ができたら市場に流せば儲けになる」

 

 サラク村でしか作れない作物ということになってもいいし、世に流れて栽培法が認知されて値崩れしたってそれはそれでいい。

 ちゃんとした薬効があったり、希少な薬が安価になったりすればそれは民の助けになる。美味いものだったら最初に栽培に成功したってブランドを付加できる。

 

「栽培も住民の仕事になりうるし……」

「ねえ兄さま、それならハウスを建てるのも仕事にした方がいいんじゃないかしら」

「それもアリだ」

「アリなんだ」

「独力でやったらこうなるとよく身に沁みたからな」

「賢明です」

 

 俺は萎びれた自分自身を示して応じた。

 分業化はある意味急務だ。今のところ仕事がだいたい俺にのしかかってるから。

 やるしかない内はやるんだが、やらなくても済むなら俺は村長としての仕事に集中したい。それだけでも十分に負担だからね!

 

 


 

 

 ところでリンデを学院に送り出すに際して、勉強以外にも必要なことがある。魔法の制御と、戦闘技術である。

 前者は平時においても大事だが、後者は一見すると学院という学びの場に適さないようにも考えられる。

 しかし、例えばうちの父上や兄上のように軍事に携わる貴族も多く、家督の継承権を持たない次男三男が従軍する例も多い。そのため、戦闘技術というのは学院でも大事な科目の一つとして挙げられている。

 

「ウボァァァァ!!」

「あ、あら?」

 

 そんな戦闘技術の訓練のさなか、トビーはリンデのパンチを盾でまともに受け止めたせいで吹き飛ばされていった。

 文字通り地面と平行に、横一直線である。その勢いのまま柵にぶつかり、へし折りながらもんどりうってぼふぼふ言ってる雨タヌキたちの膨れ上がった毛の中に突っ込んでいった。

 ……トビーほどの戦闘巧者ですらコレか。

 

「トビーが死んだ……」

「し、死んでねェ……」

「け、ケガとかしてない?」

 

 トビーは卓越した魔力強化のおかげで頑丈だ。幸いながらヤツは毛皮をかき分けその場ですぐに起き上がって見せた。衝撃吸収能力に長けているおかげだろう、双方ともにケガは見られない。ずぶ濡れだがそれは必要な犠牲というやつだ。

 リンデの「問題」がこれだ。兎にも角にも強すぎ、手加減の仕方が分からない。

 理由は単純だ。大型ドラゴンのキメラという特異な出自故に、凝縮された質量がそのまま攻撃力に転化されてしまっているのだ。それを制御する術をこれまで学んでないし、その必要も無かったので放置した結果がこの有り様である。

 ……コレに関しては特に何の訓練もせずに完璧な身体制御を身に着けているクリスがおかしい、とも言える。

 

「支部長様でもいけませんか」

『こればっかりは普通の人には無理じゃないかな』

 

 脇でゴーレムに乗って見物しているマリー……と、ボロボロのパトリシアさんが嘆息する。

 本来は教育係として戦闘訓練もパトリシアさんが受け持つ予定だったのだが、事前にちょっと組手をした結果が……まあ、瞬時に吹き飛ばされた彼女だ。

 別にパトリシアさんが弱いわけじゃない。村に来るまでに文字通り直線で魔獣を蹴散らしながらやってきた以上、その実力はハンターの四つ星に近いものがあると思う。

 もちろんトビーも弱くない。こいつが音楽も戦闘も天才的なのは昔からよく理解している。

 単にリンデのパワーが技術や防御というものを超越しているだけだ。

 

「こんな問題が浮上するとは……」

「まさかあたしがこんなに強かったなんてね……」

「少し得意げになっていないか?」

「気のせいよ姉さま」

 

 気のせいじゃない。明らかなほどのドヤ顔がいっそ清々しい。

 ぶっちゃけ高位魔獣通り越して特異個体レベルの種族特性で強いだけ、力に振り回されているだけなので何も得意げにする要素が無い。

 

「魔法の制御は上達したんだけどな」

「兄さまが訓練しておいた方がいいってずっと言ってたしね」

 

 リンデは両極端な魔力特性のおかげで炎と腐敗の魔法しか使えないが、逆にそれだけを突き詰めて制御を鍛えることができるので、訓練方針を定めるのはある意味楽だった。

 皆の前で炎を出して球体にしてみたり紐状にしてみたりと見事なコントロールをして見せる。更に、近くに集めていた落ち葉が数秒ほどで発酵し腐葉土になった。

 他の魔法は使えないが、これだけでも十分に食っていけるほど見事なものだ。別の魔法が必要なら魔道具使えばいいだけだし。

 

「これでは適切な手加減を覚えないことには訓練もできません。いかがしましょう、レスター様」

「……クリスが適切な力加減を教えられないか?」

「私の場合は経験による部分が多いので……」

 

 それと単純に教え下手説明下手という問題ものしかかる。

 そうかもしれないなとやんわり肯定すると、クリスの雰囲気がちょっとしょんぼりした。頼られたいらしい。

 思えば獣化した体でも洞窟を脱出する際に相当な戦闘経験を積んでいるし、従軍していた時期には人間としての体の動かし方を徹底的に叩き込まれているはずだ。感覚以外で言えることも少ないだろう。

 

『経験を積んだことでクリスが体の使い方を学んだのなら、リンちゃんも同じやり方でできたりしないかい?』

「獣化して洞窟の端から端まで魔獣を殲滅しながら進んでいくって話かしら?」

「危険すぎるだろ」

『だよねぇ……』

「こればかりは残りの期間をかけてゆっくりと学んでいくべきではないでしょうか、村長様」

「かもしれない……」

 

 まあ、まだ期間は一年少しある。その間に適切な力加減を身につけられれば問題は無いだろう。

 獣化する必要があるならハンターの皆に見られない場所でやって訓練すればいいし、体術の訓練をしているうちに手加減が身につくかもしれない。

 流石に訓練場で大っぴらに獣化したら具体的にリンデのこと知らない人が騒ぐだろうし、それは流石にやるつもりにはなれない。

 

「ただ、そもそも獣化するのに服脱がないといけないのがネックだな」

「脱がすつもり……なのね!?」

「今ちょっとお前のために真面目な話してるんだからそのノリは後にしろ」

「はい」

 

 問題になるのはもう一点、獣化はそんなに気軽にできないということだ。

 毎回服を着たり脱いだりしないといけないし、脱がずに服を引きちぎってしまうと服を用意するまで獣化は解除できない。当然ながら周りに人がいる時に獣化の解除もできない。露出狂のケでもない限りは。

 これでは気軽に獣化などできるものではないだろう。

 

『それならちょっとボクがなんとかしてみようか?』

「できるのか?」

『刻印のおかげで質量の凝縮って現象が起きてるから、ちょっと服の方に手を加えたら多少はなんとかなるんじゃないかな』

「ああ、なるほど」

 

 魔法式の話になるし、この辺りのことはマリーに任せた方がいいだろうな。どうやら何か思いついたみたいだし。

 ……毎回こういうの任せるような形になって申し訳ないが、他に技術者もいないので仕方ない。

 横を見るとクリスが自分にも頼ってほしそうな目をしていた。

 

「今リンデに体術を教えられるのはクリスだけだ。任せてもいいかな?」

「無論です。お任せを」

 

 そんなわけで頼ってみたら周囲がキラキラ輝き始めた。

 ……体術は卓越してても相変わらずダイヤモンドダストが出る体質は治っていないようだ。

 まあこっちはそもそも魔力適性そのものが変容してるから仕方ないだろう。うん。

 

 

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