まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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91.招かれざるもの来る

 

 

 望むと望まざるに関わらず、季節は巡っていく。

 余裕という余裕が生まれないままに雪が溶け、気温も徐々に上がっていく。冬眠に入っていた魔獣たちが起き、ハンターたちも仕事をやりやすくなっていく中、俺の胃は日ごとに訴える痛みのレベルが上がっていた。

 春になったらどうなる?

 知らんのか。宗教団体が大挙して押し寄せる。

 

「はぁぁぁ……」

「何や物憂げにため息ついとるのに手元はせかせか動いてちょい気色悪(キショ)いで」

「一言目から随分罵るじゃねえの」

 

 思わず憂鬱になりながらも、しかし仕事の手を止めるわけにはいかない。

 その一心のもとで両立させていたのだが、どうやら傍目にはちょっと不気味に見えたらしい。

 だからと言ってやめるつもりは無いのだが。

 

「もう時期もいい頃だろう。いつ例の団体が来るのかと思うと怖いんだよ」

「まあ時期っちゃ時期か。ちゅうけどそのために準備してきたんやろ?」

「事態を予見して備えをしておくのと、それが万全かどうかは別問題だ」

「それはまあそうやろな」

「ちなみに俺はどれだけ備えてもダメな気がするタイプだ」

「ただの心配性やんけ」

 

 もちろんそういう部分はあるし俺自身も理解はしているんだが、だからと言って改められる気はしない。

 事実として、できた備えは最低限しか無いんだ。ギリギリまで壁も建築し続けてもらっているが、当然のこととして完成する見込みはまだ立っていない。夏までにできればいいな、というくらいだろうか。

 ……まあギリギリ限界まで頑張った結果だから勘弁してくれ、なんて言っても通じないしな。結果が伴っていなければ努力をアピールしても仕方ない。

 そうしてもう一度ため息をつこうとした折、不意に俺のタブレットに通信が入る。通信してきたのは……後輩か。

 

「どうした?」

『お疲れ様っすー。パイセン今大丈夫っすか?』

「定期連絡か? 報告か?」

『報告の方っすね。今監視塔いるんすけど』

 

 監視塔は、壁の着工に併せて建造されたものだ。魔獣の動向の監視ももちろんだが、こうして村の外からの来客があるかどうかを確認するためにも役立っている。

 後輩は今、こちらの方で待機していることが多い。宗教団体「星の子」が春になったら村に来るとの宣言をしていたためだ。以前内偵していた後輩の方が彼女らのことを理解しているだろうから任せている。

 

『マロンちゃんが……あ、いや違う。自分がですね』

「……マロンちゃんって何だ」

 

 定期連絡にしては時間が中途半端だ。何か異変でもあったか……と思っていると、何やら知らない名前が飛び出した。

 ふとタブレットに映る画像を見ると、後輩の後ろで首を傾げている茶色い花フクロウの姿があったのでこれかと思い至る。

 

『いや、そのー……監視塔に花フクロウたちが偵察隊として何羽か常駐することになったじゃないっすか』

「そうだな」

『んで自分もここ最近ずっと監視塔にいるんで……気が合う子がいたというか……』

「……なるほど」

 

 固有の名前をつけてそれを呼ぶことを許したということなら、俺からは何も言うことは無い。

 後輩が花フクロウたちに危害を及ぼす気が無く、それでいてちゃんとまっとうに接しているということだ。彼らは思いの外そういう感情に聡い。そのマロンちゃんもきっと後輩に懐いているのだろう。

 

「面倒見るって約束するなら連れて帰ってもいいぞ」

『マジすか』

「面倒見きれるならな。で、その話は置いといてどうした?」

『あ、そうだった。マロンちゃんが見つけましたよ、例の団体』

「……そうか」

 

 来ちゃたかぁ……。

 思わず腹に手を当てる。胃に痛みが走ることを既に予見しているせいだ。

 いや、来ないのもそれはそれで問題なんだが……今時点で移住の申請が他に多数来ているわけじゃない。

 住人がいなければ村というのは成立しない。変な話、今の状態のサラク村はハンターの駐屯地のような状態だ。根を下ろしているのは俺たちくらいのものなので、ちゃんと住民と呼べる人間が欲しいというのは確かだった。

 ただ、それよりも聞くべきことがいくらかあるため、そういう内心は一旦押し殺す。

 

「どうやって来たんだ? ハンターでも雇っているとか……」

「普通に考えたらそうなんやけどな、ラシェルはん依頼受けとらんみたいやで?」

「なに?」

『そっすね。ハンターらしき人の姿は見えないっす』

「じゃあどうやって村に来るんだ。自殺行為だぞ」

「言っててちょい悲しくなるな。まあ事実やからしゃあないけど」

 

 依然として村への道中は魔獣が出る。これはどうやっても覆しようの無い事実だ。とはいえクリスによって多くが処理されている現状、現れるのはせいぜい中位まで。

 それを防ぐための壁であり、ハンターなのだが……それを必要としないということは、少なからず戦闘力を有している人材がいるということだ。

 問えば、後輩は微妙な顔をして隣にいるマロンを撫でた。

 

『この子に監視用の魔道具持たせて飛んでもらってるんっすけどね』

「なかなか賢いことやるじゃないか。で、どうだった?」

()()()()()っす。なのに魔獣がバタバタ死んでくっていう』

「……クリス!」

「ここに」

「うおっ!?」

 

 軽く指を鳴らしてクリスを呼ぶと、部屋の外から一足で俺の前にやってきた。

 あまりの俊敏さにメレディスが後ずさるが俺は気にせずに続ける。

 

「神器『星の斧』を使って、敵が急に倒れるような環境に作り変えることは可能か?」

「でしたら無酸素空間を周囲に作り出したのではないでしょうか」

「なるほどな……確かにそれならいけなくもないか」

『現象とも合致してはいるっすね。けどそれだと……』

「ほぼ確定だ」

 

 急に倒れたというのも頷ける。俺は実際に見たわけじゃないから「星の斧」がどこまでできるかは分からないが、やはりクリスは実際に見た(未確定)だけあってこういうところでは詳しいな。

 ただ、こうなると例の少女が持っている斧が、神器のレプリカの可能性が高まった。風の魔力適性持ちならばこういう芸当もある程度できるだろうが、代表者代理だというセラフィマ氏の魔力適性は白銀で神聖特化。正教会に身を寄せていれば聖女候補とも扱われかねないくらいだろう。だからこの線は無い。

 

「他に戦闘員は? ちょっと無酸素空間に突っ込む程度なら、死なずにくぐり抜ける魔獣が現れてもおかしくないはずだ」

『鋭いっすね。一人やたら強い人がいます』

「特徴は分かるか?」

『片刃の剣、軽装、黒髪。東方から伝わってるなんか……なんかみたいな雰囲気っす』

「何かって何や」

「サムライとかニンジャみたいなってことか?」

『そんなんっす』

「何ですかそれは」

「俺もよくは知らない」

 

 ご先祖様が遺した文献にそういう存在がいるという話だけは伝わっている。カタナと呼ばれる片刃の剣を扱う戦士と、密偵のようなもの……らしい。

 東方の国家群も「何でもかんでもうちの国が発祥と言われても困る」と返答があるので恐らくこれも異邦人(ストレンジャー)由来というのがおおよその見方だが。

 それはそれとして便乗商売をすることがしょっちゅうあると聞くので割とあっちの方も節操はない。

 

「ともかく、用心棒が一人いるというのは確実なんだな?」

『パイセンも一人で会っちゃダメっすよ』

「そのようなことはさせないから安心していい」

『や、クリスさんいるなら問題無いっすけどね。多分』

 

 そこは俺も特に心配してはいない。

 しかし、用心棒か……どういう出自でどういう人物なのかは気にかかるな。よもや、マリーを狙ってきた刺客ということはあるだろうか?

 いや、もしそうだとするとそんな目立つ真似をする必要は無いか………………。

 ……素でそんな風体を……?

 

「クリス、マリーに戸締りを厳重にするように伝えてくれ。ゴーレムであってもできるだけ外に姿を見せないようにと」

「はっ」

「お前は一旦戻ってきてくれ。ローリエさんとの情報交換を急げ」

『了解っす』

「メレディス、出迎えの準備を頼む。俺は関係各所に通達をする」

「うい。(ボン)一人で大丈夫か?」

「大丈夫になるように頑張るのが俺の仕事だ」

 

 特にトビーには色々と言い含めておかないと、急にライブを始めるとか言い出しかねない。

 こっちは色々と準備しないといけないし、あいつが無闇に動くと色々と計画が狂いかねない。村が空いた時に屋敷に突入されたりしてマリーが見つかってしまうと大変だし……。

 

「できれば早めに思惑を見せてくれると助かるんだけどな」

「そりゃ無理な相談やで。後ろ暗いモンほど自分のこと語らんで」

「そうだな。だから暴く必要があるんだ」

 

 だから密偵というのが活躍する必要があるし、俺も裏で色々と活動していたとも言える。

 ……俺もちょっと麻偵時代の気分に戻るとするか。相手が何を考えているにしても、まずはそれを表に引きずり出すところから始めないといけない。

 少し気長に見る必要はあるかも知れないけどな。

 

 

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