まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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92.初期対応はよく考えよう

 

 

 事前受付人数93人。実際に確認されたのは護衛らしき人物と内偵してるローリエさん含めて95人。謎の怪しい宗教団体という点さえ除けば、この人数が一気に移住してくるというのは村としてかなりのプラスになる。その点については紛れもない事実である。

 自治体にとって人口というものは分かりやすい発展の指標だ。実際人口が増えれば税収もそれに応じて上がるし、様々な事業に手も出せるようになる。公的機関に人が増えれば俺の負担も減る。

 それと、俺が今後設立することになるだろう私設軍に入ってくれるなら、村の治安維持にも貢献してくれることだろう。

 そもそも、利益なんて出ないのに炊き出しなんて慈善事業を定期的にやってるのだから、思惑こそあれ善意の人間である可能性もある……と、少なくとも俺は思いたい。

 

「あの……目が据わっておりますが」

「知ってる」

 

 そんな思考に陥るのは、ついに彼らが村にやってくるという段階になったせいだろう。

 村と農業区画の境目、既に遠目に集団の姿が見え始めた頃。俺はもう帰りたい気持ちでいっぱいだった。

 もちろん帰るわけにいかないんだが。

 

「そこまでご憂慮なさるのでしたら私が武力で対処してきた方がよろしいのでは?」

「まだ何もしていないのに強硬策を取ることはないだろう」

「はい。しかし武力を見せておくことは牽制になります」

「……それは最終手段だ」

 

 良くも悪くもクリスは戦時の生まれ育ちということもあってちょっと矛が軽い。

 実際手っ取り早いのは確かなんだけどな……要はサラク村を、俺たちのことをナメてるから陰謀を企むのにちょうどいいと思ったんだろう。一発武力を見せつけて生半可なことでいかないぞ、と見せつけておくのはアリと言えばアリなんだ。

 ただ、一発目からそれをすると、せっかく見えかけていた尻尾を隠しにかかる可能性が高い。俺は軽く人差し指を持ち上げた。

 

「できるだけ穏便に例の神器のレプリカらしきものを回収したい。いきなり武力衝突を起こしたら、雲隠れしたり思わぬ反撃を食らうかもしれないだろう?」

「仰る通りです。申し訳ありません、出過ぎた真似を」

「いや。選択肢にはどうしても入ってくるからそう考えるのも無理はない。ただ……クリスからそういうことを言い出すのは珍しいな」

「……『斧』の前継承者であるサブリナ様にはお世話になった身の上なのです。模造品とはいえ、どこの馬の骨とも知れない者が持っているというのは快く思えません」

「なるほど……」

 

 ……ところで、「斧」の前継承者であるサブリナ・クィルター様というのは、正教会において絶大な権力を持った聖女の一人だった。

 前大戦で戦死なされた折に「斧」も同時に失い、現在は聖女という席そのものが空席となっているが……ともあれ、そういったとんでもなく偉い人であるわけなので、いち兵士がお世話になったということはまずありえない。

 こうなると元孤児の兵士でサブリナ様と会える立場の人間……とかなり限定されるのだが、クリスは自分で言ってて気付いているだろうか。ほぼ断定できるぞ。

 いやもういっそ俺は気にしないことにしてるんだが。胃が痛くなるから。

 

「とにかく今は強硬手段を取るのは控えてくれると助かる」

「承知しました。しかし、いざという時は――」

「その時は頼むよ」

「はっ」

 

 そういうことが起きないに越したことはないんだけどな。

 ……越したことはないだけで起きかねないんだろうなぁ、という嫌な予感はある。

 

 ともあれ、しばらく到着まで待っていると、数分ほどして集団の姿が見えてきた。

 先頭を歩いているのは、大斧を握る異教の黒い修道服に身を包んだ少女。後ろの方には、後輩の報告通り東方の着物を身に着けカタナと思しき片刃剣を佩いている男の姿がある。引き連れている集団は家財道具を積んでいるらしき荷車を引いており、ここまでの長い道中のせいか疲労の色が見えていた。

 更に目を引くのは、別に用意させたと思しきゴーレム車だ。他が徒歩なせいでどうしても目を引くそれは、なんというか周囲から浮いていて異様だ。

 ……それでも一応はちゃんと挨拶はしないとな。気取られないようにひとつ息を吐き、彼らに向き直る。

 

「サラク村へようこそおいでくださいました。村長のレスター・コールリッジ・アシュクロフトと申します」

「ご丁寧にありがとうございます。宗教団体『星の子』、代表代理のセラフィマ・ジートキフと申します。以後お見知りおきを」

 

 ふむ、代表代理の彼女が俺のことに気付いた様子は無い。1年前に一度会ったきりの男、しかも今の俺とは雰囲気も変えているからな。覚えていなくてよかった。

 しかし事前に通達があったとはいえ90人以上というのは流石に圧巻だな……これ、住居足りるか?

 頭の片隅でそんなことを憂慮していると、後ろに控えていたゴーレム車が前に出てくる。これはどういうことかとクリスが身構えかけるが、俺は一旦それを手で制した。

 

「それと……こちら、なんですが……」

「ゴホッ、どうも……」

 

 ゴーレム車から降りてきたのは、壮年から老年に差し掛かろうかという年齢に見える杖をついた男性だ。病的なほどの痩せ型で、今にも倒れそうにすら思える。

 実際病気か、それに類する状態なのだろう。セラフィマさんもハラハラしながら降りてくる様子を見守っている。

 

「『星の子』、代表……オズワルド・ジートキフと申しまする……」

「……父です」

 

 父と来たか。いや、そうか。この若さで代表代理なんて役職に就いているからどういうわけだと思ったことだが、本来は親子で運営している小さな宗教団体なのだろう。

 病気ということであれば、代理としてセラフィマさんが立っていたというのも頷ける。問題はその原因だが……。

 

「本日は移住の機会をいただき、感謝申し上げる……村長殿には是非便宜を図っていただきたく……」

「村にとって初めての本格的な移住者です。可能な限りはご支援させていただきますが」

「おお、それはありがたい……可能であれば、この教団にもご支援いただきたいのですがな」

「そちらは生活が落ち着いてから考えていきましょう」

 

 ここで下手に言質を取られるとまずい。もちろん公的機関として生活に対する支援はしていくが、あくまでいち宗教団体に力添えをするというのは問題が違う。

 そもそも、支援をしていくべき相手かどうかというのもあるだろう。まずはその見定めから始めていくべきだ。

 しかし、なんというかこのオズワルドという男性……少し怪しいな。

 いや、初対面の印象だけで決めつけるのは良くない。が……この普通ではまず無い痩せ方に顔色。指には震えも見られる。十代半ばから後半だろうセラフィマさんの親と考えてもせいぜい行ってて50代……明らかに衰えが激しい。

 ……まさかな。いや、そうそう無いとは思うが……。

 

「住宅については事前に通知しておいた通り、建材の用意だけはしている状態です」

 

 不穏な考えは一旦横に置き、俺は近辺の住宅予定地を示した。

 そこには俺が今日まで作り置いていた簡易セメントなどの建材が用意されており、建築さえ済ませればすぐに入居できる用意が整っている。

 内心建築まで済ますつもりもあったのだが、流石にそれはこちらの負担ばかりが大きくなることもあってやめておいた。

 

「今は壁の建築のために業者がおりますが……そちらの力を借りられますか? お代はかかりますが」

「いえ、ご心配には及びません。私たちもそれほどお金に余裕があるわけではありませんし――」

「娘は『これ』が使えます故」

 

 オズワルドさんに示され、セラフィマさんが大斧を掲げる。すると直後、まるで組み換え魔法を使った時のように建材が浮き上がり、自らあるべきところに収まるかのように……いやちょっと美的センスどうなってんだ。確かにセメントだから多少変形させたっていいが、ファンシーすぎんか? お花の彫刻? 何だあれ?

 

「住居……?」

「モニュメント……?」

「じゅ、住居です」

「え……!?」

 

 住居らしい。

 俺やクリスが困惑するのはまだ分かるとして、オズワルドさんまで困惑してどうしたよ。まさか娘のセンスがこんな方向に振り切れているとは予想外だったのか? そんなことある?

 気まずい沈黙がわずかに場を支配しかけるが、俺はここでひとつ咳払いをして打ち切った。

 

「今のは組み換え魔法ですか?」

「……いいえ。組み換え魔法ではありません。『その先』にあるものです」

「……ここだけの話、私の娘は……失われた神器の継承者、その人なのです」

「――――」

 

 一瞬、怖気(おぞけ)を感じるほどにクリスの気配が膨れ上がった。あくまで俺にしか感じ取れていないし、クリス自身が元々鉄面皮ということもあって彼らは気付いてもいないだろう。

 しかし間違いない、今のは嘘だ。神器か、あるいは継承者であるという点で確実に彼は嘘をついている。

 

「驚かれましたかな?」

「……ええ、もちろん。しかし、そのようなことがあるとは……」

「偶然の巡り合わせ……コホッ、というようなものでございます」

 

 俺が驚いているのはどちらかと言えばいけしゃあしゃあとそんなことを言い出すオズワルドさんに対してだが。

 俺の実家、代々神器継承者を輩出してきた侯爵家だぞ。まして俺自身も神器というものを目に焼き付くほど見てきたんだ。真贋の鑑定ができないと思っているのだろうか。

 今起こした現象も現象だ。あれくらいなら組み換え魔法を使う程度で十分可能だ。神器の起こす現象の足元にすら及ばない。出力を絞っている可能性もあるが、そうする理由は無い。なぜなら本物の「斧」なら建材を利用する必要すら無いからだ。

 

「この件はどうぞご内密に。そして……もしよろしければ、当教団へのご支援を……よろしくお願い致します」

「確約は致しかねます」

 

 いきなり適性外の組み換え魔法を見せつけ、抜群のインパクトを相手に刻み込む。

 そしてこの件を口外しないよう訴えた上で、自分たちの有用性を示して支援……この場合は村、ひいては侯爵家に後ろ盾になってもらうことを狙うわけか。いやらしい手口だ。

 神器について詳しくない木っ端貴族だったら率先して引き受けそうな条件でもある。なので一瞬だけ悩むフリを見せた。あちらも興味が惹かれたものと解釈するだろう。

 

「フフ……」

 

 ほら、食いついた。

 ……なんか思わせぶりな態度取ったせいでクリスが嘘感知してふてくされているが、今は仕方ない状況と思って諦めてほしい。マジで。

 

「それっ」

「わ、わぁ~……」

「わー……」

 

 そしてセラフィマさんは俺たちのやり取りを置いてまたしてもファンシーな造りの建築を進めていた。

 ちょっと今真面目な話してるんで雰囲気壊しかねないのやめてほしいんだが。移住する上で住居は必要だから止められないんだよな……。

 ……一旦放っておこう。また後で様子を見に来るとしよう。一度情報をまとめたいし。

 

 

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