まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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94.ろーらくの裏側

 

 

 その日、いつものように朝の畑仕事に出ると、セラフィマさんがバチコーン! とこちらに片目を瞑ってきた。

 何が何だかわけがわからない俺はとりあえず挨拶と捉えて片手を挙げて応じるだけに留めた。

 

 明くる日、そろそろ開通を目指して突き進んでいる洞窟の整備に向かおうとすると、セラフィマさんが珍妙なポーズを取っているのを見かけた。

 顔が真っ赤になっているあたり、きっと宗教団体の組織運営でストレスが溜まってストレス発散しているのを見られたとかだろう。俺は生温かい感情を覚えながらそれをスルーして見なかったことにした。

 

 さらにその次の日、朝の仕込みに出かけると、セラフィマさんが謎に投げキッスを放っているところに出くわした。

 先日に引き続いて顔は真っ赤だ。これまたやはり見てはいけないところに出くわしたのかもしれないし、俺も頭が混乱の極致にあった。

 流石に何かこう……偶然が3回も続くとこれを偶然と片付けるのは難しい。何か訴えたいことがあるのかもしれないと思い、俺は緊張した様子の彼女に近付いていった。

 

「何かご相談したいことがあれば村長として承りますが……」

「村長さんをろーらくしようとしています」

「は???」

 

 俺は混乱と疲労で幻聴でも聞こえているのだろうか。

 籠絡とか言い出したぞこの子。

 

「すみません、急に耳の調子が。今何と?」

「村長さんをろーらくしようとしています」

「は???」

 

 なるほど、俺を籠絡したいと。

 選択肢として無いわけではない。村の運営について采配を握っているのは俺だ。安全弁としてクリスやメレディスなどもいるが、俺の意思をどうにか曲げてしまえば村の運営に口を出すことは簡単だ。ハニートラップに引っかかることがあるなら、それも有効な手と言えるだろう。

 …………けど仮にそれが事実だとして張本人の俺に対してそれ言う!?

 

「失礼ながら……籠絡という言葉の意味をご存知ですか?」

「お父さんに聞きました。ちょ……ちょっとえっちなことをして男女の仲を深めるのだと」

 

 ちょっとえっちの上限値投げキッス(そこ)!?

 

「ちょっとえっちで投げキッスが限度なの!?」

「お前どこから生えてきた」

 

 まるで俺の心境を代弁するかのように、突如として横からスッとリンデが割り込んできた。

 自分よりも小さな女の子がエロ方面ではるか高みにいると示唆されたせいか、セラフィマさんがギョッとした表情を見せる。

 ……投げキッスで顔真っ赤になってる人と比べればそりゃコイツはドエロガキだが。

 

「もっと先の先があるでしょ! せっ……接吻とか」

「せっ!?」

 

 流石にこのレベルで初心(うぶ)な相手にリンデの存在は刺激が強すぎる。危うく性行為についてまんま口に出そうとしたのを視線で止めると、リンデは見事に軌道修正した。

 しかしそれでも刺激が強かったらしい。セラフィマさんは茹で蟹のように顔を赤くした。

 耐性が無さすぎる!

 

「接吻というのは、む、結ばれた男女がするものでしょう!?」

「あたしより歳上のはずなのにこれって普通なの兄さま?」

「いや……かなり珍しいと思う……」

 

 貴族は言うまでもなく、庶民でも皆だいたいそういうのに興味があるだろうから自分で調べることだろう。

 よっぽど箱入りかそういう情報と切り離されて過ごしたか……いずれにしても珍しいというのは間違いない。

 

「兄……ふ、複雑なご家庭なのですか?」

「「違う違う」」

 

 しかも天然かよこの子。母上と同じようなこと言ってんじゃないよ。

 あーくそっ、ペースが異様なまでに乱される。マジで言ってるならそれはそれで想定外にエラいことだが、狙ってやってるならとんでもない役者だ。

 この反応を? 狙って? 顔真っ赤にするほど? いや確かに麻偵として専門に訓練を受けたので俺はやればやれないこともない気がするが……そのレベルの訓練を受けているとでも?

 流石にそれはありえないだろう。炊き出しなどもしていたし、そんな時間があるようには見えない。仮にそんなことができるとしたらそもそもよっぽど昔から訓練してないといけないはず……。

 頭の中で考えを巡らせる……というかほぼ混乱で滅茶苦茶になっているのは外に出さず、そのまま話を続けるべく口を動かす。

 

「そのように呼ばれているだけで血縁関係はありません」

「あ、そうなのですか……複雑なご家庭なのですか?」

「この人天然なの?」

「失礼なことを言うな。養子などでもなくそう呼ばれているだけです」

 

 天然なのは否定できそうにないが、少なくとも面と向かって言うべきでないのは確かだ。

 ……いや、正直言ってしまいたいのは事実だけどさ。あんた天然だよと言われても、快いと思える人は少ないだろう。

 しかし、近所の兄ちゃん的なニュアンスで兄と呼ばれただけで家族と誤認するというのは……よっぽど純粋なのか、はたまた世間知らずなのか……。

 

「セラフィマさん……籠絡というのは、それほど良い意味合いの言葉ではありません。それこそ接吻のような行為を伴い……」

「ひゃあ……」

 

 上限がどうやら投げキッス、接吻は本当に恥ずかしいことだと思っているようなので性行為については濁して触れずにおく。

 俺は何で村にとっての脅威になりかねないと思ってる相手にこんな講釈垂れてるんだろうな……。

 そしてやはり彼女は説明だけで顔が真っ赤になっていた。

 

「相手を騙して支配下に置く、ということでもあります。あまり外でそのようなことを仰るのはよろしくないかと」

「そ、そのような意味だったのですか……!?」

「まあ概ねそういう意味よね」

「私より歳下なのに理解していらっしゃるのですか……!?」

「あたしより歳上で理解できてないのがちょっと変なのよ」

「ええ!?」

「…………」

「この人ちょっと面白いわね」

 

 少し思ったけど言ってやるな。

 別に本人、好きでこういう面白いこと言ってるわけじゃないだろうし……ある意味スレてないと言えるが、ある意味では世間知らずとも言える。これは良いこととは言い切れないだろう。

 さて、ともあれ籠絡……は、されてやるわけにはいかない。とはいえ接触を断つわけにもいかない。ここは正しく交流を持つのが上策だろう。

 

「先ほども申しました通り、籠絡というのはあまり良い意味ではありません。ですが……交流、ということであればいつでも承ります」

「まあ、本当ですか?」

「ええ、あなた方も村に来たばかりです。お互いに理解し合うことが必要かと思いまして」

「素晴らしいお考えです!」

 

 リンデは俺に視線を寄越した。その瞳が「邪気が無さすぎるけどマジ?」と訴えている。

 ……籠絡、という言葉を使っていた以上は何らかの思惑があるのは確実だ。しかしこの警戒心の無さ。本当に何も考えていないのだろうか?

 まさかこの子自身は何も考えていないのか……!?

 

「少しお茶でもしましょうか。軽食も用意しておりますよ」

「まあ! ではよろしくお願いします」

「なんか、兄さま……手慣れてるわね……」

 

 そりゃ交渉も交流も俺の仕事だからな。麻偵時代にも散々やってきたことだから手慣れてて当然だ。

 ……問題は、今回ほど毒気を抜かれたことが無い点だが。

 多分本人に話聞いてもそんなに情報は得られないんだろうなぁ、という予感が当たったのはしばらく後。マジでただお茶しただけでほんわかとセラフィマさんが帰っていってからだった。

 

 


 

 

「何も分からん……」

「レスター様……妙にお疲れのようですが……」

「精神的に疲れた」

 

 マジで裏表が無くておっかなビックリで交流を終えたお茶会の後、執務室で俺はかなりぐだつくことになった。

 余計な心配をしすぎたというのは確実にある。それ以上に相手の思惑が分からなさすぎて不安になっているというのもある。

 もしかして本当に何も考えていないなんてことがあるのだろうかとすら思ってしまったほどだ。

 

「どやったん、あの子との話」

「何も無かった……」

「そんなことある?」

「あったんだから困ってる。本当に改めて自己紹介なんかをした程度で済んでしまったぞ」

「それは……何やろなそら」

 

 経過を報告するとメレディスもまた意味が分からず首を傾げた。

 全く有益な時間じゃなかった、というわけじゃないんだよ。けど単純に心構えをしすぎて気疲れを起こしてる。

 ……ただ、それでも全くの収穫無しというわけじゃない。

 

「だが、いくつか分かったことはある」

「籠絡、って言葉は使ってたわよね。本人意味分かってないのに」

「ああ。つまり後ろにいる何者か、恐らく代表であるセラフィマさんの父親からそういうことを言われた可能性が高いということだ」

 

 これはそれなりに大きな収穫だ。セラフィマさん自身に悪意が無くとも、その父親はそうでないということがほぼ確定的なのだから。

 わざわざ籠絡という言葉を使って娘を動かすあたりも悪辣だ。本人にその知識が全く無いせいで全く違う効果が得られてしまっているが、それでも父親が命じたという点はいくつかの判断材料を俺に与えてくる。

 

「俺をオトしにかかる可能性は前に推測した通りだから、それほど驚きは無い。重要なのはどちらかと言えば誰がそれを主導しているか、だな」

「組織の全体に問題があるか、一部に問題があるかで話変わってくるからなぁ。今回は後者だった、っちゅーワケやけども」

「ああ。下の人間は、もしかすると何の思惑も無いただの一般信徒ということは十分ありうる」

 

 これはできればローリエさんの情報交換を済ませて結論を出したいところだが、肝心要、代表代理として表に立っていたセラフィマさんがあんな調子だ。もしかするとトップであるオズワルドさんしか知らない何かがあってもおかしくない。

 慈善事業の行動理念に共感し、サラク村にまでついてきた人たち……ということになれば彼らを切り離す術も思い浮かぶ。

 

「あの宗教団体、黒い思惑から切り離してただの慈善団体に転換できないか?」

「エラいこと考えよるな坊」

「けどさ。90人近い人数を全員村の労働力として取り込めるなら今後の村の経営に役立つだろう?」

「しかしそれは……相当なお手間がかかってしまうのではありませんか?」

「それは今重要じゃない。その手間をかけないと村の経営も立ち行かないからな」

 

 食料生産の問題もあるし、諸々積み上がった仕事の問題もある。軍事力だって必要だ。今いる人間の中からそれを割り振る必要は絶対にある。

 90人超という人数は、こう考えると破格だ。取り込むことさえできれば村の運営が確実に安定する。

 

「それに……娘に籠絡を命ずるような親に一泡吹かせるなら、その手間だって惜しくはない」

「……兄さまもしかしてちょっとキレてる?」

「ちょっぴりな」

 

 そして、恐らくセラフィマさんに俺を籠絡せよと命じたのはオズワルドさんだろう。消去法で考えるとそれ以外にありえない。

 他にもバックについている組織があるとしたら、そちらの思惑も絡んでくると思うが……いずれにせよ、宗教団体という隠れ蓑は一度ぶんどって剥ぎ取ってしまいたい。そうすれば裏側にあるものもちょっとは見えてくるだろう。

 

「子供を利用するような親を許しておけるか。良くない思惑があるなら、まず根本からブチ壊して前向きな組織に正常化させてやる」

「暴力的なんか平和的なんか後ろ向きなんか前向きなんか分からん発言やな」

 

 暴力は使わないさ。

 権力という暴力的なパワーは使うかもしれないがな。ワハハ。

 

 

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