まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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81.里帰りに行こう

 

 

 冬の寒さが本格的に身に堪え、皆が服に装着する空調魔道具*1をフル稼働させるようになってきた年の瀬。俺はちょっと先までの職務を死にそうになりながら終わらせていた。

 普段ならここまで猛烈に頑張るということは無い。クリスからも寝ないで徹夜とかしてないか時折確認されてるし、ペースもある程度考慮して仕事を進めている。

 が、この時に関してはそれができない理由がいくつかあった。

 

「まさか新年の挨拶に来いとは……」

「そら面倒やけど大事なことやで(ボン)。まあウチは行かんけどな。フハハハ」

「こいっつ……」

 

 実家から新年の挨拶に来いとの要請である。メレディスは渋い顔をする俺をケラケラ笑った。

 侯爵家というのはしがらみが多い。俺は継承権の無い三男かつ麻偵の仕事や放浪していた時期もあって基本的にはそういうのから逃げていたが、村長という立場は諸々の責任がついて回るため、領主との関わりが必然的に深くなる。表に出ないといけない立場も相まって、挨拶まわりが重要になるのは確かなので今回は行かざるを得なかった。

 

「行きたなかったら忙しいって断ればええやん?」

「そういうわけにいかないんだよ。兄上たちが帰ってくる」

「一族勢揃いかいな」

「学院に通わせるにあたって、リンデに(ウィル)(ミル)との面通しをしておかなきゃいけないって話もしてたんだ。ちょうどいい機会だってさ」

 

 というわけで国境警備にあたっている上の兄上も王都にいる下の兄上も家族を連れて大集合だ。

 ただし年始の一日だけ。これは全員が忙しい立場に置かれているため致し方ない。

 逆にこの一日を捻出するのに全員が割と無理をしていたりする。

 

「んでお嬢も帰ってきたりするんかいな?」

「お嬢? 何でニネット嬢の話が」

「おるやろ、トラヴァーズ子爵家ん生き残りの」

「………………」

 

 俺は思わず目を覆った。

 そうだった……父上が後見人を務めて養育してる関係で、彼女も年末年始にうちに帰って来るんだ……。

 言ってしまうと彼女は俺にとってトラウマを想起させる存在だ。学院に通っててしばらく会わずに済んでた分、かなり鮮烈に当時のことを思い出してしまうことだろう。

 今から既に胃が痛みを訴えつつある。うわぁ……帰りたくねえ……。

 

「嫌いやったっけ?」

「嫌いなんじゃない。昔のこと思い出すから苦手なんだ」

「この機会に克服してきたらどうや? 立場上いつまでも関わらんわけにいかんやろ」

「あっちが会いたくないだろう……多分……」

「ヘタレが」

「減給するぞ」

 

 護衛の任を負っていたのは俺だ。彼女しか守りきれなかった以上、家族を救ってくれなかったとして恨まれててもおかしくない。

 それに当時は偽名を使ってたんだ。何年も経って俺自身の印象も変わっているだろうし、きっとあちらも気付きはしないだろう。

 リンデの用事を終えたら、無難に早めにサラク村に戻るとしよう。

 

「ほんでどんだけ空けるんや?」

「4日で済ます」

「移動に1日かかるやろ。あっちに1日しかおらんのかいな」

「こっちの仕事もあるからな。洞窟の整備も大詰めだ」

「……なあ、毎度思うんやけどそれ村長のやる仕事やないやろ?」

「俺がやる仕事だよ。あまり他人に任せすぎると利権を持っていかれる」

「うーわ、ゲスいこと考えよる」

「でも大事だろ?」

「せやな」

 

 金や権力が絡む以上多少下衆な考えであることは否めないが、利益を得ることは大事だ。特に今後村を復興・発展させて、貴族家として独立しようと考えるならなおさらに。

 洞窟を通じて帝国との貿易路を開通させられれば、その経済効果は大きなものになる。そこで「洞窟を整備して開通させたのは俺たちの功績だ」と主張することである程度は政治的にイニシアチブを握れるはずだ。他に流れる金とモノを繋ぎ止められる可能性も高い。

 金と利権は貴族の武器だ。父上たちがそうであるように、俺も領民を守るためには力をつけなければならない。

 

「というかお前はいいのか? 実家帰ったりしなくて」

「ウチ実家と折り合い悪いねん」

「なるほど」

 

 西部訛りがあるにも関わらず、南部のアシュクロフト侯爵領に住んでいるということはそれなりに事情があるとは思っていたが……そういう話か。よくあることではある。

 

「行きたなったら適当に休み取るから心配ないで」

「本当に折り合い悪いのかそれは」

 

 もう単にそこまで仲が良くない程度の話じゃないか?憎まれ口叩き合ってる程度の。

 まあ、いずれにしてもこちらに気を使ってくれたのだろう。俺も頻繁に実家に帰ることができる立場じゃないし、ありがたく受け取っておくとしよう。

 ともあれそんなわけで、急遽実家行きが決まったのだった。

 久しぶりの領都だ。父上たちにも土産を持っていくとしよう。

 

 


 

 

 というわけで領都行きの列車に乗り込んだ俺たちだが、そこには本来いるべきでない人間が約二名ほど同乗していた。

 マリーとパトリシアさんである。

 

「何でマリーちゃん一緒なの?」

『ボクだって仲間だもんね』

「なぜレスター様の里帰りにあなたがついてくるのだと聞いているのだが……?」

『えー。危険な暗殺者が来るかもしれないのに、ボクを村で一人置いてけぼりにしていいの? 明日には死んじゃってるかもしれないよ?』

「自分の命を担保にして脅しかけるのはやめろ」

 

 おかげで4人+ゴーレム入りの1人が乗り込むことになるので、席はぎゅうぎゅう詰めだ。

 広い個室席を取るためにかなり追加料金を支払うことにもなったし、貨物運賃も結構なものになった。まあ、料金については諸事情あって元々それなりのものだったのだが……。

 

『レスターだって変なの連れてきてるじゃないか』

「変なの言うな」

「ホー」

「もふ」

「そうよ、こんなに可愛いのに」

「可愛さは関係がありますでしょうか?」

 

 その「事情」が、フローと(シュネ)と名付けたちょっと白っぽい毛色のいつも執務室に入り込んでいる雨タヌキである。

 それぞれカゴに入れ……ていたのは乗車する時の話。今はどうせ個室だからということで自由にさせている。

 別に暴れるタイプでもないし、何なら今でも膝の上やら窓のそばで流れる風景に目を移している程度だ。

 

「愛嬌は振りまいてほしいところだな。父上たちに見せてあげないといけない」

『自慢するのかい?』

「いや、花フクロウや雨タヌキを守るために侯爵家の権威を使わせてもらってるだろう。顔見せをしておいた方がいいと思ったんだ」

 

 散々父上たちの厚意に甘えている形だし、挨拶くらいはしておくのが礼儀というものだろう。

 そのうち花フクロウの香水や雨タヌキの毛を使った布などで金銭的に還元できるようにもなるはずだ。その辺りの報告まで踏まえての紹介である。

 

『その辺律儀だよねぇレスターは』

「じゃないと貴族社会には順応できないよ」

『一度会ったきりの人の顔覚えておけとかね。分かる分かる』

「変なの」

 

 貴族社会あるあるだ。しかもこれで覚えてないなんて言ったら最悪、家にとっての恥になるということもある。

 リンデからすれば変な風習だろうが、今のところこれで社会が成り立っているので欠かすことはできない。

 まあ、今ならタブレットで調べるのは簡単だから、事前に会う相手さえ分かっていれば問題なかったりはするが……ニネット嬢の時のような偶然の遭遇が怖いのも確かだ。

 

「侯爵家なのもあって余計にその辺の期待が余計に強いからな。パーティに同席しただけで覚えてて当然と思われた時は流石にちょっと辟易したよ」

『あるよねぇ。余計な期待かけられて潰される人もいるし……』

「学院にもいたな、その手の貴族は」

「2人だけで通じ合うのやめようよ」

『ごめんごめん。リンちゃんには退屈かなこの手の話』

「来年にはお前が行く場所の話でもあるんだぞ」

 

 適応しろとは言わないが、できれば理解はしておいてほしいところだ。

 学院はただ学ぶためだけの場ではない。貴族同士の牽制もあるし、派閥争いも情報戦(かげぐち)もあるしコミュニティ同士の小競り合いもある。家の長兄長姉で継承権の高い者なら何としても婚姻を結ぼうとする人だっている。言わば社交界の縮図のような場でもある。

 実際の社交界でだって精神を病む人はいる。学生となればそれは余計にそうだ。

 もっとも、俺やトビーの属してるコミュニティは次男三男などの家督継承権を持たない連中の集まりだったので、比較的自由にやれていたが。

 

「思ったより不穏な場所だったりするの? 学院って」

「…………」

「黙らないでよ怖いじゃない!」

「村の外の社会の縮図のようなもの……かな……」

「恐ろしいことですね」

「姉さまも怖がるほどなの!?」

 

 小刻みにクリスが震えている。そんな怖いか……と思ったが、クリスは半強制で徴兵されたり最期は裏切りによるものだったり、戦時に社会の暗黒面ばっかり見てるようなものだから怖がっても仕方ないか……。

 俺も派閥争いや権力争いを始めるのを見た時は流石に快いとは思えなかった。ただ、友人と一緒だったので学生生活そのものはなんだかんだ楽しくはあったが。

 

「マリーちゃんも行ってたのよね?」

『ボクは帝都の国立校に行ってたから王立学院とは勝手が違うかなぁ。飛び級でとっとと卒業したしよく覚えてないんだよね。10年前の話だし』

「軽くサバ読むなよ。15年前だろ」

『自分の実年齢(トシ)実感するからヤなの』

「なのって」

 

 寿命の長い竜人族の29歳なんてまだまだ若年もいいとこだろ。

 寿命80歳がいいところの人間的な感性で言うと確かに三十路は若干年嵩だろうが……。

 と、そこでクリスがふと思いついたように口を開いた。

 

「私の実年齢は70歳以上だ」

『大半の時間封印されてたんだし実年齢と稼働時間の加算でよくない?』

「だったら私は18歳か」

「あたしって何歳だったのかしら」

「どうだろうな……」

「まあ気にしなくってもいっか」

『いいのかい……?』

 

 現在のところ、リンデは便宜的に11歳ということにしている。これは学院に入れるのにウィルとミルの2人と年齢を合わせるためだ。

 本人が前向きで若干楽天的な部分があるのでこれでいいと感じているようだが、思えば未だに実年齢はよくわからない。

 

「……まあ分からなくていいんじゃないか?」

「なんか兄さま目が据わってない?」

「分からない方がいいんじゃないか?」

『ニュアンス変わってきたね』

「知らない方がいいことも世の中にはあると思うんだ、俺は」

「マリーちゃんの話?」

『知らない方がいいって扱いされるのちょっとショックなんだけど?』

「失礼ながら知っているといないとではご対応が変わるのではありませんか?」

『パットはフォローしようよ!?』

 

 クリスといいマリーといい、今までに明かされた秘密の内容が内容だけにリンデにも何かあると疑って何も無いようにと祈ってしまうのは致し方ないだろう。

 これでマジで何か特殊な出自があってもらうと……本人は気にも留めないだろうが、俺が滅茶苦茶気にすることになる。できれば裏と言えるものが無いといいんだが……。

 

「ぼっふ」

 

 シュネは渋い顔をする俺を見て鳴き声を発した。

 どことなく「だいじょうぶですか?」というような心配が含まれているような気がする。度々執務室で俺が胃を痛めて渋い顔をしているのを見ているからだろう。

 ……雨タヌキにすら俺の内心は丸見えらしい。

 

 

*1
64話

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